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サービス取組み事例紹介
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—鳥取県西伯郡南部町・公益社団法人青年海外協力協会 JOCA南部地域生活支援拠点施設—

全世代が「ごちゃまぜ」に関わりあうまちづくりを推進

福祉医療機構では、地域の福祉医療基盤の整備を支援するため、有利な条件での融資を行っています。今回は、その融資制度を利用された鳥取県西伯郡南部町の青年海外協力会JOCA南部を取りあげます。同協会は南部町版「生涯活躍のまち構想」の実施主体として地域再生推進法人の指定を受け、まちづくりを推進しています。その取り組みについて取材しました。

▲ 施設の外観

地方創生事業、まちづくりの推進に参画


 公益社団法人青年海外協力協会(代表理事:雄谷良成氏)は、開発途上国の人々のために自分のもつ技術や経験を活かし活動してきた青年海外協力隊の帰国隊員を中心に昭和58年に組織され、平成24年に公益社団法人に移行している。
 青年海外協力隊で培った経験を広く普及するため、OB・OGをはじめとする多くの団体とのネットワークを活用し、地域に根ざした国際交流・国際協力の先駆者として、国内においても有益な協力活動を展開していくことを目的にしている。
 法人本部のある長野県駒ケ根市のほか、東京、神奈川、宮城、愛知、大阪、広島、鳥取、沖縄に支部を設置しており、現在は長野県駒ケ根市、宮城県岩沼市、広島県安芸太田町、鳥取県南部町で事業を展開している。
 近年は、地方創生事業やまちづくりの推進に参画し、平成27年に宮城県岩沼市と「まち・ひと・しごと創生に関する協定」、平成29年に鳥取県南部町、平成30年に広島県安芸太田町と内閣府の「生涯活躍のまち構想」の一環として、同協会が地域再生推進法人の指定を受け、事業展開を進めている。
 なお、地域再生推進法人は、地域再生法に基づき、地方公共団体の補完的な立場で地域再生の推進を行う非営利法人等を指定できる制度として創設。同協会が推進するまちづくりのコンセプトとしては、年齢や性別、障害の有無に関わらず、地域の多様な人たちが「ごちゃまぜ」に相互に関わりあい、みんなが元気になるまちづくりに取り組んでいる。

「生涯活躍のまち構想」の事業主体としてまちづくりを推進


 鳥取県南部町にある青年海外協力協会南部事務所(以下、JOCA南部)は、平成28年4月に開設された。鳥取県、南部町と「地方創生に係る基本協定」を締結し、同年10月に南部町が作成した「生涯活躍のまち構想」の事業主体として地域再生推進法人の指定を受け、まちづくりの具現化に取り組んでいる。


 ▲▼ 温泉施設内に設けた食事処とフリースペース。地域のコミュニケーションの場として多くの地域住民が訪れる ▲▼ 拠点の中核を担う天然温泉施設は、地域住民にとどまらず地域外からの利用も多く、まちの活性化につながっている

 県西部に位置する南部町は、平成16年10月に西伯郡西伯町と会見町が合併して誕生した。町の南側に平地・丘陵地が広がり、水田地帯と町の特産品である柿や梨などの樹園地を形成。自然豊かな「里地里山」が残り、環境省の「生物多様性保全上重要な里地里山500選」に西日本で唯一、全町域が選定されている。
 人口は約1万人で、高齢化(高齢化率37.6%)の進行に伴い、人口減少や産業の継承問題、空き家問題、障害者の働き口の不足などの地域課題を抱えている。
 南部町が計画したまちづくりのコンセプトと役割について、JOCA南部代表の亀山明生氏は次のように語る。
 「計画の基本的な考え方としては、まちが求める人材に他地域から移住してもらうとともに、必要な医療・介護・福祉サービスを継続的に受けられる体制を整備し、移住者だけでなく地元住民にとっても暮らしやすいまちづくりを目的としています。そのなかでも、当協会は福祉を中心としたまちづくりを行いながら、地域の誰もが『ごちゃまぜ』に相互に関わりあい、尊重しあう関係性をつくり、みんなが元気になるまちづくりを推進しています」(以下、「 」内は亀山代表の説明)。
 同協会のほか、地域再生推進法人には空き家を活用した移住・定住の促進を担う「NPO法人なんぶ里山デザイン機構」と、生涯スポーツの普及や健康維持・増進に関する事業を担う「NPO法人南部町総合型地域スポーツクラブ」が指定され、それぞれが強みを活かしながら事業を展開している。


海外協力隊OBが移住し、培った経験を活かす


 これまで町内になかった就労継続支援A型事業所、放課後等デイサービスを立ち上げたほか、令和4年6月に障害者グループホーム、就労継続支援B型、生活介護、相談支援、児童発達支援の機能を有するJOCA南部地域生活支援拠点施設(以下、JOCA南部拠点)を開設した。放課後等デイサービスの実施にあたっては、教育委員会の協力のもと、町内の小中学校にニーズ調査を行い、開設の準備を行ったという。
 開設地は、町役場、総合福祉センター、西伯病院などの関係機関が集まるまちの中心部に展開することで、利用者が地域社会のなかで生活する環境をつくった。また、各事業所は空き家を利活用することで、既存のまちなみと一体化させるとともに、地域住民が慣れ親しんだ環境を継承しながら、まちを活性化させていくことを目指した。
 さらに、職員は青年海外協力隊の帰国者が南部町に移住し、事業運営に携わっており、開発途上国や被災地支援などで培った経験やノウハウを地域課題の解決に活かしている。
 「現在、JOCA南部の職員は20人ほどで、そのうちの半分は私を含めて青年海外協力隊のOBが他地域から移住しています。家族も一緒に移住しているため、南部町に貢献することにもつながっていると思います。これはJOCA南部に限らず、当協会が全国で推進しているまちづくりでも同じスタンスで、青年海外協力隊は帰国すると、オリエンテーションがあり、まちづくりの人材を確保したい人が集まり、それぞれの活動を説明して誘致しています。青年海外協力隊の経験者は、これまで培った支援活動の経験から人の懐に入り、すぐに地域に溶け込めることが強みだと感じています」。


地域課題の解決に向け、事業承継に取り組む


 就労継続支援A型事業の活動では、人手不足や継承者がいないため、生業を継続することができない柿を栽培する農家や豆腐をつくり販売等をしていた団体からノウハウの提供や指導を受け、事業を承継することに取り組んでいる。
 「そのほかにも、就労継続A型事業では、製麺所の運営や配食サービスを実施しています。製麺所では、ブータン産のそばの実を輸入して利用者が製粉、製麺をしています。配食サービスでは調理と配送を担い、利用者が独居高齢者に食事を届けて見守りをすることにより、障害がある人も一緒に地域を支える構図をつくることができ、地域住民と関わる機会も多くなっています」。


 ▲ 就労継続支援A型事業では、担い手不足により廃業した豆腐店の事業を承継 ▲ 空き家を利活用した障害者グループホーム
▲ 豆腐づくりとそばの製麺を行う利用者の様子


温泉を開設し、地域交流と活性化につなげる


 さらに、JOCA南部拠点では、温泉を掘削し、天然温泉施設をオープンさせている。
 施設内には、温泉のほか、食事処やフリースペースを設け、地域交流の場として地元住民に親しまれている。泉質がよいことから地域外からの利用客も多く、まちの活性化にもつながっているという。食事処では障害者が製麺したそばを提供しており、人気メニューとなっている。
 「当初、地域住民は温泉の入浴料を無料にすることも検討しましたが、少しでも関わる機会をつくりたいと考えたことから、施設周辺の草刈りや、温泉内の備品整理・片付け、人手が足りないときの手伝いなど、当協会のボランティア活動(週1時間)に参加してくれた人を『南部町生涯協力隊』として登録し、入浴料を無料としています。現在、登録者は60人を超え、小学1年生から80歳代の高齢者まで年齢層も幅広くなっています。ボランティア活動を通して住民同士のつながりや多世代交流が生まれるとともに、自分たちでまちを活性化させることに意欲的になっていただいています」。  


 ▲ 同協会のボランティア活動に参加する「南部町生涯協力隊」の登録者は60人を超える。住民同士のつながりとともに多世代交流の機会に発展 ▲ 利用者が製麺したそばは食事処の人気メニューになっている


子どもと高齢者が関わる環境を整備


 今後の展望としては、今年度中に拠点内の空き家を改修して不登校やひきこもり状態の子どもを対象にした第3の居場所を立ち上げる予定となっている。さらに、第2期計画として、高齢者デイサービスやショートステイ、小規模保育を開設し、子どもと高齢者が交流できる環境をつくることを構想している。そのほかにも、地域住民の健康増進や介護予防に活用してもらうウェルネス施設を設置し、施設内には誰でも気軽に利用できるフリースペースを設ける予定だという。
 「フリースペースは、温泉施設内にも設置しているものの、温泉や食事処を利用しなければ、足を運びにくいことから、目的がなくても自由に過ごせたり、地域のコミュニケーションの場として活用してもらうことを想定しています」。
 まちづくりを推進するなかでの課題としては、支援者の人材確保が難しいことをあげている。
 「南部町と地域再生推進法人とで定例会を実施していますが、どの団体も人手が足りないという話が多くなっています。町内にはさまざまな団体がありますが、ほとんどの団体は連携を具体化するゆとりや具体的なイメージはなく、自分たちの活動の範囲のなかにいます。人材や担い手が不足する実情をみれば、各団体が連携しあうことで、それぞれの不足を補うことができるのではないかと思います。その一方で、青年海外協力隊の隊員は年間約1,200人が派遣先から帰国していますが、そのなかには教職員や保育士、保健師、作業療法士、理学療法士などの有資格者も少なくありません。そのような人材を誘致できる可能性があることは当協会の大きな強みとなっています。そのためにも、地元住民だけでなく、支援者にとっても魅力的でみんなが元気になるまちづくりを推進していく必要があると考えています」。
 現在、JOCA南部拠点は、海外派遣前の研修施設として協力隊員を受け入れる取り組みも開始しているという。
 福祉を中心に、地域の誰もが『ごちゃまぜ』に相互に関わりあい、尊重しあう関係性をつくり、みんなが元気になるまちづくりを推進する同協会の今後の取り組みが注目される。

「ごちゃまぜ」の環境によるまちづくりは地方でこそ活きる
公益社団法人青年海外協力協会 JOCA 南部
代表 亀山 明生氏
 とくに地方は、働き手が少なく、人材が不足しているため、その部分を就労意欲のある障害者や外国人、開発途上国から帰国した若者で補っていきたいと思っています。
 そのような「ごちゃまぜ」の環境によるまちづくりは、地方でこそ活きるのではないかと考えています。
 また、交流拠点が完成したことにより関係人口が一段と増え、地域のニーズを把握しやすくなり、新たなイベントを企画した際にも協力が得られる環境ができています。
 今後は、地域再生推進法人との連携を強化するとともに、さらに「南部町生涯協力隊」を機能させることで、まちの活性化に取り組んでいきたいと思います。



<< 施設概要 >>
代表理事 雄谷 良成 法人設立 昭和58年
JOCA 南部代表 亀山 明生 JOCA 南部開設 平成28年
開設施設 障害者グループホーム(定員10人)/就労継続支援A・B型事業所(定員各30人)/生活介護(定員10人)/放課後等デイサービス・児童発達支援(定員10人)/相談支援事業所/放課後児童クラブ
住所 〒683−0351 鳥取県西伯郡南部町法勝寺484
TEL 0859−36−8010 FAX 0859−36−8010
URL https://www.joca.or.jp/base/nanbu/


■ この記事は月刊誌「WAM」2023年6月号に掲載されたものを一部変更して掲載しています。
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