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生活困窮者自立支援関連情報
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栃木県宇都宮市・特定非営利活動法人とちぎボランティアネットワーク

フードバンク事業を通じた縁づくりで生活困窮者の自立を支援

 栃木県宇都宮市の特定非営利活動法人とちぎボランティアネットワークは、中間支援団体としてさまざまな社会問題に取り組んでいる。平成25年には福祉医療機構の助成を受けて、「フードバンクを媒体とした困窮者支援事業」を実施し、生活困窮者の就労につなげるなど成果をあげている。その取り組みを取材した。

■ この記事は月刊誌「WAM」平成27年1月号に掲載されたものです。

市民ボランティアとともに社会問題に取り組む


 栃木県宇都宮市にある特定非営利活動法人とちぎボランティアネットワークは、平成7年の阪神淡路大震災のボランティア派遣活動を契機に設立して以来、中間支援団体としてさまざまな社会問題に取り組んできた法人である。法人理念に「栃木県内に住む人の自発的な社会活動を促進し、ボランティアの仲間とともにSOSを出している人の人生によりそい、その人の困難を皆で解決する社会を目指す」ことを掲げる。
 主な事業として、NPO法人に関する相談・協働事業、災害救援・復興支援事業、ボランティアのコーディネーション事業、若者自立支援事業などを手がけている。同法人の活動に賛同する市民ボランティアを巻き込みながら、一緒に社会問題を解決していくことを基本的なスタイルにしており、平成23年からは「フードバンク宇都宮」の運営を開始している。
 日本では現在、安全に食べられるにもかかわらず、年間500〜800万トンの食品が廃棄されている。フードバンクは、食品会社の製造過程で出た規格外の商品や家庭で不要となった賞味期限内の食品の寄付を受けて、ホームレスや失業者などの生活困窮者、社会福祉施設に無償で寄贈する活動である。
 フードバンク事業に取り組んだきっかけは、平成20年のリーマンショック以降、仕事と住まいを同時に失った派遣労働者をはじめ、生活に困窮した人からの相談が急増したことからである。それ以前も、食べ物に困った人が相談に訪れた際には、事務所にストックしている食品を提供していたが、件数も多く限界があるため、本格的にフードバンク事業に取り組むことにした。事業開始にあたり、フードバンクを日本で最初に事業展開した「NPO法人セカンドハーベスト・ジャパン」(東京都台東区)から、仕組みやノウハウの研修を受けて稼動したという。


平成23年にフードバンクの運営を開始


 フードバンク事業の対象者について、同法人のフードバンク担当者の徳山篤氏は、次のように語る。
 「事務所に訪問してくる生活困窮者には、生活・経済状況などを聞きとり、こちらで必要性を判断して直接渡しています。また、移動手段を持たない人や福祉施設に対しては配送も行っています。これが行政の行う支援であれば明確な基準を設けなくてはなりませんが、一人ひとりの事情にあわせた柔軟な対応ができることは、民間の取り組みのよいところだと考えています。食品の仕分け・梱包、出入庫のデータ管理、配送などは、フードバンク事業に賛同するボランティアが中心となって運営しています」。
 フードバンクの取り組みが周知されたことや、行政や社会福祉協議会などから紹介を受けて相談に訪れる人が増えたことで、一時的に食品のストックが枯渇する状況になることもあるという。そのため、食品調達のために家庭や職場などに食品の提供を呼びかけて、持ち寄ってもらう「フードドライブ」を定期的に実施している。企業からの寄付の場合、単一の食品が多くなる傾向があるが、フードドライブでは、さまざまな食品を集めることが可能なだけでなく、生活困窮者という社会問題を広く知ってもらい、助けあいの文化を啓発する狙いもある。とくに主婦層は一度スイッチが入ると、さまざまなネットワークを駆使して多くの食品集めに協力してくれるという。

                
 ▲ 法人事務所の内観。同一建物の1階にフードバンク倉庫が入る ▲ フードバンク倉庫での作業の様子。一般のボランティアと当事者が一緒に活動し、人とのつながりをつくる

ホームレスの生活保護受給につなげる


 また、ホームレスへの支援として、毎週水曜日の夜間帯に、ボランティアとともにホームレスのいる駅周辺や橋の下などを巡回し、声かけや食料を届けることで関係性をつくっている。なかには廃品回収などで生活費を稼ぐ自立型のホームレスがいる一方で、社会から排除され、行き場のない者も少なくないという。
 「住所があれば行政も支援できますが、ホームレスはどうしても支援の対象から外れることが多くなります。このような人に対しては、ただ食料支援をしたからといって解決するわけではないので、生活保護の受給の必要性があり、当事者も合意した場合には申請の同行支援をすることで生活保護につなげ、次の人生設計を考えてもらうことをうながしています」と徳山氏は語る。
 生活保護につなげるために、入居できる住居を探して、不動産会社と交渉することもあわせて行っている。
 しかし、生活保護受給につないだとしてもホームレスに限らず、生活困窮者は地縁や血縁など、さまざまな縁が切れており、孤立してしまうことが大半である。そのため、フードバンクのボランティア活動への参加を呼びかけたところ、次第に手伝うために集まってくれるようになったそうだ。
 「フードバンク倉庫で食品の仕分け作業や配送を手伝ってもらうのですが、配送先で感謝の言葉をかけられたり、同じ環境にいる人や一般のボランティアとつながりをもてたことで次第に元気になり、就労に意欲が出て、仕事を探す人が出始めました。これを本格的に意識づけることで自立につながるのではないかと考え、さらに取り組みを進めることにしました」(徳山氏)。
 なお、この取り組みは「フードバンクを媒体とした困窮者支援事業」として、平成25年度独立行政法人福祉医療機構の助成を受けて実施された。


フードバンク倉庫を生活困窮者の縁づくりの場として開放


 同事業は、フードバンクの食糧支援を入口として、社会のなかで居場所のない生活保護受給者や生活困窮者に対して、フードバンク倉庫を居場所や縁づくり、中間的就労の場として開放するものである。人づきあいが苦手であることの多い生活困窮者が人とのつながりをもつとともに、ボランティア活動に参加することで自己肯定感を取り戻し、目的や希望をもって生きてもらうことを目指している。最終的には社会のなかでの役割を見出し、自立へとつなげていく事業となる。
 事業開始にあたり、以前は別の場所であった法人事務所と倉庫を、助成金を活用して事務所と同一建物の1階にフードバンク倉庫を確保したことで、支援がしやすくなり、効率的になったという。
 また、食糧支援を受けた生活困窮者にフードバンクのボランティア活動の参加を呼びかけたことで、7人の当事者が定期的に参加してくれるようになった。このうちの4人は同行支援することで生活保護受給につなげた元ホームレスである。
 生活困窮者のボランティア参加について、同法人の坂本裕亮氏は、「当事者には一般のボランティアと一緒に、食品の仕分け・梱包、入出庫のデータ管理、配送などを手伝ってもらっていますが、活動を通じて感じることは、当事者がいちばん求めていることは人とのつながりだということです。そのためにも専門職で囲って支援するのではなく、一般のボランティアや当事者同士で一緒に活動することが、人間関係や縁づくりを行ううえでの大きなポイントだと考えています。また、生活困窮者は精神疾患など多くの問題を抱えていますので、その人の課題を掘り起し、どのように生活を立て直せるかを考えていくことが重要となります。当法人は中間支援団体として、さまざまな専門領域に取り組むNPO法人や任意団体とつながりがあるため、当事者の課題に応じて支援を組み立てることも可能になっています」と語る。

▲ 食品を寄付する若者たち。さまざまな活動を通して、多くの食品が寄付されている

5人の生活困窮者を就労につなげる


 事業の成果として、25年度には5人の生活困窮者を就労に結びつけることができた。また、就労に結びついた人やフードバンクの支援を受けた人が、同法人がイベントをする際にボランティアとして手伝うなどの波及効果があり、新たな支援者として支援する側に回れたことが一番の成果だとしている。
 一方で、課題については、居場所のなかで人間関係の調整ができる当事者がいないと、まとまらないケースもあるという。なかには環境になじむことができずに離脱する者が一定数いたことから、それを支えるボランティアの育成が必要だとしている。また、「生活困窮者の支援では母子家庭世帯が多いことを想定していましたが、意外と出てきていないのが現状です。理由として世間体などさまざまな問題があることや、助けを求める余裕すらないことが考えられます。そのような情報は行政にはあるわけですが、個人情報の問題もあるので実態が掴めていません。今後はどのようにして支援を届けていくのかということも考える必要があります」と徳山氏は語る。
 同事業は現在も継続しており、平成26年度からは生活困窮者の自立支援の最終的な出口のために、栃木県若年者就労支援機構と連携して、無料職業紹介所の運営を開始するなど事業を進化させている。
 また、栃木県内の日光市、那須烏山市、大田原市にフードバンクの支部を設置するなど活動地域を広げており、今後さらに県内のフードバンクネットワークを構築し、多くの生活困窮者を支援していく構想である。

ファンドレイジングのイベントを定期開催


 そのほかに同法人では、ファンドレイジング(資金調達)に積極的に取り組んでいる。多くのNPO法人では活動が先行し、活動に必要な資金調達を不得手とするケースが見受けられる。ファンドレイジングは、ただ資金を集めればよいのではなく、社会的な使命を達成するために活動を広めるといった戦略的なことを含めて資金調達をするとともに、寄付文化を醸成していくことが求められている。なお、同法人の常務理事・事務局長の矢野正広氏は栃木県で初の認定ファンドレイザーの資格を取得している。
 同法人では平成25年からファンドレイジングのイベントとして、「チャリティウォーク56・7」を開催している。これはフードバンクの周知と活動を支える寄付集めを目的に、宇都宮市から栃木県日光市にある中禅寺湖までの56・7qの距離を1泊2日で歩くイベント。個人・チームによる参加が可能で、特徴的な点は、個人の参加条件を「参加費1万円と7000円以上の寄付、食品1品」としていることである。参加者はただ歩くだけでなく、自分以外の友人・同僚などから寄付を募ることで活動を広めていく役割を担うことになる。

       
 ▲ 平成25年度からファンドレイジングのイベントとして「チャリティウォーク56・7」を開催。参加者は歩くだけでなく、寄付を募ることで社会問題や助け合いの意識を広めていく役割を担う。

 「昨年11月に第2回大会を開催しましたが、寄付総額は300万円を超えました。ファンドレイジングの考え方として、その行為を通じて社会の意識を変えていく発想がなくてはなりません。参加条件に寄付を募るという項目を入れているのも、社会問題や助けあいの意識を広めていくことが重要となるからです。これまで関わりがなかった人を巻き込んで大きな流れにしていかなくては、どんなによい活動をしていても社会を変えていくことは難しいでしょう。そのためにもNPO法人は積極的にファンドレイジングに取り組んでいくことが必要であると考えています」と矢野常務理事は語る。
 ボランティアとともに社会問題の解決を目指す、同法人の取り組みが今後も注目される。


県内のフードバンクネットワークを拡大させる

特定非営利活動法人 とちぎボランティアネットワーク フードバンク担当 徳山 篤氏

 平成25 年に福祉医療機構の助成事業として、「フードバンクを通じた困窮者支援事業」を実施しました。生活困窮者の就労につなげたり、支援を受けた多くの人たちがボランティア活動に参加してくれるようになったことは大きな成果であったと思います。昨年からは自立支援の最終的な出口として、無料職業紹介所を設置し、1 人ひとりに寄り添ったかたちの就労支援を行っています。
 当法人はファンドレイジングにも積極的に取り組んでいますが、社会的な意義があり必要な活動も、予算がなければできません。とくにフードバンク事業は、食品の寄付を募り、無償で生活困窮者に提供する事業のため、助成金を活用して生活困窮者の居場所・縁づくりの場として、事務所と同じ建物にフードバンク倉庫を確保できたことは、当事者への支援もしやすくなり非常に助かりました。
 また、「フードバンク宇都宮」のほか、県内の日光市、那須烏山市、大田原市に支部を設置し活動地域を広げています。このような活動を広げていくことはNPO 法人の重要な役割になりますので、県内全域にネットワークを構築し、多くの生活困窮者を支援していきたいと考えています。

縁づくりに取り組み、誰もが幸せに暮らせる社会を目指す

特定非営利活動法人 とちぎボランティアネットワーク 坂本 裕亮氏

 昨年3 月から当法人のボランティア活動に参加していましたが、7 月から正職員として勤務しています。もともと社会福祉に関心があり、インターネットでフードバンクの活動を知り、自分も関わってみたいと思ったことがきっかけです。
 職場では大学教授や生活困窮者など、さまざまな方から話を聞く機会があるので、一般社会では学ぶことのできない貴重な経験をさせていただいています。当法人の支援を受けて、就労につながった人がボランティアをする側に回るのをみると、働きがいを感じますし、自分も頑張らなくてはと思います。
 生活困窮者はさまざまな課題を抱えていますので、食料提供をしたからといって問題が解決するわけではありません。フードバンクを足がかりに、当事者と関係性をつくり、どのようにして生活を立て直せるかを考えていくことが重要になります。
 近年、近所づきあいや縁というものが希薄化していますが、それでは困窮している人が周りに助けを求めることもできません。今後はさらに縁づくりに取り組み、誰もが幸せに暮らせる社会を目指していきたいと考えています。


<< 法人概要 >>
法人名 特定非営利活動法人 とちぎボランティアネットワーク
住所 〒320-0027
栃木県宇都宮市塙田2-5-1共生ビル3階
電話番号 028−622−0021 FAX 028−623−6036
URL http://www.tochigivnet.com/ 法人設立 平成7年
理事長 二見 令子 事務局長 矢野 正広
職員数 4人(平成26年12月現在)
事業内容 NPO活動推進センター(NPOに関する相談・研修・協働事業)/若者自立支援(とちぎ若者サポートステーション事業)/防災ボランティア・オールとちぎ(救援・復興支援事業、啓発・普及事業、とちぎVネット災害救援ボランティア基金)/寄付文化の醸成(とちぎコミュティファンドの運営、冠ファンド運営事業)/ボランティアセンター(ボランティアコーディネーション事業、ボランティア・NPOの研修会の開催、講師派遣業務)/フードバンク宇都宮


■ この記事は月刊誌「WAM」平成27年1月号に掲載されたものです。
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