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福岡県北九州市・社会福祉法人孝徳会 特別養護老人ホームサポートセンター門司

介護ロボット等実証施設の取り組み

福祉医療機構では、地域の福祉医療基盤の整備を支援するため、有利な条件での融資を行っています。今回は、その融資制度を利用された福岡県北九州市にある特別養護老人ホームサポートセンター門司を取りあげます。同施設は平成28年7月に国家戦略特区「介護ロボット等実証施設」に選定されました。介護ロボットの導入による介護の質の向上や職員の負担軽減への影響について取材しました。

■ この記事は月刊誌「WAM」平成29年7月号に掲載されたものを掲載しています。

北九州市を中心に地域に根ざした介護・福祉サービスを提供


 福岡県北九州市にある社会福祉法人孝徳会は、昭和61年7月の設立以来、同市を中心に地域に根ざした介護・福祉サービスを提供している法人である。
 法人の中核をなす複合福祉施設「ひびき荘」は、特別養護老人ホーム(定員70人)をはじめ、通所介護や訪問介護、グループホームのほか、障害者支援施設、就労継続支援A型事業所などを併設。職員の子育て支援として設置した事業所内託児所は、平成29年4月から北九州市の認可保育所となっている。
 そのほかにも、平成8年に介護老人保健施設、通所・訪問リハビリテーションを併設する「リカバリーセンターひびき」、平成24年に特養やグループホーム、小規模多機能型居宅介護などを併設する総合福祉施設「サポートセンター本城」を開設。平成23年4月からは市から養護老人ホームと軽費老人ホームの経営譲渡を受け、運営を開始するなど地域のニーズに対応した事業を展開している。


平成26年12月にサポートセンター門司を開設


 さらに、平成26年12月には北九州市の門司地区に「サポートセンター門司」を開設し、定員120人のユニット型特養をはじめ、ショートステイ(定員20人)やデイサービスセンター(定員45人)、ケアプランセンターを併設している。

▲ 「特別養護老人ホームサポートセンター門司」の外観

 同施設は関門海峡に面した景観のよいロケーションのなかで、利用者が心豊かに生活できる環境にある。
 施設コンセプトやケアの特色について、施設長の中村順子氏は次のように語る。
 「地元で暮らしていた利用者さんが自宅と変わらない環境のなかで生活してもらえるよう、親しみのある海が眺められる設計としています。1階の地域交流スペースや各階に設置した海のホールからは海が一望でき、関門海峡を行き来する船を眺めながら、ゆっくりとした時間を過ごす利用者さんも多くいます。また、ハード面だけでなく、ケアにおいても自宅と同じように生活してもらうため、起床や食事などの時間を24時間シートに落とし込み、利用者一人ひとりの生活スタイルにあわせた個別ケアを実践しています」(以下、「 」内は中村施設長の説明)。

                
 ▲ 各ユニットにある共同生活室は、それぞれに異なった趣がある ▲ 海側に設置した地域交流スペースは、地域住民の交流の場や介護サロンなどのイベントに活用している

 併設するデイサービスでは、自立支援型のリハビリに力を入れており、リハビリ室に理学療法士4人を配置し、質の高いリハビリを提供。退院後のリハビリのため、他の病院から紹介されるケースも多く、デイサービスやショートステイの利用者は、リハビリを目的とした男性の割合が高いことが特徴となっている。

                
 ▲ 明るく広々とした空間のリハビリ室。理学療法士の元気な声が聞こえてくる  ▲ 落ち着いた雰囲気のデイサービスからは、海を眺めることができる

 また、地域に開かれた施設を目指し、眺めのよい地域交流スペースを開放するとともに、1階には地元で人気のパン屋に出店してもらい、地域住民が気兼ねなく施設に足を運んでもらえる環境をつくった。買い物に来た地域住民から介護相談を受けたり、地域住民と利用者が交流することにもつながっている。
 地域に向けた取り組みでは、地域交流スペースを活用し、介護サロンを毎月開催しており、家族同士が介護体験を語りあうピアカウンセリングの場を提供している。


国家戦略特区「介護ロボット等実証施設」の選定を受ける


 同施設は、北九州市が平成27年12月に国家戦略特区に指定され、「介護ロボット等を活用した『先進的介護』の実証・実装事業」に取り組むことが決定したことから、平成28年7月に市の公募の採択を受け、実証施設に選定されている。
 北九州市が介護ロボットの実用化を計画した背景には、政令指定都市で高齢化率が最も高く、全国的に介護人材が不足しているなか、今後の人口減少により、さらなる人材確保が困難となるおそれが高いという状況があった。その一方で、学術研究機関が集積し、「ものづくりのまち」として世界トップシェアを誇る産業用ロボットメーカーが多くあることから、ロボット技術の導入を促進させることで、介護職員の負担軽減や介護の質の向上、介護ロボット産業の振興を図る目的があったという。
 介護ロボットの実証事業の開始にあたり、介護現場の作業内容やどのくらい時間をかけて作業しているのかを分析するため、市の委託を受けた産業医科大学の教授などが中心になり、介護職員の作業観察を実施した。
 「作業観察では、夜勤を含めた24時間体制で介護業務におけるすべての動作を確認し、作業項目を分類しました。また、どのような作業が身体的な負担になっているのかを調査するため、目視のほか、介護職員には心拍数や負荷を計測する計器を装着しながら作業してもらい、負担リスクを数値化しました。身体への負担では、『体位交換』、『更衣・清拭』、『移乗・移動』の作業でリスクが高く、腰にねじれが生じやすい『リネン交換』などの作業も意外と負担が大きいことが明らかになりました」。
 これらの作業分析をもとに、同施設では移乗介助支援(非装着型・装着型)、歩行リハビリ支援、ベッド見守りシステム、コミュニケーションに関する4分野5機種の介護ロボット等を導入し、介護の質の向上や負担軽減への効果、改良点などを検証した。


職員の負担軽減とともに利用者の安心につなげる


 具体的な介護ロボットの使用例をみると、ベッドから車いすへの移乗介助では非装着型の移乗アシスト装置(株式会社安川電機)を活用した。介助方法は、利用者を側臥位にし、スリングシートを敷く。アシスト装置をベッドに挿入してアームでリフトアップした後、旋回して車いすの背もたれと角度を調節しながらリフトダウンして着座させる(写真参照)。  

▲ 移乗アシスト装置の介助方法は、利用者を側臥位にし、スリングシートを敷き、アシスト装置をベッドに挿入してアームでリフトアップした後、旋回して車いすとの角度を調節しながら着座させる

   介護職員2人がかりの介助が必要だった利用者にも1人で対応することができ、利用者が正しい姿勢で移乗できるよう骨盤の傾斜を最適な角度に調整できるため、移乗後に座り直しをする必要もなく、次の動作に適した姿勢をとることが可能となっている。
 「利用者さんを抱えて移乗介助すると、介護職員の筋肉の緊張が伝わり、利用者さんに力が入ってしまうことがありますが、その心配もありません。作業時間が多少かかってしまうという面がありますが、操作に慣れることで短縮できますし、コミュニケーションをとりながら作業をすることもできるので、職員の負担軽減だけでなく利用者さんの安全・安心にもつながりました」。
 移乗介助では装着型の「マッスルスーツ」(株式会社イノフィス)も導入。背負うかたちで腰に装着することで、移乗介助など持ち上げる作業や中腰動作のときに腰にかかる負担を軽減するもので、実際に装着した介護職員によると、利用者を抱えたときの負荷が2分の1くらいに感じるという。

▲ 空気を動力源とした移乗介助ロボット「マッスルスーツ」は、装着することで腰にかかる負荷を最大で約3 分の1 にまで軽減

  「『マッスルスーツ』の活用イメージとしては、移乗介助に適していると感じると思いますが、移乗後に食事や入浴介助といった一連の介護業務の流れのなかで連続して使用することが少ないため、そのたびに脱着しなくてはならないという効率の悪い面があります。そのため、当施設では夜間の体位交換とリネン交換で最も使用したのですが、腰痛防止に非常に効果がありました」。


歩行サポートロボットの活用で利用者の歩行機能が向上


 歩行リハビリ支援では、映像と音声機能を搭載した歩行サポートロボット「Tree」(リーフ株式会社)を活用した。歩幅や歩行速度を入力すると、モニターに目標となる足の踏み出し位置が表示され、歩行リズムを音声で案内することで歩行を誘導する。モニターをみながら歩くことで姿勢の改善にもつながるほか、足圧測定器との併用により、歩行訓練中の荷重バランスなどのデータを記録することが可能となっている。

▲ 歩行リハビリツール「Tree」を使用して歩行訓練を行う利用者の様子

  「Tree」は、歩行器が使えるレベルの身体機能がない人には難しく、同施設は特養ということもあり、使える人は少なかったものの、利用した人の歩行速度や移動距離が飛躍的に伸びたという。小回りが利くので、各ユニットの共同生活室のなかでも気軽に歩行訓練ができることも魅力である。
 ベッド見守りシステム「OWLSIGHT」(株式会社イデアクエスト)は、赤外線センサーと人工知能でベッド全体を見守り、利用者の異変を素早くスマートフォンに通知するシステム。アラーム音で通知するだけでなく、利用者の姿勢や動作を画像で確認できることが特徴となっており、職員の負担軽減や利用者の安全な見守りが可能となっている。
 そのほかにも、ゲームや歌、体操、クイズなどの機能を搭載した、コミュニケーションロボット「PALRO」(富士ソフト株式会社)をレクリエーションなどに活用した。会話もできるため愛着が湧きやすく、ロボットを介して利用者同士の会話がはずむこともあったという。
 同事業は5年計画で行われ、昨年度までの課題や改良点などを踏まえ、今年の5月末から新たに作業分析を行い、引き続き介護ロボットを導入し、実証・評価を実施している。

▲ コミュニケーションロボット「PALRO」は、共同生活室のレクリエーションなどに活用。ロボットを介して利用者同士の会話もはずむ

今後の課題は医療機関や地域社会との連携強化


 今後の法人の展望としては、地域包括ケアシステムの実現に向け、医療機関や地域社会との連携強化に重点を置くことをあげている。さらに、地域の待機児童問題を解消するために、保育所の新規事業を構想しているほか、将来的には訪問介護やデイサービスにおける混合介護の導入も視野に入れているという。
 介護人材が不足するなか、介護現場のニーズにあった介護ロボットが開発・普及することが期待される。

個別マニュアルを作成し活用の仕方が明確に

社会福祉法人孝徳会 サポートセンター門司 施設長 中村 順子氏

 これまで介護ロボットというと、実際に導入してみると使いにくいということが少なくありませんでした。今回の事業では、メーカー側や研究機関が施設に足を運んでしっかりと作業分析を行うとともに、介護現場の生の声を届けられたことは非常に大きな意味があったと感じています。
 また、ロボットを使うことが目的とならないために、まずはスタッフとそれぞれのロボットのできること・できないこと、留意点などをメーカーからしっかりと研修を受け、誰にどのように使うことができるかを検討し、24 時間シートのなかに使う機器と時間を落とし込みました。
 今年度の取り組みとして、ご利用者一人ひとりにどう使っていくか、スタッフで個別マニュアルを作るという研修を行うことで、よりどのように使っていくのかが明確になってきました。


<< 法人概要 >>
法人名 社会福祉法人孝徳会 施設開設 平成26年12月
理事長 渡邉 正孝 氏 施設長 中村 順子
職員数 124人(法人全体570人) 定員 120人
併設施設 ショートステイ(定員20人)/デイサービスセンター(定員45人)/ケアプランセンター
法人施設 複合福祉施設ひびき荘(特養、訪問介護、通所介護、障害者支援施設、就労継続支援A型事業所、認可保育所)/リカバリーセンターひびき(老健、居宅介護支援事業所、デイケア、訪問リハビリテーション)/養護老人ホーム楽翁荘/軽費老人ホームやはず荘/ひびき荘第2デイサービスセンター/地域密着型複合福祉施設サポートセンター本城(特養、ショートステイ、通所介護、グループホーム、小規模多機能型居宅介護、ケアプランセンター)
電話 093-382-1117 FAX 093-382-1118
URL http://www.hibiki.or.jp/sc-moji/


■ この記事は月刊誌「WAM」平成29年7月号に掲載されたものを掲載しています。
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