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高齢・介護

社会福祉法人アルペン会 あしたねの森

子どもと高齢者がともに支えあえる環境づくりと、自立支援に取り組む

平成26 年4 月に社会福祉法人アルペン会が開設した「あしたねの森」は、高齢者施設や保育所、障害者施設等を併設し、日常的な多世代交流を進めるとともに、高齢者や子どもの自立支援に向けた取り組みを実践している。その内容を取材した。

※ この記事は月刊誌「WAM」平成27年12月号に掲載されたものを一部変更して掲載しています。

総合的な福祉・医療サービスを提供


 少子高齢化が進行し、地域のなかで多世代による支えあいが不可欠なものになっている。このようななか、富山市にある社会福祉法人アルペン会は、高齢者施設や保育所、障害者施設等を併設した複合施設「あしたねの森」を開設し、日常的な多世代交流を実践している。
 同施設を運営する社会福祉法人アルペン会は、「感謝・謙虚・思いやり」を理念に掲げ、平成6年に設立された。開設施設は特別養護老人ホームをはじめ、ケアハウス、通所介護・訪問介護事業所、居宅介護支援事業所、地域包括支援センター等を展開。グループ法人の医療法人社団アルペン会が運営するリハビリテーション病院(60床)、診療所、訪問看護・訪問介護事業所、通所リハビリテーションとの連携により、治療からリハビリ、介護までの総合的な医療・福祉サービスを提供してきた法人である。
 「あしたねの森」を開設した経緯について、同法人常務理事の室谷ゆかり氏は、次のように語る。
 「富山市の現在の高齢化率は29・7%と、全国平均に比べてやや高い程度ですが、2025年には人口の50%が60歳以上になると推計されています。当初、市の公募内容は特養のみを20床増床したいというものでしたが、これに対し、異なる世代同士が自立し、支えあう『自立自助』の社会をつくっていきたいと考えたことが複合施設開設のきっかけとなりました。高齢者施設と保育所を併設し、多世代交流に取り組むとともに、次世代を担う子どもたちを育成しています」。
 なお、保育所(※)は、同法人が運営する特養に設置していた事業所内保育所を移転し、認可保育所として開設している(WAM福祉貸付事業利用)。

 ▲ 「あしたねの森」の外観
(※)平成28年4月から「幼保連携型認定こども園」に移行し、120名の定員を135名に増員している。

多世代交流や関わりを通じて、支えあいの仕組みをつくる


 平成26年4月に開設した「あしたねの森」は、「笑いあい・学びあい・支えあう」をコンセプトに世代間の交流や関わりを通じて、支えあいの仕組みをつくることを目標に掲げる。約6000uの敷地内に特養、デイサービス、保育所を併設し、今年4月には学童保育と放課後等デイサービスを新たに開設している。
 多世代交流を意識した施設設計の工夫として、高齢者施設と保育所は園庭を囲むようにL字型で向かいあって建てられている。施設間は渡り廊下でつながっており、デイサービスの利用者が歩行訓練をかねて保育所に見学にいくなど、双方が行き来する光景が日常となっている。また、特養とデイサービスが入る2階建ての高齢者施設内には広い中庭を設置し、利用者が園芸を楽しんだり、子どもの遊びの場として活用されるなど自然と会話が生まれる環境をつくった。

 ▲ 園庭に接する高齢者施設では、常に子どもたちの元気な声が聞こえてくる  ▲ 子どもと高齢者が一緒に散歩に出かけることが日常化している

各事業所では高齢者と子どもの自立支援に取り組む


 「あしたねの森」の各事業所は、高齢者や子どもを含め、自立支援に向けた取り組みを実践している。定員50人のデイサービスでは、社会福祉法人夢のみずうみ村(山口市)の取り組みで知られる「自己選択・自己決定方式」を採用する。利用者本人が目標に応じて、頭や身体のリハビリのほか、陶芸、料理教室など120種類以上の多彩なプログラムのなかから自分のやりたいメニューを選択できることで、意欲的にリハビリに取り組むことにつなげている。園庭に面したリハビリスペースには大きな窓を設け、子どもたちが元気に走り回る姿を眺めながらリハビリに励むこともできる。


 ▲ デイサービスの料理教室の様子

 保育所は、木造平屋建てで広々した設計が特徴となっている。
 「北陸は降雪量が多く、冬場は園庭が使えないこともあります。そのため、室内でも年中活動ができるように遊戯室を設置したほか、子どもたちが走り回れるように廊下は直線で30m、最大幅6mと広々とした設計にしています。保育所には高齢者が出入りすることも多いのですが、このように広いスペースを確保することで安全性も保たれています」と、同法人・法人本部次長の佐治直氏は説明する。


 ▲ 広々とした設計の保育所(廊下)

 さらに、保育所では自立を促す教育法として「ヨコミネ式教育法」を導入している。子どもが本来もっている無限の可能性を引き出す教育法として知られており、「読み・書き・計算・体操・音楽」を通じて、「学ぶ力」・「体の力」・「心の力」の3つの力を養うことで、自ら意欲的に課題を解決できる子どもに育つという。


 ▲ 保育所では「読み・書き・計算・体操・音楽・英語」などを通じて、意欲的で自立した子どもの育成を目指している

 3歳児から授業形式による英語の勉強を行うほか、体操では年長の子どもたちの真似をして自然と頑張る力が芽生えることで、卒園まですべての子どもが逆立ちをできるようになるなど、自信をもって小学校に入学することができるという。
 また、平成27年4月に開設した学童保育(定員60人)は、ただ子どもを預かるだけでなく、本人のレベルに応じた教材を用意し、学習にも力を入れている。そのほかにも、人の役に立つという体験をしてもらいたいという考えから、ボランティア活動として特養やデイサービスの清掃を日課としている。


子どもの育ちをさまざまな視点から見守る


 発達障害や知的障害の子どもの療育の場となる放課後等デイサービス(定員10人)は、富山県では比較的軽度から重度までの子どもが一緒に活動することが多いなか、曜日ごとに発達程度にあわせた必要な支援を提供し、学童保育と同様にボランティア活動も行っている。
 学童保育・放課後等デイサービスを担当する大島明子氏は、「障害がある子どもたちは、支援を受けるだけの存在になりがちですが、高齢者に『ありがとう』といってもらえる体験ができることは『あしたねの森』ならではのことだと思っています。また、保育所や学童保育の利用児童のなかにも、発達障害の疑いのある子どもがいるのですが、軽度の発達障害に対しては早期に療育することが何よりも重要になります。そのようなケースでは放課後等デイサービスの専門職が様子を見にいき、早期のフォローにつなげることも可能になっています」と語る。
 複合施設となる「あしたねの森」では、多職種が揃うことでさまざまな視点から子どもの育ちを見守ることができることが大きなメリットとなっている。また、保育所や学童保育ではスタッフの子どもを多く預かっており、スタッフが安心して働くことができるとともに、働く姿をみた子どもたちが親に対して尊敬の念を抱くことにもつながっているという。


利用者による手話教室を定期開催


 多世代交流の取り組みでは、慰問など一過性で終わってしまう交流ではなく、日常的な関わりを大切にしている。交流を企画するために、各事業所のスタッフが集まるミーティングを毎週開催し、アイデアを出しあっている。
 取り組みの一つとして、高齢者と子どもが一緒に散歩することを日常的に行っている。スタッフがサポートしながら、高齢者が子どもを乗せた散歩カートを歩行器代わりにして歩いたり、子どもが車いすを押す体験をしている。「子どもが一緒なら散歩にいく」といった外出の動機づけにもなっており、近隣の神社に散歩に出かけた際には、認知症の高齢者が子どもたちに参拝の作法を教えることができた例もあるという。
 そのほかにも、保育所では4・5歳児に対して手話教室を開催しており、デイサービスの利用者が講師を務めている。「手話のできる利用者さんから、子どもたちに何か伝えることがしたいという要望があったことから始めました。子どもたちに好評だったため毎週開催しているのですが、毎回たくさんの利用者さんも参加しています。講師役の方は学校の先生になることが夢だったそうなのですが『90歳にして夢がかなった』と、新たな生きがいにつながっています」(佐治次長)。


 ▲ 保育所で開催する手話教室。講師を務める利用者の生きがいにもつながっている

 また、夏場には高齢者施設の中庭を活用した交流として、ラジオ体操を実施する。中庭で行うことで移動が困難な入所者でも窓際まできて室内で参加することが可能なほか、ラジオ体操はほとんどの高齢者が覚えているため、子どもに体操を教えてもらうねらいもあるという。
 さらに地域住民を交えた交流として、地域のサークルを招いたフラダンス教室を月2回開催。子どもと高齢者が参加しており、最高齢となる103歳の利用者と3歳児が一緒になって習う姿をみることができる。そのほかにも、ボランティアとしてデイサービスの手芸や絵手紙教室の講師など、施設に来所する人が増えており、地域との交流が少しずつ始まっている。


 ▲ 地域のサークルによるフラダンス教室を月2回開催

 多世代交流を積極的に行うことで、高齢者は活動を心待ちにしており、いつまでも元気でいたいという気持ちにつながっているという。「あしたねの森」では、高齢者は子どもから元気と意欲をもらい、子どもは高齢者から知識や経験を教わるという、かつての地域社会では当たり前だった多世代による支えあいが生まれている。


地域の学校と連携協力し、人的交流を図る


 また、保育士や介護スタッフの人材確保が困難な状況にあるなか、同法人は今年4月に富山福祉短期大学と相互の人的交流を図ることを目的に連携協力協定を結んでいる。
 「介護・保育の現場は今後さらに人材が不足していくことが見込まれますが、福祉の仕事に興味がある人に魅力をアピールしていくため、地域にある短期大学と連携協力協定を結びました。人材の獲得だけでなく、卒業して入職後に育成するのでは間に合わないという実情から、気軽に見学や研修できる場を提供していくことで、学生のうちから現場で必要なことを伝えて、早期にスキルを習得してもらうことを目指しています」(室谷常務理事)。
 世代間の交流や関わりを通じて、支えあいの仕組みをつくることを目指す、同法人の取り組みが今後も注目される。


地域住民が集まる福祉の拠点に  社会福祉法人アルペン会
あしたねの森 事務局法人本部次長 佐治 直氏

 「あしたねの森」は、「笑いあい・学びあい・支えあう」をコンセプトに多世代交流に取り組んできましたが、初めからすべてがうまくいったわけではありません。スタッフにしてみれば、交流を通常業務のプラスアルファの業務と捉えることで負担に感じてしまうことが理由ですが、交流をしっかりと日常化することで子どもが楽しそうにしていたり、高齢者の気性が穏やかになることで、スタッフは自分たちの取り組みにやりがいを感じてくれるようになります。
 当施設は子どもたちが自然と明るく楽しい雰囲気をつくってくれるのですが、今後は地域住民が集まる福祉の拠点として、この地域を明るくしていければと考えています。


地域の力となる子どもを育てる  社会福祉法人アルペン会
常務理事 室谷 ゆかり氏

 当法人は、デイサービスでは“夢のみずうみ村方式”や、保育では“ヨコミネ式教育法”を導入していますが、最終的に利用者さんや子どもたちにとって、どうすれば今よりもよくなるかという視点が重要なので、よい取り組みがあれば、すぐに取り入れていくことを大切にしています。当法人と同規模の法人は全国にたくさんあるわけですが、私たちが実践して成果をあげることで、取り組みをさらに広げていくことも大きな役割だと思っています。
 また、多世代交流や“ヨコミネ式教育法”を通じて、子どもたちは感情豊かに、弱い子をみんなで守るやさしい子どもに育つので、保護者の方からも非常に喜ばれています。このような子どもたちをたくさん育成していくことが、いずれ地域の力になっていくと考えています。

<< 法人概要 >>
法人名 社会福祉法人アルペン会 理事長 室谷 民子 氏
施設開設 平成26年4月 職員数 71 人(平成27年9月現在)
併設施設 地域密着型特別養護老人ホーム(定員29 人、ショートステイ10 人)/
デイサービス(定員50人)/幼保連携型認定こども園(定員135人)/学童保育(定員60 人)/
放課後等デイサービス(定員10 人)
法人施設 特別養護老人ホーム/デイサービス/居宅介護支援事業所/訪問介護事業所/
ケアハウス/地域包括支援センター
電話 076-442-9001 FAX 076-442-9008
URL http://www.ashitanenomori.jp/


■ この記事は月刊誌「WAM」平成27年12月号に掲載されたものを一部変更して掲載しています。
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