— 兵庫県川西市・医療法人せいふう会 川西リハビリテーション病院 —
医療圏域で不足していた回復期病床を増床、充実したリハビリを提供
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▲ 施設の外観 |
地域に根ざした医療を提供
医療法人せいふう会(法人本部:兵庫県猪名川町)は、「我々は医療人としての本分をつくし、人々の保健・医療・福祉の充実向上をはかり、健康で明るい社会づくりに貢献することに努める」という法人理念のもと、地域に根ざした医療を提供している。
法人の沿革としては、前身となる医療法人晴風園が昭和25年に兵庫県猪名川町に今井病院を開設したことに始まる。当初は療養型医療施設であったが、時代や地域ニーズに応えるかたちで回復期リハビリテーション病床、障害者病床、医療療養病床を開設している。
現在の法人施設は、兵庫県と京都府において、4カ所のリハビリテーション病院をはじめ、診療所や介護老人保健施設、グループホームを開設するほか、デイサービスや訪問看護ステーション、訪問リハビリテーションなどの在宅サービスを運営し、在宅療養を支える体制を整備している。
平成27年からは医療法人8法人・20病院で構成する生和会グループ(会長:白川重雄氏)に参加するとともに、令和6年4月に現在の法人名(旧法人名:晴風園)に改称している。
地域医療連携推進法人に参画
さらに、同法人は令和3年4月に設立された地域医療連携推進法人「川西・猪名川地域ヘルスケアネットワーク」に参加し、回復期医療の中核を担っている。
同ネットワークが設立された経緯としては、赤字運営が続き、財政健全化団体となっていた市立川西病院と、医療法人協和会が運営する協立病院を統合・再編し、川西市の基幹病院として「川西市立総合医療センター」(令和4年9月開設)を開設することが計画された。しかし、両院を移転統合する計画であったため、市立病院がなくなる市内北部を中心とした住民の不満の声もあり、外来のみならず入院できる施設として、同法人が猪名川町で運営する今井病院の新築移転を市立病院跡地に行う打診をしたことがきっかけでさらに前進した。
統合再編と跡地への新築移転を迅速に解決する手段として、地域医療連携推進法人制度を活用し、川西市・猪名川町地域の医療提供体制を将来にわたり維持することにより、地域医療の充実に貢献するとともに、医療機関相互間の機能分担、連携を進め、質の高い医療を効果的に提供することを目指した。
同ネットワークの参加法人は、川西市、猪名川町をはじめ、医療法人4法人、川西市医師会、歯科医師会、薬剤師会の3師会が参加している。
跡地利用や新築移転を行った経緯について、理事長の植松正保氏は次のように説明する。
「もともと猪名川町にあった今井病院は、建物の老朽化が進み、新築移転を計画していましたが、条件に見あった土地がみつからない状況でした。そのようななか、跡地利用の声をかけられ、猪名川町から離れることになりますが、移転先は車で10分ほどの距離であったことから、正式に申し出ることにしました。その後、地域医療連携推進法人の議論で、新築移転にあたって病床数を増床して回復期機能を強化していきたいことを相談したところ、市立川西病院と協立病院の統合再編により削減する約200床のうち、49床を当院に譲渡するという提案を受け、譲り受けることになりました。新築移転に伴い、病院名を『川西リハビリテーション病院』に変更し、回復期機能の強化を図っています」(以下、「 」内は植松理事長の説明)。
なお、猪名川町の旧今井病院跡地には、令和5年5月に新たに「せいふうクリニック」を開設し、外来医療を継続して提供する体制を整備している。
新築移転に伴い、回復期機能を強化
令和5年4月に新築移転した川西リハビリテーション病院の病床数は、移転前の回復期リハビリテーション病床41床、障害者病床70床の111床から、移転後は回復期リハビリテーション病床120床(地域包括ケア病床3床)、障害者病床40床の計160床となっている。障害者病床を減床する一方で、回復期リハビリテーション病床を大幅に増床し、地域の回復期リハビリのニーズに対応した。
建物は6階建てで、1階は受付、診察室、検査室などが入り、2〜5階部分が病棟、6階はリハビリ室や自宅を想定した生活訓練を行うADLハウスのほか、屋外でリハビリに取り組めるリハビリテラスを設置した。各病棟にもリハビリスペースを設け、セラピストの管理下でリハビリに取り組むことのできる環境をつくった。
「病床編成については、開設時は回復期リハビリテーション病床120床でスタートしましたが、最初は簡単には埋まらないと考え、稼働状況をみながら地域包括ケア病床として運用して地域の医療ニーズに応えていくことを計画していました。いざ蓋を開けてみると、地域医療連携推進法人の病院や医師会の診療所から多くの患者の紹介をいただき、開設後2カ月で満床となっています。現在はとりあえず3床のみ地域包括ケア病床を新設していますが、各病床の必要数を把握して病床数を考慮していきたいと考えています」。
さらに、同院は地域で不足する小児科診療と休日応急診療について川西市の要請を受け、地域医療連携推進法人から医師の派遣などの協力を得て、運営している。
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▲▼ 回復期リハビリ病棟の病室(4人室)とデイルーム | ▲ 川西リハビリテーション病院の総合受付 |
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▲ 1階に設置したラウンジは、患者や家族の憩いの場として活用 |
365日体制で質の高いリハビリを提供
回復期リハビリテーション病棟では、主に脳血管障害や骨折の手術、廃用症候群などの急性期治療を終えた患者を受け入れ、運動器リハビリをはじめ、呼吸器リハビリ、心臓リハビリなど、さまざまな疾患に関するリハビリに対応している。
リハビリの提供体制では、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などのセラピスト96人を配置している。医師や看護師、リハビリ職、介護福祉士、管理栄養士、歯科衛生士などの多職種がチームとなり、365日体制で質の高いリハビリを提供している。
「リハビリの基本方針では『一日の運動量を最大限にし、ADLの自立を第一に目指す』ことを掲
げ、セラピストによる1日2〜3時間の個別リハビリを中心に、集団リハビリを組みあわせて実施しています。また、リハビリでは、かなり早期から歩行してもらうことが当院の特色といえます。そのためにさまざまな装具を使用したり、リハビリ室では安全免荷装置を導入し、免荷機能による負荷のコントロールで座位、起立、立位保持、歩行の早期リハビリから維持期まで安全に行うことが可能となっています」。
また、退院後の生活を早期にイメージできるようにADLハウスを設置し、調理や洗い物、清掃、
洗濯などの家事動作、狭い廊下や段差のあるトイレへの移動、深い浴槽での入浴など、在宅復帰に向けた生活訓練を行っている。使用頻度の高い食事や入浴、調理、トイレ関連の福祉用具を備え、退院後の生活をイメージしやすくしているという。
さらに、同院では食事の支援にも力を入れ、医師、看護師、管理栄養士、歯科衛生士、言語聴覚士などで構成する栄養サポートチーム(NST)を立ち上げ、患者に最適な栄養管理を提供するとともに、定期的な口腔内診断を行い、口腔ケアや嚥下機能リハビリに積極的に取り組んでいる。
「例えば、胃ろうについては一部で否定的な意見がありますが、寝たきり状態の高齢者は別として、胃ろうを造設することにより栄養状態が改善し、しっかりとリハビリをすることにより、再び口
から食事をとることが可能になり、在宅に戻られたケースを数多くみてきました。回復の見込める、食事をとることのできない患者に対しては、有効な方法だと考えています」。
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▲ ADLハウスは、玄関やキッチン、和室などを設け、自宅に近い環境で生活訓練を行うことができる | ▲ リハビリ室では365日体制で質の高いリハビリを提供している |
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▲ 6階に設置したリハビリテラスは、見晴らしのよい環境のなかでリハビリに取り組むことができる | ▲ 安全免荷装置を導入し、早期の歩行訓練に取り組んでいる |
退院後の在宅療養をサポート
退院後のサポート体制では、法人内の訪問看護ステーションや訪問リハビリにおいてリハビリを継続し、患者の在宅療養を支えている。
「訪問リハビリについては、当院は開設からまだ日が浅く、猪名川町で運営する介護老人保健施設にセラピスト10人を配置した訪問リハビリチームがあり、そのチームが大半を担っています。しかし、入院中から患者の状態を把握し、しっかりとフィードバックをする必要があると考え、今年度から院内で訪問リハビリチームを立ち上げました。今後は訪問看護ステーションを含め、さらに強化していきたいと考えています」。
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▲ 病棟の廊下幅を広く設計したことで、入院患者のリハビリスペースとしても活用されている |
さらにリハビリの専門性を高める
増床を伴う新築移転を行うにあたっては、多くの専門職を確保する必要があったが、同院ではセラピストについては安定して確保することができているという。
「セラピストは、募集に対して応募があることに加え、これまで連携してきた専門学校とのつながりから、新卒者を毎年採用することができています。リハビリスタッフが不足する場合は、法人内の異動のほか、グループや地域医療連携推進法人からサポートを受けられる体制がありますが、現時点では病院単体で確保することができています。今後は看護師と介護スタッフの確保が課題となると思います」。
また、地域医療連携推進法人の連携については、参加法人間で顔のみえる関係が構築され、患者の紹介などの連携が進んでおり、現在は災害発生時の救急医療の体制や機能分担について議論しているという。
今後の展望としては、リハビリの専門性をさらに高めていくことをあげる。
「運動器や呼吸器、心臓リハビリの専門性を高めるとともに、障害者病床のリハビリは回復期リハビリとは異なる要素があるため、各疾患を理解したアプローチを学んでいく必要があると考えています。また、過疎地域である猪名川地域は、訪問看護や訪問リハビリについては整備されていますが、訪問診療については実施できていない状況があります。地域医療を支えるためにも、訪問診療やオンライン診療を展開していくことに我々も協力していかなければならないと思っています」。
地域で不足する医療ニーズに対応し、地域医療に貢献する同院の今後の取り組みが注目される。
医療法人せいふう会 理事長 植松 正保氏
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今後は川西地域の一員として地域医療を支えていくことはもちろん、猪名川地域もしっかりカバーしていくことが当法人の使命だと考えています。
<< 施設概要 >>
理事長 | 植松 正保 | 開設 | 令和5年4月 |
院長 | 柴田 邦隆 | ||
病床数 | 160床(回復期リハビリテーション病床117床、障害者一般病床40床、地域包括ケア病床3床) | ||
診療科 | 内科、リハビリテーション科、小児科 | ||
法人施設 | 伊丹せいふう病院(178床)/阪神リハビリテーション病院(192床)/宇治リハビリテーション病院(88床)/杉生診療所/せいふうクリニック/介護老人保健施設「せいふう猪名川」、「せいふう若葉」/小規模介護老人保健施設「ふれあい大島」/グループホーム「せいふう北田原」 | ||
住所 | 〒666−0117兵庫県川西市東畦野5丁目18番1号 | ||
TEL | 072−795−0070 | FAX | 072−795−6311 |
URL | https://kawanishi-rh.jp/ |
■ この記事は月刊誌「WAM」2024年7月号に掲載されたものを一部変更して掲載しています。
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