生活困窮者自立支援関連情報
|
▲ 法人事務所の内観。同一建物の1階にフードバンク倉庫が入る | ▲ フードバンク倉庫での作業の様子。一般のボランティアと当事者が一緒に活動し、人とのつながりをつくる |
また、ホームレスへの支援として、毎週水曜日の夜間帯に、ボランティアとともにホームレスのいる駅周辺や橋の下などを巡回し、声かけや食料を届けることで関係性をつくっている。なかには廃品回収などで生活費を稼ぐ自立型のホームレスがいる一方で、社会から排除され、行き場のない者も少なくないという。
「住所があれば行政も支援できますが、ホームレスはどうしても支援の対象から外れることが多くなります。このような人に対しては、ただ食料支援をしたからといって解決するわけではないので、生活保護の受給の必要性があり、当事者も合意した場合には申請の同行支援をすることで生活保護につなげ、次の人生設計を考えてもらうことをうながしています」と徳山氏は語る。
生活保護につなげるために、入居できる住居を探して、不動産会社と交渉することもあわせて行っている。
しかし、生活保護受給につないだとしてもホームレスに限らず、生活困窮者は地縁や血縁など、さまざまな縁が切れており、孤立してしまうことが大半である。そのため、フードバンクのボランティア活動への参加を呼びかけたところ、次第に手伝うために集まってくれるようになったそうだ。
「フードバンク倉庫で食品の仕分け作業や配送を手伝ってもらうのですが、配送先で感謝の言葉をかけられたり、同じ環境にいる人や一般のボランティアとつながりをもてたことで次第に元気になり、就労に意欲が出て、仕事を探す人が出始めました。これを本格的に意識づけることで自立につながるのではないかと考え、さらに取り組みを進めることにしました」(徳山氏)。
なお、この取り組みは「フードバンクを媒体とした困窮者支援事業」として、平成25年度独立行政法人福祉医療機構の助成を受けて実施された。
同事業は、フードバンクの食糧支援を入口として、社会のなかで居場所のない生活保護受給者や生活困窮者に対して、フードバンク倉庫を居場所や縁づくり、中間的就労の場として開放するものである。人づきあいが苦手であることの多い生活困窮者が人とのつながりをもつとともに、ボランティア活動に参加することで自己肯定感を取り戻し、目的や希望をもって生きてもらうことを目指している。最終的には社会のなかでの役割を見出し、自立へとつなげていく事業となる。
事業開始にあたり、以前は別の場所であった法人事務所と倉庫を、助成金を活用して事務所と同一建物の1階にフードバンク倉庫を確保したことで、支援がしやすくなり、効率的になったという。
また、食糧支援を受けた生活困窮者にフードバンクのボランティア活動の参加を呼びかけたことで、7人の当事者が定期的に参加してくれるようになった。このうちの4人は同行支援することで生活保護受給につなげた元ホームレスである。
生活困窮者のボランティア参加について、同法人の坂本裕亮氏は、「当事者には一般のボランティアと一緒に、食品の仕分け・梱包、入出庫のデータ管理、配送などを手伝ってもらっていますが、活動を通じて感じることは、当事者がいちばん求めていることは人とのつながりだということです。そのためにも専門職で囲って支援するのではなく、一般のボランティアや当事者同士で一緒に活動することが、人間関係や縁づくりを行ううえでの大きなポイントだと考えています。また、生活困窮者は精神疾患など多くの問題を抱えていますので、その人の課題を掘り起し、どのように生活を立て直せるかを考えていくことが重要となります。当法人は中間支援団体として、さまざまな専門領域に取り組むNPO法人や任意団体とつながりがあるため、当事者の課題に応じて支援を組み立てることも可能になっています」と語る。
▲ 食品を寄付する若者たち。さまざまな活動を通して、多くの食品が寄付されている |
事業の成果として、25年度には5人の生活困窮者を就労に結びつけることができた。また、就労に結びついた人やフードバンクの支援を受けた人が、同法人がイベントをする際にボランティアとして手伝うなどの波及効果があり、新たな支援者として支援する側に回れたことが一番の成果だとしている。
一方で、課題については、居場所のなかで人間関係の調整ができる当事者がいないと、まとまらないケースもあるという。なかには環境になじむことができずに離脱する者が一定数いたことから、それを支えるボランティアの育成が必要だとしている。また、「生活困窮者の支援では母子家庭世帯が多いことを想定していましたが、意外と出てきていないのが現状です。理由として世間体などさまざまな問題があることや、助けを求める余裕すらないことが考えられます。そのような情報は行政にはあるわけですが、個人情報の問題もあるので実態が掴めていません。今後はどのようにして支援を届けていくのかということも考える必要があります」と徳山氏は語る。
同事業は現在も継続しており、平成26年度からは生活困窮者の自立支援の最終的な出口のために、栃木県若年者就労支援機構と連携して、無料職業紹介所の運営を開始するなど事業を進化させている。
また、栃木県内の日光市、那須烏山市、大田原市にフードバンクの支部を設置するなど活動地域を広げており、今後さらに県内のフードバンクネットワークを構築し、多くの生活困窮者を支援していく構想である。
そのほかに同法人では、ファンドレイジング(資金調達)に積極的に取り組んでいる。多くのNPO法人では活動が先行し、活動に必要な資金調達を不得手とするケースが見受けられる。ファンドレイジングは、ただ資金を集めればよいのではなく、社会的な使命を達成するために活動を広めるといった戦略的なことを含めて資金調達をするとともに、寄付文化を醸成していくことが求められている。なお、同法人の常務理事・事務局長の矢野正広氏は栃木県で初の認定ファンドレイザーの資格を取得している。
同法人では平成25年からファンドレイジングのイベントとして、「チャリティウォーク56・7」を開催している。これはフードバンクの周知と活動を支える寄付集めを目的に、宇都宮市から栃木県日光市にある中禅寺湖までの56・7qの距離を1泊2日で歩くイベント。個人・チームによる参加が可能で、特徴的な点は、個人の参加条件を「参加費1万円と7000円以上の寄付、食品1品」としていることである。参加者はただ歩くだけでなく、自分以外の友人・同僚などから寄付を募ることで活動を広めていく役割を担うことになる。
▲ 平成25年度からファンドレイジングのイベントとして「チャリティウォーク56・7」を開催。参加者は歩くだけでなく、寄付を募ることで社会問題や助け合いの意識を広めていく役割を担う。 |
「昨年11月に第2回大会を開催しましたが、寄付総額は300万円を超えました。ファンドレイジングの考え方として、その行為を通じて社会の意識を変えていく発想がなくてはなりません。参加条件に寄付を募るという項目を入れているのも、社会問題や助けあいの意識を広めていくことが重要となるからです。これまで関わりがなかった人を巻き込んで大きな流れにしていかなくては、どんなによい活動をしていても社会を変えていくことは難しいでしょう。そのためにもNPO法人は積極的にファンドレイジングに取り組んでいくことが必要であると考えています」と矢野常務理事は語る。
ボランティアとともに社会問題の解決を目指す、同法人の取り組みが今後も注目される。
法人名 | 特定非営利活動法人 とちぎボランティアネットワーク | ||
住所 | 〒320-0027 栃木県宇都宮市塙田2-5-1共生ビル3階 |
||
電話番号 | 028−622−0021 | FAX | 028−623−6036 |
URL | http://www.tochigivnet.com/ | 法人設立 | 平成7年 |
理事長 | 二見 令子 | 事務局長 | 矢野 正広 |
職員数 | 4人(平成26年12月現在) | ||
事業内容 | NPO活動推進センター(NPOに関する相談・研修・協働事業)/若者自立支援(とちぎ若者サポートステーション事業)/防災ボランティア・オールとちぎ(救援・復興支援事業、啓発・普及事業、とちぎVネット災害救援ボランティア基金)/寄付文化の醸成(とちぎコミュティファンドの運営、冠ファンド運営事業)/ボランティアセンター(ボランティアコーディネーション事業、ボランティア・NPOの研修会の開催、講師派遣業務)/フードバンク宇都宮 |