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医療

— 鹿児島県曽於市・医療法人愛誠会 昭南病院 —

高齢過疎化が進む地域において連携強化で地域医療を推進

福祉医療機構では、地域の福祉医療基盤の整備を支援するため、有利な条件での融資を行っています。今回は、その融資制度を利用された鹿児島県曽於市にある昭南病院を取りあげます。同院は、高齢過疎化や医療資源が乏しい地域において地域医療を推進しています。地域連携や医師の確保などの取り組みについて取材しました。

▲ 施設の外観

自らも家族にも受けさせたい医療を追求


 鹿児島県曽於市にある医療法人愛誠会昭南病院(理事長:徳留稔氏)は、昭和21年の開設以来、「私たちは患者様に安心していただき、自らも受けたい、家族にも受けさせたい医療を追求します」という理念のもと、高齢過疎化が進む地域において地域完結型医療ネットワークの推進に取り組んでいる。
 法人は、154床の昭南病院をはじめ、介護老人保健施設や訪問看護ステーション、居宅介護支援、訪問介護事業所、認知症対応型グループホームなどを運営し、急性期から在宅までシームレスな医療・介護サービスを展開している。
 同院が立地する曽於市は、人口約3万3000人、高齢化率41.3%(令和2年10月現在)と、人口減少と高齢過疎化が急速に進んでいる地域。令和7年には、老年人口(65歳以上)が生産年齢人口(15〜64歳)を上回り、令和27年には高齢率は45.2%に達すると推計されるなど、人口構造が大きく変化していくことが見込まれている。
 さらに、曽於保健医療圏(曽於市、志布志市、大崎町)の人口10万人当たりの医師数は県内最少の117.3人で、県平均の293.0人(全国平均269.2人)を大幅に下回り、全国的にみても医療資源が非常に乏しい地域となっている(令和2年医師・歯科医師・薬剤師統計)。


地域完結型医療ネットワークを推進


 曽於市の医療提供体制や人口などの状況について、院長の朝戸幹雄氏は次のように語る。
 「曽於市で複数の医師を有する医療機関は少なく、隣接する鹿屋市や宮崎県都城市には大規模病院がいくつかあるものの、この周辺では当院と医師会立病院を含め、数カ所しかありません。診療所も10年前は20カ所近くありましたが、少なくとも3カ所は閉鎖し、今後はさらに閉鎖が増えていくと思われます。幸い、医師については常勤医師11人、非常勤医師17人を確保することができていますが、当院が単体で地域医療を担うことは不可能であり、曽於市やその周辺の医療機関と協力しあい、”共に創る“という共創の意識を共有しながら、地域完結型医療体制を構築しなくては、将来的には地域の医療体制が維持できなくなると考えています。また、人口減少でいうと、私たちが医療・福祉で関わる高齢者層の減少はもう少し先になると見込んでいましたが、推計より5年くらい早く進行している実感があります」。
 高齢化の進行により、地域では老老介護や独居高齢者が急増しており、受診する交通手段をもたない人たちに対し、同院では巡回バスを運行することで通院を支援している。
 巡回バスは、予約制でその日の順路を決め、患者の自宅から病院までの送迎を行う。高齢の患者だけでなく、両親を残して遠方で暮らしている患者家族の安心にもつなげている。送迎で自宅を訪れた際に、患者の容態の急変を発見できたこともあったという。


 ▲ 昭南病院の総合受付と病室 ▲ 高齢化の進行や医療資源が乏しい地域のなか、連携強化で地域医療に取り組んでいる

医療機関との連携強化に取り組む


 地域完結型医療の実現に向け、医師は所属する医療機関だけでなく、さまざまな組織で自分の得意分野を発揮できるよう、地域の医療機関との連携強化に取り組んでいる。
 「医師不足の地域では、地域全体で成り立つ医療を考えなくてはなりません。具体例として、近隣にある医師会立病院は整形外科医が鹿児島大学から派遣されている地域で唯一の病院となり、当院で該当する患者の大半を紹介しています。ところが整形外科は深部静脈血栓(エコノミー症候群など)の患者が意外と多く、そのような手技はできないため、要望があれば血管内治療の専門医である私が出向いて手術をしています。患者を動かさなくてすみ、病院、患者にとってもメリットとなっています」(朝戸院長)。
 同様に、地域には常勤の麻酔科医が少ないことから、同院の麻酔科医が、週4日勤務という勤務形態を利用し、手術件数の多い鹿屋市や都城市の医療機関に応援に行っている。医療資源が乏しいなかで医師を有効活用するとともに、同院にとっても何かあったときには協力してもらえる関係性の構築につながっているという。
 そのほかにも、同院が発行する広報誌では、地域で専門性をもつ医療機関の医師等を取材し、それぞれの得意分野やアピールポイントを掲載することに取り組んでいる。
 患者にとって、この分野では大学病院と比べても遜色ない医療を提供できる医師が地域にいることを知ってもらえる機会となり、医療機関にとっても互いの強みを再認識することにより、医療連携が図りやすく、医師の有効活用につながるとしている。


訪問看護の利用者を互いに紹介し、効率化を図る


 介護施設との連携としては、介護施設から入院等の依頼があった際には、可能な限り対応することや、訪問看護の患者を医療機関同士で紹介しあうことに取り組んでいる。
 「入院依頼をすべて受け入れているのは、もちろん経営的に病床稼働率を上げるためでもありますが、相手が困ったことに応えていくことが信頼関係の構築につながるためです。また、訪問看護でいうと、この地域では車で片道1時間をかけて訪問し、診療時間は10分程度というケースも少なくありません。それはあまりに非効率ですし、片道1時間だと1人の患者しか診られないのに対し、15分くらいの距離であれば3人は診ることができるので、患者に近い医療機関を互いに紹介しあうことを進めています。患者にとっても、何かあればすぐに駆けつけることができるので安心感があると思います。自分たちの患者が取られるという思いから、なかなか進まない場合もありますが、必ず双方のメリットにつながるので当院から率先して紹介していくことに取り組んでいます。ただ、それでもカバーできない患者も存在するため、行政と連携しながら、どのように地域医療を守っていくのか考えていかなければならないと思います」(朝戸院長)。
 円滑に医療連携を進めるためのポイントとしては、医師同士のコミュニケーションが最も重要だとしている。そのため、朝戸院長は地域の各医療機関に出向き、医師同士の顔の見える関係づくりに取り組むことにより、『共創』の意識が少しずつ地域に浸透してきているという。
 そのほかにも、医療機関との連携として、診療所と共同で医師の採用を行う取り組みも開始している。
 医師の共同採用について、事務局長の鶴田光樹氏は次のように説明する。
 「例えば、当院に週4日勤務して、週1日は診療所で勤務するイメージで取り組みを始めています。要は当院という組織に単独で属するのではなく、診療所や訪問診療などで地域に密着した医療を提供したいが、病院の検査機器を使用して診断や手技もしたいなど、医師の働き方のニーズにあわせて、どちらも実践できるように診療所と共同して募集をかけるというものです。このような採用が広がり、マッチングができると、地域全体で1人の医師を雇うというイメージで、一つの医療機関だけでなく、地域全体で医療ソースを確保できるのではないかと考えています」。


 ▲ 広々としたリハビリテーション室 ▲ 地域の医療ニーズに対応し、人工透析治療も行う
▲ 運営する老健「やごろう苑」には、居宅介護支援、訪問介護事業を併設


医師の週4日勤務制度を導入


 さらに、同院は医師を増員してさらに医療の質を高めるため、「西日本一働きやすい病院」を掲げ、医師の「開業支援」、「週4日勤務」、「全員参加型の病院経営」などの方針を打ち出し、持続可能な医療提供体制づくりに向けて取り組んでいる。
 「開業支援」は、開業を目指す医師のバックアップをすることにより、地域医療を一緒に支えていくことを目的としている。同院で働きながら経営を学び、スキルを習得して地域の患者との信頼を得ることができ、病院にとってもその期間に働いてもらえるため、双方のメリットとなるとしている。
 医師の週4日勤務制度については、現在は常勤医師11人のうち6人が利用している。
 「週4日勤務制度を導入した理由としては、鹿児島県や宮崎県で医師を募集しても、なかなか集まらないため、例えば月〜木曜日まで当院で勤務して、週末は地元で生活できる勤務体系をつくることで、医師の多い都市部から医師を採用できるのではないかと考えました。週4日勤務でも医師の平均年収以上を保障しています」(朝戸院長)。
 週4日勤務のメリットとして、医師の確保につながるだけでなく、家族や一人の時間を大切にしたり、自分のスキルを高めることに時間を有効に活用することが可能となっている。医師のなかには、休日を大学病院や学会などで最先端の医療を勉強することに活用し、学んだことを病院に還元してくれるという効果も生まれているという。  


職員全員が経営状況を把握


 全員参加型の病院経営としては、ネットワーク上にデータをアップし、職員全員がいつでも経営状況を把握できるようにシステム化をするとともに、とくに医師に対して経営に関心をもつことを促している。
 「病院の収益を上げるためには、医師だけでなく、すべての職種が経営を意識することが重要ですが、そのなかでも医師が検査などをオーダーしなければ何も生まれません。医師一人ひとりが収益を上げる意識をもち、病院全体の体力を上げることで高性能な検査機器を揃えるなど、医療の質を高めることになります。そして、収益が出たときには少なくとも4割は職員に還元することで、職員の働くモチベーションや活気ある職場環境につなげています」(朝戸院長)。
 そのほかの取り組みとして、同院ではACP(アドバンス・ケア・プランニング)の考えをもとに、病気や事故、認知症などで意思表示ができなくなったとき、その人らしい最期を迎えられるように備える「大切な人に思いを伝えるノート」を作成し、令和4年10月から活用を開始している。  


 ▲ 医療法人愛誠会 昭南病院 理事・事務局長 鶴田 光樹氏 ▲ その人らしい最期を迎えられるように備える「大切な人に思いを伝えるノート」を作成


 また、スタッフの育成ではフォロワーシップマネジメントを取り入れ、病院の理念と同様に大切にしている。
 リーダーの役割が意思決定や組織の方向性を示すことであるのに対し、フォロワーシップは、部下がチームや組織のために、能動的にリーダーのサポートを行うことを指す。リーダーの意思決定や行動に誤りがあると感じた場合に提言を行ったり、組織がよい方向に進むよう働きかけるもので、フォロワーシップを高めることで組織の活性化や信頼関係の構築、モチベーションの向上につながっているという。
 高齢過疎化が進み医療資源が乏しい地域のなかで、地域の医療機関との連携強化を図りながら地域医療を推進する同院の今後の取り組みが注目される。

行政を巻き込んだ連携体制の構築が必要
医療法人愛誠会 昭南病院 理事・院長
朝戸 幹雄氏
 今後、人口や医療資源の減少をカバーしていくために、「共創」という意識を共有することが、ますます大事になっています。医療機関や福祉施設と連携するだけでなく、行政を巻き込んで曽於市全体の医療・福祉を考えていく体制を構築していくことが急務となっています。
 医療というのは、地域に必要とする人がいて成り立ちます。単に医療を提供するだけでなく、地域が衰退するのを少しでも食い止められるように、自分たちにできることを本気で考えていく。そういう組織でなければならないと思っています。



<< 施設概要 >>
理事長 徳留 稔 設立 昭和21年
院長 朝戸 幹雄
病床数 154床(一般病床33床、地域包括ケア病床70床、療養病床51床)
診療科 内科、外科、放射線科、泌尿器科、呼吸器外科、消化器科、循環器科、麻酔科、神経内科、脳神経外科、整形外科、リハビリテーション科、眼科
関連施設 介護老人保健施設ケアセンターやごろう苑(入所定員100人、通所リハビリテーション)/総合在宅ケアセンターやごろう苑(訪問介護、居宅介護支援)/大隅地域訪問看護ステーション/ケアステーションすえよし/グループホームあがいやんせ
住所 〒899−8106 鹿児島県曽於市大隅町下窪町1番地
TEL 099−482−0622 FAX 099−482−5357
URL https://aisei-kai.com


■ この記事は月刊誌「WAM」2023年7月号に掲載されたものを一部変更して掲載しています。
  なお、取材に対応いただきました朝戸様、鶴田様の役職は取材当時のものです。
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