東京都北区・社会福祉法人東京都福祉事業協会 赤羽北さくら荘・赤羽北のぞみ保育園
高齢者施設と保育所の複合施設を通じて地域福祉に貢献
※この記事は月刊誌「WAM」平成30年1月号に掲載されたものです。
地域社会に根ざした福祉サービスを展開
東京都北区にある社会福祉法人東京都福祉事業協会は、大正6年に前身となる東京府慈善協会を設立し、生活困窮者救済のための東京府の外郭団体として経済的保護、婦人児童保護などの事業活動と社会事業団体の連絡調整機関として事業を開始。その後、時代の要請に応じて、昭和27年5月に社会福祉法人に改組し、昨年創立100周年を迎えた歴史ある法人である。
現在の法人施設は、東京都内に保育所7カ所をはじめ、母子生活支援施設3カ所、特別養護老人ホーム2カ所のほか、デイサービスセンターや学童クラブ等を運営し、「人の幸せを求めて」という経営理念のもと、地域に根ざした福祉サービスを展開している。
さらに、平成29年4月には、東京都北区に特別養護老人ホームと保育所を合築した複合施設を開設している。
複合施設を開設した経緯としては、北区から指定管理を受けていた特養「浮間さくら荘」(入所定員60人)の老朽化に伴い、区と建て替えを協議した結果、現在の建築基準法では同じ規模での改築ができないことから閉鎖することが決まった。そこで区は新たに小学校跡地に特養を移転新築し、待機児童の解消に向けて保育所を合築した複合施設の開設を計画するとともに、法人による施設整備方針が決定された。同法人は東京都八王子市で同一敷地内に特養と保育所を運営している実績があったことから公募にエントリーし、プロポーザルを経て公募の採択を受けている。
なお、小学校跡地の敷地面積は約8000uで、このうち複合施設の敷地面積は約4000uとなり、残りの土地には区営の高齢者集合住宅「シルバーピア」(全75戸)と児童遊園が同時期に整備されており、地域の福祉エリアとなっている。
施設整備に向けた住民説明会では、土地が高台の崖地にあることから、地元の自治会から建設が地盤に与える影響を心配する質問があったものの、工法等を丁寧に説明することで大きな反対もなく、理解してもらうことができたという。
地域住民を巻き込みながら多世代交流の場に
複合施設のコンセプトについて、同法人理事・「赤羽北さくら荘」施設長の鮎沢三男氏は次のように語る。
「地域における役割としては、地域の期待に応えられる介護・保育サービスを提供していくことが第一となりますが、特養と保育所の複合施設になりますので、利用者と園児の相互交流を図るとともに、地域住民を巻き込みながら多世代間の交流の場を設けることで、国の進める地域包括ケアシステムを、この地域のなかで構築していくことを目指しています」。
平成29年4月に開設した複合施設は、地下1階・地上5階建てで、1階には定員100人の認可保育所「赤羽北のぞみ保育園」が入り、地域の保育ニーズに対応するため、自主事業として障害児保育や産休明け保育(生後57日目より)、年末保育などを実施している。
入所定員144人の特養「赤羽北さくら荘」は、2〜5階が居室となり、1階に通所介護(定員35人)や認知症対応型通所介護(定員12人)、訪問介護、居宅介護支援事業所などの在宅サービスを併設するほか、地域交流スペースを設置した。
特養の居室は、閉鎖した「浮間さくら荘」が従来型特養であったことから、2階部分は多床室(40床)のみの設置が認められており、3〜5階部分は法人としては初のユニットケアを導入した。多床室の設計では、入居者のプライバシーを確保するため、各ベッドを壁でしっかりと仕切ることで個室に近い生活環境を提供し、自宅と変わらない環境のなか、その人らしい生活を送ってもらうことを目指している。
▲重厚な雰囲気の特養のエントランス。玄関正面には、法人の沿革を展示するスペースを設置した(写真左) | ▲1階にはデイサービスセンターを併設 |
▲特養の個室と多床室。多床室は壁で仕切りを設けることで入居者のプライバシーを確保し、個室に近い生活環境を提供 |
子どもたちが興味や関心をもてる環境を提供
保育所の方針や施設設計について、「赤羽北のぞみ保育園」園長の村上たか子氏は次のように語る。
「保育方針として、子どもたちが自分らしく豊かに育つことを目指し、遊びや食育について力を入れ、子どもたちが興味や関心をもてる環境を提供することを大切にしています。そのため、施設設計では中央にある保育所のホールは、調理室を一体化し、調理室を1段低くすることにより、作り手と子どもたちの目線を同じ高さにし、コミュニケーションを図りながら、調理工程などの作業をみることができるようにしました。子どもたちが食への関心を高めることにつながっています」。
また、園庭の設計では保育所の施設沿いに曲線のウッドデッキを設け、施設正面にある園庭につなぐ仕掛けを施しており、子どもたちは自分たちで遊びを創造するなど格好の遊び場となっている。
現在の特養と保育所の利用状況は、特養については人材不足により介護体制が整っていないため、5階の2ユニット(24床)が開設に至っていないが、それ以外の居室の稼働率は96%となっており、介護体制を整備して段階的にフル稼動にする予定としている。
一方、保育所では4〜5歳の園児が少ないものの、0〜3歳児は開設後すぐに定員に達した。このため、園児の少ない3〜4歳児を混合クラスにし、ニーズの高い0歳児の定員を10人から12人に増員して受け入れているという。
また、高齢者施設と保育所の複合施設は、利用者と園児の相互交流が図れるというメリットがある。
「これまでも当法人では、運営する保育所と高齢者施設で園児と利用者の相互交流に取り組んできたのですが、高齢者は子どもとふれあうことで笑顔になりますし、核家族が増えているなかで子どもたちにとっても、多世代とふれあうことで成長につながる貴重な機会となっています。当施設はまだ開設から間もないこともあり、生活環境の変わった入所者が安定して生活するまで時間がかかることや、年長や年中の園児が少ないことから、合同の誕生日会を開催するなどの活動に限定されていますが、今後は季節のイベントや日常的に交流する機会をつくりたいと考えています」(鮎沢施設長)。
▲保育所のホールは、調理室と一体化し、1 段低くすることにより、作り手と子どもたちの目線の高さを同じにして、コミュニケーションをとりながら、調理作業をみることができる設計にした | |
▲保育室は壁が可動式で子どもの人数によって広さを変更できるため、さまざまな使い方が可能になる | ▲保育所側の施設沿いに曲線のウッドデッキを設け、施設正面にある園庭につないでおり、子どもたちの格好の遊び場となっている |
地域交流スペースを活用しさまざまな地域交流を推進
地域に向けた活動としては、施設の1階にある地域交流スペースを地域住民に開放するとともに、地域の高齢者が気軽に集えるコミュニティサロンをはじめ、介護や子育て相談を行うサロンを開設している。また、地域住民にとどまらず、医療や福祉関係者を集めた勉強会を定期的に行うことで、地域の医療・介護連携の強化にもつなげている。
そのほかにも、同時期に整備された「シルバーピア」の入居が始まり、さまざまな地域から転居してきた入居者が安心して暮らせるよう、地域にある施設などの説明や生活の困りごとについての聞き取りを行った。入居者からは、運動のできる場所や娯楽施設がないという意見があったことから、健康体操サロンの開催や映画鑑賞会などのイベントを開始している。
また、地域に向けた取り組みの一つに「けん玉教室」があり、活動が地域に広がっているという。
「もともと『けん玉教室』は、膝の曲げ伸ばしといったスクワット効果があることから、介護職員を対象に怪我の予防対策として取り入れたのですが、利用者や地域住民にも参加を呼びかけたところ、特養の利用者をはじめ、地域の親子連れやシルバーピアの入居者などの多世代の人たちが集まる活動になっています。子どもたちにも非常に人気があり、地域の集まりに呼ばれて指導することも始まっています」(鮎沢施設長)。
そのほかにも、地域に出向いた活動としては、マンションの集会所などのスペースを活用した「出張デイサービス」を実施し、地域住民に対して楽しみながら健康づくりをする大切さを伝えるとともに、施設への理解を深めることにつなげている。
人材が不足する介護スタッフの確保が課題
現在、介護スタッフや保育士が不足しているなか、複合施設の開設にあたっては多くの人材を集める必要があったが、とくに介護スタッフの確保は厳しい状況にあるという。介護スタッフの採用活動では、開設の計画段階からハローワークに頻繁に足を運んで相談を行ったほか、退職したスタッフにも声をかけたことで、目標とする40人を採用した。なかには、小学校跡地に開設したことで学校に思い入れのある卒業生からの応募もあったという。
一方、保育士については、新設に魅力を感じた保育士、都内に複数の保育所を運営していることによる法人内異動、法人全体で保育実習生を積極的に受け入れてきたこと等により、新人職員を含め確保することができた。
「当法人は保育の実習生を積極的に受け入れていますが、近年は保育士の資格をとっても他業界で働く人が少なくない状況にあります。そのためにも、実習の段階で保育士の仕事に魅力を感じてもらうことが、保育所の大事な役割になっていると実感しています。また、受け入れる側のスタッフにとっても、実習生を指導することで自分の保育を見直す機会になり、新たな発見につながりますので、互いに成長していける関係性をさらに深めていきたいと考えています」(村上園長)。
今後の展望について鮎沢施設長は、施設の運営を軌道に乗せるとともに、職員のキャリアパスの仕組みを構築していきたいとしている。
「運営を軌道に乗せるためには、まずは介護職員をしっかりと確保し、特養をフルオープンして稼働率を高めていく必要があります。これまで当法人はそれほど組織が大きくないという背景もあり、キャリアパスの仕組みが十分に整備されていない面がありましたが、職員が就職先を選ぶ際の基準として、自らの将来展望が描けるかどうかが非常に重要になっています。今回の大規模施設の開設をきっかけにキャリアパスを構築し、さまざまなかたちでコミュニケーションの場を設けることで、職員の働きがいにつながる、魅力ある職場をつくっていきたいと考えています」。
園児や利用者の相互交流とともに、積極的に地域交流を推進している同法人の取り組みが今後も注目される。
▲「赤羽北のぞみ保育園」園長の村上たか子氏(写真左)と「赤羽北さくら荘」職員の皆さん |
社会福祉法人東京都福祉事業協会 理事
特別養護老人ホーム赤羽北さくら荘 施設長
鮎沢 三男氏
平成29年4月に開設した複合施設では、利用者と園児の相互交流にとどまらず、設置した地域交流スペースを活用し、地域交流の拠点になることが期待されています。そのためにも、地域のニーズをしっかりと踏まえ、多様な人たちが利用できるサロンやイベントなどを企画し、地域住民がいつまでも地域のなかで安心して暮らし続けられることを支えていきたいと考えています。
今後も地域住民を巻き込んだ活動に取り組むとともに、地域の医療機関や介護・福祉の支援施設などと連携し、国の進める地域包括ケアシステムを、この地域のなかで構築することを目指したいと思います。
<< 施設概要 >>
理事長 | 田中 敏雄氏 | 施設開設 | 平成29年4月 |
赤羽北さくら荘 施設長 | 鮎沢 三男氏 | 定員 | 144人 |
赤羽北のぞみ保育園 園長 | 村上 たか子氏 | 定員 | 100人 |
職員数 | 650人(法人全体) | ||
法人施設 | 保育所7カ所/母子生活支援施設3カ所/特別養護老人ホーム2カ所/デイサービスセンター/学童クラブ | ||
住所 | 〒115−0052 東京都北区赤羽北3−6−10 | ||
TEL | 03−3900−3901 | FAX | 03−3900−3902 |
URL | http://www.tfjk.or.jp/ |
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