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医療

— 大阪府堺市・医療法人暁美会 田中病院 —

地域の医療機関、介護施設等と連携し、地域ニーズに対応

 福祉医療機構では、地域の福祉医療基盤の整備を支援するため、有利な条件での融資を行っています。今回は、その融資制度を利用された大阪府堺市にある田中病院を取りあげます。同院は令和元年11月に病棟の建て替えに伴い、病床転換を行っています。新病棟の概要や地域の医療機関、介護施設との連携について取材しました。


地域に密着した医療・介護サービスを提供


 大阪府堺市にある医療法人暁美会田中病院(理事長:田中大吉氏)は、昭和54年の開設以来、「地域住民から安心と信頼を得る医療・保健・福祉活動を目指します」という基本理念のもと、地域に密着した医療・介護サービスを提供してきた。
 法人は、180床の田中病院をはじめ、住宅型有料老人ホーム2カ所と居宅介護支援事業所を運営し、住み慣れた地域で安心して切れ目のない医療・介護サービスを受けられる支援体制を整備している。
 同院の病棟機能は、急性期から回復期・慢性期医療まで幅広く対応する、堺市美原区で唯一のケアミックス病院となっている。近隣の急性期病院の後方支援を担うとともに、地域の診療所や介護施設などから患者を受け入れるサブアキュートの機能を有し、地域医療を支えている。
 そのなかでも美原区は市内でも高齢化が進行していることから、在宅や介護施設から紹介を受けた高齢の救急患者の受け入れが主な役割となっている。
 さらに、機能強化型在宅医療支援病院として24時間365日対応の訪問診療体制を整備するほか、検診部門や予防医療にも力を入れており、健診受診者数は年間1万人を超えているという。


病棟の建て替えに伴い病床編成を再編


 同院は、令和元年11月に病棟(本館)を同一敷地内に建て替え、新病棟を完成させるとともに病床転換を行った。
 病棟の建て替えを実施した経緯について、事務次長の松原慎治氏は次のように説明する。
 「昭和54年に建築した本館は、建物の老朽化が進むとともに未耐震構造であったことに加え、これまで増改築を繰り返してきたことにより、診療・検査ゾーンが院内に点在して動線に非効率が生じていました。さらに、廊下幅も現在の基準より狭く、病室についても5〜8人部屋の多床室が存在し、安全性や入院患者のプライバシー等に配慮しづらい療養環境であったことから、患者の安全性や利便性、アメニティの向上を図ることを目的に建て替えを実施しました」。


▲ 田中病院の総合受付と待合室


地域包括ケア病棟を新設し高齢患者の受け入れを強化


 病棟の建て替えに伴う病床転換としては、地域で必要とされる病床への編成を踏まえたうえで同院の役割や強みを分析し、それまでの一般病棟36床、障害者施設等一般病棟49床、医療療養病棟35床、介護療養病棟60床の計180床から、一般病棟40床、障害者病棟40床、地域包括ケア病棟40床、医療療養病棟60床に再編した。
 高齢者の急性期疾患の受け入れを積極的に行うことで、急性期病床の満床状態が続き、病床運用に支障をきたしていたなか、地域包括ケア病棟40床を新設することにより、地域の診療所や介護施設から紹介を受けた高齢患者の入院の受け皿としてスムーズな受け入れと運用が可能となった。
 新病棟は地上6階建てで、1階には総合受付、外来診療室、検査室などが入り、2階はリハビリテーション室や手術室、薬局、材料室、3〜5階部分が病棟(一般病棟、地域包括ケア病棟、障害者病棟)となっている。新病棟の建て替えに伴い、既存の北館は医療療養病棟や健診部門、中館はデイケアや職員食堂、24時間365日対応の院内保育所などを集約した。
 新病棟は、できるだけコンパクトな設計とし、外来や診療、検査関係をすべて1階のワンフロアに集約することにより、患者やスタッフの動線をわかりやすくし、効率的に診療を提供できる環境をつくった。
 また設計の工夫として、病棟の各フロアは、病室やスタッフステーション、浴室・トイレのほか、器材・物品等に関するものまで、すべて同じ配置・使用にしている。これにより、スタッフが配置転換した際にもスムーズに業務に対応できている。
 病室については、5床以上の多床室を解消し、旧施設より個室の割合を増やし、プライバシーに配慮した快適な療養環境を整備するとともに、廊下幅も2.85m以上とることにより患者とスタッフの安全確保を図った。


▲ 病室はプライバシーに配慮して個室の割合を増やし、療養環境を向上させた ▲ 広々とした空間のリハビリテーション室


▲ 各病棟に設置したデイルーム ▲ スタッフステーションは、仕切りがなく患者が話しかけやすい設計とした
▲ 病棟の廊下幅は2.85m以上あり、患者とスタッフの安全性を図った


建て替えの効果として外来患者数が増加


 「建て替えによる効果としては、コロナ渦で減少した時期はあるものの、外来患者数は建て替え前と比較して3割増となり、あわせて医療保険対象のリハビリ患者数も増加しています。また、当院では専門職の採用に非常に苦戦していましたが、新病棟の稼働後は、とくに看護師の応募者が増え、新卒者の採用につながっています。その結果、病床の施設基準の類上げをすることができました。看護師の年齢構成も以前は偏りがありましたが、20歳代の割合が4.5%から20%まで増え、全体のバランスもよくなっています」(松原氏)。
 また、リハビリ患者の増加に伴い、待ち時間が増えていたが、理学療法士や作業療法士などのセラピストは建て替え前の15人から22人に増員して対応するとともに、デイケア(通所リハビリ)にも力を入れることができているという。
 令和4年度からコロナ病棟を立ち上げ、24床分を充てたため、全体の病床稼働率は80%台となっているが、コロナ渦以前は90%前半と高い水準で推移していた。
 高い稼働率を維持できた要因として、高齢者救急に適した病棟編成とし、在宅や介護施設からの患者を積極的に受け入れていることが大きいとしている。


▲ 建て替え後は、セラピストを増員して通所リハビリテーション(デイケア)に力を入れた


地域の医療機関 介護施設との連携


 在宅医療の取り組みでは、24時間365日対応の訪問診療体制を整備しており、現在の登録患者数は224人となっている。同院の退院患者や通院が困難になった外来患者にとどまらず、地域の居宅介護支援事業所や訪問看護ステーションからの依頼が増え、今後も伸びていくことが見込まれているという。
 訪問診療の体制は、常動の専従医師1人と専任医師2人に非常勤医師2人を加えた5人を配置し、必要に応じて緊急往診を行い、患者に不測の事態が発生した場合には、同院で入院を受け入れる体制をとっている。
 また、機能強化型在宅医療支援病院として、地域の8医療機関とネットワークを構築し、その診療所のかかりつけ患者の入院が必要になった際には、必ず受け入れることとしている。さらに、美原区の訪問看護ステーションと連携し、在宅での看取りやがん末期患者の在宅診療を積極的に行い、直近1年間の看取り件数は27件にのぼるという。今後は、さらに住み慣れた自宅で最期のときを家族と一緒に迎えられるよう、支援体制の強化を図りたいとしている。
 地域の医療機関や介護施設との連携強化や入退院の調整などは、院内に設置した地域医療連携部が担っている。
 地域での円滑な医療連携に向けた取り組みとしては、地域医療連携部が中心になり、美原区の基幹型包括支援センター、第1地域包括支援センターとの連携を密にしている。
 基幹型包括支援センターとは、退院後の地域支援をスムーズにするため、月1回開催の在宅支援連絡会議において、美原区在住の入院患者の退院困難ケースの報告や相談をすることで情報共有し、連携体制の強化を図っている。


入院以来を断らない方針を徹底


 さらに、近隣の特別養護老人ホームや介護老人保健施設、有料老人ホームなどの介護施設と連携し、24時間365日、どのような状況でも対応する連携体制を構築している。
 介護施設との連携について、地域医療連携部部長代理の吉田弘士氏は次のように説明する。
 「地域では高齢化が進行し、毎年のように介護施設が新設されていますが、当院と医療連携の契約を結んでいる介護施設は30施設以上にのぼり、入所する高齢者の入院依頼が増えています。もともとは特養と老健が中心でしたが、近年は有料老人ホームが急増し、連携する介護施設のなかで比率がもっとも高くなっています。連携する介護施設からの入院依頼に対しては、『絶対に断らずに受け入れる』ことを徹底し、信頼関係を構築しています。診療の依頼を受けた際には、家族や施設スタッフが同行しなくても、当院のスタッフが看護師の協力のもと、自宅や介護施設に出向き、病院の送迎をすることにも取り組んでいます。このように依頼を断らずに受け入れができているのは、地域医療連携部が副院長管轄の部署であることも要因の一つになっていると思います」。
 さらに、平成18年に現理事長の就任後、同院では病院独自のものを含む各種委員会を立ち上げ、幅広く現場の意見を汲み上げて、課題の改善に向けた体制づくりに取り組むとともに、地域の要望をしっかりと把握し、「救急を断らない」ことに着手した経緯がある。入院の受け入れや退院が困難な患者がいれば、自然と専門職が集まり対応策など議論する職場風土が醸成されており、地域ニーズに応える病院の運営につながっているという。
 そのほかにも、「低料金で生活や健康面で安心して暮らせる施設が必要」という職員からの要望を受け、住宅型有料老人ホーム2カ所を開設している。美原区内で医療法人が運営する唯一の有料老人ホームとして介護だけでなく医療面でもサポートを行い、常駐する看護師が夜間にも迅速に対応する体制をとっている。今後は介護事業の柱として事業を拡大していくことも構想しているという。
 地域の医療機関、介護施設等と連携し、地域ニーズに対応する同法人の今後の取り組みが注目される。


▲ 運営する住宅型有料老人ホームは、看護師が24時間常駐し夜間も迅速に対応している ▲ 医療法人暁美会 田中病院
部長代理 吉田 弘士 氏

さらに地域ニーズに対応
医療法人暁美会 田中病院
事務次長 松原 慎治 氏
 今後の展望としては、地域特性にあわせた高齢者救急をメインとしながら、訪問診療をはじめ在宅医療や介護、予防医療を含めた健診部門を複合的に法人内で完結できる体制を構築することにより、ある程度地域のニーズに応えたかたちの事業運営ができるのではないかと思っています。
 現在は、地域医療連携部が中心となって外部との連携を図り、地域のニーズを拾い上げていますので、そのニーズに対応していくことに重点的に取り組むことにより、地域住民に選んでもらえる病院となることを目指していきたいと考えています。


<< 施設概要 >>令和5年5月現在
理事長/病院長 田中 大吉 病院開設 昭和54年8月
病床数 180床(一般病棟40床、地域包括ケア病棟40床、障害者病棟40床、医療療養病棟60床)
診療科 内科、消化器内科、外科、整形外科、形成外科、放射線科、救急科、肛門外科、リハビリテーション科
法人施設 住宅型有料老人ホーム「大美真福寺」(定員61人)、「大美おわい」(定員60人)/居宅介護支援事業所
住所 〒587−0002 大阪府堺市美原区黒山39番地10
TEL 072−361−3555 FAX 072−361−8505
URL https://www.mihara-tanaka.or.jp/


■ この記事は月刊誌「WAM」2023年5月号に掲載されたものを一部改変して掲載しています。
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