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愛知県碧南市・社会福祉法人愛生館 複合施設CORRIN

「0歳から100歳まで、誰もが住みやすい街」を目指した複合施設を開設

 福祉医療機構では、地域の福祉医療基盤の整備を支援するため、有利な条件での融資を行っています。今回は、その融資制度を利用された愛知県碧南市にある複合施設「CORRIN」を取りあげます。同施設は、認定こども園、高齢者デイサービス、児童発達支援事業所、放課後等デイサービスを併設し、多世代交流や地域コミュニティの拠点となることを目指しています。施設概要や実践する取り組みについて取材しました。


地域に密着した医療・介護・福祉事業を展開


 愛知県碧南市にある社会福祉法人愛生館は、医療法人、社会福祉法人、株式会社で構成する愛生館グループ(代表:小林清彦氏)に属している。同グループは「人々の人生をより豊かにします」という使命のもと、地域に密着した医療・介護・福祉事業を展開しており、医療法人としては小林記念病院(196床)をはじめ、介護老人保健施設、訪問看護ステーション、デイケアセンターなどを運営している。
 平成22年に設立した社会福祉法人愛生館は、碧南市から養護老人ホームの移管を受け、運営を開始したことに始まり、碧南市と安城市において特別養護老人ホーム、小規模多機能ホーム、デイサービスセンター、ヘルパーステーションなどを運営している。
 同法人は、令和4年4月に認定こども園、高齢者デイサービス、児童発達支援事業所、放課後等デイサービスのほか、地域交流サロンを併設した複合施設「CORRIN」を開設した。
 「CORRIN」を開設した経緯について、複合施設部部長の岩田康和氏は次のように語る。
 「当法人が拠点とする碧南市は、高齢化率は全国平均より比較的低く、周辺には大企業が点在していることもあり、住みやすい地域として県内外から転居してくる人や子育て世帯が多く、今後もそれほど人口が減少しないことが推計されています。その一方で、地域のつながりが希薄化しつつあり、今後はさらに地域課題となるという問題意識がありました。そのため、法人はこれまで担ってきた高齢者介護にとどまらず、『地域で生活している子どもから高齢者まで安心して暮らせる地域づくり』の推進を目指しており、複合施設の開設により地域のつながりを再構築したいという想いがありました」(以下、「 」内は岩田氏の説明)。
 認定こども園、児童発達支援事業所、放課後等デイサービスは、法人としては新規事業となったが、子どもから高齢者、障害をもつ人が年齢や性別に関係なく、同じ空間に集まり、交流することは子どもたちにとって人間形成の一助となり、働く職員にとっても単体施設では経験できない体験やスキルを身につけるという狙いがあったという。


地域共生社会の実現に向けたコミュニティづくり


 複合施設「CORRIN」の敷地面積は約8000uで、グループ法人が福祉拠点「ひまわり村」として整備する特養や老健、養護老人ホームに隣接する広大な敷地内に開設した。
 施設のコンセプトとして「0歳から100歳まで、誰もが住みやすい街」を掲げ、利用者だけでなく、地域住民の交流の場として活用してもらうことで地域共生社会の実現に向けたコミュニティづくりに取り組んでいる。
 定員125人の認定こども園「こども園ひまわり」は、天然木をふんだんに用いた暖かみのある空間で、災害にも強い設計となっている。
 「実践する保育の特色として、豊かな自然があるなか、子どもたちがいろいろな発見をしながら遊び、学ぶことのできる環境を提供し、子どもたち自身がやりたいことを考え、自由に活動していくことにより、自主性や成長を育んでいくことを大切にしています。全面芝の園庭は、面積基準の2倍以上の広さがあり、子どもたちは裸足で走り回ることができる環境があります。園庭には果樹園や畑をつくり、子どもたちが土に触れながら作物の栽培や収穫、調理を行う食育体験に活用しています」。
 また、保育室は、室内でも身体をしっかりと動かして遊べるよう通常より広い空間をつくり、遊戯室は仕切り戸で区切られた倉庫と会議室をつなぐことで、イベント等では最大170人まで収容可能となっている。
 施設設計の特色として、子どもたちの好奇心や創造力を育むため、園内の至るところにすべり台や子どもたちの隠れ家となる場所などを設置し、施設全体が遊び場となるような仕掛けを施した。また、食育の一環として調理室の前には「くいしんぼデッキ」を設け、子どもたちが調理作業をみることのできる設計とした。
 「調理作業を見ることのできる保育施設は少なくありませんが、どうしても子どもの目線の高さでは手元まで見ることができません。そのため、隠れ家のスペースに1段高くなったデッキをつくり、そこから調理室を見下ろせるようにしました。調理作業をみることを楽しみに毎回多くの子どもが集まります」。


▲ 木の暖かみが感じられる認定こども園のエントランス ▲ 広々とした保育室は、壁が少なく子どもたちを見守りやすい環境となっている
▲ 園内の至る所に、子どもの遊び場や隠れ家となる仕掛けを設け、子どもたちの好奇心や想像力を育んでいる
▲ 調理室の前には、1 段高くなった「くいしんぼデッキ」を設置することで、子どもたちは調理作業の手元までみることができる

業務の効率化により子どもに接する時間が増加


 さらに、同園ではICTを活用した業務の効率化により、保育スタッフの負担軽減に取り組んでいる。
 「具体的には、『CoDMON(コドモン)』という保育施設向けの業務支援システムを導入し、登降園管理や出席簿、保育計画の作成、保護者通知を効率化・自動化するとともに、保護者アプリで欠席や緊急時の連絡などが確実かつスムーズに行うことができています。これまで連絡帳に手書きしていたことを端末で打ち込め、その日の子どもの様子を撮った写真や動画を保護者に送ることもできます。そのほかにも、お昼寝の時間に午睡事故を防止するため、センサーで呼吸状態や身体の向きなどを感知する見守りシステムを導入し、保育士の見守りの補助として活用しています。業務負担の軽減により、職員に心のゆとりが生まれるとともに、子どもと接する時間が増えることで保育の質を高めることにつながっています」。


「生涯現役」をコンセプトに自分の役割をもつ


 定員30人の高齢者デイサービス「碧カレッジ」は、「生涯現役」をコンセプトに、いくつになっても学び楽しめる場所を目指している。
 利用者は、その日に自分がしたいこと、過ごし方を自己決定できることにより、やりがいや生きがいをもつことにつなげている。
 活動では、園芸や裁縫、書道、創作活動などの趣味活動のほか、大型スクリーンにつないでカラオケやeスポーツ、将棋のオンライン対局などに活用しており、利用者からも好評だという。
 趣味活動だけでなく、利用者が得意なことや、これまで培ってきた経験を活かし、さまざまな教室の講師を務めたり、こども園の子どもたちの見守りを手伝い、経験してきたことを伝えることで、自分の役割をもってもらうことに取り組んでいる。
 多世代交流に向けた環境づくりとして、高齢者デイサービスとこども園は、建物内の中央に設けたウッドデッキテラスを挟んで併設しており、窓ガラス越しに互いの活動が見えることで刺激を受けたり、自由に行き来して交流を図ることが可能となっている。
 「利用者同士の交流では、高齢者が行う創作活動に興味をもった子どもが作り方を教えてもらったり、ウッドデッキテラスや園庭にある畑で子どもと高齢者が一緒に菜園活動を行っています。そのほかにも、こども園には、縁側をイメージした畳の絵本コーナーを設置していますが、そこで高齢者が子どもに絵本の読み聞かせをしていることも日常的な光景となっており、自然なかたちで多世代交流が行われています」。


▲ 高齢者デイサービスは、学校の教室をイメージした活動スペースで趣味活動や制作活動に取り組んでいる ▲ こども園と高齢者デイの入る建物の中央に設置したウッドデッキテラス。子どもと高齢者が一緒に菜園活動をするなど多世代交流の場として活用

連続性のある療育を提供


 発達障害のある未就学児を対象にした児童発達支援事業所「さんさん」(定員10人)は、こども園の園庭や畑、遊戯室、高齢者デイサービスなど、施設全体を使った楽しく、のびのびとした療育を実践している。
 「さんさん」の卒業後は、併設する放課後等デイサービス「たいよう」で顔なじみのスタッフが引き続き支援をすることで連続性のある療育が可能となっている。また、複合施設での保育と療育の有効的併用として、こども園に通園している子どもに対しても、集団性と個別性を兼ね備えた保育と療育を必要に応じて提供することで豊かな成長につなげている。
 放課後等デイサービスでは、個別療育や集団療育などのさまざまなプログラムを実践するとともに、地域交流の機会を提供することで社会性を身につけることに力を入れている。
 「放課後等デイは、学習や運動、創作活動などに特化したものがありますが、子どもが成長していく段階で基本的な挨拶やコミュニケーション力などの社会性を身につけなくては、社会に出ていくことは難しいと考えています。複合施設には多様な人たちが利用しているだけでなく、多くの地域住民が訪れる環境がありますので、そのような経験を積む機会があることが強みとなっています。今後は、就労体験として当法人の病院や介護施設で働く経験をしてもらったり、愛生館グループは一般企業との付き合いも多いので、企業の協力を受けながら最終的には就労支援にまで結びつけていきたいと考えています」。


▲ 発達障害のある未就学児を対象とした発達支援事業所「さんさん」。放課後等デイサービスを併設することで連続性のある療育が可能となっている ▲ 明るい自然光が差し込む遊戯室。隣接する倉庫と会議室をつなぐことで最大170人まで収容可能で、さまざまなイベントに活用することができる

地域交流に向けてサロンやピロティを設置


 地域交流の推進に向けては、地域住民が気軽に立ち寄り、子育てや介護などのさまざまな悩みを相談できる場所として地域交流サロン「ハーモニーホール」を設置した。
 地域交流サロンは、月〜金曜日にカフェとして運営しており、多くの地域住民や利用者の保護者などに利用されている。
 地域交流サロンは、三方向を全面窓とした開放的な空間をつくり、外から施設内がみえることで地域の方が入りやすい設計としており、今後は地域の会合や活動に貸し出し、活用してもらうことを検討している。
 そのほかにも、複合施設の入口には多くの人が集える場所として広いスペースのピロティをつくり、夏祭りや季節行事などのイベントを開催しており、毎回多くの地域住民の参加があるという。
 地域共生社会の実現に向けたコミュニティづくりを実践する同法人の今後の取り組みが注目される。


▲ 併設する地域交流サロン「ハーモニーホール」は、月〜金曜日にカフェを運営し、多くの地域住民に利用されている ▲ 広い園庭は、全面芝で子どもたちは裸足で走り回ることができる

複合施設の開設で多世代交流が進む
社会福祉法人愛生館 複合施設CORRIN
複合施設部 部長 岩田 康和氏
 複合施設の開設により、日常的な交流を通して子どもの好奇心が旺盛になったり、高齢者の笑顔が増えるなど、双方によい影響をもたらしています。また、当法人は高齢者支援を行う法人というイメージが地域に浸透していましたが、子育て世帯をはじめとする若い年齢層とつながる機会が増え、多世代交流が進んでいることを実感しています。
 夏祭りを開催した際には、多くの地域住民に参加していただいていますが、目的がなくても気軽に足を運んでもらえる施設にしていくためにも、こちらから地域に出向き、福祉相談や安心して暮らすために必要な情報を提供し、頼りにされる存在になれればと考えています。


<< 施設概要 >>令和5年1月現在
理事長 小林 清彦 開設 令和4年4月
併設施設 認定こども園「こども園ひまわり」(定員125人)、高齢者デイサービス「碧カレッジ」(定員30人)、児童発達支援事業所「さんさん」(定員10人)、放課後等デイサービス「たいよう」(定員10人)
法人施設 特別養護老人ホーム2カ所/養護老人ホーム/小規模多機能ホーム2カ所/デイサービス2カ所
グループ法人 医療法人愛生館(小林記念病院、介護老人保健施設、訪問看護ステーション)
住所 〒447−0025 愛知県碧南市大堤町1−11
TEL 0566−45−6001 FAX 0566−45−6016
URL https://aiseikan.xsrv.jp/corrin/


■ この記事は月刊誌「WAM」2023年1月号に掲載されたものを一部改変して掲載しています。
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