サービス取組み事例紹介
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広島県安芸郡海田町にある社会福祉法人創絆福祉会は、平成29年5月に海田町の公募事業の採択を受け、地域密着型特別養護老人ホーム「花みずき」を開設している。「新しい価値観の創造」という法人理念のもと、寝たきりや認知症、障害などにより失われた、その人らしい生活を、自立支援の介護を提供することにより、本人と一緒に再建することに取り組んでいる。
同法人は、公募の採択後、社会福祉法人の設立手続きを行い、平成28年4月に社会福祉法人の認可を受けた。
平成29年5月に開設した同施設は3階建てで、1階に事務所や用務室、地域交流スペースが入り、2〜3階が居住フロアとなっている。入所定員は29人で、入居者9〜10人を1ユニットとする3ユニットとショートステイ(11床)1ユニットで構成している。
介護方針では「自立支援の介護」と「根拠に基づく認知症ケア」を実施し、入居者が生きてきたなかでしてきたやり方、人として当たり前の生活を、人間学、生理学、運動学にかなった自立法による介助で支援している。具体的には、「食事は座って食卓を囲んで食べる」、「入浴は個浴で肩まで浸かる」、「排泄はトイレでする」といった、これまで当たり前であった生活習慣を取り戻すことに取り組んでいる。
実践するケアの特色について、同法人理事・相談役で開設から3年間施設長を務めた山根喜代治氏は次のように説明する。
「当施設では、車いすを使用する利用者であっても、食事や排泄、入浴する際には、必ず利用者一人ひとりの下腿長にあわせた高さの椅子に座り替えてもらっています。座位を保つことは介護の仕事でいちばん重要なことで、正しい座り方ができれば、足の裏に自然と体重がかかり、踏ん張れるだけでなく、覚醒レベルも上がり、食事や排泄をスムーズに行うことができるようになります。移乗介助の方法では、正しい姿勢で座り、足に体重を移し前かがみになってもらい、腰を浮かせることでスムーズに移乗することが可能となります。このような自立支援の介助方法は、毎回自分の能力を使うため、優れたリハビリ効果があり、自分で立ち上がれる人が増えています。スタッフにとっても利用者を抱えたり、引っ張り上げるなどの動作がなく、腰痛の防止にもつながります」。
施設内のテーブルや手洗い場などの設備も、すべて椅子に座り替えた高さに設計されている。
▲ 地域密着型特養「花みずき」のロビー | ▲ 居室は、全室個室で洗面所を完備 |
▲ 利用者一人ひとりの下腿長にあわせた椅子を用意することで、正しい座位を保持し、移乗や食事の際に必要な前かがみの姿勢を自然にとることができる | ▲ 洗い場などの設備は、椅子に座った高さを想定して設計されている |
トイレや浴室は、これらの介助方法を行いやすい設計の工夫をしている。トイレには可動式の補助テーブル「FANレストテーブル」を設置し、テーブル面に身体を預けることで、手すりとは異なり安全かつスムーズに腰を浮かせることができ、便座への移乗がしやすく、排泄に適した前傾姿勢の保持が容易となっている。これにより介護スタッフ1人で介助することができるという。
入浴はすべて個室で、人間工学に基づく浴槽設計により利用者の能力を活かしながら、自然な入浴動作を可能とするユニットバス「セルフィーユ」と、可動式入浴台「アクアムーブ」を導入している。浮力を活かせる浴槽の深さ(50cm)により、利用者・介護スタッフの負担軽減を図り、歩行が困難な人も座って入浴することができるという。
また、食事は利用者同士のコミュニケーションを図るうえで重要となるが、長方形のテーブルに横ならびに座ると、互いの顔がみえないことから、2つのテーブルを組みあわせると六角形になるテーブルを利用することで、互いの顔をみながら食事ができる環境をつくっている。
そのほかにも、リハビリや人間関係づくりの取り組みとして、遊びとリハビリテーションを合成した「遊びリテーション」を実施している。
プログラムを通して利用者同士の人間関係をつくるため、職員は毎回、人間関係づくりを行う対象者を考えながら、プログラムの内容や利用者の座る位置などを決めているという。
「『遊びリテーション』で実施する『物送りゲーム』や『風船バレー』などのプログラムは、多くの介護施設ではレクリエーションとして行われていますが、本来は椅子に座って、ボールが飛んできた方向の足に体重をかけるバランス力の向上を図ることを目的としています。前かがみになる練習や股関節の可動域を広げるプログラムを行うことで、移乗をしやすくしたり、スムーズに入浴ができることにつなげています」。
▲ 各ユニットに設けた共有スペース。 「食事は座って食卓を囲んで食べる」ことを実践 |
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▲ 浴室は、自然な入浴動作を可能とする浴槽と用具を導入し、要介護度が高い利用者でも個浴を楽しめる | ▲ トイレには可動式の補助テーブル「FANレストテーブル」を設置し、移乗がしやすく最期までトイレでの排泄が可能に |
さらに、利用者一人ひとりの望む生活や叶えたいことを実現するため、ケアプランより踏み込んだ「幸せづくり計画書」を作成し、そのために必要な支援に取り組んでいる。
「幸せづくり計画書」の具体例として、ある利用者は入所前に毎年行っていた、結婚記念日に奥さんと食事に出かけ、プレゼントを贈るというプランをを作成。そのためには何が必要かを考え、まずは遊びリテーションに参加してもらい、外出するために最低でも2時間は座位を保てるようにするとともに、排泄の自立に取り組むことで実現できたという。
実践するリハビリの考え方について、施設長の沖田和之氏は次のように語る。
「当施設のリハビリの概念としては、身体機能を高めることではなく、利用者を元のあるべき姿に戻し、当たり前の生活を再建していくことであり、『生活をリハビリ』することが目的になります。もちろん、退院後や手術後にはリハビリ室などで提供する身体機能を高めるリハビリも必要ですが、基本的には専門的なリハビリが必要ないくらい充実した日常生活を送ってもらい、自立支援の介助を受けるたびに自分の能力を使いながら、自立していくことを目指しています」。
▲ 地域密着型特別養護老人ホーム花みずき 施設長 沖田 和之氏 |
認知症ケアの取り組みでは、さまざまな症状の原因を探り、根拠に基づいた症状の改善を図っている。具体的には、認知症の症状を「身体不調」、「環境不適応」、「認知障害」、「周辺症状」の4つのタイプに分けてケアを行っている。
「身体不調タイプでいうと、いちばんわかりやすいのは脱水状態と便秘です。便秘は自律神経を刺激するので興奮状態や暴力的になりますが、解消してあげることで症状が出にくくなります。また、水分が足りないと最初は微熱が出て、力が入らず転倒のリスクがあったり、日中に虚脱している場合は脱水状態であることが大半です。さらに脱水状態が進むと、水分欠乏による幻視・幻覚の症状がでるケースがありますが、しっかりと水分を補給してもらうことで防ぐことができます。また、物忘れが典型的な症状の認知障害タイプは、繰り返し覚えてもらいながら、できないところを援助していきます。例えば、トイレは施設内の同じところを使用してもらい、動線を単純にしてその人にわかる目印をつけたり、その人がわかる言葉を職員全員で共有して話しかけるなど、わかりやすくしていくことが大切です」(沖田氏)。
そのほかにも、環境が変わることがストレスとなり症状が出る環境不適応タイプでは、一刻も早く環境に慣れてもらうケアが必要となる。毎日顔をあわせる担当職員と早期に信頼関係を構築し、入所時に自宅で使用していた家具や私物などを持ち込んでもらい、人と物の環境を変えないことに取り組んでいる。
これらの自立支援の介護や認知症ケアを提供することにより、寝たきり状態の利用者は1人もおらず、オムツ使用率ゼロを実現している。寝たきり状態で入所した利用者が座って食事をとれるようになったり、要介護度が改善するケースも多くなっている。利用者は少しずつできることが増えることで、さらに生活意欲が高まることにつながっているという。
運営状況としては、一般的に地域密着型特養は定員数が少なく、人員配置上も利用者当たりの職員数が多くなる傾向にあり、収益の確保が難しく、費用がかさみやすい収支構造といわれるなか、同施設の経営状況は良好で開設2年目に黒字に転じているという。
「経営状況が安定しているのは複合的な要素がありますが、当施設は全国の地域密着型特養と比べてもあまりよい条件ではないと思います。開設施設は『花みずき』のみで、多くの地域密着型特養は法人内の敷地内に建てたり、併設だと職員の兼務も可能となりますが、それもありません。それでも開設3カ月で満床になり、質の高い自立支援の介護や認知症ケアを実践していることが地域に広まり、現在の入所待機者は40人半ばで年々増えている状況です。経営が安定している要因としては、満床を維持していることや11床あるショートステイの高い稼働率に加え、令和3年度の介護報酬改定で新設された自立支援促進加算を算定していることがあげられます。自立支援促進加算の単位数は300単位/月で、他の加算と比べると単位数が大きく、30年以上前から私が実践してきたことがようやく認められました」(山根氏)。
さらに、入居者のオムツ使用率をゼロとすることで、オムツ代がかからず年間400〜500万円の経費削減につながっているという。
そのほかにも、地域に向けた活動として地域交流ホールを活用し、認知症カフェを開催している。認知症カフェの運営では、同法人が主導するのではなく、行政と協働して認知症サポーター養成事業を実施し、地域の認知症の人のためにボランティア活動に参加する人たちを集め、開催場所の提供とともに事務局を担い、地域住民に主体的に活動してもらうことにより地域力を高めることに取り組んでいる。
「新しい価値観の創造」といいいう法人理念のもと、利用者の当たり前の生活を支える同施設の今後の取り組みが注目される。
▲ 地域交流ホールは、認知症カフェの開催や地域交流の場として活用している |
理事長 | 大瀬戸 量子 | 開設 | 平成29年5月 |
理事・相談役 | 山根 喜代治 | 施設長 | 沖田 和之 |
入所定員 | 29人 | ||
併設施設 | ショートステイ(11床) | ||
住所 | 〒736−0025 広島県安芸郡海田町大立町6番4号 | ||
TEL | 082−821−0201 | FAX | 082−821−0220 |
URL | https://souhan.or.jp/index.html |