サービス取組み事例紹介
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▲ 「天使病院」の外観 | ▲ 病院の入り口には、地域住民が創作した絵画や写真を展示するギャラリースペースを設置 |
昭和44年には、年間分娩件数が3118件(全国トップ)と、札幌市民の6人に1人が天使病院で生まれた計算になるほどの数であった。平成13年には通常分娩だけでなく、ハイリスクな妊婦・新生児を受け入れ、周産期における比較的高度な医療行為を行う地域周産期母子医療センターの指定を受けている。
同院は、建物の老朽化により、平成23年2月から病院の全面建て替えを実施した。敷地内で建物を解体・建設するスクラップビルド方式を採用し、着工から竣工まで3年9カ月を経て、昨年11月にオープンしている(WAM医療貸付事業利用)。
新病院のコンセプトについて、同院事務部広報課課長の林亜衣子氏は、次のように語る。
「新病院では、”高度な医療とやすらぎの融合“をコンセプトに掲げています。地域周産期母子医療センターとしての機能をさらに充実させるため、周産期母子センターを開設するとともに、病院でありながら”病院らしくない“癒しを提供できる環境づくりを目指し、アートを取り入れたことが特徴です。設備面では機能的な配置・動線を心がけており、個室を増やすとともに多床室も個室性を高めることで、少しでも患者さんの入院生活のストレスを軽減してもらえるよう工夫しています」。
アート計画では、四季折々の自然や緑を取り込むため、中庭やライトコートを配置するなど、癒しの空間設計を施している。
新病院は、周産期母子センターが入る東棟と、内科・外科系の外来・病棟が入る西棟の2棟からなる。
平成24年5月に完成した周産期母子センターは地上5階建てで、1階は外来・検査部門、2〜4階は病棟部門となっており、敷地面積の増加にともない、ゆとりある医療環境を整備した。
▲ 天井が高く、ゆったりした空間の外来待合ホール | ▲ 天井が高く、ゆったりした空間の外来待合ホール |
産科病棟は、通常分娩のほか、切迫早産・妊娠高血圧症・多胎などのハイリスク妊娠に高度医療を提供するMFICU(母体・胎児集中治療室)6床を含む58床、NICU病棟は、道内でも有数のNICU(新生児集中治療室)15床を有し、その後方ベッドであるGCU(継続保育室)11床をあわせた26床、小児科病棟は31床となる。
▲ 小児科病棟の待合室とプレイルーム。患者・家族のストレスを少しでも軽減できるよう“病院らしくない”やすらげる環境をつくる。 |
産科・NICU・小児科を中心に妊娠初期から小児期まで幅広く、切れ目のない医療を提供しており、センター内には小児に関わりが深い耳鼻咽喉科の外来も配置した。
同センターでは、多胎妊娠などハイリスク妊婦や新生児消化器疾患の手術が必要な患児を積極的に受け入れており、なかでも他の医療機関から紹介を受けるケースも多い。多胎は胎児期からの妊娠管理が必要であり、早産になる可能性が高いためNICUへの入院ニーズが高い。新生児消化器疾患の患児も同様で、同院には新生児の外科治療を行う小児外科があるが、北海道全体ではあまり多くないのが現状である。そのため、札幌市にとどまらず道内全域から24時間365日体制で患者を受け入れている。
▲ NICU は道内有数の15 床を有しており、その後方ベッドとなるGCU も整備することで継続した治療が可能に |
「当院はもともと、切れ目のない医療提供をミッションにその役割を果たしてきましたので、周産期だけに特化しているわけではありません。当センターでは産科・NICU・小児科のみならず、たとえば妊婦さんの妊娠糖尿病や妊娠高血圧症などに対し、内科・外科系の診療科とのチーム医療を提供しますし、不安をもった母親には精神科がフォローすることもできます。このような総合病院の産科ならではの切れ目のない医療を提供できるのが当院の特徴であり、患者さんの安心感につながっていると思います」(林課長)。
産科の救急体制の整備については、札幌市が中心となり、NICU病床の空き状況やハイリスクの妊婦の受け入れが可能であるかを医療機関同士が報告しあう仕組みを構築しており、搬送先がみつからないケースは減少しているという。
そのほかにも、周産期母子センターの5階には、180人を収容できる多目的ホール「天使ホール」を設置した。会議や研修に使用するほか、「糖尿病予防教室」や妊婦を対象にした「母親教室」、「マタニティヨガ」など、さまざまなプログラムを実施しており、最近では「孫育て教室」のニーズが高いという。
▲ 最大180 人を収容できる多目的ホール「天使ホール」。会議や研修会のほか、妊婦向けの母親教室など各種プログラムに使用される |
「育児に参加したいと考えているおじいちゃんやおばあちゃんが増えているのですが、当時の育児の常識と変化していることが多くあります。そのギャップを埋めてあげないと母親がストレスを抱えてしまいますし、トラブルに発展してしまう可能性もあります。母親のよきサポーターとなっていただけるよう、専門家が現在の育児事情についてお伝えしています」と、林課長は語る。
平成26年1月に完成した西棟は、内科・外科系診療科が担う急性期医療の中枢をなす施設となる。病棟・外来に加えて、救急患者を受け入れる救急外来や緊急手術にも対応可能な手術室、抗がん剤を用いたがん治療を行う化学療法室、透析室などを整備・拡充した。院内の併設施設には、「天使訪問看護ステーション」と病後児保育の「天使こどもデイサービスセンター」があり、地域住民だけでなく職員にとっても安心して働ける環境となっている。
地域の医療機関と連携していくための体制については、地域医療連携センターが中心を担う。同センターは地域の医療機関との調整を行う「地域医療連携室」、在宅サービスや施設入所など退院調整を行う「医療社会事業課」、患者の要望・相談を受けつける「患者相談窓口」で構成しており、3部門を統合して同じ場所で業務することで機能性を高めている。さらに平成25年3月には、地域医療連携システム「ID-Link」を導入し、参加医療機関との情報共有を図ることで、よりスムーズな連携を実現している。
連携を進めるためには、顔の見える関係でのコミュニケーションも必要となるが、地域の医療機関に参加を呼びかけ、「地域医療講演会」を毎年開催している。講演のほか、医療連携した症例などを紹介する内容となっており、毎回40人ほどの参加がある。親睦を深めるとともに、円滑に連携をしていくための意見交換を行うことで互いの求めているニーズを確認しあえるなど貴重な場となっている。
医療連携の推進について、同院院長の藤井ひとみ氏は、「当院は、中核的総合病院として今後さらに他医療機関との密接な連携を推進し、急性期病院にふさわしい医療を提供していきたいと考えています。ただし、これまでかかりつけ医としての役割も果たしてきましたので、その患者さんたちに診療所の受診を勧めると、見放されたと思われてしまいます。そうならないように、しっかりと説明することが大切になります。地域連携は医療機関間のシステムだけでなく、患者さんに理解を促す仕組みをつくることも重要だと考えています」と語る。
医療スタッフの確保状況については、看護師は若手を含めて人材を集めることができているものの、医師の確保は困難であり、なかでも産科医・小児科医の確保は非常に厳しい状況にあるという。現在は主に大学病院の医局とのつながりから医師を派遣してもらっているが、医師の育成には時間がかかることもあり、高齢化が進んでいることも課題だという。
「医師の確保や若返りのためにも、研修医を育成していくことが重要となります。当院は積極的に研修医の受け入れをしていますが、幸いにしてさまざまな症例を経験できることから、多くの研修医が選択してくれているので、育成に力を注いでいるところです。
もちろん当院だけでは経験できない症例もありますので、例えば大学病院や他病院で学びたいという若手医師からの要望があれば、送り出して互いに協力しながら一人前に育成していく環境をつくっています。当院は一度外に出て行ったあとに、また病院に戻ってきてくれる医師が多いという特徴がありますが、それにより成功している例が多くあります」(藤井院長)産科・小児科医の不足は北海道全域にいえることであり、このように門戸を開いていくことは、地域全体の医師のスキルが高まり、周産期医療を支えることにつながると考えている。
今後の展望については、社会医療法人として時代の流れや地域のニーズに対応していくことで、より地域に貢献していきたいとしている。
「当院は260床の中規模病院ですので、組織的にシステム化できる側面と、柔軟で温かみのある対応ができる側面、その両面を実現できるバランスをもっているのではないかと思っています。今後もより質の高い専門的な医療を提供していくとともに、地域住民に寄り添えるような医療を提供していきたいと考えています」と林課長は語る。
地域に寄り添いながら、誕生から終末期までの医療を支える、同院の取り組みが今後も注目される。
法人名 | 社会医療法人母恋 天使病院 | 法人設立 | 明治44 年9 月 |
理事長 | 柳谷 晶仁 氏 | 病院長 | 藤井 ひとみ 氏 |
病床数 | 260 床 | 職員数 | 568 人(平成27年4月現在) |
事業および 関連施設 |
呼吸器内科、糖尿病内科、消化器内科、肝臓内科、血液内科、循環器内科、人工透析内科、小児科、NICU 科、外科・乳腺外科、小児外科、整形外科、耳鼻咽喉科、産婦人科、眼科、精神科、麻酔科 | ||
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