サービス取組み事例紹介
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▲認知症専門棟でも利用者は自由に行動することができる | ▲一般棟の居室。楽しいイベントが用意されるため、利用者が居室で過ごすことはない |
活動では、茶道、書道、陶芸、木工など20種類以上の作業療法をもとに、さまざまな活動を行う「アクティビティリハビリテーション」を実践している。利用者にとっては楽しいことが前提であり、本人にリハビリの意識はなくても、楽しく参加するだけで機能の維持・向上や脳の活性化、精神状態の安定などのリハビリ効果が期待できる。同施設では一芸職員とよばれるそれぞれの活動の専門職員がついており、陶芸では麻痺がある利用者がろくろを回していたり、木工で90歳の利用者が彫刻刀を使用している。これらの活動は、本格的な環境を用意しなければ本気にならないと考えている。なお、活動には入所・デイケアに関係なく自由に参加できる。
ホール中央にはグランドピアノがあり、ここでも音楽の一芸職員により一日中演奏が行われている。また、毎月1回、夜にピアノなどの生演奏を聴きながらキャンドルの灯りで食事やお酒を楽しむ「しょうわバー」を開催しており、好評だという。この日はショートステイを利用し、こころゆくまで飲む利用者も多くいるという。
▲本格的なコーヒーも楽しめる喫茶コーナーでは、栄養管理も行われている | ▲茶室コーナーでは抹茶、煎茶、中国茶が楽しめる |
また、デイケアホールの一角には施設で働く職員の子どもを預かる託児室があり、90人の登録がある。職員が安心して働けるだけではなく、利用者が子どもとふれあうことで笑顔になるなど刺激を受けている。さらに、同施設では犬やニワトリ、ヤギなどを飼っていて、犬はホール内を自由に歩きまわり利用者に寄り添っている。動物にエサをあげたり、撫でたいという欲求が「立ちたい」、「歩きたい」というリハビリへの意欲にも結びついている。なお、同法人では1人の職員が、さまざまな業務に携わる事を方針としているため、託児室の保育士も利用者の食事やトイレの介助を行っている。
▲ホールの一角に職員の子どもを預かる託児室を設置。利用者と子どもがふれあっている
ほかにも利用者と職員が一緒に料理をする「お料理会」が毎日開催され、自らがつくった料理を昼食にすることができる。同施設の昼食は「お料理会」のほか、通常の食事、バイキング形式の食事形態が用意されているが、一人ひとりの嚥下状態を確認したうえで選択が可能となる。バイキング形式では食べたい料理や量を考えるだけでも認知機能訓練になり、バランス、歩行などさまざまな機能の訓練になる。また、職員が作成した移動式の調理台を広いホールで使い、利用者の前で調理することで匂いや音を楽しんでもらう工夫もしている。
同施設で印象的なことのひとつに、利用者の姿勢がよいことがあげられる。そこには普段使用しているいすに秘訣があるという。高齢者がいすに座る場合、多くは背もたれに寄りかかってしまい、移動する姿勢になっていない。この状態から身体を起こすことは難しくなる。そのため、施設内のいすは、職員が作成した畳台を使用している。後ろに倒れないように前方に重心を移すことで、足にしっかり力が入り、立つ姿勢にそのままつながるという。地面に足をつけているため筋力の保持にもなる。また、畳台は3人掛けの設計にしているが、そこにも狙いがある。他の利用者も座る際に、腰を浮かせて横にずれる動作がトイレなどの移乗と同様の動作なのだという。このように、本人に訓練と意識させない、日常の生活のなかで自然とリハビリにつながる工夫が施設のいたるところに施されている。
「当施設では、車いすで過ごしている利用者は少数です。他の施設では、本当は歩くことや座ることができるのに車いすに座らせたままにしていることが多くみられます。例えば食べるという動作の場合、口の中だけでとらえてしまいますが、座る姿勢や立つ姿勢などができて初めて食べることができます。正しい姿勢をつくっていくことが重要であり、それができれば自然と食形態が改善し、座ることも歩くこともできるようになります」。
また、施設での入浴は在宅介護を継続していくうえで家族の負担軽減につながる重要な要素となるが、同施設は3フロアで9セット18槽の個人浴槽が設置され、毎日入浴することも可能である。頻繁な入浴で看護師による利用者の皮膚状態の観察もでき、褥瘡などの早期発見・治療にもつなげている。
▲同施設で使用される畳台。座って活動するだけでもリハビリ効果が期待できる | ▲浴室は大浴場をはじめ9つ設置され毎日でも入浴可能。写真は同法人で考案した左右一対になった、麻痺があっても座って入浴可能な浴槽 |
在宅介護ができない理由として、「老老介護」、「子ども世代の共働き」、「親の介護のために仕事を辞めることができない」などがあげられる。
そのため、より利用しやすくなるよう、同法人のデイケアでは土日も開所しているほか、朝7時から夜7時の早朝・延長デイケアも導入している。発熱時だけでなくインフルエンザやノロウイルスといった一般的な感染症の発症時、夜間の入所も受け入れている。また、最低3カ月に1度はすべての利用者を診察し、体重、栄養状態や血液データを管理している。
「体調を崩した利用者を、家族が在宅でみることは容易ではありません。さらに認知症の場合、病院に受け入れてもらえないこともよくあります。それなら医師がいる老健が代替機能として医療提供すればいいことです。『熱が出たので病院に連れていってください』といわれるのと、『熱が出たので治療しましたが、まだ下がらないので泊めてもいいですか』といわれるのでは家族の負担はまったく違います。医療と介護の連携は必要ですが、連携になるとたらい回しが起きる可能性がでてくるので、一体提供できる仕組みが必要になります。これができて初めて本人・利用者が安心することができると考えています」。
デイケアの利用者は400人以上が登録されているが、そのうちの9割近くは佐藤理事長が主治医となる。かかりつけ医の機能で病院と連携を図るといわれるが、本当は家族のニーズにあったサービスを提供していない施設側に問題があると佐藤理事長は語る。そもそも自分で診療所に行けるような人は施設を利用しないという。それなら医師が常にいて、いつでも診察ができる老健がかかりつけ医の機能を発揮すれば医療コストを抑えることも可能だとしている。また、看取りも行っており、施設・在宅をあわせて年間40人ほどを看取っている。
「在宅介護サービスというと訪問介護、訪問看護、訪問リハ、訪問入浴、往診があげられますが、これをやっていると利用者・家族が家から出ることができなくなってしまいます。デイケアを利用すれば、外へ出る環境がありながら介護、看護、リハビリを受けることはもちろん、医師が常駐しているのでいつでも診察ができ、入浴までのすべてを済ませることができます。家族の生活が成り立つケアプランを臨機応変に立て、家族の介護による心理的負担、身体的拘束感から解放することで在宅介護が実現できると考えています」。
医療と介護を一体提供できる仕組みを構築し、利用者・家族が安心できる在宅生活支援を提供する、同法人の取り組みから目が離せない。
法人名 | 医療法人社団 心司会 | 理事長 | 佐藤 龍司 氏 |
法人施設 | 介護老人保健施設しょうわ(ショートステイ・入所定員:一般棟75人、認知症専門棟49人/デイケア定員200人)/クリニックしょうわ(精神科、心療内科、老年内科、リハビリテーション科)/サテライトクリニックしょうわ(精神科、心療内科) | ||
設立時期 | 平成10年 | 職員数 | 320人(平成25年8月現在) |
電話 | 048-718-2111 | FAX | 048-718-2115 |
URL | http://www.showa.or.jp |