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サービス取組み事例紹介
医療

—東京都練馬区・医療法人社団じうんどう 慈雲堂病院 —

地域移行を進める精神科医療の取り組み

 福祉医療機構では、地域の福祉医療基盤の整備を支援するため、有利な条件での融資を行っています。今回は、その融資制度を利用された東京都練馬区にある慈雲堂病院を取りあげます。
 同院は、急性期医療と認知症医療に特化した精神科病院として、患者の地域移行から退院後のサポートまでをトータルに支えることを目指しています。その取り組みを取材しました。

精神科専門病院として地域の精神科医療を支える


 東京都練馬区にある医療法人社団じうんどう・慈雲堂病院は、精神科病院として昭和4年7月の設立以来、「神仏に接する気持ちで患者さまに接する」という理念のもと、地域の精神科医療を長年にわたり支えてきた。
 現在の病床数は、精神科490床、内科30床(一般病床)の全520床で、精神科の内訳は精神科救急入院料病棟(スーパー救急病棟)41床、精神科療養病棟54床、認知症治療病棟50床、地域移行機能強化病棟55床、精神科一般病棟(15:1)290床となっている。
 同院が実践する精神科医療の特色について、同法人理事長・院長の田邉英一氏は次のように語る。
 「当院は、精神科の急性期医療と認知症医療が2本柱となっており、急性期医療では地域の医療機関を中心に入院依頼を受け、専門的な治療を提供しています。認知症医療に関しては、平成6年に老人性認知症疾患治療病棟を始めたときから20年以上にわたり力を入れ、平成27 年9月には東京都から地域連携型の認知症疾患医療センターの指定を受け、練馬区における認知症医療の中核を担っています」(以下、「 」内の発言は田邉理事長の説明)。
 入院医療では、統合失調症やうつ病などの気分障害と認知症疾患の患者が大部分を占め、近年は高齢化の影響により老年期の精神障害が増加傾向にあるという。


平成22年に地域移行・退院促進を方針に掲げる


 近年、精神疾患の患者も早期の地域移行が推進されているなか、同院が急性期機能を強化し、地域移行を促進する方針を打ち出したのは平成22年のことであった。
 地域移行を促進するための体制として、平成22年4月に副院長をトップに、精神保健福祉士17人を配置した地域連携室を立ち上げ、退院調整や地域の医療機関との連携を進めた。さらに病棟機能を再編し、平成29年1月には28年度の診療報酬改定で新設された「地域移行機能強化病棟入院料」(1年以上入院している患者が退院後に地域で安定的に日常生活を送るための訓練や支援を集中的に実施し、地域生活への移行を図る病棟)、同年5月には精神科救急入院料病棟(スーパー救急病棟)の算定を開始している。
 地域移行機能病棟を算定した経緯としては、退院促進に力を入れてきたことや、長期慢性期患者の高齢化に伴う死亡により空床が増加したことを受け、退院支援のスキルが身についていたこともあり算定を開始したという。また、スーパー救急病棟については、新規入院患者の6割以上を3カ月以内に退院させることや、病室の半数以上を個室にするなどの厳しい施設要件があるが、近年は精神科急性期病棟(48床)で積極的に退院促進に取り組むなかで自然と基準を満たすようになっていたことから、病棟の半数を個室に改装して転換している。
 転換後は、個室化により病床数が48床から41床に減少したものの、収益的には高くなっているという。
 早期退院につなげる体制としては、病棟ごとに配置した精神保健福祉士が大きな役割を担っている。
 「病棟によっては精神保健福祉士を複数配置し、地域移行機能強化病棟にいたっては3人を配置しており、医師や看護師などの他職種と連携しながら退院に向けた調整を行っています。同時に、入院中は患者さんの身体機能を落とさないように作業療法士などのリハビリスタッフとチーム医療を実践し、患者さんをよりよい状態で退院させることを実践しています」


▲落ち着いた雰囲気のある外来待合室 ▲精神保健福祉士17 人を配置した地域連携室

▲精神科病棟の病室 ▲作業療法室は、体育館のような広いスペースがあり、入院患者のリハビリのほか、院内全体の会議やイベントなどに活用


デイケア・訪問看護等を開設し、退院後の在宅療養を支援


 退院後のフォロー体制としては、精神科グループホームや訪問看護ステーション、デイケア・デイナイトケアを開設し、患者の在宅療養をサポートしている。
 平成25年10月に開設した精神科グループホーム(定員10人)は、病院の近隣にあるアパートを借り上げ、管理者が夜間も常駐して利用者の生活をサポートしており、高いニーズがあるという。
 訪問看護では、配置した看護師5人と作業療法士が患者の状態にあわせて自宅を訪問し、定期的な健康チェックや服薬管理などを行い、容態の変化があればすぐに対応することで、利用者の在宅療養を支えている。
 そのほかにも、病院敷地内に併設するデイケア・デイナイトケアでは、平成28年4月から生活支援と就労支援に分けて運営しており、利用者自身が選択することが可能となっている。
 デイケアの就労支援は、利用者から仕事をしたいという要望を受けたことをきっかけに開始したもので、精神保健福祉士や看護師、作業療法士らが中心になり、「IPSモデル」(個別就労支援プログラム)という手法を導入し、一般企業への就労を目指している。
 具体的な支援プログラムとしては、就労や就職活動に必要なコミュニケーションやパソコンなどのスキルの習得をはじめ、履歴書の作成や面接対応などの支援を行っている。就職先としてはスーパーマーケットや飲食業などを中心に障害者雇用に積極的な企業にアプローチし、これまでに40〜50人の就職につなげている。就職後もスタッフは就職先に出向き、企業に就労状況を確認しながら継続的にフォローを行っているという。
 「地域移行は、ただ患者さんを退院させるのではなく、地域に戻った後も仕事をしたいという意欲がある人が収入を得て、自ら生活できるところまでサポートし、社会参加までをトータルに支えていくことが大切になります。ドロップアウトして再調整をしなければならない利用者も少なくありませんが、確実に意欲向上につながっています。都内でもここまで積極的に就労支援に取り組んでいる病院はあまりないのではないかと思います」。
 これらの退院促進・地域移行促進の取り組みにより、現在の病床稼働率は92・1%、平均在院日数は273日で推移しており、日当点などの単価が上がったことで経営状況も好転しているという。


▲病院の近隣にあるアパートを借り上げて開設した精神科グループホームは、夜間もスタッフが常駐して利用者の生活をサポートしている


▲病院敷地内に併設したデイケアは、生活支援のほか、利用者の希望に応じて就労支援を実施

平成20年に長期経営計画「ビジョン90」を策定


 現在、同病院の経営計画は、平成20年に策定した長期経営計画「ビジョン90」に基づいて運営している。
 「『ビジョン90』は、病院創立90周年を見据えて当院のあるべき姿を定めたものです。10年間を3ステージに分け、第1ステージでは経営体質の強化期間として位置づけ、第2ステージでは新棟の設立準備、第3ステージでは経営と医療、職員の質を高め、3つの質をあわせることにより『精神科病院トップランナー』、『都市型精神科総合病院』となることを目標に掲げ、慈雲堂病院ブランドを確立することを目指しています」。
 同時に、院長を中心とする風通しのよい組織にするための組織改革を実行し、病院の方針を全職員で共有することを徹底するとともに、現場の意見を吸い上げられる体制を整備している。毎年度、目標となる経営指標(病床稼働率、患者1人当たりの日当点、室料差額の徴収率)を設定し、これらの目標を達成するため、年度末には「院長ステートメント」として、当該年度の病院の収益などの状況や取り組みを振り返りながら、次年度の目標を田邉理事長が伝えることで、病院の方針を全職員に浸透させている。


女性が働きやすい職場環境を整備


 医療スタッフの確保が全国的な課題となっているなか、同院では医師、看護師ともに比較的安定して人材を確保することができているという。
 医師については、田邉理事長の出身大学である日本大学と、同院と歴史的につながりのある慶應義塾大学の医局の2つのルートから質の高い医師の派遣を受けている。
 「もともと精神科医は女性が多いのですが、当院では常勤医師21人のうち、10人が女性医師です。
 女性医師を確保できている要因としては、病院敷地内に定員20人の院内託児所を開設し、残業も少ないので女性が子育てしながら働きやすい職場環境であることに加え、東京23区内にある立地も大きいのではないかと思います」。
 一方、看護師については、看護学校の実習先として、現在10校から実習生を受け入れ、実習後の入職につながるケースが多いという。また、地域移行を進めるうえで大きな役割を担う精神保健福祉士についても、積極的に実習生を受け入れているほか、これまでの同院の精神科医療の実績から一般募集でも比較的集まりやすい状況にあり、潤沢に確保することができている。


▲働きやすい環境づくりとして、病院敷地内に院内託児所を設置 ▲都心でありながら緑に囲まれた中庭があり、患者や家族の癒しの場になっている


サテライトクリニックの開設を構想


 今後の展望について田邉理事長は、地域の医療機関との連携を強化するとともに、サテライトクリニックの開設を構想していることをあげる。
 「現在の課題としては、早期の退院促進により病床稼働率が下がり気味になりますので、そのあたりは工夫していかなくてはならないと考えています。現在の入院患者は他の医療機関からの紹介が多いため、より密接に連携していく必要がありますし、依頼があれば即座に対応できる体制を整備しなくてはならないと思います。今後はサテライトクリニックを開設して連携していくことも構想しています。また、もうひとつの柱となる認知症医療については、認知症疾患医療センターを担っていますので、地域の医療機関との連携を強化しながら、信頼される病院にしていきたいと考えています」。
 急性期に特化した精神科病院として、患者の地域移行から退院後のサポートまでトータルに支える同院の取り組みが今後も注目される。


社会参加までをトータルにサポート
医療法人社団じうんどう 慈雲堂病院

理事長・院長 田邉 英一氏
 当院は昭和4 年の開設以来、精神科医療の草分け的存在として、急性期医療に特化した医療を提供してきました。現在は、創立90 周年を見据えて当院のあるべき姿を定めた長期経営計画「ビジョン90」を策定し、「精神科病院のトップランナー」や「都市型精神科総合病院」となることを目標に掲げています。
 「都市型精神科病院」のイメージとしては、精神科の多くの疾患に対し、急性期医療から在宅復帰にとどまらず、患者さんが安心して在宅療養できるサポートや就労支援、社会参加までをトータルに支えていくことが大切であり、今後求められることだと感じています。
 今後も精神科医療の中核病院として、地域住民や医療機関から信頼される病院づくりに努めていきたいと考えています。


<< 施設概要 >>
理事長・院長 田邉 英一 病院開設 昭和4 年7 月
職員数 497 人(平成30 年7 月現在)
病床数 520 床(精神科490 床、内科30 床)
診療科 精神科、内科
法人施設 精神科グループホーム(定員10人)、精神科デイケア(定員100人)、デイナイトケア(定員30人)、認知症デイケア(定員25人)、慈雲堂訪問看護ステーション
住所 〒177− 0053 東京都練馬区関町南4 丁目14 番53 号
TEL 03−3928−6511 FAX 03−3928−6626
URL https://jiundo.or.jp/


■ この記事は月刊誌「WAM」2018年8月号に掲載されたものを掲載しています。
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