サービス取組み事例紹介
|
▲ 障がい福祉サービス事業所多機能型「ウィンド」 |
同法人は、障がいがあっても「働いて収入を得たい」という知的障がい者の願いに応えることを大きな使命として、就労支援に取り組んできた。
暁雲福祉会では、平成7年からパンの製造・販売を行い、平成11年から就労継続支援A型(定員20人)として一般就労に近い雇用型となっている。
パンやクッキーの製造に取り組むことにした経緯は、計量や粉を練る、焼くなどの工程ごとに作業を分けられることで、利用者1人ひとりの障がい特性にあった工程への配置が可能なためである。当時、大分県でパンの製造に取り組んだ事業者は同法人が先がけであった。製造している商品は、「森のクレヨン」というブランド名で、広く販売されている。
「森のクレヨン」について、同法人常務理事・「ウィンド」施設長の丹羽和美氏は、次のように語る。
「『森のクレヨン』という名前には、クレヨンのさまざまな色を使って絵を描くように、障がい者1人ひとりがそれぞれの得意とする作業を担当しあい、みんなで力をあわせて1つのおいしいパンをつくるという想いが込められています。また、質にもこだわり、一般市場に通用する商品をつくることをコンセプトにしています。当法人の店舗のほか、さまざまな場所で販売しており、近隣の方々には福祉施設でつくられたパンではなく、地域のパン屋として認知されるまでになっています」。
「ウィンド」では、毎朝6時30分に始業し、1日に60種類、約1000個(1日平均/年)のパンを製造しているが、始業時間の早い「森のクレヨン」のメンバーは、同法人のグループホームを利用している人も多いという。
平成26年12月には大分市内に新たに「カフェ 森のクレヨン」を開店。挽き立てコーヒーをはじめ、パスタやピザ、デザートなど豊富なメニューを提供し始め、オープンから数ヵ月で延べ1万人が来場。「森のクレヨン」のパンも常設販売し、好評を得ている。
フロアにはアビリンピック(障がい者技能五輪)の喫茶の部にて金賞・銀賞に入賞したホールスタッフが常駐し、丁寧な接客マナーを心掛けているという。
2年に1度横浜にて開催される障がい者全国パン・菓子コンテスト「チャレンジドカップ」に平成25年、平成27年連続出場。2大会共に「チームワーク賞」を受賞している。
▲ 「ウィンド」では、毎朝6時半から1日60種類、約1000個のパンを製造している | ▲ 定員7人のグループホーム「八風・マナス2」の外観。同法人では4つのグループホームとケアホームを開設 |
販売・納品先は幼稚園・保育所の給食や病院、一般企業など約30カ所のほか、百貨店における催事などへの出店は年間50回にものぼる。現在も口コミで販売する件数が増えているという。また、利用者は製造だけでなく、販売・納品にも必ず同行し、対面販売をする際には料金の計算や包装も行う。このように社会に出ていく仕組みは知的障がい者にとって必要だとしている。
▲ 製造したパンを外販する様子。商品の計算や包装も利用者が行う |
同法人は、さまざまな施設形態と支援サービスをそろえているため、利用者それぞれの特性にあった働き方をすることが可能となっている。
「どんなに重度の障がいがあっても、さまざまなメニューがあれば、その人の適性にあったステージを選ぶことができます。そのためには選択肢は広くなければならないと考えています。そのほか、すべての施設でミュージックセラピーとアートセラピーを導入し、知的障がい者の自己表現の場として積極的に取り組んでいます。利用者だけでなく地域の方と一緒になってコンサートや朗読会などを開催しているのは、当法人の特徴です」(丹羽常務理事)。
そのほかの取り組みでは、障がいがある人たちの働くことへの理解、支援や防災意識の啓発などを目的とした「特定非営利活動法人チャレンジおおいた福祉共同事業協議会」を平成20年に設立し、県民に広く発信している。大分県内にある6つの社会福祉法人が加盟しているが、同法人が事務局となり丹羽常務理事が理事長を務めている。大分県庁本館1階に「けんちようのパン屋さん」をオープンし、加盟する法人で共同運営するほか、備蓄食品「いのちのクッキー」の製造・販売にも取り組んでいる。
▲ NPO 法人チャレンジおおいた福祉共同事業協議会では、防災備蓄食品「いのちのクッキー」の製造・販売にも取り組んでいる |
知的障がい者の就労は、雇用率が低いだけでなく、離職率が高いことも大きな問題となっている。就職して1年後の離職率は3割近くにのぼるといわれており、就職をしても個別のフォローがないため施設に戻ってしまう事例も少なくない。また、障がい程度の軽い人の一般就労と、重度知的障がい者の就労の間には大きな壁があるのが実情だという。
重度知的障がい者の就労支援と、継続して働ける環境づくりを模索していた同法人は、平成20年に大分キヤノン株式会社との共同出資の合弁会社「キヤノンウィンド株式会社」を設立(平成21年から大分キヤノンの特例子会社となる)。企業と社会福祉法人が合弁会社をつくり、重度知的障がい者の雇用をしていることは全国的にも新しいモデルである。
きっかけは、「森のクレヨン」の販売先であった大分キヤノンから、その働き方が認められたことであった。また、大分キヤノンは企業理念として「共生」を掲げており、暁雲福祉会の理念である「人間礼拝」と合致したことも大きな要因になったという。「ウィンド」の就労移行支援事業の実習生が大分キヤノンでの1年間の企業内実習を経て、5人が雇用され操業を開始している。
キヤノンウィンドでは、就職することがゴールではなく、継続して働ける仕組みの構築を目標に掲げた。役割分担として、企業は仕事を創出するとともに、業務の改善、コスト・生産性の追求といった福祉側が弱いとされる業務を担当し、社会福祉法人は人員の確保や福祉専門職の配置、生活面を含めたサポートを担当することでお互いの強みを生かし、苦手な部分を補うことで継続的な就労支援が可能となっている。
▲ 「キヤノンウィンド」で作業する利用者たち。障がい特性にあった仕事に的確に配置することで、確実に効率よく作業することができる |
設立当初の作業内容は、デジタルカメラのストラップや電池パックなどの付属品や保証書の袋詰めである。これらの作業は正確さが求められ、部品が一つでも欠けると不良品となってしまうが、臨機応変な対応は苦手でも、こだわりが強く繰り返しの作業が得意という障がい特性にマッチした作業に的確に配置することで、驚くような作業能力を発揮していったという。
企業と社会福祉法人の役割分担について、大分キヤノン株式会社人事部長の野眞吾氏は、
「キヤノンウィンドは合弁会社なので、大分キヤノンと暁雲福祉会から社員・職員が出向して一緒に働いています。われわれは彼らの様子をみて、障がい特性にあった仕事をもってくるのですが、障がい者のために作業をつくるのではなく必要な仕事を担ってもらっているので双方のメリットになっています。当社は生産技術の技術者がいるので、障がい者の動作をみて『ここを改良すれば作業が楽になり効率があがるね』と、工具の開発・制作にも前向きに取り組む体制がとれています。企業側は業務面に専念すればよく、1人ひとりのサポートは暁雲福祉会のスタッフが中心となってフォローしていただけているので本当に助かっています」と語る。
また、丹羽常務理事は、「知的障がい者に対する就労支援は、ハード面に加えて、人的支援などのソフト面が必須となるため、企業だけで取り組むことは容易ではありません。当法人から福祉専門職が出向し、障がい者5人に対して1人の福祉専門職を配置しサポートしています」と補足する。
また、社員は直接キヤノンウィンドに通勤するのでなく、毎朝「ウィンド」に集合し、働ける状態であるか体調をチェックしてから通勤バスで出社している。移動中の会話や様子で、トラブルやささいな気持ちの変化を福祉専門職が見逃さずに対応することで、支援が途切れることのない体制がとられている。
その他、「障がい者の権利に関する条約」に基づく合理的配慮が随所で行われている。また、1人で就職するのではなく、仲間が多くいる職場の風景も違和感がなく、安心して仕事に取り組めることにつながるという。
設立時は5人であった雇用者は毎年増え続けており、現在は21 人にのぼる。習熟度が高まり高度な作業もできるようになったことから、職域の拡大をするなど進化している。なお、労働条件は1日6.5時間労働、最低賃金以上の報酬だけでなく社会保険も完備だという。
これらの取り組みにより、キヤノンウィンドは設立から6年が経った現在も、定年退職を除き離職者が1人もでておらず、就労定着率は100%となっている。知的障がい者の就労で、定年まで働き続けられることは非常に珍しいケースである。
「現在、雇用者は21 人まで増えて定着率も100%を維持しているため、メンバーが固定化してきています。習熟度もあがり職域の拡大につなげて進化しているのですが、一方で雇用者を増やし続けるというわけにはいきませんので、新しく働きたい方に対して貢献できないことはつらいところでもあります。次はどのように発展させていくのかが課題になるのかもしれません」と野人事部長は語る。
「企業と協働して重度知的障がい者が継続して働き続けられるキヤノンウィンドモデルが確立できたことは、知的障がい者福祉のなかでは大きな成果だと思います。当法人では、就職後もしっかりとした専門的支援を行い、職場定着を確実なものにしていますが、このような取り組みに対して評価する制度が未完成なのが残念なことです。就職がゴールではなく、定着を重視すべきだと考えます。ただ、彼らの暮らしの変わり方や生き生きした表情をみると、制度がなくてもやらなければならないことだと思っています。このような先駆的な取り組みを続けていくことで、制度もあとからついてくると信じています」(丹羽常務理事)
企業と協働したキヤノンウィンドモデルなど、先駆的な知的障がい者の就労支援を続ける同法人の取り組みが今後も注目される。
キヤノンウィンドを設立した経緯として、法定雇用率を達成できていなかったことが大きかったと思います。採用しても働き続けてもらえない状況で、ましてや知的障がいの方の雇用には高いハードルを感じていました。
設立から6年が経ちますが、定年退職をのぞき、離職者は1人もでていません。それが実現できているのは、企業と社会福祉法人のそれぞれの強みを生かした役割分担の仕組みができていることがあげられます。
企業側は繰り返しの作業に強いという障がい特性にあった仕事を切り出し、トレーニングをしますが、障がい者のために仕事をつくるのではなく、必要な仕事を担ってもらっているので双方のメリットとなっています。社会福祉法人からは、福祉専門職の職員に出向してもらい、送迎時の体調チェックや1人ひとりをしっかりとサポートする役割を担っていただきます。特例子会社を設立し、障がい者の方を雇用したとしても、ハード面とソフト面を支援する体制が構築されていなければ、離職率0%にはつながらなかったでしょう。
現在、民間企業での障がい者の法定雇用率は2.0%ですが、当社では身体障がい者の雇用とあわせて2.42%と大幅に上回ることができています。
全国に同様の取り組みが広がり、障がいのある方が継続して働き続けられる環境が整備されればよいと思います。
法人名 | 社会福祉法人暁雲福祉会 | ||
合弁会社 | キヤノンウィンド株式会社(大分キヤノン株式会社の特例子会社) | ||
理事長 | 丹羽 一誠 氏 | 事業および関連施設(平成26年4月現在) | 「八風園」(生活介護)/「八風・マーヤの園」(生活介護)/「ウィンド」(就労継続支援事業A 型、就労継続支援事業B 型、就労移行支援事業)/「八風・be」(就労継続支援事業B 型、生活介護)/ 「風の子クラブ」(放課後等デイサービス)/指定特定相談支援事業所「風と未来」/「八風・マナス1・2・3・5」(グループホーム)/「八風・カルナホーム」(ケアホーム) | 設立時期 | 昭和56年 | 職員数 | 66人 (平成27年12月現在) |
電話 | 097−524−2424 | FAX | 097−524−2400 |
URL | http://www.happu-en-1981.jp/ |