▲ 施設の外観 |
地域に根ざした医療を提供
兵庫県神戸市にある特定医療法人一輝会(理事長:荻原徹氏)は、昭和59年に設立し、現在は「あなたの未来に笑顔を届ける存在になる」というパーパス(存在意義)を掲げ、地域に根ざした医療を提供している。
法人の沿革は、昭和45年に荻原整形外科診療所を開院したことに始まる。その後、整形外科領域の急性期医療を担う「荻原整形外科病院」(52床)と、回復期・慢性期医療を担う「荻原みさき病院」(94床)の2病院とともに、訪問看護ステーションを運営。そのなかでも「荻原みさき病院」は、市内有数のリハビリテーション病院として地域医療を支えてきた。
同法人は、令和5年4月に運営する2病院を統合・再編し、神戸市長田区に新築移転を行い、新たに荻原記念病院を開設している。
病院の統合・再編を実施した経緯について、常務理事・経営本部長の東俊則氏は次のように説明する。
「これまで運営してきた2病院は、ともに100床未満の中小病院であり、建物の老朽化や狭隘化が進んでいました。これらの課題解消や療養環境の改善、人員配置の効率化を図ることを目的に、統合・再編を計画していました。神戸市の市街地でなかなか条件に見あった土地がみつかりませんでしたが、神戸市では震災復興再開発事業を進めており、その公募事業の採択を受けて開設に至りました」。
神戸市の震災復興再開発事業は、災害に強い安全・安心なまちづくりの実現を目指し、市街地の復興と防災公園などを中心とした防災拠点の構築、良質な住宅の供給、地域の活性化や都心拠点にふさわしい都市機能の整備を目的としている。
公募事業では、住宅との複合施の整備が要件となっており、同法人は大手住宅メーカーのミサワホームとの共同企業体で採択を受け、荻原記念病院と分譲マンションを一体化した複合施設として開設した。
病院と住居の複合施設として開設
令和5年4月に開設した複合施設「ASMACI神戸新長田」は、JRや地下鉄など複数の路線が乗り入れるターミナル駅の「新長田駅」から徒歩5分の好立地にある。近隣には商業施設や公園、商店街があり、生活の利便性が高いエリアとなっている。
建物は、地上14階建てで1〜5階が荻原記念病院、6〜14階部分が分譲マンション(全80戸)となっている。外観は、分譲マンションと一体化した洗練されたデザインが特徴であり、住宅と病院による長田区の新しいランドマークをコンセプトに掲げている。
なお、分譲マンションは病院近接の安心感や生活の利便性が高いことから竣工前に完売したという。
病院の設計では、1階はリハビリ室、2階は総合受付、診察室、検査室、手術室などが入り、3〜5階部分が病棟となっている。
新病院の病床数は、回復期リハビリテーション病床90床、医療療養病床52床の計142床とし、病院の統合・再編により回復期の機能強化を図った。
「回復期リハビリテーション病については、『荻原みさき病院』の1病棟60床から新病院では2病棟90床に増床し、回復期に軸足を置いた病院の方針を明確に打ち出しました。その理由ですが、神戸医療圏域では、病床機能報告において急性期病床は約1,500床が過剰とされる一方、回復期病床は約2,600床が不足とされていました。『荻原みさき病院』はリハビリ病院として定評があり、市内外の医療機関から多くの紹介患者を受け入れてきた実績があり、回復期と療養を含めた急性期病院の後方支援の役割を担うことで地域医療に貢献できると考えました」(東常務理事)。
長田区は、高齢化率33.6%(令5年2月時点)と、神戸市内(28.8%)で最も高く、今後も医療ニーズが高い地域であり、とくに脳血管疾患、整形外科、廃用性症候群の患者が増加することが見込まれている。そのため、同院ではリハビリテーション科をはじめ、整形外科、リウマチ科、脳神経内科、循環器内科、糖尿病内科、ペインクリニック内科、呼吸器内科、歯科、物忘れ外来など、高齢者疾患に関わる専門外来にも力を入れていることが特色となっている。
▲▼ 療養環境の改善を図った病室とデイルーム | ▲ 荻原記念病院の総合受付・待合室 |
▲ 病棟は回廊型で廊下幅を広く設計したことで、入院患者の リハビリスペースとしても活用されている |
365日体制で質の高いリハビリを提供
リハビリの提供体制では、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などのセラピスト70人を配置し、365日体制で質の高いリハビリを提供している。
実践するリハビリの取り組みについて、理事・事務部長の池谷純一氏は次のように説明する。
「当院では、入院当日からリハビリを開始し、現在の状態を評価しながら、患者や家族から将来の生活において不安なことなどを確認して、退院後の生活をイメージしたオーダーメイドのプログラムを作成し、マンツーマンによるリハビリを提供しています。回復期リハビリテーション病棟では、セラピストによる1日2〜3時間の個別リハビリと集団リハビリを組みあわせて実施しています」。
長期入院になることが多い療養病床の患者に対しても、在宅復帰を目指したリハビリに取り組んでいるという。
▲ 災害時の避難場所となる屋外庭園は、入院患者の園芸療法や傾斜道をつくることで応用リハビリにも活用 | ▲ リハビリ室では、365日体制の質の高いリハビリを提供 |
▲ 園芸療法がしやすいよう、車いすの高さにあわせた花壇を設置 | ▲ リハビリ室に設置したADL室では、調理訓練や退院後を想定した生活訓練を行っている |
意欲的にリハビリに取り組む環境づくり
患者が意欲的にリハビリに取り組むための工夫としては、病院の敷地内に屋外庭園(オーバルパーク)を設け、屋外でもリハビリを行うことのできる環境をつくった。
「屋外庭園は、災害時の避難場所であるとともに、園芸療法士による植花活動や野菜の栽培といった園芸療法を実施しており、患者からも好評です。さらに、屋外庭園には傾斜道や高さの異なる2種類の階段を設置し、退院後の生活を想定した応用リハビリにも活用しています。地域住民にも開放しており、交流の場となっています。た、病棟を回廊型とし廊下幅を広く設計したことにより、多くの入院患者がリハビリ室だけでなく、病棟内でスタッフと一緒にリハビリに取り組むことも日常の光景となっています」(東常務理事)。
そのほかにも、同院では患者の食への支援に力を入れており、在籍する歯科医師をはじめ、看護師、リハビリ職、管理栄養士、放射線技師など、多職種のチームで嚥下機能評価を行い、患者一人ひとりの状態にあわせた食事を提供している。さらに、歯科医師による定期的な口腔内診断、看護師やリハビリ職による嚥下リハビリをすべての入院患者に実施するほか、転倒しない体づくりや生活習慣病予防を含め、退院後の生活を見据えてチーム全体でサポートすることに取り組んでいる。
円滑な医療連携に向けた取り組みとしては、新病院では回復期に特化したことにより、近隣の急性病院、クリニックとの連携体制の強化を図っている。主要な連携先となる医療機関に定期的に出向き、コミュニケーションを図りながら、治療状況や成果の説明、受け入れの確認を行っている。その際には、医師や地域連携室のMSW(医療ソーシャルワーカー)だけでなく、看護部やリハビリテーション部のスタッフも同行し、多職種が顔のみえる関係性を構築することに取り組んでいる。
▲ 屋外庭園には、在宅復帰を想定して高さの異なる2 種類の階段を設けた | ▲ 理事・事務部長 池谷 純一氏 |
地域に向けた取り組み
複合施設としての取り組みとしては、マンションの各住居と病院を直接インターフォンでつなげ、健康やワクチン接種などに関する医療情報を発信している。受診する居住者も多く、安心して生活することができるとともに、病院にとっても医療ニーズを把握することにもつながっているという。さらに、地域に向けた活動として、合同で防災訓練を実施したり、院内で健康や認知症などに関する各種教室を開催しており、今後はさらに活動を広げていく予定としている。
「病院の統合・再編による経営面の影響としては、旧施設で取得していた『回復期リハビリテーション病棟入院料1』を、新病院では2病棟で開始することを想定していました。しかし、実績のあった1病棟しか移行できないことに加え、入院料1と5の組み合わせは認められないため、入院料2と5で開始しなければなりませんでしたが、開院後に実績をつくり、令和5年11月から2病棟とも入院料1を取得することができました。そのため、初年度は少し苦しい面がありましたが、次年度以降は軌道に乗せていくことができると思います」(池谷事務部長)。
地域ニーズに対応して地域医療に貢献
医療・介護スタッフの確保が全国的な課題となっているなか、同院ではリハビリスタッフは安定して確保することができているという。
「専門外来の医師は、神戸大学や兵庫医科大学から多くの専門医を派遣してもらうことで、充実させることができています。リハビリスタッフについては、地域でリハビリ病院といえば、当院ということが旧施設から認知されていることもあり、スキルを学びたいと応募してくれる人が多く、定期的に採用することができています。いちばん苦労しているのはケアワーカーであり、医療・介護の業態以外とも競合することに加え、処遇改善が進んでいることから、今後ますます厳しくなると思います」(東常務理事)。
今後の展望としては、さらに地域のニーズに対応することにより、地域医療に貢献していきたいとしている。
「回復期を軸にした当院の役割を追及し、患者に寄り添い、地域住民に頼りにされる病院であり続けていきたいと考えています。その一方で、地域ニーズを把握して診療科を考えていく必要があります。例えば、整形外科はもともと当法人が強みにしてきた分野であり、手術ニーズがあるのであれば、対応していくことを考えていかなくてはならないと思います」(東常務理事)。
病院の統合・再編により、さらに地域ニーズに対応し、地域医療に貢献する同院の今後の取り組みが注目される。
特定医療法人一輝会
常務理事・経営本部長 東 俊則 氏
地域に信頼される病院であり続けるためにも、職員の育成に力を入れていく必要があると考えています。管理職クラスでいえば、自分の部署だけでなく、他部署を含めた病院全体を考えることのできる人材育成を経営者側としてサポートし、そのような評価制度をつくることを構想しています。
病院の評価というのは難しいところがあり、例えば看護部やリハビリ部だけで完結することはそれほど多くありません。病院自体の評判がよくなければ、患者さんは受診しなくなるなど、すべてリンクしています。病院全体を考えられる職員の育成をサポートしていくことは、強い組織づくりにつながると考えています。
<< 施設概要 >>
理事長/院長 | 荻原 徹 | 開設 | 令和5 年4 月 |
病床数 | 142床(回復期リハビリテーション90床、医療療養52床) | ||
診療科 | 整形外科、リハビリテーション科、内科、リウマチ科、糖尿病内科、脳神経内科、循環器内科、呼吸器内科、ペインクリニック内科、歯科 | ||
法人施設 | 訪問看護ステーションみさき | ||
住所 | 〒653-0037 兵庫県神戸市長田区大橋町7 丁目1 番1 | ||
TEL | 078−621−1213 | FAX | 078−798−7125 |
URL | https://kinen.ikkikai.or.jp |
■ この記事は月刊誌「WAM」2024年3月号に掲載されたものを一部変更して掲載しています。
月刊誌「WAM」最新号の購読をご希望の方は次のいずれかのリンクからお申込みください。