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医療法人ゆうの森

24時間365日体制の在宅医療を維持し、医療者が疲弊することなく「長続きする医療」を実現 医療法人ゆうの森

愛媛県松山市にある在宅療養支援診療所「たんぽぽクリニック」は、医師をはじめとする各職種を複数そろえたチーム医療体制を構築することで職員が働きやすい環境をつくり、24 時間365 日体制を維持するとともに、医療者が疲弊することなく、地域に必要とされる「長続きする医療」を実現している。その取り組みを取材した。

※ この記事は月刊誌「WAM」平成26年6月号に掲載されたものです。

平成12年に四国初の在宅専門クリニックを開設


 在宅医療の推進のため、平成18 年4月に在宅療養支援診療所の評価が診療報酬に盛り込まれた。在宅医療・介護は今後ますます推進される方向であるが、一部をのぞき在宅療養支援診療所が、その機能を十分に担っているとはいえない現状がある。
 愛媛県松山市にある医療法人ゆうの森は、訪問診療専門の診療所「たんぽぽクリニック」、へき地診療に取り組む「たんぽぽ俵津診療所」(愛媛県西予市)を中心に、訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所、訪問介護事業所、はりきゅうマッサージ治療院を併設する在宅医療に特化した法人である。「たんぽぽクリニック」は、外来診療を行わず、24 時間365日体制の訪問診療専門の診療所として平成12 年に開設した。開設当時は全国的にも少なく、四国では第1号であった。在宅患者の「楽なように・やりたいように・後悔しないように」を支える医療を実践してきた。


▲ 医療法人ゆうの森

  在宅専門のクリニックを開設する経緯は、へき地医療を志していた同法人理事長の永井康徳氏が、愛媛県南部にあるへき地の診療所に赴任し、「住み慣れた町で最期まで暮らしたい」という地域住民の願いから訪問診療をスタートしたことに始まる。へき地の診療所で訪問診療に取り組むなかで、必要性を感じたことから松山市での開設に至っている。
 たんぽぽクリニックを開設するにあたり、患者が自宅で安心して療養生活が送れるように、@ 24 時間365日対応、A末期がんなどの重度患者の受け入れ、B松山市全域でのサービス提供の方針を掲げた。
 患者ゼロからのスタートだったため、永井理事長と看護師、事務スタッフの3人で松山市内の医療機関や事業所などを訪問し、同法人の方針を説明して回ったという。ケアマネジャー等からの紹介患者にしっかりと対応し、信頼を積み重ねていくうちに、「重度患者であっても診てもらえる」と口コミが広がり、次第に紹介患者が増えていった。


 ▲ たんぽぽクリニックの近隣には、高齢者住宅「メディケアハイツクローバの森」がある。同施設は要介護を問わず入居可能なため、夫婦や親子などの同居に利用される。食事の提供などサービスの提供は行わず費用は家賃のみで、必要に応じてたんぽぽクリニックや併設する居宅介護支援事業所、訪問介護事業所、はりきゅうマーサージ治療院を利用できる安心感がある。

患者にとっての最善の選択肢を一緒に考える医療


 「在宅医療で一番大事なことは、患者さん・ご家族の不安をいかにとり除くかということに尽きます。そのためには24時間365日の対応は不可欠で、医師の都合ではなく、患者さんが必要なときに『いつでも来てくれる、状態が悪いときには毎日でも来てくれる』と感じてもらえることが重要です。また、病院は検査や治療を最優先にしていきますが、在宅医療では医療者のやり方を押しつけるのではなく、個人の多様性を認めながら、患者さんの人生観・価値観、ご家族の考え方を踏まえて柔軟に、その人にとっての最善の選択肢を一緒に考えていくことが大切です」と永井理事長は語る。
患者が増えていくことで、24時間365日体制を維持するためには人材確保は大きな課題となる。医師・看護師の人材確保について、同法人専務理事の木原信吾氏は、次のように語る。
 「開設当初は在宅医療への理解も進んでおらず、永井理事長の在宅医療への想いを共有できる医師・看護師の確保には苦労しました。当時は、インターネットによる情報発信が浸透してきた時期で、在宅医療の普及・発展のために当法人の取り組みをホームページに掲載していたのですが、ホームページをみた医師や看護師から『こんな活動があるのか』、『自分もやってみたい』と法人の方針を理解したうえで、次第に人材が集まるようになりました。在宅医療の普及に向けた情報発信は、同じ志をもつ人材の確保にもつながっています」。
 現在、約400人の患者に対して、スタッフは常勤医師10人、非常勤医師2人、看護師20人、介護スタッフ16人、リハビリ職員8人、ケアマネジャー3人、薬剤師と管理栄養士が1人ずつの総勢83人まで拡大している。
 利用者は、重度患者の割合が高く、全体の3分の1を占める。自宅での看取りを希望する患者は3分の2にのぼり、年間約80人の患者を自宅で看取るという。
 自宅での看取りを希望しながらも、患者・家族にとっては「どのように状態が変化していくのか、どのような対応をしてもらえるのか」がわからないことは大きな不安となる。そのため、これまでの事例をもとに「どのような経過をたどり、その際にどのようにサポートしていくか」を記した「家で看取ると云うこと」というパンフレットを作成している。いつでも訪問できる体制とともに、パンフレットを読んでもらうことで、自宅での看取りに対する不安を、少しでもとり除けるようにしているという。

働きやすい体制づくりへの取り組み


 たんぽぽクリニックでは、医師・看護師を松山市の南北2グループに分け、訪問診療は各々の医師・看護師の2人1組で担当する。各組は1日平均8〜10件を巡回し、南北の看護師各1人ならびに医師1人がローテーションで当番となり、夜間・休日の緊急時の対応を行う体制となっている。 ローテーションでの当番制としているが、医師・看護師数が充実しているため、余裕をもってシフトを組むことが可能だという。
 「当法人では主治医制をとっていますが、休日・夜間の緊急時には当番の医師がすべて対応するため、急変時に主治医であるからといって呼び出されることはありません。医師にとっては、オンとオフが明確に分かれているので、安定した生活を送ることができます。このような働きやすい環境をつくることは、仕事のやりがいや、質の高い医療にもつながると考えています」(木原専務理事)。
 また、同法人の職員は女性が8割近くを占める。女性職員が働きやすいように、最長3年間の育児休業制度や短時間勤務制度など、子育て支援や休暇を取得しやすい環境もつくっており、出産や育児を理由に離職する職員がほとんどいない状況となっている。
 医師をはじめとする各職種を複数そろえ、チーム体制を構築できることや、働きやすい環境をつくることで、24 時間365日体制を維持するとともに、医療者が疲弊することなく、地域に最も必要とされる「長続きする医療」を実現している。


在宅医療の生命線となる多職種ミーティング


 組織の規模が拡大することにより、職種間の情報共有と方針の統一が重要となるが、同法人では多職種ミーティングが大きな役割を果たしているという。
 多職種ミーティングは、毎朝8 時半から「たんぽぽクリニック」のスタッフだけでなく、居宅介護支援事業所や訪問介護事業所などの介護スタッフを含む全職種が参加する。患者の申し送りや治療方針の確認では、情報を共有するとともに、医療・介護のそれぞれのスタッフが専門的な立場から意見を交換している。
 「多職種によるチーム医療で患者さんに関わることで、質の高い在宅医療を成立させることができます。そのため、チームとして機能するためには情報共有と方針の統一は非常に重要となります。情報を共有することで担当者以外でも患者さんを診ることが可能になりますし、医師同士であれば入院や治療に関する方針に違いがでないように確認する必要があります。自身の担当患者だけでなく、多くのマネジメントを学ぶことができるので、各スタッフのスキルの向上にもつながると考えています」。全職種が参加するこのミーティングは在宅医療の生命線であり、一番のポイントであると永井理事長は語る。

                
 ▲ 多職種ミーティングでは、毎朝8時半から全職種が参加し、多職種間の情報共有と方針統一を行う。多職種によるチーム医療は質の高い在宅医療において不可欠であり、それぞれの専門職からの意見・報告を受けることで、患者にとってベストの選択をすることができる。また、多くの患者のマネジメントを学べることは、各職員のスキルアップにつながっている ▲ 院内には、ひと目で確認できるスケジュール表を設置。各職種の目標も掲げられている

へき地診療所でも24時間365日体制の在宅医療を展開


 また、同法人は、平成24 年に「たんぽぽ俵津診療所」を開設しているが、これは、赤字で廃止が決まった愛媛県南部にある公立のへき地診療所を継承したものである。同診療所は、永井理事長が「たんぽぽクリニック」の開設前に赴任していた診療所で、地域住民からの要請があり、引き受けている。開所式には人口1200人の明浜町俵津の地域住民200人が参加するなど歓迎されたという。
 開設後は、最期まで暮らし続けられる地域の実現を目指し、それまで終日外来のみであった診療を、外来は午前中に集約し、午後からは訪問診療にするとともに、薬の院内処方を院外処方に切り替えた。また、午後からの外来を行わず看護師が訪問看護に従事することで、訪問診療と訪問看護での収益をあげることが可能になった。なお、医師は「たんぽぽクリニック」から曜日ごとに勤務・宿直しており、高齢化した地域のニーズに合わせて、24 時間365日体制の医療を提供している。同診療所は開設から半年で黒字転換しており、へき地医療の新たなモデルとして注目を集めている。
 「『俵津たんぽぽ診療所』のある愛媛県の南部地区は、在宅医療が非常に遅れていました。地域医療で疲弊している地域では、在宅医療が発達していません。救急搬送される人も高齢者が多いわけですが、患者さんが望んでいない胃ろうや人工呼吸器をつけられ、ずっと入院が必要になることで、病院も疲弊してしまう悪循環になっています。それを在宅での看取りや、救急搬送しなくてもいいように24 時間365日対応することで、病院は治せる患者に専念することができます。在宅医療を発達させていくことは地域医療の疲弊を解決する大きなカギだと考えています。このようなことを伝えて広めていきたいという想いがあります」(永井理事長)。


さまざまな手法を用いた、在宅医療の普及・発展への取り組み


 同法人では、在宅医療の発展・普及に向けての活動にも精力的に取り組んでいる。
 在宅医療は医療保険と介護保険が複雑に絡むが、永井理事長は在宅医療の制度についてのテキストを作成するほか、プロの漫画家に依頼し、初めて取り組む人にもわかりやすく制度を解説した漫画の作成も行っており好評だという。また、同法人は開設当初から、職員が制度を理解していなければ患者・家族にマネジメントができないという考えから、全職員を対象に在宅医療の制度や仕組みに関するテストを毎年実施している。テスト勉強で得た知識が実際の業務に生かされることで、高い意識をもって取り組むことができている。平成22 年からは、同法人主催の「全国在宅医療テスト」として、ホームページからの申し込みも受け付け、昨年度は全国から約1000人が参加したという。
 そのほかにも院内で劇団をつくり、在宅医療や胃ろうの問題をテーマにしたドラマを作成し、連携先とグループワークをするなどの活動も行っている。このようなわかりやすく在宅医療を伝えていく活動は、地域から要請を受けて行うことが増えてきている。
 また、在宅医療に取り組みたい人の見学を積極的に受け入れているほか、東京大学医学部附属病院や慶應義塾大学病院をはじめとする多くの医療機関の臨床研修協力施設として、研修医を受け入れている。さらには、在宅療養支援診療所の開業を目指す医師に、在宅医療のノウハウの伝授など直接的に支援する「開業応援計画」を実践しており、それぞれの地域で独立して、開業するケースも増えてきている。
 「団塊の世代が75 歳以上の後期高齢者になる2025年までに、国も地域包括ケアシステムを推し進めて、在宅医療を広げていこうとしていますが、自分たちの手だけではもちろん限界があります。よい活動は広げていこうと在宅医療のノウハウをお伝えしていますが、もう出し惜しみをしている時期ではないと思っています。それぐらい日本は切羽詰っています。研修医や在宅医療に興味がある医師が当法人で在宅医療を学んで、全国各地で在宅医療を展開してもらえるような教育研修機能を果たしていくことにも、今後は力を入れていきたいと考えています」(永井理事長)。
 さまざまな手法を用いて在宅医療の発展に向けての活動を行う同法人の取り組みが、今後も注目される。


情報発信が質の高い人材確保にもつながる
医療法人ゆうの森 専務理事 木原 信吾氏

 当法人は在宅医療の普及に向けた活動にも取り組んでいますが、よい活動をしているだけではなかなか広がるわけではないので、さまざまな手法を用いて情報発信していくことが必要だと思います。情報発信することは、在宅医療の普及だけでなく、法人の取り組みを知ってもらい、共感してくれる質の高い人材が集まることにもつながっているので、現在では安定して人材を確保することができています。
 また、在宅医療に関心がある方の見学や、多くの医療機関の臨床研修協力施設として研修医を受け入れていますが、当法人は在宅療養支援診療所とへき地診療所を開設しているので、在宅医療とへき地医療をあわせて研修が可能なため、大変興味をもっていただいています。私たちとしても若い研修医が在宅医療を学んでくれることは、モチベーションが高まることにつながりますので、今後も積極的に受け入れていきたいと考えています。

医師に依存するのでなく、地域のレベルをあげることが必要
医療法人ゆうの森 理事長  永井 康徳氏

 在宅医療専門のクリニックを開業して14 年目になりますが、患者さんが在宅での療養を希望しても診てくれるところがないということは、松山市ではなくなったと思います。しかし、愛媛県でも松山市を離れるとまったくないという地域も結構あります。これは私の持論ですが、地域医療が疲弊しているところでは、在宅医療が発達していないといえます。
 医療従事者が、どのようにしたら在宅患者を診られるかというのがわかっていないケースがまだ非常に多いのが現実です。実際に在宅医療を広げていくためには“医師が変わらなければ”といわれますが、医学教育では在宅医療についてほとんど教えられていないため、医師に依存していたのでは、いつまで経っても変わらないでしょう。医師が変わらなくても、地域や一般市民に「在宅でたくさんの選択肢がある」ということをわかってもらえるようにすることが大事だと思います。
 そういう意味で地域のレベルを上げていくことで、どんどんニーズも高まり、医師も変わらざるを得なくなるので、そういう地域を目指していくことも必要なのではないかと考えています。

<< 法人概要 >>
法人名 医療法人ゆうの森 理事長 永井 康徳 氏
法人事業所 たんぽぽクリニック/たんぽぽ俵津診療所/訪問看護ステーションコスモス/居宅介護支援事業所コスモス/訪問介護事業所コスモス/はりきゅうマッサージ治療院クローバ/メディケアハイツクローバの森(高齢者住宅)
職員数 83 人(医師12 人(常勤10 人、非常勤2 人)、看護師20 人、リハビリ職員8 人(PT4 人、OT4 人)、ケアマネジャー3 人、介護職16 人、鍼灸マッサージ師4 人、薬剤師1 人、管理栄養士1 人、事務職員18 人)
設立時期 平成12年
電話 089−911−6333 FAX 089−911−6334
URL http://www.tampopo-clinic.com/


※ この記事は月刊誌「WAM」平成26年6月号に掲載されたものです。
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