「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」(座長:田邊國昭・東京大学大学院法学政治学研究科教授)は、令和5年12月に閣議決定された「こども未来戦略」を踏まえ、多様な視点からの議論やヒアリング等を、これまで(令和6年6月~)9回にわたり積み重ねてきた。第10回目にあたる本検討会は、最終段階の取りまとめに向け議論の整理を行った。
「安心して産み育てる」ために必要な3点の支援強化策
冒頭、主に次の3点について、支援強化の方向性が明示された。
(1)「費用の見える化」を前提とした標準的な出産費用の自己負担無償化と、安全で質の高い周産期医療提供体制の両立
・出産育児一時金が増額(令和5年に42万円から50万円に引き上げ)されたにも関わらず、出産費用は年々上昇を続け、全国平均が50.7万円、東京都では62.5万円にも上り、地域・施設間格差が大きい。令和8年度をめどに、標準的な出産費用の自己負担無償化に向け具体的な制度設計を進める。
・赤字産科診療所の割合が増えているので、産科医療機関の経営実態等にも十分配慮する必要がある。
(2)希望に応じた出産を行うことのできる環境整備
・現状、出産費用と関連サービス(お祝い膳やエステ等)が個別に明示されていないため、今後は妊産婦が十分な情報に基づき、出産に関する自己決定・取捨選択が行えるよう環境を整備する。
・出生場所は、病院54%、診療所45%、助産所等が0.7%となっている。希望に応じ、助産所においても出産や産後ケアを安全に行える環境を整備する。
・無痛分娩(令和5年度は13.8%)については、希望する妊産婦が選択できる安全な環境を整備する。
(3)妊娠期から産後までを通じた支援の充実
・妊婦健診の公費負担状況は、改善傾向にあるものの自治体によってバラつきがある。自己負担がないように公費負担をさらに推進すべき。
・妊娠から出産後まで、妊産婦本位の切れ目のない支援体制を構築する。
・産後ケアの受け皿を拡大し、周知を深め、利用手続きの簡略化を進める。
議論やヒアリングで見えてきた様々な課題
これまでの議論やヒアリング、アンケートを通じて、以下の支援策に対し意見が示された。
(1)出産費用の自己負担無償化等について
「標準的な出産費用とは何か、自己負担無償化に向けた具体的整理が必要」「出産育児一時金の増額という手法には限りがあるので、別の方策を取る必要性がある」「保険適用により、妊産婦の窓口負担が増えないように配慮すべき」「公費・保険料・自己負担のバランスをいかに取るかが大切」「妊産婦の負担軽減・医療機関の経営・医療財政の安定が三方良しとなる制度設計を」という課題が示された。また、妊産婦からは、「出産に伴う自己負担が少しでも減ることを望んでいる」という声も多く聞かれた。
(2)出産環境の整備等について
「出産に対する妊産婦のニーズはさまざまで、サービスや費用に関する十分な情報に基づき、出産に関する自己決定を行える環境を整備すべき」「請求書が来るまで自分がいくら支払うのかわからず、出産費用のさらなる見える化が重要」「第8次医療計画に盛り込まれた院内助産・助産師外来を推進すべき」「無痛分娩等エビデンスに基づく産痛緩和ケアも含め保険適用すべきでは」という声が聞かれた。
(3)妊産婦本位の切れ目のない支援体制整備等について
「基準外の自費検査費用の可視化」「産後のメンタルケアや育児相談が受けやすい環境づくり」「オンライン上で諸手続きが完結され、申請から利用可能になるまでの日数短縮が必要」という声があった。
締めくくりとなる本検討会においては、上記議論の整理を踏まえ、さらに「自己負担の無償化という言葉が一人歩きしないような配慮が必要」「保険適用の議論について、医療保険制度の担い手である現役世代の負担軽減や給付と負担のバランスが非常に重要な観点だ」「今後制度化されるにあたり、見える化と標準化、2つの言葉がキーワードとなる」「これまですでに保険適用されてきた異常分娩の扱いについては整理が必要」「より広い視点から産科医療を支えていくことが重要」「少子化の進行を鑑み、保険医療財政に全てを委ねるのではなく、新たな財源の確保も必要ではないか」といった意見等が新たに付け加えられた。
今後、最終的な全体の取りまとめを行い、社会保障審議会医療保険部会や各種審議会等において、制度改正に関する具体的な検討に進む予定。