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— 愛媛県四国中央市 社会医療法人石川記念会 HITO病院 —
医療のデジタル化で働き方改革を推進

▲ 施設の外観

急性期医療の中核病院として地域医療を支える


 愛媛県四国中央市にある社会医療法人石川記念会HITO病院は、「いきるを支える」をコンセプトに、疾病だけでなく、人を診るという視点を大事にしながら、「誰からも選ばれ、信頼される病院を目指す」ことをミッションに掲げている。
 法人の沿革としては、昭和51年に石川外科医院を開院したことにはじまる。昭和54年に前身となる石川病院を開設し、地域の救急医療を支える役割を担ってきた。その後、愛媛県地域医療再生計画による県立三島病院の民間移譲に伴い、104床の増床許可を得て、平成25年4月に社会医療法人化とともに、新病院を開設して病院名をHITO病院に改称した。
 さらに、同法人を含む、医療法人健康会、社会福祉法人愛美会で石川ヘルスケアグループを形成し、地域に根ざした多様な医療・介護・福祉サービスを展開している。
 現在の病床数は228床で、その内訳は急性期病棟86床(急性期一般入院料1)、HCU(高度医療)12床、SCU(脳卒中集中治療室)6床、感染病床4床、地域包括ケア病棟53床、緩和ケア病棟17床、回復期リハビリテーション病棟50床となっている。
 病院の設計では、木や紙など和の素材を活かした自然の色を基調としたデザインを採用し、患者・家族が落ち着きやくつろぎを感じられる空間を提供している。
 これまで同院が地域で担ってきた医療機能について、理事長の石川賀代氏は次のように説明する。
 「当院が所属する宇摩医療圏の人口は、開院時の約10万人から現在は8万2,000人にまで減少し、令和22年には生産年齢人口が3割減少することが推計されており、今後は人口減少とともに、働き手の確保が非常に厳しくなるという課題があります。そのようななか、当院は開設以来、2次救急病院として24時間365日体制で救急診療を行い、年間2,200件を超える救急搬送を受け入れるとともに、4疾病(脳卒中、がん、心疾患、糖尿病)のセンター機能を有し、脳卒中、心疾患については医療圏内で唯一救急対応が可能な施設となっています。その一方で、地域の高齢化の進行を見据え、早い段階からリハビリや緩和ケア、在宅医療にも力を入れ、ケアミックス病院としての機能も強化しています」。


 ▲ HITO 病院の総合受付 ▲ 吹き抜けを採用したホスピタルストリートは、開放的な落ち着きのある空間となっている
 ▲ 急性期病棟の4床室。プライバシーに配慮した環境で療養することができる ▲ 緩和ケア病棟に設置した談話室。さまざまな書物を所蔵しており、家族や患者同士がくつろいで交流できる場として活用している
 ▲ 最上階の11 階に設置したレストランは、市内の景色を一望することができる

業務用チャットを活用した情報共有


 同院は、早い段階からデジタル機器の導入、医療DXの取り組みを推進している。取り組みの一つとして、スタッフにスマートフォンを提供し、業務用チャットを活用した情報共有や対話にシフトすることにより、業務の効率化とともに質の高い医療提供につなげている。
 デジタル機器の導入・医療DXに取り組んだ経緯について、脳神経外科部長・DX推進室CXOの篠原直樹氏は次のように説明する。
 「平成29年に脳卒中医療において、常勤の脳神経外科医が2人から私1人になったことがきっかけでした。少ない人員で24時間体制の救急医療を維持する解決策として脳神経外科チームで業務用チャットを活用した情報共有を提案しました。次に、私が兼任していたリハビリテーション部で開始し、これまで毎回20分以上行っていた朝礼・終礼を廃止し、チームチャットによる報告・連絡・相談などの情報共有と対話にシフトしたところ、医師のストレスが軽減し、スタッフも医師から迅速に承認がとれるほか、スマホで電子カルテを閲覧できることにより、業務の効率化を図ることができました。その結果、患者へのリハビリ提供時間が増え、リハビリ単位数の増加による増収分でランニングコストを捻出することにつながりました」。


脳神経外科部長
CXO-CHRO
篠原 直樹 氏
経営戦略本部
CIO
DX推進室 室長
佐伯 潤 氏

コミュニケーションの質・量ともに向上


 この成功体験をもとに、段階的に他部門に広げ、現在はすべての部門で一人一台のスマホを提供し、チームチャットを推進している。
 チャットによる情報伝達や情報共有は、業務の効率化だけでなく、チームチャットのメッセージ数が導入後3年間で約20倍(年間20万件)となり、コミュニケーションの量・質ともに上がっているという。
 「とくに若いスタッフは経験や知識が少ないため、対面では自分の意見をいいづらいところがありましたが、チャットによる情報伝達ではスマホに搭載した生成AIやネットで調べて発信できるため、意見や提案がしやすく、コミュニケーションのストレスも軽減していると思います。チームチャットのメッセージ内容は、スタッフからの提案や依頼が半数以上を占めており、提案した内容を承認されることで自己肯定感が得られ、さらに提案するという好循環が生まれています」(篠原氏)。
 チームチャットのメンバーには、医師、看護師、セラピスト、薬剤師、管理栄養士などの専門職が入り、意見や提案などの情報を共有しているため、協働する場面が増えてチーム医療を活性化することにつながっているという。


 ▲ スマホのチャット機能を活用した情報共有と対話により、業務の効率化とコミュニケーションの質と量が飛躍的に向上した

ベッドサイドを中心とした新たなケアシステム


 スマホを活用した電子カルテの閲覧や情報共有による業務の効率化により、スタッフはベッドサイドに滞在する時間が増えたことを受け、同院では従来の病棟体制を変え、新たに「多職種協働セルケアシステム(R)」を構築した。
 具体的には、病棟を3つの「セル」に分け、それぞれの「セル」に多職種による小規模でメンバーを固定したチームを配置し、ベッドサイドを中心に業務を行う体制をつくることで、患者の個別性にあわせた、より質の高いケアを提供している。
 チャットにより情報共有や新たなケアシステムの体制を構築した効果として、スタッフの1日当たりの移動距離は4〜5q減少し、1日100分の時間を創出することを実現。看護師全体の時間外労働は年間6,000時間削減され、労働環境の改善とともに、経営にもよい影響をもたらしている。
 また、同院では多くの外国人の看護補助者や介護スタッフを雇用しており、チャットに自動翻訳機能を組み込むことで、日本語の文章が母国語に変換され、言葉の壁を超えて働くことが可能となった。外国人看護補助者が夜勤に対応できるようになり、急性期病棟の看護補助体制加算を算定することができているという。
 「当院の医療DXの取り組みをメディアに取り上げていただいたり、自ら発信することにより、県外から入職を希望する研修医や看護師が増えるなど、人材確保にも効果が出ています。コロナ禍においても新人看護師に1人も離職者が出なかったことは驚きでしたし、定着にもつながっていることは大きな成果だと思います」(石川理事長)。


 ▲ スマホに自動翻訳機能を組み込むことで、外国人スタッフも言葉の壁がなく、チャットでの情報共有が可能に ▲ 病室前でのセルカンファレンスの様子。業務の効率化により、ベッドサイドの滞在時間が増え、より質の高いケアの提供を実現

スマートグラスを活用した遠隔支援


 さらに、同院では医療DXの取り組みとして、新たに「スマートグラス」を導入し、遠隔支援による医療スタッフの有効活用や負担軽減、スキルの向上を図っている。
 スマートグラスは、メガネのように装着するウェアラブルデバイスで、搭載した小型カメラ、スピーカーにより、装着者の視点映像を遠隔で共有することができ、映像などの情報をスマートグラスの視界に表示することにより、ハンズフリーで作業を行うことが可能となっている。
 同院では、主に訪問診療や訪問看護など在宅医療の現場で活用しており、患者の状態を遠隔で確認したり、困ったことがあれば医師が指導や遠隔支援を行っている。さらに、スマートグラスには録画機能があり、スタッフのスキルアップを図る教育動画として活用しているという。
 そのほかにも、グループ法人が運営する介護施設で、食事介助をする様子を院内の言語聴覚士が確認して指導を行うことにより、適切なケアの提供や誤嚥性肺炎などを防止することに取り組んでいる。
 また、夜勤帯で目が離せない患者に、ベッドサイドに固定カメラを設置する許可をもらい、看護師はハンズフリーで別の作業を行いながら、スマートグラスで映像を確認して遠隔での見守りや緊急対応の必要性を判断できることにより、負担軽減を図っている。現在は、この取り組みについて厚生労働省の実証事業として、スマートグラスを活用した患者の遠隔見守りによる看護師の負担軽減に関する効果検証を実施している。
 「医療DXを推進していくうえでのポイントとしては、強制するのではなく、負担のかかっている部門に選択肢の一つとして導入し、便利だと思ったスタッフが活用をはじめて、自然に切り替わっていく流れをつくることが重要です。あとは、いままでのやり方を残しながら、小規模単位で開始することでコストもそれほどかからず、リスクも少なくなります」(篠原氏)。


 ▲ スマートグラスを装着して業務を行う様子。着用者の視点映像を遠隔で共有することができる

今後の医療情勢を見据えた病床のダウンサイジング


 同院は、令和6年1月に急性期病床を減床させ、病床数を257床から228床とするダウンサイジングを図った。
 「減床した急性期病床の稼働率は90%前後で推移し、それほど落ちていたわけではありませんが、今後の医療情勢や働き手の確保が困難になること、在院日数の短縮などの状況にあわせていく必要があると考えました。当然、ダウンサイジングをすると収益が下がりますが、医療DXを推進して密度の高いケアを提供することにより、稼働率と回転率が高まることで単価が上がり、収益を保つことができています。今後、病院はスリム化され、さらに在院日数が短縮していきます。そうなってくると、中心は在宅医療になり、シームレスな連携や病院の専門職を地域のなかで有効活用したり、在宅医療も病棟の一部と捉えて展開していく必要があります。スマートグラスの活用もそれを見据えた取り組みとなります」(石川理事長)。
 デジタル機器の導入、医療DXの推進により、業務の効率化とともに質の高い医療提供を実現する同院の今後の取り組みが注目される。  


自走型の組織を目指す
社会医療法人石川記念会 HITO病院
理事長 石川 賀代 氏

 現在の課題としては、自走型の組織にしていくため、それぞれの得意分野を活かせるように、専門職と組織横断的に動く人材を分けた配置を考えていかなければならないと思っています。現在、グループには3 法人があり、それぞれに事務方を抱えていましたが、令和5年に一般社団法人を立ち上げ、総務、人事、広報部門の人材を集約し、本部機能をもたせることで、3法人がマネジメントを確立する体制を整備しています。
 どうしても、本体部分の病院で利益を出すことが難しくなっているので、ホールディングスで新規事業を手掛けていかなければ、今後は収支があわなくなる可能性があると思っています。



<< 施設概要 >>
病院開設 平成25 年(前身病院:昭和51 年)
理事長 石川 賀代 病院長 伊藤 彰
病床数 228 床(急性期一般入院料1 86床、HCU 12床、SCU 6床、感染病床 4床、地域包括ケア病棟 53床、緩和ケア病棟 17床、回復期リハビリテーション病棟 50床)
診療科 消化器内科、循環器内科、脳神経内科、呼吸器内科、緩和ケア内科、糖尿病内科、リウマチ科、外科、救急科、乳腺外科、消化器外科、心臓血管外科、呼吸器外科、肛門外科、脳神経外科、整形外科、形成外科、美容外科、婦人科、泌尿器科、耳鼻咽喉科、皮膚科、リハビリテーション科、放射線科、麻酔科、歯科、精神科
石川ヘルスケアグループ 医療法人健康会、社会福祉法人愛美会
住所 〒799-0121 愛媛県四国中央市上分町788 番地1
TEL 0896−58−2222 FAX 0896−58−2223
URL http://hitomedical.co-site.jp//


■ この記事は月刊誌「WAM」2025年1月号に掲載されたものを一部変更して掲載しています。
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