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見立病院

行政や関係機関と連携し、認知症の早期診断・早期対応につなげる 見立病院

福岡県田川市にある医療法人昌和会・見立病院は、在宅で認知症の疑いがある人に対して、専門職によるチームアプローチを行い、早期診断・早期対応につなげるなど成果をあげている。また、精神科病床をダウンサイジングし、在宅医療を推進するとともに長期入院患者の地域移行を進めている。その取り組みを取材した。

※ この記事は月刊誌「WAM」平成27年4月号に掲載されたものです。

平成23年に認知症医療センターの指定を受ける


 新たな認知症施策となる新オレンジプランでは、平成37年に認知症の高齢者が約700万人にのぼることが推計されている。認知症の人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で、自分らしく暮らし続けられる社会の実現を目指すことを基本的な考え方とし、医療・介護のサービス提供においては、早期診断・早期対応を軸としている。
 昭和36年に開設された福岡県田川市にある医療法人昌和会見立病院は、「博愛の精神のもと全人的医療を目指す」を理念に掲げ、医療・介護、福祉機関との連携を密にし、長年にわたり、地域の精神科医療・老年期医療を担ってきた精神科病院である。


▲ 医療法人昌和会 見立病院の外観

 法人施設は、精神科病床387床(6病棟)の見立病院をはじめ、病院敷地内に精神科デイケア・デイナイトセンター、重度認知症デイケアセンター、精神科の訪問看護ステーション、精神障害者グループホームを併設。平成23年11月から福岡県の地域拠点型認知症医療センターの指定を受けている。

                
 ▲ 病院敷地内に併設する精神科デイケアセンターと重度認知症デイケアセンター ▲ 精神障害者の共同住居であるグループホーム。入居者は精神科デイケアや訪問看護を利用することで、生活のリズムを整える

 認知症医療センターの役割として、専門医療相談、鑑別診断に基づく初期対応、身体合併症・周辺症状への対応、認知症地域医療連携協議会の開催などがある。同院では認知症医療センターの指定を受けて、連携を推進していくためには、まずは知ってもらうことが大事であると考え、関係機関をはじめ、連携のカギを握るケアマネジャーの集まりには必ず出向いて、センターの紹介を行うとともに、要望があれば認知症に関する講話を実施したという。


 専門医療相談では年間632件の相談に対応


 認知症ケアにおいて、専門医療相談は早期発見・早期受診につなげる重要な役割を担っている。同センターの専門医療相談について、精神保健福祉士の柴田亜希氏は、次のように語る。
 「当センターの専門医療相談は、専従である私のほか、専任の精神保健福祉士4人、臨床心理士1人の6人体制で対応しています。相談者はご家族からが一番多いのですが、ケアマネジャーやかかりつけ医から専門的なアドバイスを求められるケースもあります。単身世帯や、最近とくに増えている高齢の夫婦世帯の相談では、協力者が少なくキーパーソンが決められないこともあり、アプローチに苦労することがあります。平成25年度に受けた相談件数は632件で、月平均50〜60件ほどの相談が寄せられますが、遠方から相談や受診に来られる方もいらっしゃいます」。
 また、同院では受診や医療相談に来ることを待つのではなく、病院から地域に積極的に出向くことを大切にしており、さまざまな取り組みを実践している。
 昨年5月には「訪問相談」を開始、地域で活動する医療・介護事業所や行政などと協働し、在宅で認知症の疑いがあり、医療・介護サービスに結びついていない人に対して、専門職で構成するチームが自宅等を訪問し、早期の適切な支援につなげている。
 「訪問相談」を開始した経緯について、同院看護師の熊本勝治氏は、「精神科に対する地域の偏見や敷居が高いイメージが根強く残っていることもあり、ご家族や行政の『受診につなげたい』、『医療にのせたい』という想いがあっても、なかなか思うようにいかないことが地域の課題としてありました。そのため、これまでのように病院にお越しいただくのではなく、医療側が出向いて支援していくことが必要であると考え、訪問相談に取り組むことにしました。事業開始にあたり、2カ月間は行政・関係機関に事業説明と情報交換をして、昨年7月から本格稼働しています」と説明する。


 相談内容に応じて専門性の高いチームを構成


 訪問相談では、地域包括支援センターや関係機関等からの相談依頼を受けて、専門性の高い多職種によるチームアプローチを行っており、相談内容により、チーム構成を柔軟に変えていることが特徴である。同院では『地域』、『院内』、『診療』の3つのフィールド制を導入しており、保健師、看護師、精神保健福祉士、作業療法士、臨床心理士など、必要な人材をフィールドマネジャーに依頼し、チームを派遣する体制となる。
 「なかには受診を拒否するケースもありますが、まずは家族のニーズに沿うことを大事にします。以前の精神科のように強制的に受診を勧めてしまうと、その患者さんはいずれ自宅に戻りますので、ご家族との関係を損ねる可能性もあります。ご家族の希望を聞きながら、『あなたの病院なら受診してみよう』と思っていただけるように関係性を深めていきますが、そのためにも、やはり顔が見える関係をつくることが大切になります」(熊本氏)。
 相談を受けて、行政や関係機関に動いてもらう場合には、綿密な打ち合わせをして互いが同じ視点で関われるようにしていくとともに、一つのプランがうまくいかなかった場合に八方ふさがりにならないよう、優先順位を示した複数のプランを提案していく。
  また、関係機関とうまく連携していくためには、関係性をフラットにすることも重要である。どうしても病院が優位になりがちとなるが、地域で活動している人を中心にし、「病院はこのようなサポートができます」というスタンスをとって相手の領域を侵さないように注意することが、連携を図るうえで大切だという。
 昨年7月にスタートしてから今年2月までの訪問件数は、90 件を超えている。


 介護関係者とともに学ぶ研修会を定期開催


 さらに地域に出向いた相談の取り組みとして、地域包括支援センターとの共催による「移動相談室」がある。移動相談室は、地域の商店街などにブースを設け、通行人に同院が所有するタッチパネル式の「もの忘れチェック」を受けてもらうとともに、派遣した精神保健福祉士や看護師が認知症に関する相談を受けるものである。そのほかにも、行政が主催する認知症サポーターの養成講座などの活動にも積極的に病院スタッフを派遣し、認知症についての啓蒙活動を行っている。


▲ 移動相談室は商店街等にブースを設け、タッチパネル式の「もの忘れチェック」や認知症の相談を行っている

 これらの取り組みにより、認知症の受診件数は増えており、「精神科病院の敷居の高いイメージが少しずつ払拭されてきた」と柴田氏は語る。
 医療・介護の連携を推進する取り組みとしては、平成21 年から地域のケアマネジャーや介護従事者を対象とした認知症の研修会「ケア・キュアカンファレンス」を定期的に開催している。医師によるミニレクチャー、事例検討、ディスカッションで構成しており、新しい知識の習得や情報共有をするとともに、医療側・介護側の視点による意見交換は双方にとって貴重な機会となっている。


▲ 同院と地域のケアマネや介護従事者がともに認知症を学ぶ「ケア・キュアカンファレンス」を定期的に開催

 「ケア・キュアカンファレンス」は今年2月で25 回目を迎えており、開始当初の参加者は十数人であったが、現在は毎回70 〜 80 人が参加する規模となっている。研修会を通じてケアマネジャーや介護事業者と顔の見える関係がつくられたことで、連携がとりやすくなったという。


 長期入院患者の地域移行を計画的に実施


 また、同院では近年、在宅医療にも力を入れており、長期入院患者の地域移行を進めていく方針から、平成26 年3月に精神科病床のダウンサイジングを実行している。
 病床のダウンサイジングについて、同院事務長の白土雅彦氏は、次のように語る。
 「国の方針でもありますが、当院では地域移行を病院の方針に掲げており、平成26 年3月には410床あった精神科病床を387床に削減し、それに伴い7 病棟から6病棟体制としました。病床を削減することは経営面からみると、収益に直接影響しますので難しいところです。しかし、病床を削減したことで看護師をはじめ、スタッフを在宅医療に配置することができ、それが在宅医療分野の強化と地域移行の実現につながると考えています」。
 実際に病床削減した際には、病棟看護師2人を訪問看護に異動しているが、「訪問相談」もそのときに新設した部門である。
 しかし、病棟勤務から訪問看護への配置転換は、人選に苦労する面もあった。看護師側からすると業務に違いがあり、専門的な知識が必要なことや、一人で訪問する責任のほか、夜勤がなくなることで収入が減ることも理由のひとつだったという。

            
 ▲ 精神疾患に特化した訪問看護ステーションは、現在7 人の看護師を配置。今後さらに地域移行を進めていくため、拡大していく構想もある

 地域移行を進めるために、看護師に理解してもらうよう努め、現在は7人の看護師を訪問看護ステーションに配置している。このほか、病院に併設する精神科デイケア、重度認知症デイケアを利用しながら通院治療を行うことで、地域移行を進めていきたいとしている。
 「いきなり病院から自宅に戻ることが難しい患者さんに対しては、当院の精神障害者グループホームに入居していただき、共同生活をしてもらうとともに、日中はデイケアを利用して自宅で生活できるための訓練を行っています。実際に重い精神疾患があった方が自宅に戻られた事例も出てきています」(白土事務長)。


 さらなる在宅医療の拡充を構想


 今後の展望については、病棟の機能分化や、医療・介護、福祉との連携を推進していくことをあげる。病棟の機能分化では、今年4 月に精神科の急性期治療病棟を新設しており、そのほかの病棟を回復期・慢性期に区分し、さらなる地域移行を推進していく。そのために患者・家族が安心して地域で暮らせるよう、訪問看護やデイケアなどの在宅医療の拡充を構想しているという。
 医療・介護、福祉の連携では、老年期医療・精神科医療に関する講演や訪問相談などを積極的に展開していくことで、関係機関とのより密なネットワークを構築するとともに、医療・介護の質の向上を図りたいとしている。
 また、認知症ケアにおいては、多職種によるチーム医療を行うため専門職の確保が大きな課題となるが、「現在は、職員の働きやすい環境をつくるとともに、奨学生制度を導入することで何とかスタッフを確保できています。今後は少子化が進みますが、しっかりと将来を担える人材を組織として育成していくことが大切だと考えています」(白土事務長)。
 行政や関係機関と連携し、認知症の早期診断・早期対応につなげるとともに、地域移行を推進していく、同院の取り組みが今後も注目される。


患者に寄り添い側面的に支えることが大切
医療法人昌和会 見立病院 看護部 師長  中川 正義氏

 入職して14 年目になりますが、今年4 月に新設した精神科の急性期治療病棟の師長として勤務しています。当院は精神科病院なので、医療側の一方的なケアというより、患者さんが生きていくなかで望むことに対して、寄り添いながら側面的に支えていくことを心がけてケアに取り組んでいます。
 当面の目標については、急性期治療病棟を軌道に乗せることになりますが、病院としては一大プロジェクトになりますので、責任を感じるとともに、このような新たな取り組みに挑戦できることにやりがいを感じています。
 また、当院のスタッフは若い人が多いのですが、職場の雰囲気もよく、コミュニケーションが図れている特徴があります。認知症ケアでは多職種によるチーム医療が不可欠になりますので、このような職場環境にあることは働きやすいだけでなく、質の高いケアにもつながっているのではないかと考えています。

地域に対する認知症への理解や啓蒙活動に取り組む
医療法人昌和会 理事長 見立病院 院長 林田 憲昌氏

 当院では現在、国の方針でもありますが、急性増悪やどうしても社会復帰できない患者さんを除いて地域移行を進めるとともに、4月から精神科の急性期治療病棟を新設し、病院改革を行っています。患者さんは地域で生活されることになりますので、認知症の方が安心して暮らせるためには、まずはご家族に対する認知症の啓蒙活動が重要になります。それとともに地域で支える仕組みを構築することが大事になりますが、これは当法人だけでできるものではありません。認知症ケアの活動の一つを担っていけるように地域と一緒になって、認知症の地域包括ケアシステムを構築していきたいと考えています。
 幸いにして、平成23 年に福岡県の認知症医療センターの指定を受け、地域に出向くことを大切にし、医療・介護のネットワークを構築するとともに、地域に対する認知症への理解や啓蒙活動に取り組んでいます。
 今後も地域の精神科医療、老年期医療において、社会に貢献していきたいと考えています。

<< 法人概要 >>
法人名 医療法人昌和会
理事長・院長 林田 憲昌 氏
施設開設 昭和36年 病床数 387床 (精神病床6病棟)
診療科 精神科、心療内科、神経内科、内科、リハビリテーション科
職員数 335人 (平成27年1月現在)
法人施設 精神科デイケア・デイナイトケア(定員50人・30人)/重度認知症デイケア(定員25人)/訪問看護ステーション「であい」/精神障害者グループホーム「であい」(男性棟定員6人、女性棟定員6人)
電話 0947−44−0924 FAX 0947−46−3090
URL http://www.shouwakai.or.jp/


※ この記事は月刊誌「WAM」平成27年4月号に掲載されたものです。
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