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医療

医療法人尾張温泉かにえ病院

温泉療法によるリハビリ、急性期病院とかかりつけ医をつなぐ  尾張温泉かにえ病院

愛知県海部郡にある医療法人尾張温泉かにえ病院は、地域で唯一のケアミックス病院として、温泉療法によるリハビリテーションをはじめ、地域で不足する医療機能である急性期病院とかかりつけ医をつなぐ役割を担い、地域完結型医療を推進している。その取り組みを取材した。

■ この記事は月刊誌「WAM」平成27年7月号に掲載されたものを一部更新して掲載しています。

温泉療養によるリハビリテーションを提供


 愛知県海部郡にある医療法人尾張温泉かにえ病院は、日本名湯100選に選ばれた尾張温泉の引き湯を利用した温泉療法によるリハビリテーションを中心に、一般病床、医療療養病床、回復期リハビリテーション病床をもつ地域で唯一のケアミックス病院である。地域包括ケアシステムの実現に向けて、急性期病院とかかりつけ医をつなぐ役割を担い、地域完結型の医療を推進するとともに、地域に根ざした在宅医療に取り組んでいる。


▲ 「尾張温泉かにえ病院」の外観

 昭和63年に開設した同院は、地域の資源である天然温泉を活用した温泉療法とリハビリテーションを融合させた、当時としては新しいケアを提供してきたが、次第に維持期や長期療養のリハビリが中心となり、経営もあまりよいとはいえない状況にあったという。このようななか、名古屋市医師会理事として在宅医療の拠点づくりに取り組み、これからの地域医療のあり方を考え続けてきた真野寿雄氏が平成22年に理事長に就任。経営を立て直すとともに、より地域に密着した病院を目指して病院改革をスタートさせた。
 病院改革を行った経緯について、真野理事長は次のように語る。
 「経営を任された当時は、リハビリスタッフは充実していたものの、もっている機能を活かしきれず、地域の方々には“高齢者をお預かりする病院”というイメージが定着していました。リハビリ病院といえば回復期リハビリテーション病床をもっている病院が大半だと思いますが、病床編成は医療療養病床60床、一般病床39床のみで、まずは医療療養のうち30床を回復期に転換し、地域に密着した在宅復帰を支援していく病院方針を掲げました」。


 地域の実情に応じて在宅復帰・療養を支える病院へ転換


 在宅復帰を支援する病院方針を打ち出した背景には、同院のある海部郡蟹江町を含む海部医療圏の地域特性も関係する。蟹江町は名古屋市から電車で10分ほどの場所に位置し、人口流入が少なく高齢化が現れ始めている地域。地域住民は、多くの地域医療支援病院がある名古屋市に受診にいくため、とくに急性期の治療に関する自給率は6割程度にとどまる。同医療圏には急性期を担う病院はあるものの、急性期病院とかかりつけ医をつなぐ病院が少ないという実情があり、まだ急性期に近い患者に対し、在宅療養や施設入所をしてもらわなくてはならない状況にあった。今後、さらに増加する高齢者が医療圏を越えて受診しに行く負担を考えると、地域で足りない医療機能を担っていくことが同院の役割と考えた。
 その後、病床転換により経営が安定する一方で建物が老朽化していたこともあり、次なる改革として病院の移転新築を実行した。


 地域に密着したケアを提供する新病院を開設


 平成26年10月に移転新築した新病院(WAM医療貸付事業利用)は、これまでの温泉療法によるリハビリを拡充するとともに、病床は5床増床した104床とし、一般病床24床、医療療養病床25床、回復期リハビリテーション病床55床に再編(※)。より地域に密着したケアを提供していくため、@急性期を脱した患者の早期受け入れ、A自宅や介護施設の患者の緊急時の受け入れ、B在宅に向けた復帰支援の3つの役割を担う「地域包括ケア病床」の新設を病院の目標に掲げた。


▲ 移転新築した「尾張温泉かにえ病院」の外来

 新病院の設備は、温泉療法を提供する温泉健康増進棟を新たにつくり、源泉かけ流しの温泉浴室と温泉歩行浴プールを設置。全長20mの温泉歩行浴プールはリハビリスタッフの指導のもと、水の浮力を利用することで骨折など運動器疾患の患者でも歩行訓練を行うことができる。

                
 ▲ 源泉かけ流しの温泉浴室。入浴介助リフトを設置し、車いすに乗ったまま湯につかることができる ▲ 20mある温泉歩行浴プールは、水の浮力を利用することで歩行困難な患者も訓練することが可能。

 入院・外来患者が使用する700平米のリハビリテーション室は、柱がなく広々とした設計となっており、併設するADL訓練室では、入院直後に患者の家屋調査を実施し、自宅環境を想定した実践的なリハビリを提供する。日常生活動作の確認や家族への介助方法の指導、住宅改修や福祉用具の提案も行っている。また、退院後の在宅療養を支えるため、介護保険による短時間通所リハビリテーションセンターを設置するほか、訪問リハビリテーションを提供している。

                
 ▲ 700平米のリハビリテーション室は、柱がなく広々とした空間。通所リハビリセンターを併設する ▲ ADL訓練室では、自宅環境を想定したリハビリテーションを実施。日常生活動作の確認や家族への介助方法の指導、福祉用具の提案を行う。


(※) 平成28年4月1日現在、全病床数は118床に増床され、一般病床26床(うち地域包括ケア病床15床)、医療療養病床32床、回復期リハビリテーション病床60床となっている。


 最新の医療設備を導入し、検診センターを新設


 さらに医療機関が不足する蟹江町には検診センターがなく、巡回検診車を活用していたことから、MRIやCTを導入し、検診センターを新設している。町民診断・企業診断をはじめ、地域の人たちがいつでも安心して検診を受けられる環境を整備した。
 同院のリハビリテーションの取り組みについて、同法人事務局長の真野康子氏は「一般的に療養を中心とした病院というと、あまりリハビリを提供していない病院が多いと思いますが、リハビリをしなければ関節が硬縮し、体位交換どころか衣服の着脱もできなくなり、寝たきり状態になってしまいます。当院はリハビリ病院として在宅に戻すことを目的にしていますので、医療療養病床、一般病床であってもリハビリを提供し、硬縮しない療養体制をつくっています。また、日常生活に必要な行為に関わるリハビリについては、リハビリスタッフだけでなく、看護師や介護スタッフが病棟のなかでリハビリを提供していくことをチーム医療として取り組んでいます」と語る。

          
 ▲ 見晴らしいのよい屋上テラスは、患者のリハビリに使用される

 在宅復帰につなげる支援は多職種による連携が重要になるが、作業療法士、理学療法士、言語聴覚士のリハビリスタッフと看護師などが、それぞれの専門性を活かした評価を行い、それを一元化・情報共有するチームアプローチを実践することで質の高いリハビリを提供している。
 また、地域の急性期病院やかかりつけ医をつなぎ、連携していくための体制づくりについては、新病院開設にあたり、地域連携ネットワークシステム「ID - Link」を導入した。同システムは参加医療機関が保有している診療情報の相互参照が可能となるシステムで、医療施設間のコミュニケーションの活性化により、紹介・逆紹介率の向上を支援する。導入したことで、よりスムーズな連携を図ることが可能になったという。
 「かかりつけ医としっかり連携していくためには、患者さんを紹介いただき、当院での治療で状態がよくなれば、またかかりつけ医にお任せするということをしっかり守り、信頼関係を構築していくことが重要です。また、蟹江町には訪問看護ステーションが十分に整備されていないので、かかりつけ医をサポートするためにも、最優先で開設していきたいと考えています」(真野理事長)。
 平成27年10月、かにえ病院では訪問看護事業として「訪問看護かにえ」を開始したが、今後新たに訪問看護ステーションを開設することにより、かかりつけ医をサポートしていくとともに、同院ですでに活動している訪問リハビリ、通所リハビリと連結することで、より地域全体を包括する機能へ拡大していきたいとしている。


 27年4月に地域包括ケア病床を稼動


 病院として目標に掲げていた在宅療養支援病院や地域包括ケア病床の要件には、24時間対応できる医師・看護師を配置するなど厳しい人員配置の基準がある。とくに看護師の確保については同院においても大きな課題となっていたが、平成26年7月に看護部長に就任した岩田広子氏の精力的な働きかけにより、基準を満たす人材を集めることができた。
 「看護部長は名古屋市立大学病院の副院長・看護部長をはじめ、高度急性期病院でキャリアを積んできた方で、これまで培ってきた人とのつながりから人材を紹介してもらうなど、人材確保に奔走していただきました。そのおかげで、平成27年4月から一般病床24床のうち10床を地域包括ケア病床に転換し、稼働させることができました」(真野事務局長)。
  また、看護師の教育体制についても、岩田看護部長のもと見直しを図り、生え抜きの看護師を師長にまで育成することのできる研修体制の構築に取り組む。
 「これまで当院では、看護師の教育体制が十分とはいえませんでしたが、看護部長の指導のもと、スタッフ一人ひとりが明確な目標をもってケアに取り組めるように変わりつつあります。病院としては、スタッフの負担を減らしケアをしやすい環境をつくることが大切になりますので、病棟のベッドをすべて電動ベッドにし、そのうち4分の1に離床センサーを入れたほか、看護部から要望のあった最新の汚物容器洗浄装置を導入するなど、効率よく働ける環境づくりを進めています。このような環境をつくることは、スタッフの働きやすさだけでなく、時間的な余裕ができた分、患者さんに寄り添った看護が可能となり、ケアの質を高めることにもつながっています」(真野事務局長)。
 そのほか、地域に向けた取り組みとして、新病院になってから初めての地域公開講座を開催している。第1回目の講座では認知症と骨折のリハビリをテーマに同院の院長・副院長が講演を行い、地域住民をはじめ、他病院のワーカーや蟹江町の職員など120人が集まった。今後も定期的に開催する予定だという。

     
 ▲ 病院の敷地内には町営の足湯があり、地域住民の交流の場になっている

 介護予防として歩行浴プールの活用を構想


 今後の展望については、「訪問看護かにえ」に加えて現在準備中の訪問看護ステーションを早急に立ち上げ、訪問看護サービスを充実させるとともに、健康・介護予防に力を入れていくことをあげている。
 「地域包括ケアを推進していくなかで、高齢者が健康な状態を長く保ち、自分らしく住み慣れた地域で暮らしていくためには健康・介護予防が重要になります。その取り組みの一つとして、当院の温泉歩行浴プールを地域の方にも活用してもらえるように現在蟹江町に相談をしているところです。健康温泉増進棟を病院の別棟につくったのも、将来的に使っていただく際の利便性を考えて計画したものです」と真野事務局長は語る。
 そのほかにも、同院では移転前の旧病院を改修して介護老人保健施設を開設することや、認知症のスクリーニングを行う「もの忘れ外来」の新設など、多くの構想を立てている。
 地域包括ケアシステムの実現に向けて、地域に密着するとともに不足する医療機能を担う、同院の取り組みが今後も注目される。


地域で足りない医療機能を担い地域完結型医療を推進
医療法人尾張温泉かにえ病院 理事長 真野 寿雄氏

 当院のある蟹江町を含む海部医療圏は、団塊世代が75 歳以上を迎える2025 年に先行する形で、すでに高齢化が進んでいます。こうした超高齢化社会に対応するため、平成26 年10 月に病院を新築移転し、温泉療法によるリハビリを拡充するとともに、地域で不足する医療機能である急性期病院とかかりつけ医をつなぐ機能を強化しました。
 現在は新病院として目標に掲げていた在宅療養支援病院の指定を受けることができ、平成27年4 月には地域包括ケア病床を稼働させています。また、在宅療養を支えるうえで不可欠となる訪問看護ステーションの開設準備を進めているところで、当院ですでに実施している通所リハや訪問リハと連結することで、より地域全体を包括する機能に拡大していく予定です。
 今後も地域完結型医療を推進し、地域包括ケアシステムの一翼を担えるよう、地域に密着した医療を提供していきたいと考えています。

<< 法人概要 >>
     
法人名 医療法人尾張温泉かにえ病院
理事長 真野 寿雄 氏病院長 榊原 敏正 氏
施設開設 昭和63年 職員数 210人(非常勤を含む)
病床数 118床(一般病床26床(うち地域包括ケア病床15床)、医療療養病床32床、回復期リハビリテーション病床60床)
併設施設 神経内科、内科、整形外科、リウマチ科、リハビリテーション科、老年内科
電話 0567−96−2000 FAX 0567−96−3701
URL https://www.kanie-hp.jp/


■ この記事は月刊誌「WAM」平成27年7月号に掲載されたものを一部更新して掲載しています。
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