サービス取組み事例紹介
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▲ 施設の外観 |
富山市にある社会福祉法人おおさわの福祉会は、「私たちは、皆さまが安心して幸せな生活を、住み慣れた地域で営んでいただくために貢献していきます」という法人理念のもと、地域に根ざした介護サービスを提供している。
同法人の設立経緯は、平成5年に「大沢野地域福祉計画」が策定された当時、地域には特別養護老人ホームが1カ所もなく、町長の要請により地元開業医が中心となり、平成10年に社会福祉法人を設立し、特別養護老人ホームささづ苑を開設したことに始まる。
その後、デイサービスセンター、居宅介護支援事業所、地域包括支援センターなどを運営し、平成29年には富山市の公募事業の採択を受け、地域密着型特別養護老人ホームささづ苑かすがを開設している。
さらに、同法人は令和6年4月に地域の医療法人が運営する介護老人保健施設、グループホーム、小規模多機能型居宅介護、デイサービスセンターの事業譲渡を受け、事業規模を拡大させるとともに、現在の法人名(旧法人名:宣長康久会)に改称している。
事業譲渡の経緯について、理事長の岩井広行氏は次のように説明する。
「事業譲渡を行った医療法人は、当法人と同様に大沢野地域で医療・介護事業を展開していましたが、令和5年6月に『運営する介護事業所4カ所を受け入れてほしい』という申し出があり、地域の利用者の生活を守るために受け入れました。事業譲渡に伴い、事業所数は7事業所から11事業所、職員数は130人から250人に拡大しています。また、法人名を変更した理由としては、地域における介護事業を統合するという意味で地域名を入れるとともに、事業譲渡した法人職員や利用者のマイナスイメージを払拭したいという想いがありました」(以下「 」内は岩井理事長の説明)。
平成29年に開設した地域密着型特養「ささづ苑かすが」の入所定員は29人で、全室個室のユニット型特養となっている。建物は省エネルギー性の高い先進的な施設として、平成28年度に経済産業省のZEB実証事業で採択されている。
ZEBは、Net Zero EnergyBuilding(ネット・ゼロ・エネルギー・ビルディング)の略称で、太陽光発電や自然エネルギー活用、高断熱、高効率換気を行う空調設備、エネルギーマネジメントシステムなど、省エネルギー技術と再生可能エネルギーを組み合わせることにより、建物で消費する年間のエネルギーをおおむねゼロにすることを目指した建物を指している。
ZEB実証事業の採択を受けると、省エネルギーに関する設備費の3分の2を補助金として受けることができ、同施設は最先端の省エネルギー技術の活用により、施設全体の光熱費は一般的な福祉施設と比較して約6割の削減を実現しているという。
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▲▼ 各ユニットに設置した個室と共有スペース | ▲ ささづ苑かすがの受付。地域包括支援センター、居宅介護支援事業所の窓口を併設 |
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▲ 最先端の省エネルギー技術の活用により、光熱費は一般的な福祉施設と比較して約6 割の削減を実現している |
さらに、同施設ではICT・介護ロボットを積極的に導入することにより、利用者のケアの質向上とともに、スタッフの定着促進に取り組んでいる。
「ICT・介護ロボットを導入したきっかけとしては、当施設は山間部に立地していることもあり、開設時にスタッフを募集しても人が集まらないという経験をしました。介護現場で人材不足が慢性化するなか、利用者だけでなく、就職希望者から選ばれる魅力ある職場をつくることを目指し、@福祉機器・介護ロボット活用による腰痛予防対策、ADX・ICT推進による現場の生産性向上、B法人ブランドアップのためのチャレンジ、C積極的な外部への情報発信の4つを方針に掲げ、他施設との差別化を図っています」。
ICT・介護ロボットの導入の流れとしては、令和2年度の事業計画で5S(整理、整頓、清掃、清潔、習慣)の推進と、3M(ムリ、ムダ、ムラ)の削減を打ち出し、1年間の活動のなかでスタッフ全員で介護現場の課題を抽出。令和3年4月に「ICT推進委員会」を設置し、不要な業務を削減するとともに、ICT・介護ロボットの導入によりケアの質の向上と業務の効率化に取り組んだ。
介護業務の生産性向上では、骨伝導インカムや音声で介護記録が入力できる「CareWiz ハナスト」(株式会社エクサウィザーズ)、介護ソフトの「CAREKARTE(ケアカルテ)」(株式会社ケアコネクトジャパン)を導入している。
骨伝導インカムは、複数職員間での同時通話や録音機能を備え、「ハナスト」と「ケアカルテ」と連動することにより、利用者の見守りやケアを行いながら、音声入力で介護記録を作成することが可能となっている。
音声と文字で記録が残るため、申し送りとしても活用することができるという。
「骨伝導インカムと音声入力システムを導入した効果として、標準勤務時間当たりの介護記録に要した時間が導入前の33分から17分に大幅に短縮しました。その一方で、記録した情報量は2倍となり、効率化と記録の充実化によりケアの質を高めることにつながっています。この機器を導入しておもしろいと思ったのは、一般的にICT導入に抵抗感がある年配スタッフが多いなか、パソコンのキーボード入力が負担になってきた50〜60歳代のスタッフが推進役になってくれたということです。外国人介護人材が増えているなか、外国人の多い施設ほど音声入力は有効だと感じています」。
そのほかにも、さまざまなアプリケーションで作成されたデータ、FAX、スキャン文書を一元化管理する「DocuWorks(ドキュワークス)」(富士フイルムビジネスイノベーション)や勤務表作成ソフトを導入し、業務の効率化やペーパーレス化を実現。複合機で使用する出力用紙は月3,500枚、FAX送受信用紙は月795枚の削減につながっているという。
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▲▼ 職員の腰痛予防対策として移動式スタンディングリフト(写真上)、移乗サポートロボット「Hug」(写真下)を導入 | ▲ 骨伝導インカムを使用し、音声入力で介護記録を作成する様子。業務の効率化により利用者への直接介助に充てる時間が増加 |
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▲ 勤務表作成ソフトの導入により、作成時間が大幅に削減するとともに、職員は各自のスマホで確認できるため、ペーパーレス化にもつながっている |
ICTを活用したケアの取り組みでは、入居者の睡眠状態を把握し、生活リズム改善につなげる、見守り支援システム「眠りSCAN」(パラマウントベッド株式会社)を導入している。
「眠りSCAN」は、マットレスの下に設置したセンサーにより、睡眠時の呼吸、心拍、寝返りなどを測定し、睡眠状態のデータをリアルタイムで確認することができ、データを分析することで質の高い睡眠の提供や入居者の生活習慣の改善につなげることが可能となっている。
「『眠りSCAN』を活用した支援事例として、ある男性入居者(92歳、要介護5)は、昼夜逆転の傾向があり、1日の睡眠時間は平均1時間59分、夜間の中途覚醒は6時間以上、15回以上が医療機関受診の目安となる周期性体動指数は241回と多い状況でした。入居者の生活習慣を改善するため、スタッフは2カ月間かけて、日中の離床を促すとともに、ご本人の気分にあわせた活動を行い、離床時間を増やすことに取り組みました。その結果、睡眠時間は平均7時間3分に延伸し、中途覚醒は約4時間、周期性体動指数は52回に減少しました。入居者は日中の活動量が大幅に増え、車いすで他ユニットまで自走したり、介護体操などにも意欲的に参加するなど、意思表示をする場面が多くなり、何よりも表情が豊かになるという効果がみられました」。
「眠りSCAN」は、インカム、音声入力システムとも連動しているため、これまで入居者が離床すると、タブレットやパソコンに情報が入っていたが、現在は端末を確認しなくてもインカムに音声で情報が入り、すぐに駆けつける必要性を判断して対応することができ、スタッフの負担軽減にもつながっているという。
さらに、職員の腰痛予防対策としては、移乗サポートロボット「Hug」(株式会社FUJI)と、移動式スタンディングリフトを導入し、移乗による身体的な負担軽減を図っている。「Hug」は、ベッドから車いすの移乗、座位間移動、立位保持をサポートする機種で、吊り上げ式のリフトとは異なり、利用者の脚力を活用した移乗介助が可能となっている。これらの機器の導入後、腰痛を理由とした離職者は1人も出ていないという。
「介護業務の効率化により、短縮した時間は食事や排せつなどの直接介助や個別ケア、入居者とのコミュニケーションに充てられるため、ケアの質を高めることにつながっています。ICT・介護ロボットを導入する際のポイントとしては、経営層が導入する機種やシステムを選定し、職員に使用を促すのでは浸透しません。まずは現場の課題を職員と共有することから始め、課題の改善を図る機種・システムを職員と一緒に選定していくことが重要だと考えています」。
同施設は、職場環境の改善とともに、ICT・介護ロボットを活用した業務の効率化を実現していることが評価され、令和5年度「介護職員の働きやすい職場環境づくり内閣総理大臣表彰」を受賞している。
さらに、就職希望者に選ばれる魅力ある職場づくりに取り組むことにより、介護スタッフは正規職員、パート職員ともに安定して確保することができているという。
「とくに新卒の採用につながっており、令和3年度は8人、4年度は7人の新卒者を採用しています。応募した動機を聞くと『同じ介護の仕事をするのであれば、最先端の現場で働きたい』という声が多く、他施設との差別化により、たとえ通勤時間が多少かかっても関係ないと考えるスタッフが多い傾向があります」。
ICT・介護ロボットを活用するなど、魅力ある職場づくりを推進する同施設の今後の取り組みが注目される。
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▲ カフェスペースを設けた地域交流ホール。地域住民への無償開放を行っている | ▲ 図書スペースでは、入居者は中庭を眺めながら読書を楽しむことができる |
理事長 | 岩井 広行 | 開設 | 平成29年8月 |
併設施設 | 居宅介護支援事業所、地域包括支援センター | ||
法人施設 | 特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、グループホーム、小規模多機能型居宅介護、デイサービスセンター2カ所 | ||
住所 | 〒939−2226 富山市下夕林237 | ||
TEL | 076−468−1000 | FAX | 076−468−3001 |
URL | https://osawano.com |