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サービス取組み事例紹介
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福岡市・社会医療法人財団白十字会「白十字病院」

地域の医療拠点、交流拠点となることを目指して

 福祉医療機構では、地域の福祉医療基盤の整備を支援するため、有利な条件での融資を行っています。今回は、その融資制度を利用された福岡市にある白十字病院を取りあげます。ケアミックス病院の同院は、令和3年4月に急性期と回復期を担う2つの病院に分院して医療機能の強化を図っています。医療機能や実践する医療提供の特色について取材しました。


切れ目ない医療介護サービスを提供


 昭和4年に創立された社会医療法人財団白十字会(理事長:富永雅也氏)は、長崎県佐世保市と福岡市西区、糸島地区を拠点に、「患者さん・利用者さんが一日も早く社会に復帰されることを願います」という基本理念のもと、救急医療から急性期・回復期・慢性期、在宅介護に至るまで切れ目のない医療介護サービスを提供している。
 法人施設は、急性期病院の佐世保中央病院と白十字病院、回復期リハビリテーション病院の燿光リハビリテーション病院の3カ所の病院をはじめ、介護老人保健施設、介護付有料老人ホームのほか、在宅サービスなど、31施設・事業所を運営している。
 福岡市にある白十字病院は、昭和57年の開設以来、福岡市西区と糸島地区を拠点に、救急医療をはじめ、急性期・回復期・慢性期医療を提供する466床のケアミックス病院として地域医療の中核を担ってきた。
 主な施設認定は、福岡市西区で唯一の地域医療支援病院の承認をはじめ、基幹型臨床研修病院、開放型病院の許可を受けている。


分院により専門性と医療機能の強化を図る


 同院は、開設40周年を迎える令和3年4月に分院し、約300m離れた場所に急性期病院として移転新築するとともに、既存施設を増改築して回復期に特化した白十字リハビリテーション病院を開設することにより、それぞれの専門性と医療機能の強化を図っている。
 分院を伴う病院の移転新築を実施した経緯について、白十字病院病院長の渕野泰秀氏は次のように語る。
 「これまで度重なる医療制度の変革や施設基準の見直しのたびに、病院機能を強化するため、職員の増員や施設の増改築、新たな設備の導入などを行い、地域から求められる医療に対応してきました。その一方で、病院のスペースが手狭になったことに加え、建物の一部が非耐震構造であることや老朽化などのさまざまな問題が生じていたことから、質の高い医療を継続していくために病院を2つに分院することにより、機能分化や機能強化を図り、さらに地域医療に貢献していく方針を打ち出しました」。
 新病院の開設地は、福岡市の西部市場跡地を活用した事業提案の公募で採択されたもので、病院の機能強化にとどまらず、敷地内に地域交流サロンや防災拠点にもなる健康フィットネス広場を設置するなど、地域の健康づくりに貢献していくことを提案したという。新病院の建物は地上7階建てで、1階には総合受付や救急センターのほか、地域交流の拠点となる収容人数250人の多目的ホール「いきいきホール」などが入り、2〜3階は外来診療、検査室、手術センターなど治療エリアとなり、4〜6階部分が病棟となっている。
 病床数は一般病床219床、地域包括ケア病床45床、ICU12床、SCU6床の計282床とし、救急医療と専門医療を中心にさらなる医療機能の充実を図った。


▲ 病院入口にはアートを取り入れ、安らぎを与える空間をつくった ▲ 病棟の設計は、患者の見守りを重視してスタッフステーションを中心に病室を配置する「ダンベル型病棟」を採用

▲ 白十字病院の病室(多床室) ▲ 拡張した手術センターは、ハイブリッド手術に対応可能な手術室を含め、6室を整備。年間手術件数は2,100件と移転新築前の1.3倍に増加した


新病院が掲げる4つの役割


 新病院の担うべき役割としては、@高度専門医療、A救急医療、B在宅療養後方支援、C健康なまちづくりの4つを掲げた。
 「高度専門医療では、専門医療を提供する11のサブセンターを有しており、移転新築後は脳卒中センターと心臓・弁膜症センターを新設しました。とくに高齢者特有の疾患の増加に対して、高度でありながらも、患者にとって負担の少ない医療を提供することに力を注いでいます。脳卒中センターでは、令和5年4月にSCU(脳卒中ケアユニット)を開設し、さらに質が高く予後のよい脳卒中治療を提供できるよう体制を整えています」(渕野病院長)。
 そのほかにも、同院は脳卒中の外科治療、tPA療法(血栓溶解療法)、カテーテルを用いた治療のいずれにも対応できる地域で唯一の病院であり、心臓弁膜症に対しては県内では3病院しか行っていないMICS手術(小切開でありながら精微な低侵襲心臓手術)も実施している。
 救急医療では、年間約4,000件の救急搬送を受け入れており、福岡市西部と糸島地区の全件数の25%に相当する。今後さらに高まる救急医療の需要に応えていくため、手術室は旧施設の4室からハイブリット手術に対応可能な手術室を含め、6室に拡充するとともに、常勤の麻酔医2人を増員して体制を強化した。これにより年間の手術件数は2,100件と、新型コロナウイルス感染拡大の影響があるなか移転新築前の1.3倍に増加しているという。
 在宅療養後方支援の取り組みとしては、高齢化に伴い在宅療養患者が増加するなか、地域の診療所と協働することにより、治療が必要となった際の後方支援体制を強化している。
 地域の医療機関との連携について、事務局長の石原覚氏は次のように説明する。
 「超高齢化が進む地域医療のなかでは、病院と診療所の役割分担を明確にし、互いに協働して円滑に連携することが求められていますが、当院は福岡市西区で唯一の地域医療支援病院として253施設が登録医療機関となっています。地域連携を円滑にする取り組みとして、平成18年に法人が独自に開発した地域医療連携ネットワークシステム『クロスネット』を導入し、93施設が加入しています。医療機関間でインターネットを利用し、カルテ情報を共有するシステムで、現在はシステム改修中ですが、紹介率93.7%、逆紹介率86.5%となっており、スムーズな連携を図ることができています」


▲ 新設した脳卒中センター、心臓・弁膜症センターを含め、11のサブセンターを有して高度専門医療を提供 ▲ 病院1階には収容人数250人の多目的ホール「いきいきホール」を設置し、地域の交流拠点として活用

← 敷地内には、運動機能やリハビリ機能の向上遊具を設置した「健康フィットネス広場」を設け、地域住民の健康づくりに貢献。災害時の防災拠点としての機能も備える


健康なまちづくりに向けた取り組み


 健康なまちづくりに向けた取り組みとしては、院内に設置した「いきいきホール」を活用して、地域住民を対象に健康に関する講座やセミナー、栄養指導などを通して交流を図りながら、健康づくりをサポートすることを目指している。そのほかにも、院内には医学書やビデオを多数取り揃える患者用の図書室「医療情報プラザ」を設置し、患者だけでなく地域住民にも開放しているという。
 さらに、健康な生活習慣づくりとして、敷地内にウォーキングを楽しめる歩道を整備するとともに、院内託児所を併設したコミュニティサロンや健康フィットネス広場を設けた。
 「コミュニティサロンは、地域の集い場として健康や認知症予防などに関する各種教室を開催したり、情報発信の場として活用する予定でしたが、新型コロナの影響で大人数を集めることが難しいため、現在は地域のサークル活動などに貸し出しています。コロナ収束後は健康づくりにつながるさまざまな活動に活用していきたいと思います」(石原事務局長)。
 健康フィットネス広場(約750u)は、運動機能やリハビリ機能の向上遊具を設置し、地域住民の健康づくりに活用されている。被災時に災害拠点となる機能を備え、トイレとして利用できるマンホールや仮設テントとなる東屋、釜戸として利用できるベンチなどを設置した。災害拠点として非常用発電機や太陽光発電も整備し、インフラが停止した際に3日間は病院機能を維持することが可能となっており、十分な広さをもつ立体駐車場を避難場所やトリアージスペースとして活用することを想定している。
 そのほかにも、同院は令和3年4月より内科専門医研修プログラム基幹施設の認可を受けており、果たすべき社会的責務が大きくなっているという。


回復期病院としてリニューアルオープン


 分院により令和3年4月に開院した白十字リハビリテーション病院は、施設の増改築を経て、令和4年8月に病床数160床(回復期リハ病床120床、地域包括ケア病床40床)の回復期病院としてリニューアルオープンした。
 「自立した生活、社会復帰への架け橋となるハートフルリハビリテーション」をコンセプトに、医師12人をはじめ、理学療法士46人、作業療法士38人、言語聴覚士11人で構成する手厚い専門職によるチーム医療を実践している。
 提供するリハビリの特色としては、最新のリハビリ機器や電気刺激療法を用いたリハビリ提供のほか、脳卒中治療ガイドラインで推奨される「促通反復療法」、「課題指向型訓練」も積極的に実施しながら、365日体制のリハビリを提供している。
 また、リハビリ以外でも機能強化を図るため、患者に離床を促す環境づくりとして、大画面のスクリーンを備えたサロンを設け、映画や音楽鑑賞、演奏などのエンターテイメントを楽しむことのできる環境をつくっている。そのほかにも、一般的に患者がセラピストと一緒にリハビリに取り組む時間は1日2〜3時間程度であることから、リハビリ以外の時間も有意義に過ごしてもらえるよう、夕方レクリエーションとして、退院後にも実践できるノルディックウォークやコグニサイズ、脳トレなどのさまざまなプログラムを実施しているという。
 同院は、今年度よりリハビリテーション専門医教育研修施設となった。リハビリ科は専門医が圧倒的に不足している診療科であり、新しいリハビリ医師を育成していくことに力を入れていきたいとしている。


白十字リハビリテーション病院
▲ 令和4年8月にリニューアルオープンした白十字リハビリテーション病院 ▲ リハビリ室では、最新のリハビリ機器や電気刺激療法を導入し、365日休まずリハビリを提供

分院により効率性、収益性が向上


 分院による効率性や経営面の影響については、それぞれの専門性に特化することで生産性が高まり、収益も上げることにつながっているという。
 「これまで急性期の高度専門医療に加え、慢性期医療も行っていましたが、分院することで集中的に急性期医療に力を注ぐことができるため、効率性や生産性が向上しています。当然ながら病院を2つに分けることで、それぞれの費用は増えますが、白十字病院でいうと、手術件数は大幅に増加し、診療単価は旧施設の5万6000円前後から令和3年度は6万5000円に上がり、今年度は7万円を超えており、急性期に特化することで収益が上がることにつながっています」(石原事務局長)。
 今後の展望としては、超高齢化社会に向け、地域医療構想に対応し、地域包括ケアシステムが形成されていくなかで、自院の役割と立ち位置をしっかりと見定めたうえで、機能分化と連携を強化した医療を展開していくことをあげている。
 「高齢化が進むなかでは、医療と介護のシームレスな連携強化が必須であることを念頭に置き、職員が時代の一歩先を見据えた医療の実践を心がけ、地域に密着した愛される病院づくりを進めていきたいと思います」(渕野病院長)。ケアミックス病院を分院し、それぞれの専門性と機能強化を図ることで地域医療に貢献する同院の今後の取り組みが注目される。


各機能を強化し、地域医療に貢献
社会医療法人財団白十字会 白十字病院
病院長 渕野 泰秀氏
 今後は、将来の当院のあるべき姿を見据えつつ、地域から求められる医療機能に応えていくためにも、「高度専門医療」、「救急医療」、「在宅療養後方支援」、「健康なまちづくり」の4本柱の各機能を向上させることにより、地域医療に貢献できるよう鋭意努力していきたいと考えています。さまざまな病院機能を展開していくためには、院内での多職種協働を強化し、職員一人ひとりが互いの専門性、職能をプロフェッショナルとして尊重しながら、より安全で質の高い医療を追求していく必要があると考えています。「医療は人」、「医療は心」であり、人が育つ病院として“医療に夢をもつ者たちが活躍できる場”であり続けたいと思います。


<< 施設概要 >>令和4年10月現在
理事長 富永 雅也 病院開設 昭和57年
病院長 渕野 泰秀 病床数 282床(一般病床219床、地域包括ケア病床45床、ICU12床、SCU6床)
診療科 内科、糖尿病内科、脳・血管内科、脳神経内科、腎臓内科、人工透析内科、 肝臓内科、消化器内科、心臓血管内科、内分泌内科、呼吸器内科、放射線科、 精神科、外科、消化器外科、肝臓・胆のう・膵臓外科、肛門外科、乳腺外科、 呼吸器外科、心臓血管外科、血管外科、整形外科、脳神経外科、泌尿器科、 形成外科、眼科、救急科、麻酔科、リハビリテーション科、臨床検査科、 病理診断科、歯科、歯科口腔外科(計33診療科)
職員数 809人(うち非常勤201人)
法人施設 〈佐世保地区〉佐世保中央病院(312床)、燿光リハビリテーション病院(330床)、介護老人保健施設2カ所、介護サービス事業所21カ所 〈福岡地区〉白十字リハビリテーション病院(160床)、介護サービス事 業所5カ所
住所 〒819−8511 福岡市西区石丸4−3−1
TEL 092−891−2511 FAX 092−881−4491
URL https://www.fukuoka.hakujyujikai.or.jp/


■ この記事は月刊誌「WAM」2022年10月号に掲載されたものを一部改変して掲載しています。
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