第2回: 現況建物の機能査定と評価を実施し「施設改善計画書」をつくろう
「はじめに」
前回の基本書づくりのお勧めから一歩前進して、建物現有能力の査定やその必要性も含めて、ご提案いたします。
専門技術者の現地調査も利用し、建物の現有能力を査定しましょう。
問診表や建物カルテ、施設台帳等の基本書がまとまったら、専門技術者の意見を聞きながら現地調査を実施して、現況建物のもつ現有能力を確認しましょう。
この時に、建物の「維持機能劣化査定」、「現行法規適合査定」、「ニーズ劣化査定」の3 点について整理すると修繕計画の順位整理に便利です。
また、査定結果をグラフ化すると改善状況も把握しやすくなります。
●「維持機能劣化査定」とは
建物を継続して使用していくうえで求められる大切な維持機能とは何か?
「雨風が凌げる」、「四季を通じて寒暖も凌げ快適に過ごせる空間維持」、「日々の生活において必要とする給排水の確保」が最低限求められる一番大切な機能と考えます。
屋根や外壁の構造部材や建物の血管といえる建物設備配管・機器がその主たるものといえます。
これは機能として常に良好に維持され続けなければならないもので、この機能が円滑に今後も使用できるかを見るために実施するのが「維持機能劣化査定」です。
専門技術者による目視点検および赤外線調査機材を用いた外壁点検やファイバースコープによる設備配管調査により、細部にわたり調査を実施し、経年劣化状況を確認します。
また、設備機器に関しては、機器ごとにメーカー推奨耐用年限がありますが、24 時間365 日使用される医療福祉施設では、劣化評価に誤差が生じる場合があります。機器運行台帳などを確認し、実際の使用時間も確認してトータルで状況把握に努めます。
この調査により計画修繕に向けての方向性がみえます。また、メンテナンスの保全計画と実行に有効な指標を導くことができます。
●「現行法規適合査定」とは
建築基準法、消防法など建物に関わる法規は多くあります。これらの法規は改正が生じるため、建設当初は適法に建てられたものであっても、その改正の内容によっては現行法規と適合しない状況に陥ることがあります。
直ちに関係法規の改正内容に応じて、改善を要求されるものや、遡及対応で大規模な改修工事時に抜本的な改善を必要とするものなど、状況に応じて行政指導が行われます。
施設管理者にとっては、時には不条理に感じるものでありますが、安全にかつ品質ある建物維持管理を促進するうえで大切な法律改正でもありますので、遵守していくことは責務ともいえます。
法改正での施設改善は大きな投資を必要とすることが多く、維持管理においては、重複改修が生じないように計画的な改善が求められます。そのために遡及事項も含め、改善事項の調査を行い整理します。
また、改正事項だけではなく、法的に義務づけられている日々の消防点検や建築基準法の特殊建築物調査などでの是正事項も本調査で整理し、査定します。
●「ニーズ劣化査定」とは
地域やお客様と接し施設運営するなかで、求められる声に対して施設が叶えられていないことや、制度改正等で必要とする施設改善ができていないことで、収益等にも影響を及ぼすような事項を称して、「ニーズ劣化事項」としています。
中長期での施設整備計画において、大切な調査事項となります。
●各種劣化査定を踏まえた改善計画書の作成
以上の調査および査定により、複合的に現有建物の能力を査定し、改善計画も同時に策定します。
改善計画書は施設全体の改善事項が集約された基本書となります。また、今後の保全計画の指標ともなりますので、簡単なものでもよいので作成すると、無駄な重複改修工事を回避できるとともに、計画的な改善・修繕工事の実施に役立ちます。
その際に各項目ごとに評価点数を設定し、バランスグラフをつけると、改善が不足しているところや整備充足確認に便利です。
この調査を実施して思うことは、建物の建築当初からすでに維持管理はスタートしているということです。イニシャルコストへの意識だけではなく、ランニングコストも踏まえた計画や機器および部材仕様設定が必要と考えます。
それが「かしこい建物管理」において大切な一歩とも考えます。
次回は、調査結果を踏まえた計画修繕と計画保全について、ご提案いたします。
※ この記事は月刊誌「WAM」平成26年5月号に掲載されたものです。
月刊誌「WAM」最新号の購読をご希望の方は次のいずれかのリンクからお申込みください。