“座り直し”とは
前回は座る姿勢について解説しました。良い姿勢で座るといっても、同じ姿勢を長時間続けることは困難です。座る姿勢を続けるには、脊柱起立筋(背中の筋肉)が常に働いている必要があり、とても疲れます。
また、お尻に圧が集中し痛くなります。そのため私たちは、壁や椅子(車椅子)の背もたれに背中をあずけたり、お尻を前にずらしたり、足を組んだりして座る姿勢を変えています。
今回は、このように座る姿勢を変える動作の中から、お尻を前にずらして座った姿勢からまっすぐ深く座った姿勢に直すこと(ここでは『座り直し動作』と呼びます)について、支持基底面、重心の位置、圧中心点を用いて解説します。
座り直し動作には、対象者の身体機能の状態に応じていくつか方法があります。ここでは2つの方法を紹介します。1つはお尻を左右に振って座り直す動作で、もう1つはお尻を一度浮かして座り直す動作です。
お尻を左右に振り、座り直す動作
圧中心点を、足の底〜お尻で作られる支持基底面内におき(少しおじぎした姿勢をとるとよい)、お尻を左右に振りながら体(重心)を後方に移動させます。このときのコツは、体を左に傾けて圧中心点を左のお尻に乗せ、そこを支点にして、右のお尻を後方に引くようにします。手を使わなくてもできますが、肘かけや座面に手をついてお尻を引くときに、引く側の手で肘かけや座面をやや前方に押すとより効果的です。
図1 お尻を左右に振り、座り直す動作
お尻を一度浮かし座り直す動作
軽くおじぎをして、両足を少し手前に引きます。このことにより重心が前方に移動し、圧中心点が足の底に移り、お尻を浮かすことが容易になります。さらに体を前に曲げ、圧中心点が足の底に乗った状態でお尻を浮かせバランスをとりながら、お尻を後方に突き出し、深く座り直します。
椅子や車椅子から滑り落ちそうになっている方を、後ろからズボンを引っ張り上げている場面を見かけることがあります。これではむしろお尻が前へ移動して、深く座り直すこともできず、対象者の残存能力を使っていないことになります。
ご紹介した2つの方法で、対象者のできない動作を介助すれば、自分でできる部分を増やす練習にもなりますし、全介助の場合でも介助が楽になります。
図2 お尻を一度浮かし、座り直す動作