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東京都あきる野市・社会福祉法人和の会 あきる野こどもの家

保育人材の育成・定着の取り組みと地域子育て支援活動

 福祉医療機構では、地域の福祉医療基盤の整備を支援するため、有利な条件での融資を行っています。今回は、その融資制度を利用された東京都あきる野市にある「あきる野こどもの家」を取りあげます。同園は、保育人材の育成・定着に向けた職場づくりとともに、新設した「遊戯室・子育て支援室棟」を拠点に地域子育て支援活動に取り組んでいます。その取り組みついて取材しました。


モンテッソーリ教育を取り入れた保育を実践


 東京都あきる野市にある社会福祉法人和の会(理事長:今野和代氏)は、モンテッソーリ教育(※)を取り入れ、子どもの自主性や考える力を育むことのできる環境を整えながら、一人ひとりが健やかに育つための保育を実践している。
 法人の沿革としては、平成元年4月にモンテッソーリ教育を実践する無認可の保育室「昭島モンテッソーリこどもの家」を開園したことに始まる。さらなる保育の充実を図るため、平成14年4月に社会福祉法人を設立するとともに、認可保育所「あきる野こどもの家」を開設し、平成16年11月に分園を設置した。平成26年4月には東京都立川市から「見影橋保育園」(定員150人)の運営を受託し、現在2カ所の認可保育所を運営している。
 定員100人(分園40人を含む)の「あきる野こどもの家」は、JR五日市線秋川駅から徒歩5分に位置し、都内で働く保護者にとっても交通アクセスがよく、豊かな自然に恵まれた環境にある。園舎は地元の多摩産材を用いた木造平屋建てで、木の温もりを五感で感じることのできる空間であり、大人も子どもも安全に動きやすく、災害時にも強い設計となっている。

(※)イタリア人の女性医師マリア・モンテッソーリによって考案された教育法。それぞれの発達段階にある子どもを適切に援助し、「自立していて、有能で、責任感と他人への思いやりがあり、生涯学び続ける姿勢をもった人間に育てる」ことを目的とする。

子どもの自主性・考える力を育む環境づくり


 保育方針では、人格格形成の基礎となる0〜6歳までの時期を「わたしが一人でできるように手伝って」という子どもの声を大切に、環境を整えながら一人ひとりの子どもが健やかに育つための援助に取り組んでいる。
 同園の保育の特色について、園長の今野徹氏は次のように語る。
 「保育の特色としては、当法人が長年培ってきたモンテッソーリ教育を実践していることです。モンテッソーリの教材・教具をはじめ、子どもたちが興味や関心をもつ環境を用意し、子どもたち自身がやりたいことを考え、自由に活動していくことにより、自主性や考える力を育んでいます。このような子どもたちの活動を見守るため、保育士に対してはモンテッソーリ教師の資格取得に向けたサポートを積極的に行い、当園の保育士21人のうち16人が資格を取得しています。各クラスには最低でも2人以上の有資格者を配置しています。また、すべてのクラスを異年齢混合の縦割りクラスで編成し、『0〜1歳児』、『1〜2歳児』、『3〜5歳児』と大きく3グループに分けていることも特色となっています。核家族化や少子化が進行するなか、異年齢の関わりをつくりながら、兄弟・姉妹のような関係性で互いに学びあい、いたわりあうことを大切にしています」(以下、「 」内は今野園長の説明)。
 異年齢混合の縦割りクラスの編成は、同じ空間で発達段階の異なる子どもたちが一緒に生活をするため、できる・できないで分けるという考え方がなく、障害のある子どもがいるときにも、できない子どもを助けるということが当たり前の感覚となっており、インクルーシブな教育という面でも子どもたちの多様性の醸成につながっているという。


▲ 園内にはモンテッソーリ教育の教材や教具をはじめ、子どもたちの興味や関心を引き出す環境を用意 ▲▼ 「あきる野こどもの家」の保育室。多摩産材を用いた木の温もりが感じられる空間となっている

▲ 園庭につくった畑では子どもたちが野菜などを栽培している


地域子育て支援活動の拠点を開設


 さらに、同法人は令和2年4月に「あきる野こどもの家」から徒歩2分の場所に子どもたちの遊び場と、地域子育て支援活動の拠点として遊戯室・子育て支援室棟「Casa di tutti Akiruno」(カサ・ディ・トゥッティ・アキルノ)を開設した。
 建物の設計では、地域のランドマーク的な施設を目指し、木造建築にこだわりながら保育施設とは思えない洗練されたデザインが特徴となっている。
 「施設名はイタリア語で『みんなの家』という意味があり、地域の子どもから大人までが集まり、 交流することができる場所をつくりたいという想いから名付けました。施設内には、最大150人ま で収容可能なホールを設置し、園のイベントや子どもの遊び場として使用するとともに、地域住民に活用してもらうことを想定しました。そのほかにも職員の会議や研修などに使用するミーティングスペース、地域の親子が楽しめるブックカフェや子どもが使える高さに設計したキッチンを設けた地域の子育て支援スペースの3つの機能を備えています」。
なお、モンテッソーリ教育の国際資格を認定する国際モンテッソーリ協会の研修施設は日本で3カ所のみであるが、同施設はそのうちの1つにもなっている。


多様な地域子育て支援の取り組み


 地域子育て支援活動の取り組みとしては、「Casa di tutti Akiruno」を拠点に、さまざまな支援を実施している。
 活動内容は、子育て相談をはじめ、0歳児と母親、安定期に入った妊婦を対象に産前産後の身体ケアと母親同士のコミュニケーションを図ることを目的とした「ママとベビーのリラクゼーション&マタニティケア」、1〜2歳児と母親を対象にリトミックや園庭遊びなどを行う「ママと一緒に保育園体験」のプログラムを定期的に実施するとともに、子育て情報誌「サポートセンターなごみ」を発行している。
 さらに、子育てに関する講演会や、乳幼児への心臓マッサージや心肺蘇生などの指導を行う「乳幼児救急法講座」を開催するほか、「Casa di tutti Akiruno」のキッチンを活用し、親子で参加できる料理教室や子どもの食事に悩んでいる保護者を対象にした離乳食の試食会など、子育てに関するイベントや情報提供を行っているという。
そのほかにも地域に向けた取り組みとして、介護施設との交流活動を実施している。
「新型コロナウイルスの感染拡大前は、子どもたちが介護施設を訪問して歌を披露したり、季節ごとにさまざまなイベントを実施していました。感染拡大後は介護施設に訪問ができなくなった代わりに、ネット環境を整えた『Casa di tutti Akiruno』のホールに設置した大型スクリーンを活用し、介護施設の高齢者の様子を映しながら、リモートで開催することで交流活動を継続しています」。


▲ ブックカフェのスペースには、子どもが使える高さのキッチンを設け、親子で調理体験を行うことができる ▲ 令和2年4月に開設した遊戯室・子育て支援室棟「Casa di tutti Akiruno」

▲ 緑に囲まれた庭で遊ぶ子どもたちの様子 ▲ 施設内には、最大150人収容できるホールがあり、子どもの遊びやさまざま行事・イベントに活用


給与体系を見直し、職員の処遇を改善


 現在、保育士の人材確保は全国的に厳しい状況にあるが、同園では保育士や調理員などの職員は配置基準を上回る配置をしており、人員不足を感じていないという。
 「当法人が運営する2園とも配置基準より多くの職員を配置しているため、産休・育休に入る職員がいても対応できる体制をつくっています。もともと実践しているモンテッソーリ教育は、子どもたちが全員同じ活動するものではありません。一人ひとりがやりたい活動を見守るためにも、このような手厚い配置が必要となっています。また、職員の定着率も高く、保育士の平均勤続年数は14年と全国平均8.8年(※)を上回り、離職者が少なく長く働いてもらえることにより、若手とベテラン職員のバランスがよくなっています。その要因として、モンテッソーリ教育の研修など学び続けられる環境があり、キャリアパスが明確になっていることがあると思います」。
 正規職員の比率が86%と高いことも特徴であり、同園ではチーム保育を実践し、クラス担任は最低3人以上の複数担任制を導入している。保育所は開園時間が長いことから、子どもや保護者としっかり関わることができるようクラス担任はすべて正職員としているという。
 保育士の確保・定着に向けた処遇改善の取り組みでは、保育士の処遇改善が新しく始まったタイミングで給与体系の見直しを行った。全体的な基本給のベースアップを行いながら、若手から中堅までを手厚くし、ベテラン職員になると上り幅が緩やかになるように設定を変更したという。緩やかにした分は、賞与を年3回支給するほか、モンテッソーリ教師などの資格手当(月1万円)や早番・遅番手当など、各種手当をつけて職員のモチベーションと資質の向上を図っている。
 また、コロナ禍のなか、保育を行う職員に対しては、自治体の慰労金に法人の持ち出しを加えて支給しており、新型コロナウイルスの感染拡大を理由にした退職者は1人も出ていないという。
「保育人材の確保・定着に向けては、とくに若い職員に長く働いてもらえる職場環境が大事になります。子どもが好きだからという理由で働き始めても、現実は厳しかったり、心が折れて辞めてしまうという話も少なくありません。
そういう意味では、入職時のサポートとともに保育の仕事が楽しく思えるような教育をしていく必要があり、自分自身が成長していることを感じながら学び続けられる環境をつくることにより、学べば学ぶほど仕事が楽しくなっていくというよい循環を生むことが大切だと考えています」。

(※)…令和3年賃金構造基本統計調査
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2021/index.html


保育所のリソースを活かした子育て支援を構想


 今後の展望としては、あきる野市、立川市とも少子化により少しずつ幼児の人口が減少しているが、運営する2園では定員より多く受け入れている状況にあり、少子化に向けて認定こども園への移行を検討しているものの、利用する子どもが減少することはもう少し先になる見通しだという。
 「ただ、将来的には利用する子どもが減少していくなかで、職員や保育所の空いたスペースを地域の未就園児などの子育てサポートに活用していくことを構想しています。そのほかにも、地域の学童保育は利用する子どもたちが増え、学年も幅広くカオス状態となり待機児童も多くなっていることから、当園の卒園児を対象にした学童保育のようなサービスの実施も考えています。小学生が保育所に出入りすることは非常にメリットがあり、園で実践する縦割り保育よりも、さらに上のお兄さんやお姉さんとふれあうことができ、卒園後の子どもたちの様子をみられることは保育所側にとっても学びになり、双方のメリットにつながります。入園前と卒園後の子どもたちの子育て支援に焦点をあて、保育所のリソースを最大限活用していくことは、今後のテーマになると考えています」。
 保育人材の働く意欲につながる職場環境づくりとともに、多様な地域子育て支援活動を実施する同法人の今後の取り組みが注目される。


地域のよい循環をつくる存在を目指す
社会福祉法人和の会
あきる野こどもの家
園長 今野 徹氏
 保育所の運営は、地域にどれだけ密着できているかが大切となりますが、当園は卒園児との関わりが非常に強く、保護者を含め、小学校へ入学した子どもはもちろん、中・高・大学生になっても多くの卒園児たちが遊びに訪れてくれるなど、つながりが強いことが特徴となっています。地域とのつながりのなか、昨年は1 人の卒園児を保育士として採用することができました。開園から約20年が経過し、そのような循環が回り始めていることを実感しています。
 今後は、新設した遊戯室・子育て支援室棟を有効に活用しながら、さらに地域に根づいた活動に取り組むことにより、地域のなかでサステナブルなよい循環をつくっていく存在になることを目指していきたいと考えています。


<< 施設概要 >>令和4年3月現在
理事長 今野 和代 開設 平成14年4月
園長 今野 徹 職員数 37人
定員 100人(本園60人、分園40人)
法人施設 認可保育所「見影橋保育園」(定員150人)/遊戯室・子育て支援室棟「CasadituttiAkiruno」
住所 〒197−0804 東京都あきる野市秋川3−7−9
TEL 042−550−6245 FAX 042−550−6248
URL http://www.akiruno-ch.jp/


■ この記事は月刊誌「WAM」2022年5月号に掲載されたものを一部改変して掲載しています。
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