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東京都新宿区・認定特定非営利活動法人難民支援協会

生活に困窮する難民の緊急対応から就労までの包括的な支援を実現

 独立行政法人福祉医療機構(WAM)が行う社会福祉振興助成事業(WAM助成)は、国庫補助金を財源とし、高齢者・障害者などが地域のつながりのなかで自立した生活を送れるよう、また、子どもたちが健やかに安心して成長できるよう、NPO やボランティア団体などが行う民間の創意工夫ある活動などに対し、助成を行っています。今回は、WAM 助成を活用した認定特定非営利活動法人難民支援協会の取り組みを紹介します。

■ この記事は月刊誌「WAM」平成28年3月号に掲載されたものです。

生活に困窮する難民の支援に取り組む


 近年、紛争や政治的、経済的な理由から母国での迫害を逃れ、難民としての受け入れを求めて来日する外国人の数は、年々増加の一途をたどっている。法務省入国管理局の発表によると、平成27年の難民申請者は速報値で7,586人(前年比2,586人、52%増)と、5年連続で過去最多を更新している。
 難民認定を受けると在留できるだけでなく、日本人とほぼ同水準の社会保障が受けられることになるが、日本の難民認定基準は国際的にみても厳しい状況にあるという。平成27年に認定を受けた人は27人(認定率0.4%)であり、「人道的な配慮」として一時的に在留を認められた人も79人となっている。
 このような状況のなか、平成11年に設立された認定特定非営利活動法人難民支援協会は、日本に逃れてきた難民が自立し、安心した生活を送るための支援に取り組んできた。
 主な活動内容として、難民認定のための法的支援をはじめ、「医(衣)・食(職)・住」を中心とした生活支援、自立に向けた就労支援、難民と地域をつなげるコミュニティ支援、政策提言や認知啓発活動などを実施。平成26年度実績で年間580人、2,406件の個別支援を行っており、同年12月に認定NPOの法人格を取得している。
 日本における難民申請者の状況について、同協会代表理事の石川えり氏は、次のように語る。
 「日本の難民認定率は非常に厳しい数字で、難民申請をしてから結果が出るまでの期間は平均3年となっています。その間、外務省が保護費の範囲内で財政的支援を実施していますが、審査の長期化や公的支援が十分でないことから、生活に困窮し孤立していたり、なかにはホームレス状態に陥る人も少なくありません。当協会では、難民申請者へのセーフティネットが乏しい現状に対して、強い問題意識をもっており、包括的な支援をより強化していくことに取り組んできました」(以下、「 」内は石川代表理事の説明)。
 また同時に、全国にいる難民申請者に対して、各地域で対応できるよう支援者同士のネットワークの推進を図っている。


WAM助成を活用し、難民への包括的な支援を実施


 この難民申請者への包括的な支援や、ネットワークづくりの取り組みは、平成26年度WAM助成を活用し、「在日難民の脱貧困ネットワーク確立事業」として実施した。
 同事業は、難民申請者を包括的に支えるシステムを確立し、経済的な自立を目指すとともに、支援ネットワークを構築することを目的に、@権利擁護を行う弁護士数の拡充、A住居支援、B経済的自立支援プログラムの実施、C首都圏外の困窮難民支援の拡大等を行った。
 難民認定の申請手続きは極めて専門性が高く、実際に認定を受けた人のほぼ全員が法律の専門家の支援を受けており、協力してくれる多くの弁護士を確保することが不可欠になる。権利擁護を行う弁護士数を拡充するため、専任スタッフを1人配置し、難民支援に関心のある弁護士や、(※)プロボノ活動が盛んで国際的な法律事務所に協力を呼びかけている。難民認定の経験のない弁護士に対するサポート体制として、経験豊富な弁護士がアドバイザーとなり、必要な知識や経験を得る機会を提供することで、23人の弁護士を集めることができた。
 また、外部から専門家を招き、法的支援と生活支援のケースカンファレンスを開催し、定期的に支援の見直しや課題の検討を行うことで、難民への適切な支援につなげている。

※…社会人が自らの専門知識や技能を生かして参加する社会貢献活動


 ▲ 適切な支援につなげるため、法的支援と生活支援のケースカンファレンスを定期的に開催している

難民の安心な生活を守るシェルター設置と医療同行通訳


 住居支援では、公的支援につながるまでの間に所持金が尽き、頼れる先がなくホームレス状態に陥った難民に対して、一時的に滞在できるシェルターを設置した。首都圏内(神奈川、千葉、埼玉)に生活に必要な寝具、電化製品などを備えた8室を確保したほか、首都圏外の相談に対応するため、難民支援を行う他団体と連携し、大阪府に3室を確保した。
 「住居支援のニーズは高く、のべ43人にシェルターを提供しましたが、公的支援につながるまでは通常2〜3カ月を要するため、常に満室で多くの待機者がいました。路上生活者は東京都でも冬場は凍死する恐れがありますので、難民のセーフティネットとして身の安全を確保する住居支援は欠かすことはできないと考えています」。
 また、長期にわたり経済的に困窮した生活を送る難民申請者は、路上生活で体調を崩したり、医療機関の受診が必要になることがある。日本語がわからない難民も多く、日常会話ができる人でも症状をうまく伝えたり、質問をすべて理解するのは難しいことも多く、医師にとっても正確な診断が難しいといった問題があるという。そのため、医療機関の受診に同行し、双方の言葉を適切に伝える通訳者の養成研修を実施した。
 養成研修では、医療通訳者の養成・派遣を行うNPO法人から講師を招き、医療機関に同行する職員やボランティアに対して、治療に影響する誤訳とならない適正な通訳方法や、患者を不安にさせないコミュニケーションスキルの習得を図った。また、研修内容をもとに「難民支援のための医療通訳ハンドブック」を作成し、他団体を含めた支援者に配布することで、医療同行通訳者の資質向上につなげている。
 そのほかにも、東京都社会福祉協議会等と連携し、医療受診を必要とする難民に対して、無料低額診療事業を実施している医療機関との調整を行い、のべ216件の医療同行を実施した。


難民と医療従事者で、コミュニケーションツールを開発


 難民の医療アクセスの向上と、医療現場の難民をはじめとする在日外国人を受け入れる力の向上への取り組みでは、難民が多く住んでいる地域にある病院と協働し、ワークショップを開催するとともに、コミュニケーションツール「ゆびさしメディカルカード」を開発・作成した。
 「病院でのコミュニケーションは、医療側と難民側の双方から対応に困っているという声が寄せられていました。難民と医療関係者とが協働して開発した『ゆびさしメディカルカード』は、病院で必要なコミュニケーションをゆびさしで伝えることができます。例えば、『今日はどうしましたか』など受付や検査でよくある会話や、痛みの大きさを数字やイラストで示すことで、理解しやすい内容になっています」。
 ニーズが高い5言語(英語、フランス語、ビルマ語、トルコ語、ネパール語)を各100部作成し、難民や医療機関に配布している。難民からは「自力で病院に行けるようになった」という声があり、病院からも「コミュニケーションがとりやすくなって助かる」と好評だという。
 受診のほかにも、難民のメンタルサポートを目的としたグループワークを開催。日本で暮らす難民の多くは、知り合いがいないことや、文化になじめないなど地域社会のなかで孤立しやすい状況にあるため、同じ境遇の難民同士が自由に語り合える場を提供している。グループワークでは、ただ話し合いの場にするのではなく、ソーシャルワーカーを配置し、日本で生活していくうえでの情報や知識を伝えるとともに、日本の文化に触れる機会をつくることで、地域社会での暮らしに適応できるようになることも目指している。

                
▲ 助成事業で開発・作成したコミュニケーションツール「ゆびさしメディカルカード」。難民、医療従事者の双方にとって受診、診察がしやすくなった ▲ グループワークでは居場所づくりとともに、日本で生活していくうえでの情報提供を行っている

経済的な自立に向けた就労支援の取り組み


 難民が経済的に自立するための就労支援の取り組みでは、就労資格をもつ難民を対象に就労準備プログラムを実施した。プログラムは就労のための日本語教育をはじめ、日本で就労していくうえで必要となる企業文化の理解を深めるとともに、コミュニケーション力やマナー教育の講座を開催している。
 その後、当協会が開拓した企業と難民のニーズをマッチングし、職場見学やOJTの体験を経て、就労するかたちとなる。平成26年度はプログラム参加者のうち、5人が採用につながったが、採用後も悩みの相談や日本語教育などのフォローを継続するなど、包括的な就労支援を行っている。
 さらに同協会では、難民と企業のマッチングを目的とした合同説明会を2回開催した。難民は就労準備プログラムの参加者を含めた47人、企業は全国から多様な業種19社が参加し、3人が就職を実現した。
 「現在、国内市場が縮小して進んだ技術や商品をもった中小企業経営者の多くは生き残りをかけて海外展開を視野にいれていますが、社員の外国人に対する言葉と心の壁が高く、社内の国際化が大きな課題です。合同説明会では、多様な経験や能力を持つ難民の採用を通じて社内の国際化や活性化を期待する企業が多く参加し、社会貢献的な意味合いではなく、企業が戦略的に難民の雇用を考えていることは大きな意味があると感じています」。

                
 ▲ 就労支援で実施した日本語教育の様子。採用後も職場に講師を派遣し、継続的に支援している ▲ 難民と企業のマッチングを目的とした合同説明会には、難民の雇用に積極的な多くの企業が参加した

他団体と連携し、支援ネットワークの拡充を図る


 そのほか助成事業では、他団体との連携により、首都圏外で暮らす難民への適切な支援につなげるために、支援ネットワークの拡充を図っている。新規ネットワークの開拓として、長野県松本市、静岡県浜松市、福岡市、長崎市、山口市で難民や困窮者支援を行う団体を訪問し、各地域の難民や外国人の受け入れ、支援状況などの情報交換をするとともに、今後の協力を呼びかけている。 すでに連携体制のある愛知県と大阪府の難民支援団体に対しては、支援の広がりを確認するとともに、これまで同協会が培ってきた支援ノウハウを伝えることで首都圏と同じ受け入れ体制ができつつある。
 助成事業の成果について、石川代表理事は「決して十分ではありませんが、助成事業により生活に困窮する難民に対する最低限のセーフティネットが確保できたのではないかと考えています。また、支援ネットワークの拡充では、連携団体の活動の質や量があがるとともに、これまで支援体制がなかった地域で新たに支援を始めようとする動きが出てきました。日本社会で難民を支援する体制や関わる人たちが増えてきていることを実感しています」。
 難民一人ひとりに寄り添い、包括的に支える取り組みがネットワークの拡大とともに全国に広がることが期待される。


もっと広いニーズに対応

認定特定非営利活動法人難民支援協会 代表理事 石川 えり氏

 平成26 年度の助成事業では、生活に困窮する難民の最低限のセーフティネットを維持・拡充できたことは大きな成果となりました。日本の難民申請者は8 割以上が東京都に集中していますが、支援ネットワークの拡充に取り組んだことで、各地域で受け入れられる体制を広げることにもつながりました。
 ただ一方で、本来であれば難民の衣食住の確保は公的支援でしっかり支えるべきだと考えています。難民申請の窓口でも当協会を紹介するほど信用していただけることはありがたいのですが、民間の事業としてセーフティネットのすき間を埋めれば埋めるほど、公的支援が確立していかないのではないかというジレンマもあります。
 また、近年は単身女性の難民が増えていますが、望まない妊娠の相談が多く寄せられるなど、女性がより弱い立場になっていることが顕在化しています。単身男性だけでなく、もっと広いニーズに対応していかなければならないと感じています。

難民問題を広く知ってもらいたい

認定特定非営利活動法人難民支援協会 支援事業部 コーディネーター 田多 晋氏

 当協会の支援事業は、法的支援と生活支援の両輪で進められる必要があります。そのため、全体のコーディネートをしながら、法的支援として弁護士との調整を主に担当しています。
 支援する際には、母国から逃れて本当に行き場のない人たちにとって、少しでも安心してもらえる雰囲気をつくることを心がけています。とくに、来日直後は「今日泊まる場所がない」といった緊急を要する相談が多く寄せられますので、スピーディーに支援につなぐことが求められます。
 また、日本への難民は急増していますが、一般の人たちには、見えにくい問題だと思います。今後はもっと多くの人たちに、難民問題に関心をもってもらえるよう周知していくことで、広く議論してもらえるトピックにしていかなければならないと考えています。


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法人名 認定特定非営利活動法人 難民支援協会
住所 〒160-0004
東京都新宿区四谷1-7-10 第三鹿倉ビル6階
電話番号 03-5379-6001 FAX 03-5379-6002
代表理事 石川 えり 法人設立 平成11年7月
URL https://www.refugee.or.jp/
助成実績 平成26年度
「在日難民の脱貧困ネットワーク確立事業」(助成額:2,841 万円)
事業概要:
日本に滞在する難民申請者は、公的支援が限られているため、その多くの人たちが生活に困窮し、地域社会で孤立している。このような現状に対して、難民を包括的に支援するシステムを確立し、経済的な自立を促すとともに、首都圏内外の支援団体と連携し、ネットワークの拡充を図る事業


■ この記事は月刊誌「WAM」平成28年3月号に掲載されたものです。
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