東京都墨田区・医療法人伯鳳会東京曳舟病院
災害医療の経験を活かし、新型コロナに立ち向かい地域に貢献する病院
福祉医療機構では、地域の福祉医療基盤の整備を支援するため、有利な条件で の融資を行っています。今回は、その融資制度を利用された東京都墨田区にある東京曳舟病院を取りあげます。同院は災害拠点病院としての経験を活かし、早期から新型コロナウイルス感染症患者を受け入れ、地域医療を支えています。新型コロナ患者の受け入れ体制や対応について取材しました。
救急医療・災害医療の中核として地域医療に貢献
東京都墨田区にある医療法人伯鳳会東京曳舟病院(理事長:古城資久)は、「高機能型病院として、地域医療に貢献すべく活動する」という病院理念のもと、地域の救急医療と災害医療の中核を担ってきた。
病院の沿革としては、昭和11年に開設された白髭橋病院の運営母体であった医療法人が破産したことに伴い、平成24年7月に同法人が経営譲渡を受けて運営している。平成29年4月には病院の老朽化・狭隘化により、東武スカイツリーライン曳舟駅に直結するビルに移転し、東京曳舟病院に改称して現在に至る。
また、同法人は、複数の医療法人、社会福祉法人、有限会社で構成する伯鳳会グループに属している。同グループは本部のある兵庫県を中心に大阪府、東京都、埼玉県において、10カ所の病院をはじめ、診療所、介護施設、障害者施設など60カ所を超える施設・事業所を運営している。
救急医療と災害医療に特色をもつ同院の病床数は200床で、東京都指定二次救急医療機関として24時間365日体制で質の高い救急医療を提供し、救急搬送数は年間8000件と地域でもトップクラスとなっている。
災害医療分野においては、東京都指定災害拠点病院、東京DMAT(災害派遣医療チーム)指定病院などの施設認定を受けるほか、JMAT(日本医師会災害医療チーム)、AMAT(全日本病院協会災害時医療支援活動班)の隊員を擁し、国内で発生した災害に対して医療救護活動を展開している。
そのほかにも、駅直結のアクセスのよい立地環境を活かし、開設する透析センター(24床)では、平成30年から夜間透析を開始しており、仕事帰りに利用できることから高いニーズがあるという。
早期から新型コロナ患者の受け入れを開始
同院は、新型コロナウイルス感染症が全国で感染拡大するなか、早期から新型コロナ患者を受け入れてきた。
新型コロナ患者の受け入れを行った経緯について、副院長の三浦邦久氏は次のように説明する。
「当院は、墨田区の要請を受け、令和2年3月から接触者外来を開設していました。4月に入ると東京都医師会からコロナ患者の受け入れ病床を設置してほしいとの要請があり、緊急会議を経て、呼吸器内科の医師をリーダーとし、軽症から中等症Tまでの感染患者を受け入れていくことを決定しました。もともと、新型コロナウイルスの感染拡大を災害として捉えていたため、対応していくことは災害拠点病院としての使命だと考えました」。
同院は地上7階建てで、1階が外来、2階に救急センター、3階に手術室、ICU、透析センターが入り、4〜6階部分が病棟、7階がリハビリ室となっている。
新型コロナ患者の受け入れ病床としては、2階の救急センターにある救急外来の6床を専用病床として確保した。その理由として3階には手術室、ICU、透析センターがあり、感染リスクが高い患者が多く出入りするため、ゾーニングの観点から2階で完結させることにより、新型コロナ患者と一般患者が交わらない動線をつくった。
新型コロナ専用病床の職員配置は、呼吸器内科の医師2人と看護師を専従とし、患者の搬送時に人工呼吸管理が必要な場合は、救急科の医師・看護師がアシストする体制とした。なお、三浦副院長はコロナ対応を行いながら、東京都が設置した新型コロナ感染症入院調整本部の医師として現在も月2回勤務し、保健所からの依頼を受け、患者の重症度、基礎疾患の有無など踏まえた広域的な入院調整、病院間での転院調整を行っているという。
「病棟のゾーニングやPPE(個人防護服)の着脱方法などの職員教育については、当院は災害拠点病院としての経験とともに、東京オリンピック・パラリンピックの開催にあたり、バイオテロなどに備えた感染症対策の教育に取り組んでいたため、ゼロからのスタートではありませんでした。施設のゾーニングのアドバイザーを務める看護師もいたため、感染症対策に対する教育はスムーズに行うことができました。私自身も日本環境感染学会の災害時感染制御支援チームの講習を受講していたほか、私や名誉院長、院長は感染制御の専門的な知識を有する医療従事者を認定するICD(インフェクションコントロールドクター)をもつなど、病院の規模は大きくありませんが、専門的な知識をもつ人材が多いことが大きかったと思います」(三浦副院長)。
▲ 東京曳舟病院の総合受付 | ▲▼病棟の病室(4人室)とデイルーム |
▲ リハビリ室では外来リハも行い、退院後のフォローアップにも力を入れている |
PPEなどの医療資材を安定的に確保
さらに、多くの医療機関でPPEやマスクなど医療資材が不足したなか、同院は安定的に確保することができたという。
医療資材の確保について、経営管理部長の渡邊啓司氏は次のように語る。
「当院は災害拠点病院であるとともに、新型コロナが感染拡大する前は新型インフルエンザに対する協力病院でもあり、もともと医療資材は十分な備蓄がありました。その一方で、PCR検査の資器材が不足し、当初は検査をスムーズに行うことができず、対応に苦慮した面がありますが、グループで一括購入した器材の提供を受けることができました。全国規模で医療・福祉サービスをするグループ法人だからこそ、そのようなスケールメリットを活かした対応ができました」。
新型コロナ患者の受け入れ対応として、第1〜2波は高齢患者が多く、病床利用率は常に満床に近い状況が続いたことから、より多くの患者を受け入れるために病室の陰圧化などの改修工事を経て、令和2年9月に受け入れ病床を6床から18床に増床した。
増床にあたっては、2階の救急センターを1階に移設し、空いたスペースに病床を設置して2階をコロナ専用病棟として運用した。その後も、感染状況や患者の増減にあわせて病床数を変更し、ピーク時の令和3年2月には26床まで増床した。その際の人員配置は、4階の4B病棟を休床とし、職員を新型コロナ専用病棟に異動させており、2階で完結する体制を維持した。
また、第2波までは重症者を高次医療機関へ搬送することが可能であったが、第3波になると重症者が急激に増加し、転院先を確保することが困難になり、救急外来用の病床を使用して対応したという。
「変異株が流行した第4波のときは、基礎疾患や喫煙習慣のない20〜40歳代の若い世代の救急搬送が多くなり、第4〜5波は常に満床状態となりました。コロナ対応でいちばん厳しかった時期は、やはり患者が多かった3波と5波で、とくに5波のときは40〜50歳代の重症患者が増えたので、そのような働き盛りの方の命を救わなくてならないという想いがありました」(三浦副院長)。
現場で働く職員への手厚いフォロー
現場で働く職員に対しては、常に声かけをして、意見を傾聴しながら各部署で起きている問題点
医療法人伯鳳会東京曳舟病院 経営管理部長 渡邊啓司氏 |
を共有して一つずつ課題の解決を図るとともに、上司を通じて面談を行い、メンタルケアに力を入れながらモチベーションが下がらないように配慮したという。
とくに、早い段階からコロナ患者を受け入れてきた病院は、風評被害で外来受診が減少したり、心ない誹謗中傷を受けることがあり、職員の子どもが保育所に預けられなくなったり、美容室などの利用を断られるケースも実際にあったという。
「例えば、コロナ禍では清掃業者も入ってもらえなくなり、院内の清掃や看護師が着ているスクラブ(医療用白衣)などの洗濯も職員自らがしなくてはなりませんでした。そのため、看護師をはじめとする職員が業務に専念できるよう、清掃・洗濯などを専門に行う職員数名を新たに雇用しました」(渡邊部長)。
さらに、職員に対する経済的な支援として、当初は法人の持ち出しで「危険手当」を直接対応する職員に1日6000円、間接対応する職員に3000円を支給した。補助金の給付が決定した令和2年12月以降は、直接対応の職員は1日2万円、間接対応の職員は1万2000円に引き上げ、現在も手当の支給を継続している。これらの対応により、新型コロナを理由に退職した職員は1人も出ていないという。
区民へのワクチン接種の取り組み
そのほかにも、ワクチン接種の取り組みとして、墨田区の「新型コロナウイルスワクチン接種実施計画」に基づく行政からの要請に対応するため、同院から徒歩1分の場所にある大型スーパーと連携し、空きスペースを活用して区民へのワクチン接種を実施した。
大型スーパーと連携した理由としては、新型コロナ患者を診ている病院で実施するよりも買い物のついでに受けられるほうが接種率も上がると考えたためである。異業種ではあるものの、地域住民の生活の一部であるスーパーと顔がみえる関係を構築することにつながり、今後は災害訓練なども協働して取り組んでいくことを検討しているという。
▲▼2階の新型コロナ病棟で業務を行う医療従事者の様子 | ▲ 大型スーパーと連携し、空きスペースで区民へのワクチン接種を実施 |
▲ 透析センターは、駅直結でアクセスのよい立地環境を活かし、夜間透析を行っている |
抗体カクテル療法を積極的に行う
「これまでの新型コロナ患者への対応を振り返ると、当院は多床室が中心で個室管理ができないことから、軽症から中等症Tまでの患者しか診ることができず、第1〜3波の頃はジレンマがありました。しかし、墨田区ではワクチン接種が進み、令和3年10月時点で若年層も含め、約8割の区民が2回目のワクチン接種を終え、重症化のリスクが低くなっています。抗体カクテル療法も昨年8月から開始し、これまでに20〜90歳代までの患者の治療をしてきましたが、予後も良好で非常に有効な治療であることを実感しています」(三浦副院長)。
さらに、医療機関の連携としては、墨田区医師会が主導し、区内のほとんどの病院、開業医が参加するWEB会議を毎週開催し、情報を共有しながら医療機関同士が協力しあう連携システムの構築が進んでいるという。
災害拠点病院としての経験を活かし、新型コロナウイルス感染症の対応を行う同院の今後の取り組みが注目される。
医療法人伯鳳会 東京曳舟病院
副院長 三浦 邦久氏
墨田区は、感染患者が急増した第5波の際に、重症者、死者がともにゼロで注目されました。その要因としてワクチン接種が進み、重症化を防ぐことができていること、行政や墨田区医師会、保健所、医療機関がそれぞれに役割分担しながら、入院待ちの患者を出さずに、病床を確保・運用する「墨田区モデル」と呼ばれる医療体制を構築していることがあげられます。
当院は、軽度から中等症Tの感染患者の受け入れを行うとともに、酸素ステーションや宿泊療養など、区や医師会からの新型コロナに関する要請に対し、職員を派遣してすべて応えるというスタンスをとってきました。今後も重症患者を担当する病院が疲弊しないよう後方支援を行うとともに、本来の役割である救急医療の中核病院として地域医療に貢献していきたいと思いま
す。
<< 施設概要 >>令和3年4月現在
理事長 | 古城資久 | 病院開設 | 昭和11年 |
病院長 | 山本保博 | 職員数 | 404人 |
病床数 | 200床 | ||
診療科 | 内科、呼吸器内科、循環器内科、消化器内科、外科、消化器外科、乳腺外科、呼吸器外科、血管外科、脳神経外科、整形外科、泌尿器科、形成外科、耳鼻咽喉科、皮膚科、救急科、総合診療科、麻酔科、放射線科、リハビリテーション科 | ||
指定等 | 東京都指定二次救急医療機関、東京都災害拠点病院、地域救急医療センター、東京DMAT指定病院等 | ||
住所 | 〒131−0032東京都墨田区東向島2−27−1 | ||
TEL | 03−5655−1120 | FAX | 03−5655−1121 |
URL | http://tokyo-hikifune-hp.jp |
■ この記事は月刊誌「WAM」2022年1月号に掲載されたものを一部改変して掲載しています。
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