▲ 施設の外観 |
地域に求められる医療ニーズに対応
滋賀県近江八幡市にある公益財団法人近江兄弟社ヴォーリズ記念病院(理事長:三ツ浪健一氏)は、「キリスト教の『隣人愛』と『奉仕』の業を、医療を通して実践します」という基本理念のもと、急性期から回復期、終末期まで患者に寄り添う医療を提供している。
同院は、大正7年に結核療養所として開設したことに始まり、開院後100年が経過するなかで、医療体系の変化や、地域に求められる医療ニーズに応えるかたちで、医療機能や病床機能を変化させてきた。
病床数は、急性期病床18床、地域包括ケア病床32床、医療療養病床42床、回復期リハビリテーション病床60床、緩和ケア病床(ホスピス)16床の計168床となり、現在は亜急性期から慢性期の患者が大半を占め、ケアミックス型の病院機能の充実を図っている。
緩和ケア病床は、平成18年に独立型ホスピスとして開設し、県内でホスピスを有する医療機関5カ所のうち、唯一の民間病院となっている。
法人施設としては、介護老人保健施設、ケアハウスを運営するほか、訪問診療、訪問看護、訪問介護、看護小規模多機能型居宅介護などの在宅サービスを展開し、地域のなかで暮らし続けられることを支えている。
地域の医療提供体制について、常務理事・病院長の五月女隆男氏は次のように説明する。
「市内では救命救急センターとして高度急性期医療を担う市立総合医療センター、精神障害および認知症疾患の対応を担う滋賀八幡病院、回復期・終末期を中心とした地域に密着した後方支援を担う当院の3病院が機能分化を図り、連携体制を構築しています。当院の属する東近江医療圏は、医療連携が進んでいるという自負がありますし、医師会とのつながりも強固で、診療所との連携が図られていることが特色となっています」。
病院の新築移転を行い、医療機能と療養環境を強化
同院は、令和4年11月に病院の新築移転を行い、新病院を完成させるとともに、医療機能の強化と療養環境の改善を図っている。
新築移転を実施した経緯について、副理事長・事務長の澤谷久枝氏は次のように説明する。
「建物は築50年が経ち、老朽化と狭隘化に加え、地域から求められる医療に対応するため、増改築を繰り返してきたことにより、敷地内は5棟の施設編成となり、動線に非効率が生じていました。点在していた病院機能を1棟に集約し、これらの問題を解消するとともに、医療機能の強化や療養環境の改善を図ることを目的に新築移転を計画しました。新病院の開設地は、旧施設から200mほどの場所にあった近江八幡市が所有する遊休地を紹介され、その土地を購入して新病院を開設しました」。
新病院の敷地面積は約1万1000uで、里山や水郷、田園風景に囲まれた豊かな自然のなかで療養できる環境がある。建物は地上3階建てで、1階は総合受付、外来診察室、検査室、緩和ケア病棟などが入り、2階は回復期リハビリ病棟、リハビリ室、3階は一般病棟(急性期・地域包括ケア)、医療療養病棟、手術室等となっている。
移転新築に伴い、急性期病床32床のうち14床を地域包括ケア病床に転換することで、地域医療構想に沿った医療機能の強化を図った。
周辺風景と融合した病院づくり
施設設計では、敷地の一部が重要文化的景観地域に接するため、景観法に基づき周辺の風景に溶け込む工夫を行った。
「景観法では、建物の高さを14.99mまでとする規制があり、建物は低層3階建てとし、屋上全周には勾配屋根を設け、敷地全体を緑で囲むとともに、周辺地域の風景に融合した景観づくりに配慮しました。また、施設前にある県道に対し、平行ではなく斜めに配置することで建物の圧迫感を軽減させています。外観デザインも落ち着いた色調とし、あえて病院らしくない設計としています」(澤谷氏)。
療養環境の改善では、病室は個室の割合を増やすとともに、多床室も患者1人当たりの病室面積を8u以上確保した。施設全体の採光がよく、廊下幅も広くとることで、病棟は閉塞感がなく、快適な入院生活を送れる環境を整備した。
旧施設では5棟あった建物を1棟へ集約した効果としては、動線がコンパクトとなり効率的な医療提供が可能となった。さらに、病棟をL字型に配置し、各病棟の中央にスタッフステーションや食堂を設けたことにより、患者への迅速な対応や見守りなどの機能性を高めることにつながっているという。
訪問診療とリハビリ提供に注力
実践する医療提供の特色としては、総合診療とともに訪問診療の充実を図っている。
「当院は、脳神経外科、整形外科、循環器、呼吸器などの専門医がそれぞれの得意分野を活かしながら、総合診療ができることが強みとなっています。加えて、在宅医療のニーズが高まるなか、訪問診療にも力を入れています。訪問診療の体制では、専従医師6人を配置し、月曜から土曜日まで実施しています。法人内に老健やケアハウスのほか、訪問看護、訪問介護、看護小規模多機能型居宅介護などがあり、患者さんの病態に応じて包括的に在宅療養を支えられる体制があることは強みであり、地域包括ケアシステムが推進されるなかでの当院の役割となっています」(五月女氏)。
リハビリの提供体制では、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などのセラピスト65人を配置し、365日体制で質の高いリハビリを提供している。セラピスト1人の担当患者数を最大8人とすることで、個別性を重視しながら、在宅復帰、社会復帰に向けた早期かつ集中的なリハビリを実践している。
そのほかにも、回復期リハビリ病棟のある2階には屋上庭園を設け、屋外でもリハビリを行うことのできる環境をつくっている。屋上庭園では自然が見渡せる環境のなか、患者が意欲的にリハビリに取り組んだり、病棟の廊下幅を広く設計したことにより、リハビリ室だけでなく、病棟内でもスタッフと一緒に自主的にリハビリに取り組むといった効果が生まれているという。
退院後は、法人内の通所リハビリ、訪問リハビリにおいてリハビリを継続することが可能で、障害児リハビリも実施していることが特色となっている。
これらの人員配置や取り組みにより、回復期リハビリ病棟の在宅復帰率は80%を超える高い水準を維持し、施設基準は「回復期リハビリテーション病棟入院料1」を取得している。
▲ リハビリテーション室では、365日体制で質の高いリハビリを提供 | ▲ 敷地の一部が重要文化的景観地域に接しているため、周辺地域の風景に溶け込む設計とした |
▲ 屋上庭園では、自然が見渡せる環境のなか、患者がリハビリに取り組むことができる | ▲ ヴォーリズ記念病院の総合受付 |
最期まで自分らしく生きられることをサポート
緩和ケア病棟では、主に悪性腫瘍の末期患者を対象に、緩和ケア専門医2人を配置し、多職種のチーム医療による全人的ケアを行っている。痛みや症状の緩和だけでなく、患者に寄り添い、心の痛みを軽減するとともに、患者の意思を尊重し、命の尊厳を保ちながら自分らしく生きられることをサポートしている。
療養環境では、病室は全室個室とし、病室の窓からは水郷を望める環境をつくった。さらに、院内には患者が礼拝などに使用できるチャペル(礼拝堂)を設け、配置したチャプレン(施設で活動する牧師)が病気に苦しむ患者の想いを聴きながら、心のケアを行っている。
「緩和ケアは、治療困難な患者が積極的な治療を受けないことを選択し、その人が最善に生きられるようにQOLを重視したベストサポーティブケアとなりますが、早期から関わることを大切にしています。そのため、当院では緩和ケア外来を週3日行うほか、連携する市立総合医療センターにも専門医を派遣して緩和ケア外来を実施しており、治療中から関わることに取り組んでいます。在宅でのホスピスケアを望まれる患者も多く、訪問診療の医師6人のうち、1人は緩和ケア専門医を配置しています。認定看護師と連携して痛みをコントロールする治療を行い、看取りまで対応しています」(五月女氏)。
また、患者が亡くなった際、一般病院では遺体を霊安室に安置し、病院の裏口から運び出されることが多いなか、同院では「めい想室」を設け、チャプレンや患者の最期に関わった医療チームが家族と一緒にお別れ会を行っている。さらに、新病院ではホスピス病棟に患者を見送るための玄関を設置し、お別れ会を開いた後、その玄関から患者を送り出している。この試みは、ホスピスのみで行っていたが、現在は希望者を中心に全病棟に広がっているという。
「患者さんの最期に関わった医療チームでお見送りすることは、ご家族だけでなく、医療スタッフのグリーフケア(悲嘆ケア)にもつながります。病院のケアや対応に対して、家族から感謝の言葉をいただけることは医療者側も救われますし、反対に我々が気づかなかった部分に意見や提言をしていただくことがあり、重要な気づきを与えてもらえることも少なくありません」(五月女氏)。
▲▼ 緩和ケア病棟の病室とリビング | ▲ 1 階に設置したチャペル(礼拝堂)は、患者の礼拝や会議、式典など、多目的に使用している |
▲ ホスピス病棟には「めい想室」を設置するほか、チャプレンを配置して患者の心のケアを行っている |
共生社会の実現に向け、障害者支援に取り組む
今後の展望としては、共生社会の実現のためには、高齢者だけでなく障害者支援も必要になることから旧施設を利活用し、障害者の住まいと生きがい支援をしていくことを構想している。
「旧施設の5棟の建物のうち、礼拝堂と旧結核病棟が有形登録文化財に認定されているため、保存していますが、そのほかの建物は解体し、令和5年4月に障害者の就労移行支援事業所を立ち上げました。今後は障害者のグループホームや就労継続支援B型事業所を開設し、住まいと生きがい支援などに活用する予定です。また、中長期的な展望としては、地域で安心して暮らし続けることを支える役割を果たしながら、多世代が融合できるまちづくりを推進していきたいと考えています」(澤谷氏)。
急性期から終末期まで患者に寄り添う医療を提供し、その人らしく生きられることを支える同院の今後の取り組みが注目される。
▲ 新病院では、ホスピス病棟の患者が亡くなった際に、関わったスタッフが見送りをするための玄関を設けた | ▲ 副理事長・事務長 澤谷 久枝氏 |
公益財団法人近江兄弟社 ヴォーリズ記念病院
常務理事・病院長 五月女 隆男氏
病院は患者さんの療養生活の一部分に過ぎないため、地域をあげて、患者さんが暮らす医療圏域でその人にとっての最良な医療が受けられるようサポートしていくことが重要です。
そのなかの一つが、入院加療や在宅医療であり、最期の看取り医療になります。これは、第8 次医療計画に則ったものになりますし、私自身は滋賀県病院協会の地域担当理事として県内の診療所を含め、病院全体でそうした関係性を築いていきたいと考えています。
<< 施設概要 >>
理事長 | 三ツ浪 健一 | 開設 | 令和4 年2 月 |
病院長 | 五月女 隆男 | 入所定員 | 30人 |
病床数 | 168床(急性期18床、地域包括ケア32床、回復期リハビリテーション60床、医療療養42床、緩和ケア16床) | ||
診療科 | 内科、循環器内科、消化器内科、神経内科、糖尿病内科、内分泌内科、泌尿器科、外科、呼吸器外科、脳神経外科、整形外科、緩和ケア科、リハビリテーション科、麻酔科、専門外来(褥瘡) | ||
法人施設 | 介護老人保健施設/訪問介護/訪問看護/看護小規模多機能型居宅介護/居宅介護支援/介護予防拠点 | ||
住所 | 〒523−0805滋賀県近江八幡市円山町927番地1 | ||
TEL | 0748−32−5211 | FAX | 0748−32−2152 |
URL | https://www.vories.or.jp/ |
■ この記事は月刊誌「WAM」2024年1月号に掲載されたものを一部変更して掲載しています。
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