2つの起き上がり動作
今回は、起き上がり動作について前回と同様に、重心、支持基底面、圧中心点の視点で解説します。
起き上がり動作には、大きく分けて2つの方法があります。1つは体を真直ぐに起こす方法です(方法1)。もう1つは、横に寝返り、頭で弧を描くようにして、腕の力を利用して起き上がる方法です(方法2)。
方法1の場合、仰向けで寝ているときの支持基底面(体の裏面全体が接している部分)が、起き上がる際には下半身の裏面へと変わります。姿勢を安定させるためには、支持基底面の中に圧中心点を移動させる必要がありますが、接触面から頭や背中が離れると、支持基底面から圧中心点が出てしまいます。そのため、起き上がるには腹筋などの大きな力が必要になります。健康な人でも、下半身を持ち上げて反動を利用している光景をよく見かけるのはこのためです。
方法2では、寝返りをしたときの腕の位置により、起き上がるときの支持基底面が変化します。起き上がるときの支持基底面は、肘から手先までの接触面と、横向きになったときの体及び下半身の接触面になります。そのため、腕を横に広げるほど支持基底面が広くなり、頭を持ち上げたときに圧中心点を支持基底面内に収めることが容易になります。
そして、支持基底面内に圧中心点をおきながら起き上がります(重心の位置を高くしていきます)。その際、頭の位置が重要になります。頭を大きな弧を描くようにして起き上がると、小さな腕の力で起き上がることができます。例えば、山を登るときは、まっすぐ登山すると距離は短くなりますが、勾配が急になり大きな力が必要です。逆に、螺旋上に登山すると距離は長くなりますが、勾配が緩やかになり小さな力ですみます。理屈はこれと同じです。
起き上がり動作を介助する場合は、方法2を利用することをおすすめします。この際、ベッドの中央から寝返ると腕をつくスペースが狭くなる(支持基底面が狭くなる)ため、寝返る前にあらかじめ、寝返る方向と反対側に体をずらして、腕をつくスペースを広く確保することがポイントです。
また、起き上がる動作を介助する場合は、動作のすべての過程を介助する必要はありません。できない部分だけを介助することが重要です。頭をちょっと持ち上げることだけでもよいのです。自分の力を使っていただくことで身体機能の維持、向上につながります。
起き上がりが困難な場合は、ベッドの背上げ機能など福祉用具を上手に利用するのも1つの方法です。