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長崎県長崎市・一般社団法人ひとり親家庭福祉会ながさき

さまざまな状況のひとり親家庭と支援策をつなぐ

 独立行政法人福祉医療機構(WAM)が行う社会福祉振興助成事業(WAM 助成)は、国庫補助金を財源とし、高齢者・障害者などが地域のつながりのなかで自立した生活を送れるよう、また、子どもたちが健やかに安心して成長できるよう、NPO やボランティア団体などが行う民間の創意工夫ある活動などに対し、助成を行っています。今回は、WAM 助成を活用した一般社団法人ひとり親家庭福祉会ながさきの取り組みを紹介します。

■ この記事は月刊誌「WAM」平成27年8月号に掲載されたものです。

ひとり親家庭の相談・自立支援事業に取り組む


 近年、母子・父子のひとり親家庭が急速に増加している。平成25年の厚生労働省の調査(国民生活基礎調査)によると、ひとり親家庭の相対的貧困率は54.6%に達し、親の経済力の差が教育格差となり、子ども世代へ「貧困の連鎖」が生じていることが指摘されている。ひとり親家庭の支援や自立促進においては、行政もさまざまな施策を推進しているものの、ひとり親家庭の状況はそれぞれ複雑で多様であり、支援策をどのように活用したらよいのかわからない、あるいは仕事が忙しく相談窓口にいく時間をつくれないなど、さまざまな悩みを抱えている現状にある。
 長崎市の一般社団法人ひとり親家庭福祉会ながさきは、戦後未亡人となった人たちを支援することを目的として全国各地で作られた団体の一つで、昭和44年1月に法人格を取得した。時代の流れとともに、母子・父子家庭、未婚の母親の支援も行うようになり、平成26年4月に法人格および名称変更している。
 同法人の主な事業として、相談支援事業や自立支援事業、日常生活支援事業を実施しており、平成27年2月から県と市の委託を受け、長崎県ひとり親家庭等自立促進センター「エールながさき」の運営を開始している。自立支援事業では、就労支援を実施するほか、市立保育所の調理業務(5カ所)や市営プールの食堂、子育て支援センター「ぴっぴ」の運営など就労の場も提供している。相談支援事業では、来所・電話による相談を受けており、夜間の相談にも対応している。
 同法人の相談事業について、事務局長の山本倫子氏は次のように語る。
 「仕事をしている方は日中に相談に行くことができませんし、行政機関などの相談窓口は17時には終了するため、悩みがあっても相談する場がないのが実情です。そのため当法人では、通常の開設時間(平日10〜18時)が終了した後は、私が21時まで相談を受ける体制をとっています。また、平日は仕事で忙しく来所できない方に対しても、事前に連絡をいただければ土日でも事務所で相談を受けています。そのほかにも24時間体制のメール相談を行っており、法人の代表アドレスにメールが入ると私の携帯電話に転送されますので、対応が困難な時であっても、メールが届いていることを必ず返信することで相談者の安心につなげています」。


制度・支援策を解説したハンドブックを作成


 同法人では、平成25年度のWAM助成事業として、「ひとり親家庭就労支援相談員養成事業」を実施している。同事業では、ひとり親家庭が自分にあった適切な支援を受け、一人ひとりが安心して暮らせることを目的に、@ひとり親家庭の支援をわかりやすく解説したハンドブック「ひとり親家庭応援します!」の作成、Aひとり親家庭就労支援相談員の養成、B養成講座修了者による相談窓口の設置をしている。

                
 ▲ 平成25 年度の助成事業で作成したハンドブック「ひとり親家庭 応援します!」。できる限り専門用語を使わず、誰もが理解ができる内容にこだわった。判型は、女性のカバンに収まるA 5 サイズにした ▲ 社会福祉会館内にある、ひとり親家庭福祉会ながさきの事務所

 ハンドブックの作成にあたっては、長崎県の福祉読本作成に携わってきた元小学校校長を中心に、弁護士、支援団体関係者で構成する編集委員会を立ち上げ、内容について議論した。行政の発行する制度・施策に関するパンフレット等は、知識をもたない当事者にとって内容を理解することが難しいという声があったことから、できる限り専門用語を使わず、伝わりやすい言葉を選ぶことで誰でも理解できる内容とすることにこだわった。目次の項目と解説ページの色を使い分けることや、字体も若い人から高齢者までなじみやすい教科書体を採用するなど工夫をしている。
 「関係者だけで作成したガイドブックは、どんなにわかりやすく作っても当事者が理解できない部分が必ず出てきます。そのため、一つひとつの項目をつくるたびにひとり親の方にも確認してもらい、わかりにくいという意見が出れば、編集委員会で作り直すことを繰り返し行いました。また、すべての項目にQ&Aを掲載してイメージをつかみやすくしていることも特徴です。質問項目の作成においてもアンケートを実施し、当事者の理解が少ない支援などについて選定しています」(山本事務局長)。
 完成したハンドブックは3,000部発行し、関係機関や保育所、ハローワークなどに配布するほか、市内の学童保育には、ひとり親家庭一世帯に一冊が手元に届くように約1,000部を配布した。


専門性の高い相談員の養成講座を開催


 また、ひとり親家庭からの相談を受け、個々にあった支援策をコーディネートする役割を担う、専門性の高い相談員の養成講座を平成25年9月〜26年1月の期間に10回にわたり開催している。
 参加者の公募には、新聞広告や地域のフリーペーパーを活用したところ、30人を超える応募があり、最終的に19人が受講した。参加者は全員女性で、なかには自身もひとり親家庭で、これまでの経験を活かし支援していきたいと考える人もいたという。
 講座のプログラムは、生活保護受給や生活福祉資金の手続きなど制度・施策に関する講義をはじめ、法律、コーチングの手法、就労支援のための履歴書・職務経歴書の記載方法や面接の受け方など幅広い内容となっており、各講座の終了後には毎回レポートを提出してもらった。講師は、日頃の業務で連携する行政や弁護士、生活困窮者の支援を行う団体、病院関係者などに引き受けてもらうことで、スムーズにプログラムを組むことができたという。


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 また、講座のプログラムでは、ロールプレイを多く取り入れた。
 「ロールプレイでは受講者を4人1グループにして、相談者、カウンセラー、傍観者の役に割り振ります。相談者役は自分の本当の悩みを相談し、カウンセラー役がどのように答えるかをみて、講師がアドバイスをしていきます。終了後にはセッションをして、それぞれの役の感想をレポートにまとめ提出してもらいました。やはり相手の気持ちを理解するためには、相談者の立場や受ける立場、第三者的にみる立場を体験することが必要だと考えています」(山本事務局長)。
 講座修了者には、同法人が認定する資格を付与しており、受講者19人のうち17人が認定を受けた。


養成した相談員による相談窓口を設置


 講座終了後には、養成した相談員による総合的な相談窓口を設置し、ひとり親家庭の相談に対応していくとともに、実際の相談を受けることでスキルを高めている。養成した人には仕事の空いている時間に交代で相談に入ってもらい、山本事務局長を中心に職員がサポートする体制とした。
 相談者は9割以上が女性であり、女性からは就職や生活費などの収入面、男性からは子どもを預けられる支援や思春期の対応など生活面に関する相談が多いという。
 「最近の傾向として、経済力がなくても行政がなんとかしてくれると思い、離婚を考える若い母親が増えています。保証人がいなければ家を借りられないことや実際に受けられる支援を説明し、本当に離婚する時期であるかを確認しており、ひとり親家庭だけでなく、その前の段階からの支援も必要になっています」(山本事務局長)。
 養成した相談員のなかには、ひとり親家庭の人もいるため、相談内容と自分の辛い経験をリンクさせ、引きずった気持ちを自宅に持ち帰ってしまうケースがある。気持ちをいったん整理しなければ次の相談を受けられず、支える側も精神的に疲れてしまうため、相談を受けた後には、山本事務局長から30分ほどのカウンセリングを受け、必ず気持ちを整理するよう配慮している。
 「相談員はどうしても知っている制度・施策について話しがちになるのですが、相手は話を聞いてほしいと思っていますので、まずはしっかり傾聴して、相手の話している内容から真意を引き出し、理解していくことが大切です。また、相談というのは必ず本人に考えてもらわなくてはいけないので、『自分の経験ではこうだった』と話してしまうと、相談者がそれに誘導されてしまうことがあります。それが本当の気持ちかわかりませんし、それによってその方の人生を決めてしまう可能性があるということを、養成した相談員に伝えています」。
 なお、相談窓口を設置した平成26年1月21日〜3月31日に対応した相談件数は109件にのぼった。


養成した相談員の就労にもつながる


 山本事務局長は事業の成果の一つとして、ひとり親家庭に対する支援をわかりやすく解説したハンドブックを作成し、広く配布できたことをあげる。これまで行ってきた相談窓口などの周知方法として、行政の広報誌に掲載する方法などがあるが、ひとり親家庭の人は地域の自治会に入っていないことが多く、広報誌を通じて知ってもらうことは難しいという。今回の事業で支援が必要な人や悩みを抱える人に届けることができたため、同法人に寄せられる相談件数は飛躍的に増えたという。配布先の関係機関からも非常に好評で追加の要望が殺到し、現在は在庫がわずかとなっている。行政等の専門職にとっても、もう一度制度・施策について考えるなど、意識改革につながったという。
 また、養成講座によって地域で不足する専門性の高い相談員を17人育成できたことも大きな成果である。
 「これまで法人内においては、私が一人で多くの相談支援を抱えていたこともあり、何かあった時に他の人が対応できる体制をつくることは長年の課題でもありました。今回の事業で、少しでも解消につながったことはよかったと思います。養成者のなかには、当法人が委託運営する『長崎県ひとり親家庭等自立促進センター』で3人、母子家庭を含む子育て女性の就職支援を実施する『ハローワーク長崎マザーズコーナー』で1人が雇用され、支援員として活動しています。全国にある母子会から事業概要や養成プログラムの組み方についての問い合わせが多くあるなど、高い関心が寄せられました」。
 そのほかの養成者からも、それぞれの地域のなかで相談支援を行っているという報告を受けており、支援に広がりが出てきている。


WAM 助成を通じて新たな事業を展開


▲ 一般社団法人ひとり親家庭福祉会ながさき
理事長 福地 照子氏
 また、助成事業の広がりについて、同法人理事長の福地照子氏は次のように語る。
 「当法人は行政からの運営費を一切受けずに事業を行っていますので、資金が乏しいのが現実です。WAM助成を受けなければ今回の事業は実施できなかったので、本当に助かりました。助成金を受けるには細かな計画書を提出しなければなりませんが、計画がしっかりしているほど、事業運営がしやすいというメリットがあります。今年4月に『長崎県ひとり親家庭等自立促進センター』の委託運営を受けていますが、審査ではWAM助成を報告書の作成や養成した相談員の雇用につなげたことが評価されました。WAM助成を通じて、地域に必要な事業につなげることができたことを実感しています」。
 地域で不足する専門性の高い相談員を養成し、ひとり親家庭が安心して暮らせる支援につなげる同法人の取り組みは、他の地域でも参考となる事例といえる。

子どもが夢をもてる支援を

一般社団法人ひとり親家庭福祉会ながさき 事務局長 山本 倫子氏

 ひとり親家庭の根底にある問題は生活困窮であり、「貧困の連鎖」が生じているのが現状となっています。当法人ではその連鎖を断ち切りたいという想いがあり、生活困窮者をしっかり支援していくためにも、今回の事業で養成した相談員のような支援者を増やしていくことが重要だと考えています。
 現在は学歴が生活の差につながっていますので、生活に困窮する親の就労支援に取り組むとともに、その子どもたちを支援していくことが必要と考えます。家の経済状況などから進学をあきらめてしまう子どもたちが大勢います。当法人では、夏休み期間中に大学生ボランティアを募り、小・中学生を対象にした無料の学習塾を実施しています。今後はさらに子どもたちの夢につながるような支援をしていきたいと考えています。
 そのためにも、さまざまな支援があることを伝えるとともに「夢はかなうと信じる力(心)」を伝えていきたいと思っています。

<< 法人概要 >>
法人名 一般社団法人ひとり親家庭福祉会ながさき
住所 〒850-0054
長崎県長崎市上町1番33号 社会福祉会館3階
電話番号 095-828-1470 FAX 095-828-1476
理事長 福地 照子 法人設立 昭和44年1月
URL http://www.nagasakishi-boshikai.jp/
助成実績 平成25年度 「ひとり親家庭就労支援相談員養成事業」(助成額:287万3千円)
事業概要:
ひとり親家庭が「自分にあった適切な支援を受け、一人ひとりが安心して暮らすことのできる」ことを目的に、ひとり親のための支援をわかりやすく解説したハンドブックを作成するとともに、個々にあった支援策のコーディネートを行う相談員を養成し、相応的な相談窓口を設置する事業


■ この記事は月刊誌「WAM」平成27年8月号に掲載されたものです。
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