社会福祉法人からしだね
障害があっても自己選択・自己決定できる力、自立心を育む うめだ・あけぼの学園
※ モンテッソーリ教育… イタリアで初の女性医学博士となったマリア・モンテッソーリが創設した教育法。知的障害児の治療教育の成果を基礎として、幼児の心身の内部的な発達要求に応じつつ、適切な環境のなかで一人ひとりの子どもが独自の創造性と喜びに満ちた活動を展開できるように援助を行う。
※ この記事は月刊誌「WAM」平成26年10月号に掲載された記事を一部更新して掲載しています。
多職種による学際的なチームアプローチを実践
東京都足立区にある社会福祉法人からしだね「うめだ・あけぼの学園」は、発達障害乳幼児・リスク児の発達支援とその家族を支援することを目的に、昭和52年に設立された児童発達支援センターである。0歳からの超早期の発達支援を行うほか、医療スタッフを含めた多職種による学際的なチームアプローチを実践し、障害児支援のパイオニアとして、利用者・家族や福祉関係者から高い評価を受けていることで知られる。
▲ 社会福祉法人からしだね「うめだ・あけぼの学園」 |
障害のある子どもとその家族は、多様な発達ニーズを抱えている。適切に対応するためにはどんなに優秀なスタッフであったとしても、一個人一職種で完結することは難しいという。そのため、同園では医師、看護師をはじめ、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、社会福祉士、臨床心理士、臨床発達心理士、治療教育士、保育士、児童指導員、栄養士、調理師など、子どもの育ちについての知識・技術・情報・経験をもった専門職によるチームアプローチを実践し、タイムリーに対応することを大切にしている。また、子どもには複数のスタッフが関わるため、それぞれの発達状態にあわせた職種がキーパーソンとなっている。
多職種によるチームアプローチについて、うめだ・あけぼの学園園長の加藤正仁氏は、次のように語る。
「チームアプローチは言葉にすることは簡単ですが、実際に機能している機関はあまりないのが現実だと思います。職種間に優位性が生じることも理由の一つとなりますが、それぞれが専門性をもちながらも、それにこだわらずに、互いにないものを提供しあう関係が重要になります。当園では職種間やキャリアに上下関係があってはならないという考えから、トップダウンの指示系統ではなく、すべての職種の発言に同じ価値をもたせることを徹底しています。それぞれの職種による視点の違いなどに気づくということは、一人ひとりのスペシャリストとしての成長を促進させています」。
このような場面を日常的に確保することで、スタッフ同士が育ちあい、結果として質の高いサービスにもつながっているという。
▲ 職員室に多職種が一堂に会すことで、いつでもコミュニケーションや情報共有が可能となる。 |
親子同伴の個別的、集団的支援を実施
通所施設となる同園では、保護者も一緒に通園する「親子通園室」(定員44人)と、子どもだけを対象に集団支援を行う「毎日通園室」(定員70人)等があり、東京都内外から1日100人を超える児童が通園している。
「親子通園室」では、0歳から5歳児の発達支援を行っており、一人ひとりのニーズに対しタイムリーに対応できるよう、子どもとその家族の状態像と変化にあわせて、個別支援計画に基づき各種支援スタッフが個人的、集団的な支援形態でのチームアプローチを実践する。通常の保育所・幼稚園との併用通園も可能となっており、子どもの育ちの状況に応じて、週1日〜4日の頻度で利用されている。
▲ 「親子通園室」で使用する個別室。親子同伴の個別支援をすることで、家庭での支援につなげる。 |
本来、このような施設では3歳からの支援が一般的となるが、悩み苦しんでいる親子を早い段階から支援したいとの想いから、開園当初から0歳児の発達支援を始めたという。
親子同伴にすることで、保護者に子どもの状況をみてもらい、いま必要としていることや発達支援の知識や技術、考え方を伝え、家庭でどのように活かしていけばよいのかを理解してもらっている。
また、子どものさまざまな育ちの支援だけではなく、マイナス思考に陥ってしまいがちな保護者に対して、価値観の転換を促すといった家族支援も不可欠となる。とくに都会では核家族化が進んでいることから、孤立して引きこもってしまう母親は少なくないという。親子で通園することで、同じような状況にある家族との出会いをつくることも狙いとしており、実際に家族同士に仲間意識が生まれ、協力や助けあいにつながっていると、加藤園長は話す。
こどもの自発的な活動を育むモンテッソーリ教育
「毎日通園室」では、2〜5歳児が毎日通園し、子どもだけの集団支援と、親子と担任によるマンツーマンの個別指導を実施する。個別指導は週1回、集団支援の始まる1時間前に通園し、担任がその日のために作成したプログラムを実施するが、子どもの課題状況の把握や親が抱えている悩みの相談を受けるなど、親子と担任の密接なコミュニケーションを図る場となっている。
▲ 「毎日通園室」は、3つのグループをそれぞれ2つに分けた6クラスで編成。担任は保育士だけでなく、さまざまな職種が担当する。 |
「毎日通園室」の発達支援方法として、モンテッソーリ教育を基本におき、子ども同士で学びあいながら、自己選択・自己決定できる力、自立心を育むことを大切にしている。
モンテッソーリ教育は、一人ひとりの子どもがそれぞれ違った存在であることを認めあい、協力しあいながら生きていくことを目指すもので、「私がひとりでできるように手伝ってください」という子どもの欲求に応えるように援助することが土台となる。子どもの自発性・自主性が尊重され、子どもが扱いやすいサイズにした生活環境のなかで、活動の選択や遂行の自由が保障されているため、自分たちのペースで興味・関心のある活動に納得するまで取り組むことができる。子どもの自立を助けながら可能性を伸ばしていく教育となる。なお、現在では一般の幼児教育法や英才教育法として普及しているが、もともとは障害児の治療教育法として開発されたものだという。
互いを刺激し助けあうことを学べる環境
「モンテッソーリ教育では、クラスは異なる年齢の縦割り混合編成となります。同年齢で同じことを行うと、置き去りにされたりネガティブに目立ってしまう子どもが出てきてしまいますが、縦割りであれば異なる能力が当たり前の環境となるので、お互いを刺激しあい、助けあうことが自然に生まれています」(加藤園長)。
また、モンテッソーリ教育の特徴として感覚教育があり、各感覚を個別に訓練するためにつくられた感覚教具を用いる。感覚教具を使う活動を通して、抽象概念がよりたやすく、正確に捉えられるようにするとともに、各感覚の洗練、秩序感の形成、精神の集中をねらいとする。教具自体には使い方に誤りがあれば、気づきができるよう工夫されているため、子どもは自分で誤りに気づき、自己訂正・自己学習することができる。興味を誘発するためにモンテッソーリ教師の資格をもつスタッフがフォローしていくが、過剰に声掛けや手を貸すのではなく、自発的に挑戦して悩んでいるのか、本当に混乱してしまっているのかを冷静に見極めていくことが重要になるという。
▲ モンテッソーリ教育で使用する感覚教具。教具を使っての活動を通して各感覚の洗練、秩序感の形成、精神の集中ができるようになることをねらいにしている。 |
その一つの例として、同園では食事の配膳・盛り付けを、自発的に名乗り出た子どもが行っている。「食べる」という欲求は一番モチベーションのあがる場面であり、子どもの主体性や、やる気を育てる絶好のチャンスになるという。
「食事の配膳・盛り付けは、人数分の食器を数え、分量を計算して、運ぶという貴重な総合学習場面になります。学校や家庭では、危険であることを理由に大人がやってしまうことが多いのですが、その機会を奪うことになります。このような子どもたちは、チャンスを与えらずに『できない』と決めつけられ、それができないのは障害のせい、とされているのです。人というのは、自分が役に立っているという有用感を実感することが非常に大事ですが、障害のある子どもたちもそれを実感していくことで、失敗を恐れずさまざまなことに挑戦するようになり、それは意欲、やる気につながっていきます。彼らは有用感を持ちにくい環境に置かれてしまいがちなだけに、われわれが意識的にそのような場面を提供し、家庭でも実践してもらえるよう伝えていくことが大切だと考えています」(加藤園長)。
近隣の姉妹園と日常的なインテグレーションを実施
そのほかにも「毎日通園室」では、近隣にある姉妹園うめだ「子供の家」(私立保育園)と、日常的なインテグレーション(交流保育)を実施している。
インテグレーションでは、毎日通園室の子どもと担任が週1回、うめだ「子供の家」へ行き、両園の子どもが混合編成された姉妹クラスのなかで1日を過ごしている。発達に障害がある子どもと、ない子どもの出会いを確保し、ともに生活することはお互いの育ちに大きな意味を持つといわれているが、このような交流ができるのもモンテッソーリ教育を実践しているところが大きいという。
「うめだ『子供の家』は、モンテッソーリ教育を日本に導入した第1号の保育園になりますが、モンテッソーリ教育を受けている子どもたちは何の違和感もなく自然な接点をつくることができています。一般的にインテグレーションが実現できない理由として、保護者から『うちの子どもに影響があるのではないか』、『先生が障害のある子ばかりみて、うちの子をみてくれないのではないか』といったクレームや、職員の負担が大きいことがあげられます。偏見・差別というのは無知から生まれますので、うまく進めるためには、保護者との交流が最初で、次に職員同士、最後に子どもたちになります。インテグレーションを実施することで、子どもやスタッフにも関係の広がりがでていることを実感しています」(加藤園長)。
地域の関係機関への訪問支援を実施
また、加藤園長は施設だけでは、地域で暮らす親子が安心して子育てすることはできないという考えから、地域の子育てに関わる関係機関とネットワークを構築するとともに、同園のもつサービス機能を地域に出向いて提供している。
特別支援学校には年間3000 時間以上、職員を派遣して子どもたちのアセスメントを行い、教員が学習を進めるためのアドバイスをしている。そのほかにも保健所、保育所・幼稚園など、さまざまな地域の関係機関を訪問し、支援をしているという。
現在、通常学級には発達障害系の子どもが6.5%いるといわれている。保育所や幼稚園も同様であるが、現場の職員はこのような子どもたちに対して、どのように対応してよいのかわからないことも多い。そこに出向いていきアドバイスしていくが、同園の職員の80 人のうち、5分の1は常に地域の関係機関を訪問している。さらに、幼稚園・保育所の教諭や保育士を対象にした講演会や学習会なども定期的に開催している。
なお、平成24 年から児童福祉法の一部改正で「保育所等訪問支援事業」と「障害児相談支援事業」が制度化されているが、同園では以前から取り組んできたものだという。
「相談支援事業のニーズは拡大の一途ですが、なかなか採算があわないため、どこもあまりやりたがらないのが現状です。そのため当園は4人の社会福祉士を配置していますが、常にパンク状態です。地域のなかで安心して子育てしていくためには、気楽にいつでも相談できる場所があることが前提になりますので、これは続けていかなくてはならないと考えています」(加藤園長)。
発達に障害のある子どもと家族に対して先駆的な支援を続ける、同園の取り組みが今後も注目される。
▲ 1 階にある多目的ホールは、保護者・地域の関係者に向けた講演会の開催など、さまざまなイベントに使用 | ▲ 各分野の専門書を揃えた図書室は、スタッフだけでなく保護者にも開放している |
社会福祉法人からしだね うめだ・あけぼの学園 園長 加藤 正仁氏
当園では、多職種によるチームアプローチを実践していますが、さまざまな専門職の発言には同じ価値をもたせて、互いの役割を担いながら機能する体制がとられています。職種の壁を越えて議論し、少し視点を変えることで違う評価やアプローチが出てきたりするわけです。自分の専門性の狭さやアプローチの不十分さなど、いろいろな違いに気づくということが、結果として職員の資質の向上につながると確信しています。
人材確保ということは非常に大きなテーマとなりますが、困難を抱えた親子のニーズというのは本当に多様・多彩なので、外部からフィットする人材を確保することは不可能に近いです。当園では多職種がいることから、いろいろな情報ルートを利用したり、内部研修を実施していますが、ポテンシャルをもった人を採用して、いかに効率的に養成していくかが重要だと考えています。
<< 法人概要 >>
法人名 | 社会福祉法人からしだね | ||
理事長 | 春見 静子 氏 | 園長 | 加藤 正仁 氏 |
法人施設 | うめだ「子供の家」(私立保育園)、足立区立青井保育園(指定管理受託) | ||
施設開園 | 昭和52年 | 職員数 | 80人(常勤・非常勤を含む) |
定員 | 毎日通園室70人、親子通園室44人、放課後等デイサービス10人、月2療育6人 | ||
電話 | 03−3848−1190 | FAX | 03−3848−1191 |
URL | http://umeda-akebono.or.jp/ |
※ この記事は月刊誌「WAM」平成26年10月号に掲載された記事を一部更新して掲載しています。
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