どうすれば寝返りしやすくなるでしょう?
今回は、前回で説明した重心、支持基底面、圧中心点の考え方を用いて、寝返りとその介助方法について考えてみましょう。
手や足を広げた仰臥位(仰向け)では、支持基底面が広くなり、重心が体の中心にあります(下図の①)。これは、安定した仰臥位になる反面、寝返りの介助を行うには大きな労力が必要になります。
では、どうすれば寝返りがしやすくなるでしょうか? 左に寝返る場合を考えてみましょう。左側に寝返るためには、重心が左へ移動し、支持基底面が背面全体から左背面へ移り、最終的に左側面となります。この時、圧中心点がその支持基底面内にあることが必要です(下図の③)。
左側へ動きやすくするために、まずは支持基底面を狭くしましょう。そのためには、頭を少し浮かせる、手を上げる、膝を曲げる等の方法があります(下図の②)。次に、重心を左側へ移すには、上げた頭を左に向ける、手を左に倒す、曲げた膝を左に倒すなどの方法があります。このとき、左手や左足が寝返りを妨げる位置にないか注意が必要です。
これらのことに配慮して対象者にアドバイスをすると、今まで寝返りができないと思っていた方でも寝返りができるようになる場合もあります。また、介助も非常に楽になります。介助を必要とする場合も、全部を介助する必要はありません。支持基底面を狭くする方法や重心を移す方法の一部を言葉で誘導したり、少し力を加えたりすればよいのです。
介護する対象者は、「麻痺がある」「股関節、膝関節など関節が固まって曲がらない」「筋力が弱い」などさまざまな状態が考えられます。どのような状態であっても、対象者ができること(頭を少しだけなら自分で上げることができる、片方の膝だけなら曲げることができるなど)を把握し、上記の支持基底面、重心、圧中心点の考え方を当てはめると、解決の糸口が見つかるはずです。
執筆:野尻晋一(介護老人保健施設清雅苑 副施設長、理学療法士)、大久保智明(訪問リハビリテーションセンター清雅苑 主任、理学療法士)