今後、さらに増員が必要な従事者
周知のように、日本は戦後、短期間のうちに戦災復興と高度経済成長を遂げ、GDP(国内総生産)がアメリカに次いで世界第2位となり、国際社会から奇跡といわれましたが、その後、世界的な石油危機やバブル崩壊、リーマンショック、経済のグローバル化、デフレ不況などに伴い、2010(平成22)年、GDPは中国に追い越されて世界第3位となりました。
その後、「失われた30年」に象徴される賃金の伸び悩みの半面、2020(令和2)年には、新型コロナウイルス感染症(COVID−19)の感染拡大が国民生活を停滞させました。2023(令和5)年5月から5類感染症へ移行したものの、なお収束には至っていません。
一方で、日本の総人口は2023(令和5年)年、約1億2,330万人と世界第12位ですが、毎年約150万人が死亡する「多死社会」になっています。高齢化率は2020(令和2)年現在、28.6%から2065(令和47)年には36.4%に上昇すると予測される半面、合計特殊出生率は同1.36とほぼ横ばいで、本格的な少子高齢社会になるとともに、人口減少傾向にある情勢です(資料1)。
介護保険の状況に目を転じると、第1号被保険者(65歳以上)の要介護度別認定者数は2000(平成12)年の制度創設当初は256万人だったのに対して、2022(令和4)年には694万人と約2.7倍に増えました。一方で、児童分野では、少子化にもかかわらず、児童相談所における児童虐待の相談対応件数は2000(平成12)年には約1万8000件でしたが、2021(令和3)年には20万を超え激増しています。この他にも、障害分野では、障害者総合支援法の施行により誕生した就労系障害福祉サービスの利用者数は40万人を超え、障害のある人が働きながら自分らしく生きるための支援が求められています。このように、国民の福祉ニーズは年々高くなっています。こうした状況に対して、医療福祉分野の就業者数は2018(平成30)年には約826万人と就業者数全体に占める割合が12.0%でしたが、2025(令和7)年には約931万〜933万人と同14.6〜14.7%、2040(令和22)年には約1065〜1068万人と同18.8〜18.9%も必要になる見込みです。このため、今後ますます「福祉のしごと」に従事する人たちの大幅な確保が求められています。
資料1 日本の人口の推移
出典:厚生労働省ホームページ
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hokabunya/shakaihoshou/dl/07.pdf
さまざまな職場と資格
本サイトでは、84個の職場、66個の職種・資格を取り上げました。
たとえば、高齢分野では、特別養護老人ホームや老人保健施設、訪問看護事業所、老人短期入所施設などの介護保険施設のほか、地域包括支援センターや居宅介護支援事業所、さらに有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)などがあります。障害分野ではグループホーム、自立訓練(生活訓練)事業所、就労継続支援事業所、就労移行支援事業所、子ども分野では保育園、認定こども園、放課後等デイサービス事業所などがあります。
また、「福祉の職種・資格」は社会福祉士や介護福祉士、精神保健福祉士のほか、介護職員初任者研修修了者(訪問介護員:ホームヘルパー)や介護支援専門員(ケアマネジャー)、福祉用具専門相談員、医療ソーシャルワーカー(MSW)、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、保健師、看護師、幼稚園教諭、保育士、児童の遊びを指導する者(児童厚生員)、スクールソーシャルワ―カー(SSW)、義肢装具士、障害児者居宅介護従業者(ホームヘルパー)、ガイドヘルパー、さらには福祉住環境コ−ディネーターや健康運動訓練士なども取り上げました。
働きがいのある仕事
「福祉のしごと」は一般の企業・事業所と異なり、福祉サービスを必要としているクライエント(当事者)やその家族を支援する使命があります。補助的にAI(人工知能)や介護ロボットを活用したとしても、対人・対面援助を基本とする人間愛に満ちあふれたしごとであることに変わりはありません。
それだけではありません。外国人技能実習生と一緒にしごとに従事すれば、異文化の理解や共生を学ぶことができます。こうした働き方は、国連サミットで採択されたSDGsに即した働き方ともいえるでしょう。さらには、医療福祉職の専門性は、近年多発するゲリラ豪雨による水害や土砂災害、首都直下(型)地震や南海トラフ巨大地震といった自然災害が発生した際に、マンパワーとしての期待にも応えることができます。
また、医療福祉分野の就業者が安心して働き続けられるよう、国民の課題として、賃金格差の是正や職場の処遇の改善など、福利厚生にかかわる問題に対しても広く一般国民にソーシャルアクション(社会改良運動)を通じて提起していきたいものです。
本サイトの内容と特徴
本サイト「福祉のしごとガイド」は毎月約7万件閲覧され、大好評ですが、社会保障や社会福祉に関わる制度・政策や事業・活動はもとより、福祉の職場や職種・資格も年々拡充されています。このため、今回、2023(令和5)年度版の内容をブラッシュアップするとともに、新たな職場として、こども家庭センター、相談支援事業所、基幹相談支援センター、自立相談支援機関、新たな職種・資格としてこども家庭ソーシャルワーカー、児童福祉司、相談支援員を加えました。なお、制度や資格は改定されることがありますので、本サイトの情報を利用される際は最新の情報をご確認くださるようお願いします。
本サイトが今後、より多くのみなさんの参考となり、晴れて志望する「福祉のしごと」に従事したり、起業に成功したりして関係者に喜ばれるとともに自己研鑽に努め、これからの長い人生をより充実したものにしていただければ幸いです。陰ながら応援しています。
2024(令和6)年3月
武蔵野大学名誉教授
川村 匡由
川村 匡由(かわむら・まさよし)
武蔵野大学名誉教授・博士(人間科学)
1999年、早稲田大学大学院人間科学研究科博士学位取得。専門は社会保障、地域福祉、防災福祉。行政書士有資格。元社会福祉士試験委員。シニア社会学会、世田谷区社会福祉事業団各理事、武蔵野徳洲会病院倫理委員、地域サロン「ぷらっと」主宰など。
主 著 『地域福祉計画論序説』『地域福祉とソーシャルガバナンス』『三訂 福祉系学生のためのレポート&卒論の書き方』(以上、中央法規出版)、『入門 社会保障(編著)』『入門 社会福祉の原理と政策(同)』『入門 高齢者福祉(同)』『入門 地域福祉と包括的支援体制(同)』『入門 保健医療と福祉(同)』『シルバーサービス論(同)』『介護保険再点検』(以上、ミネルヴァ書房)、『三訂
社会保障(編著)』(建帛社)、『人生100年時代のニュー・ライフスタイ
ル』(あけび書房)、『防災福祉のまちづくり』(水曜社)など多数。
その他 各地で自治体・社協・社会福祉事業団・NPO・病院の委員や理事、講演、研修のほか、メディアにも多数登場している。
*個人のHP https://kawamura0515.sakura.ne.jp/index.html
この「福祉のしごとガイド」は、福祉関連の資格・職種、職場についてその概要をご理解いただくために作成したものです。記述内容には正確をきしておりますが、本サイトの情報を利用される際には最新の情報をご確認下さいますよう、お願い申し上げます。