サービス取組み事例紹介
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東京都東久留米市にある医療法人社団山本・前田記念会前田病院は、昭和26年4月の開設以来、「すべてのスタッフがフットワークを大事にし、今何が大切なのかを考え、思いやりの心で治療にあたる」という理念のもと、地域医療の中核を担ってきた。
診療面では、整形外科、脳神経外科、救急科、麻酔科、リハビリテーション科を標榜し、脳神経外科と整形外科に特化した二次救急指定病院として、救急医療から入院、手術、リハビリテーション、痛みの管理まで総合的にサポートする体制を整えている。
救急医療の体制では、病床数は39床と小規模ながらも「コンパクトな地域救急医療センター」をコンセプトに、救急患者を受け入れる地域救急医療センターを整備しており、夜間は整形外科、脳神経外科、救急科の医師が交代で宿直し、オンコールで他の科と連携するかたちをとっている。
これまでの救急医療の取り組みから、平成24年には東京都知事、平成25年には東京都消防総監より救急医療に貢献した病院として表彰を受けた実績もある。
そのほかにも、専門外来として骨粗鬆症外来や痛み外来、もの忘れ外来を開設しており、平成29年6月には東京都地域連携型認知症疾患医療センターの指定を受けている。
前田病院のある二次医療圏の状況や地域で担ってきた役割について、同法人理事長・院長の前田睦浩氏は次のように語る。
「当院は、整形外科と脳神経外科に特化し、救急外傷患者を中心に受け入れていることが特色となっています。近年、外傷の患者自体は減少傾向にあるものの、それ以上に外傷を受け入れる病院が少なくなり、そういう意味では救急医学で問題になっています。地域の大規模病院であっても当直している診察科目が限られていることから、アドバンストトリアージのできる外傷のスペシャリストとして当院の担う役割が大きくなっています。また、高齢化の進行に伴い、高齢患者が増加しているなかで、東京都認知症疾患医療センターの指定を受け、認知症や精神疾患をもつ患者の身体疾患までを診られることも大きな強みとなっています」。
さらに前田理事長は、小規模病院のメリットとして、職員に病院の方針や考え方を浸透させやすく、各科の専門医をはじめ、看護師、検査技師、薬剤師、管理栄養士、事務職などの全職種が連携してチーム医療を実践できることをあげる。
「このくらいの規模の病院だと各職種がセクショナリズムに陥ることなく、一人ひとりのスタッフの『自分たちがやらなくてはならない』という責任感がモチベーションになりますし、経験を積む機会も増えるので、スキルを高めることにもつながります。さらに、職種間の顔がみえる関係ができているとフットワークがよくなり、何をするにしても、この規模の病院が最適な環境ではないかと考えています」(前田理事長)。
▲白を基調にした明るく清潔感のある外来待合室 | ▲多床室の各ベッドに設けた窓からは、四季折々の植物を眺めることができる |
▲質の高い診療を行うため、最新型のCTやMRIなど充実した医療機器を導入 | ▲モダンなデザインを採用したエントランス |
同院は、平成24年12月に同一敷地内で建て替えを実施している。病院を建て替えた経緯としては、病院前の道路拡張整備のために敷地をセットバックさせる必要があったことによる。あわせて耐震化整備も実施した。
新病院の設計について、事務長の野上和男氏は次のように語る。
「施設設計では、外観を大きくみえるように工夫するとともに、白を基調とした配色を施し、患者さんに清潔感を感じてもらえるようモダンなデザインを採用しました。また、院内の設計では、効率的な医療提供ができるように動線を短くし、多床室であっても各ベッドに窓を設け、そこから自然光が入り、季節ごとの植物を眺められるようにすることで、患者さんに癒しを提供できる環境をつくりました」。
そのほかにも施設設計の工夫として、多くの窓を設置し、天井を高くしたことで、明るく開放的な空間をつくっている。
医療設備の投資では、最新型のDSA(脳血管造影)のできる手術室などを設備し、また骨折部の癒合促進のため超音波を使った骨折治療法を積極的に導入、実践している。
新病院の完成後は、月平均の外来患者数が大幅に伸び、建て替え前と比較して3割近く増加しているという。
急性期治療を終了した患者の支援体制では、院内に設置したリハビリ室で一人ひとりの患者に寄り添いながらリハビリを提供していくとともに、MSW(医療ソーシャルワーカー)をはじめ、多職種を配置した地域連携室が中心となり、リハビリテーション病院や介護施設につないでいく。連携先に患者を送った後も必ず状態を確認し、継続的にフォローする体制としている。
▲保広々とした空間のリハビリ室では、患者一人ひとりに寄り添いながらリハビリを提供 | ▲廊下の至るところに設けた坪庭からは、やさしい自然光が入る |
▲見晴らしのよい病棟の休憩室 | ▲地域住民や患者を対象にした市民講演会を院内の外来待合室で開催。患者の治療意欲の向上につながっている |
▲東京都災害拠点連携病院の指定を受け、JMAT 研修を受講した医師の指導のもと、全職員が参加して定期的に緊急時の訓練を実施 |
円滑な医療連携を図るための取り組みとして、地域の病院と連携し、勉強会や症例検討会を定期的に開催している。
現在、症例検討会は2カ所のリハビリテーション病院と行っており、各病院の医師や看護師、作業療法士、理学療法士などが参加し、それぞれが持ち寄った症例の検討を行うとともに、患者のリハビリの様子や状態を報告しあうことで、地域の病院間の連携を強化している。
また、地域連携の一環として、地域住民や患者を対象に認知症や骨粗鬆症、腰痛などをテーマにした市民講演会を院内の外来待合室を利用して開催している。その周知方法としては、東久留米市の市報にも開催案内を掲載し、毎回30〜40人の参加があるという。受講した患者の治療意欲が向上したというデータもあり、成果や問題点をまとめ、学会発表等している。地域住民に足を運んでもらうことで病院に対する敷居を低くし、受診してもらうことにもつながっている。
そのほかの取り組みでは、東京都災害拠点連携病院の指定を受け、アドバンストトリアージのできるJMAT(日本医師会災害医療チーム)研修を受けた2人の医師が中心となり、災害時にも適切な救急医療が行えるよう定期的な訓練を全職員で実施し、災害時にも備えている。
医療スタッフの確保が全国的な課題となっているなか、同院では医師に関しては、比較的安定して人材を確保することができているという。
「医師については、理事長と副院長の出身大学である順天堂大学と杏林大学の医局とのつながりから、整形外科や脳神経外科を中心に、質の高い専門医師の派遣を受けることができています。一方、看護師については、流動的な面があり、以前は紹介会社に頼らざるを得えない状況にありましたが、新病院になってからは、少しずつ看護師が集まるようになっています。人材確保と同時に、スタッフが定着するためには働きやすい職場の環境づくりが大切です。当院は離職したスタッフが再入職するケースも少なくありません。小規模で日頃からスタッフ同士のコミュニケーションがとりやすいことも、その要因となっていると思います」(野上事務長)。
職員の教育体制については、各専門職や全職種を対象とした多様な研修を行うほか、外部のさまざまな研修も積極的に活用している。職員から院外研修の受講の希望があれば応えており、スキルアップを目指したい職員には惜しみなく支援をしていく方針をとっている。
今後の展望について前田理事長は、地域にある複数の中小病院とのネットワークを構築していくことをあげている。
「中小病院が生き残っていくためには、それぞれの得意とする分野を活かし、不得手の分野を互いに補完するかたちでITを用いたネットワークを組んでいく必要があります。あくまでも個々の自主性、個性を活かした「バーチャル・ジェネラルホスピタル」を構築したいと考えています。このような構想を実現するためにも、脳神経外科と整形外科の専門性と質をさらに高めて、十分な力を蓄えていく必要があると考えています」。 現在の課題については、看護師の確保をあげており、今後はさらに働きやすい職場の環境づくりに取り組んでいく意向を示している。
地域に密着した「コンパクトな地域救急医療センター」をコンセプトに掲げ、地域医療に貢献する同院の取り組みが今後も注目される。
理事長/院長 | 前田 睦浩 | ||
職員数 | 73名(平成29年12月現在) | 病院開設 | 昭和26 年4 月 |
病床数 | 39 床 | ||
診療科 | 整形外科、脳神経外科、救急科、麻酔科、リハビリテーション科 | ||
指定・認定 | 二次救急医療機関、地域救急医療センター、脳卒中急性期医療機関、 東京都災害拠点連携病院、東京都認知症疾患医療センター |
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住所 | 〒203−0054 東京都東久留米市中央町 5 −13 −34 | ||
電話 | 042−473−2133 | ||
URL | https://www.maeda-hospital-tokyo.jp/ | FAX | 042−475−1163 |