本研究の目的は、2006年4月の介護保険改正により創設された地域密着型サービスと地域包括支援センターの地域差とその要因を分析することで、市町村の権限がサービスの地域差に及ぼす影響を明らかにすることであり、今後のさらなる高齢化社会における公正な介護サービスの供給に対する指針を示すことである。
地域密着型サービスの地域差の分析にあたっては、WAM NETの事業者データおよび「介護法県事業状況報告月報」を使用してジニ係数を算出した。また、地域差の要因を明らかにするために、全国の地方自治体に対してアンケート調査を実施し、介護保険事業計画の目標値と実施設数とのギャップおよびギャップが生じた要因などについて考察した。
地域包括支援センターの地域差の分析にあたっては、全国の地方自治体を対象としたアンケート調査および住民基本台帳統計を使用し、充足度を考察した。また、地域差の要因を探るために、運営費や職員数、運営形態などの分析を行った。
地域密着型サービスについては、事業者の指定権限が市町村に付与されたにもかかわらず、実際には市町村の整備目標に達するまでの事業者の参入が見られなかった。つまり、市町村の権限が発揮されたケースはそれほど多くなかったと予想される。このため、従来の介護保険と同様に事業者の参入意向がサービスの地域差に大きく寄与しているといえる。その結果、サービスの地域差は今後さらに拡大することも予想される。これらの地域差を是正するためには、介護報酬を高くするなど事業者の参入が容易になるような対策が必要であろう。また、まったく整備されていない市町村については、財政的に厳しいかもしれないが市町村が直営もしくは広域連合や一部事務組合などの複数市町村でサービスを提供していく必要もあるだろう。
地域包括支援センターについては、市町村の財政状況や施策に対する考え方がセンター整備に大きく影響している。つまり、市町村の権限拡大が大きく地域差に影響するものと考えられる。このため、市町村がサービス需要に応じた政策をとり、センター整備や職員拡充をしていく必要があるが、一方で多くの市町村が財政難である以上、なかなか積極的な施策展開を図ることは困難となっている。その結果、財政力のある市町村とそうでない市町村との間で、サービスの地域差が拡大する可能性も否定できない。
このように、介護保険サービスにおける市町村の権限が拡大した中において、サービスの地域差の拡大を是正していくためには、事業者の参入意向や高齢者の分布などの地域的特性も地域差の要因となっていることを考えると、市町村の努力はもちろん必要であるが、介護報酬などの介護保険制度や地方交付税制度などの国と地方自治体の間を取り持つ政策など、総合的な視点に立って対策をしていく必要がある。
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