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大阪市西成区・社会福祉法人大阪社会医療センター・大阪社会医療センター付属病院

大阪「あいりん地域」の病院が地域の変化に対応し、リニューアル

 福祉医療機構では、地域の福祉医療基盤の整備を支援するため、有利な条件での融資を行っています。今回は、その融資制度を利用された大阪市西成区にある大阪社会医療センター付属病院を取りあげます。同院は令和2年12月に移転新築して新病院を開設しています。これまで地域で担ってきた役割や新病院の取り組みについて取材しました。


無料低額診療施設として地域医療を支える


 大阪市西成区は、令和3年12月時点の高齢化率が39.8%と府内でも高齢化が進行し、子育て層である若い世代が少なく、全国的にみても生活保護率が高い(令和元年度の保護率:西成区23.00%、全国平均1.65%)といった多様な課題が存在している。そのなかでも、西成区の北東部に位置するあいりん地域」は、戦後から簡易宿所や「寄せ場」が集中し、日雇い労働者や生活保護受給者が多く居住している地域となっている。
 そのような地域特性のあるなか、社会福祉法人大阪社会医療センター・大阪社会医療センター付属病院(理事長:長山正義氏)は、日雇い労働者や生計困窮者の多い「あいりん地域」の地域住民を対象とした無料低額診療施設として、金銭的な問題で必要な医療を受けられない人たちに医療を提供してきた。
 法人の沿革としては、昭和45年に大阪市の全額出資により財団法人大阪社会医療センターを発足し、同年に設立された「あいりん総合センター」内に西成労働福祉センター・あいりん労働公共職業安定所と併設するかたちで大阪社会医療センター付属病院を開設。昭和47年に社会福祉法人に改組している。


地域特性に応じた医療を提供


 同院がこれまで地域で担ってきた役割・機能について、副院長の工藤新三氏は次のように語る。
 「当院は、昭和45年の開設以来、低所得者などに無料または低額な料金で診療を行う『無料低額診療施設の経営』、『医療・福祉に関する相談および支援』、『社会医学的 調査研究』の3つをミッションに掲げ、地域住民の健康・福祉の増進に寄与することを目的としてきました。受診患者の特徴としては、高齢者やこれまでの過酷な肉体労働、食事の偏りから高血圧症や糖尿病などの生活習慣病がある方をはじめ、骨や関節に関する疾患をもつ方が多いことがあげられます。また、投薬治療だけでなく、栄養指導を行うほか、関節・リウマチの専門治療、アルコール・薬物依存等の精神疾患の患者も多いため、精神科診療にも力を入れてきました。近年は、日雇い労働者の減少により、『あいりん地域』の人口は減少傾向にある一方、高齢化が進むなど、地域内での医療ニーズも変化してきています」。
 無料低額診療では開設当初は、減免診療で受診する割合が最も高かったが、現在は生活保護受給者の受診が8割を占め、減免診療で受診する割合は1割程度となっており、開設から50年で受診者層も変化してきているという。
 「あいりん地域」の特徴的な疾患としては、結核があり、その罹患率は全国平均20倍弱に達している。そのため、平成13年に大阪市が結核対策基本指針を策定し、10年ごとに罹患率を半減させる目標を掲げ、結核対策を推進している。
 同院では平成23年より結核の核酸増幅検査(TRC法)を院内で開始し、翌年にはさらに迅速な診断結果が出るLAMP法の導入に加え、呼吸器専門医の常勤枠をつくり、積極的な治療に取り組んできた。現在、第3次に入った結核対策基本指針は、これまで目標を達成しており、罹患率が高かった「あいりん地域」の減少幅は非常に大きい。


▲ 大阪社会医療センター付属病院の総合受付 ▲▼ 病室と病棟のデイルーム。新病院では個室を多く設け、女性も入院しやすい環境をつくった

▲ リハビリ室は拡張してリハビリ機能の充実を図った


令和2年12月に新病院を開設


 同院は、建物の老朽化のため、令和2年12月に移転新築を実施している。
 病院の移転新築を実施した経緯について、事務長の高澤昭彦氏は次のように説明する。
 「建物は築40年を経過し、老朽狭隘となっていたことに加え、平成26年に西成特区構想に基づき『あいりん地域のまちづくり検討会議』が開かれ、耐震構造に問題のあった『あいりん総合センター』の建て替え、病院の移転新築の方向性が示されたことから新病院の整備計画を進めてきました。開設地は旧病院から300mほど南の距離にある小学校跡地を確保して移転新築しました。新病院の近隣には、地域内の既存の市営住宅2棟が建替整備されていることもあり、これまで当院が担ってきた機能や役割を果たしながら、今後新たに地域に入ってくるファミリー層なども利用しやすい、地域に根ざした病院を目指しています」。
 新病院の建築にあたっては、大阪市の関連施設では初となるデザインビルド方式を採用。設計・工事監理・施工業務を一括発注することにより、個別の受注者の選定期間が必要なく、工期を4カ月間短縮することや建築費の大幅な削減につながったという。


受診時の待ち時間短縮や療養環境の充実を図る


事務局次長・事務長
高澤 昭彦氏

 同院の敷地面積は約2000m2。建物は地上5階建てで3〜5階部分が病棟となっている。新病院では電子カルテを導入し、外来は全科予約制とすることで受診時の待ち時間を短縮することにつなげている。外来診療では、午前診療(9〜12時)に加え、日中に受診できない日雇い労働者向けに行ってきた夜間診療(18〜19時半)を、日雇い労働者の減少後も高いニーズがあることから新病院でも継続しているという。「施設設計の工夫としては、旧施設では外来を5階に設置していましたが、新病院では地域住民の受診を促進するオープンな構造とするため、1階に設けました。職員の働きやすい環境づくりとしては、病棟にあるスタッフステーション内に職員専用の階段を設け、3〜5階をつなぐことで患者と接することなく効率的に行き来できる設計としました。そのほかにも、1階には抗がん剤治療などを行う化学療法室や精神科の専門外来を新たに設けました」(高澤事務長)。
 病床数は80床で、旧施設から変動はないものの、一般病床を80床から50床に減床し、新たに30 床の医療療養病床を設置したことにより、地域の高齢化に対応する病棟編成とした。入院環境としては、これまで個室は1室のみで2〜17人の多床室が中心であったが、4人部屋17室と個室12室で構成することにより、入院環境の充実を図った。
 また、結核患者に対応するため、12床ある個室のうち、4床を感染症対応病床として設置しており、院内には結核検査の採痰時に陰圧を維持し、飛沫の拡散を防止する採痰ブースを設けていることも特色となっている。
 コロナ禍においては、大阪府からの要請を受け、感染症対応病床2床をコロナ患者の受け入れ病床として活用開始し、感染拡大のピーク時にはより多くの患者を受け入れるため、感染症対応病床のほかに新たに個室を陰圧化する改修工事を行い、受け入れ病床を5床まで増床し、4階をコロナ専用病棟として運用したという。


▲ コロナ患者受け入れ病床として既存の感染症対応病床のほか、新たに陰圧装置を整備した病床を設置した ▲ 3〜5階の病棟にあるスタッフステーション内には職員専用の階段を設け、効率的に行き来できる環境をつくった

▲ 院内には結核検査の採痰時に飛沫の拡散を防止する採痰ブースを設置 ▲ リニューアルに伴い、最新の放射線機器を導入し、より質の高い医療を提供


年間1万5千件を超える相談に対応


▲ 医療・福祉に関する相談件数は年間1万5千件を超え、アウトリーチも積極的に実施している

 相談部門では、院内に設置している医療福祉相談係に医療ソーシャルワーカー2人と看護師を配置し、患者が抱える経済的、心理的、社会的問題等の不安や悩みなど、さまざまな相談に対応しており、年間の相談件数は1万5千件におよぶという。
 相談内容としては、医療費や転院、専門診療などに関する相談のほか、福祉制度や社会保障に関する相談が多く、保健所や福祉事務所、居住支援などを行う関係機関とも連携し、安心して療養してもらえるよう問題解決に向けた支援を行っている。さらに、新設した訪問看護ステーションの看護師や保健師、精神保健福祉士などの多職種と連携し、患者へのアウトリーチにも積極的に取り組んでいる。
 「例えば、結核はしっかりと服薬すれば治る疾患であるため、地域の保健師などが患者の自宅へ訪問し、服薬管理や生活状況の確認をしながら、一人ひとりの患者をサポートしています」(工藤副院長)。
 そのほかにも、地域に向けた取り組みとして、近隣にある市営住宅の集会所を借り、地域住民を対象にした健康に関する教室や相談対応などの出前授業を定期的に開催し、病院への親しみをもってもらうとともに、外来患者の増加につなげることを目指しているという。
 一方で、無料低額診療施設の運営で難しいこととしては、外国人への対応をあげる。
 「この地域には、結果的に不法滞在のような状態で暮らしている外国人もいますが、そのような人たちはどのような制度や支援からも外れてしまい、領事館や支援団体等に連絡しても対応が難しいという現状があります。当院は無料低額診療施設として、このような人たちの最後の砦という自負があるため、診療や入院などの医療費を病院の持ち出しで負担したケースも過去にはあります。今後、日本には多くの外国人が労働者として入国してきますが、そのなかでも『あいりん地域』は外国人のコミュニティがあり、居住費が安く住みやすいため、外国人の居住者が増加しており、このような問題は増えてくると思います」(工藤副院長)。


コロナ感染者の実態把握に取り組む


 今後の展望としては、これまで取り組んできた日雇い労働者、生計困窮者の健康と生活を支えながら、新しく地域に入ってきた若い年齢層が利用しやすい病院を目指していきたいとしている。
 「当院のミッションである社会情勢の変化を踏まえた社会医学的調査研究も進めていきたいと考えています。例えば、『あいりん地域』に居住する日雇い労働者や生計困窮者がどれくらい新型コロナウイルスに感染したのか、実際のところはわからないという実情があります。大阪府では第4波で爆発的に感染が拡大しましたが、受け入れ患者は市の要請で地域外の方を受け入れるケースが多く、外来をしていた印象として感染者はそれほど多くないように感じています。その理由として、単身の方が多く、公共交通機関を使って市街地に出かけることや集団行動を好まない傾向があるため、感染する機会が少ないことが考えられますが、この地域の新型コロナ感染者の実態を把握することは研究課題の一つになっています」(工藤副院長)。
 無料低額診療施設として「あいりん地域」の医療を支えながら、地域の医療ニーズの変化に対応する同院の今後の取り組みが注目される。


地域の関係機関と協働し調査研究に取り組む
社会福祉法人大阪社会医療センター
大阪社会医療センター付属病院
副院長 工藤 新三氏
 社会医学的調査研究では、「あいりん地域」に居住する日雇い労働者や生活困窮者の新型コロナウイルスの感染状況に関する実態を把握するほか、地域では外国人の人口が増加しているため、どのような状況の外国人が地域に入り、どのような疾患を抱えているのか調査研究をしていく必要があると感じています。
 また、地域では町会や社会福祉協議会、学識経験者、さまざまな分野の支援団体などで構成された「あいりん地域まちづくり会議」が定期的に開催され、まちづくりの方向性について検討しています。今後は地域をよくしていくためにも、病院内だけでなく、「あいりん地域まちづくり会議」のメンバーと協働して調査研究に取り組んでいきたいと考えています。


<< 施設概要 >>令和3年12月現在
理事長 長山 正義 病院開設 昭和45年7月
病院管理者 工藤 新三 職員数 88人
病床数 80床
診療科 内科、外科、整形外科、皮膚科、精神科、泌尿器科
住所 〒557−0004大阪市西成区萩之茶屋1丁目11番6号
TEL 06−6649−0321 FAX 06−6645−5410
URL https://osmc.or.jp/


■ この記事は月刊誌「WAM」2022年2月号に掲載されたものを一部改変して掲載しています。
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