次期障害福祉サービス等報酬改定や第8期障害福祉計画(令和9〜11年度)の基本指針に反映させることを念頭に、障害者支援施設のあるべき役割や機能などを整理するため、厚生労働省は「障害者の地域生活支援も踏まえた障害者支援施設の在り方に係る検討会」を設置し、5月26日に第1回会合を開催した。
検討会は、障害当事者3名ほか、学識者、関係団体代表、自治体担当者によって構成され(全19人)、座長には、小澤温・長野大学社会福祉学部教授が就任した。検討会では、令和6年11月〜令和7年1月に実施された全数調査「障害者の地域支援も踏まえた障害者支援施設の在り方に係る調査研究事業」などで得られたデータを下敷きに、今後とるべき施策を検討し、年度内に報告書をまとめる予定。検討会の冒頭、厚生労働省障害保健福祉部の野村知司部長は、「昨年度の調査研究の内容を踏まえ、施設から地域への移行を実際に経験された当事者の皆様のご意見も盛り込みながら、ご議論をお願いしたい」と挨拶した。
国連「脱施設化ガイドライン」も踏まえ、施設の位置づけを詰める
障害者権利条約を批准しているわが国は、国連・障害者権利委員会による「総括所見(対日審査結果)」や「緊急事態対応を含む脱施設化に関するガイドライン」(いずれも令和4年9月公表)を踏まえて、国内の施策を展開することが求められている。同ガイドラインには「あらゆる形態の施設収容を廃止し、施設への新規入所を終わらせ、施設への投資を控えるべきである」という記載や、「脱施設化は、障害者がどのように、どこで、誰と暮らすかについて、自律性、選択、統制を回復することに焦点を当てるべき」という記載があり、これらを踏まえて、現行の第7期障害福祉計画(令和6〜8年度)の基本指針では「地域生活への移行」や「施設入所者数削減」にかかる数値目標が設定され、令和6年度障害福祉サービス等報酬改定では、地域移行等意向確認の取り組みが義務化され、地域生活移行にかかる体験利用に加算が設けられるなどの対応が取られてきた。
しかし、「今後の障害者支援施設の存在理由」という本丸の議論は、詳細な実態調査のうえで取り組むこととされ、“宿題”となっていた。その実態調査も完了し、このたび正式に「施設の位置づけ」を詰める場として、検討会が開催される運びとなったものである。
検討会での論点として、厚生労働省事務局は、(1)障害者支援施設に求められる役割・機能、あるべき姿、(2)今後の障害福祉計画の目標(施設入所者数、地域移行数等)の基本的方向性――という2つのカテゴリーに分けて提示。
「役割・機能、あるべき姿」に関しては、居室や定員の在り方、日中活動の在り方、重度化・高齢化への対応、看取りへの対応、意思決定支援の在り方、地域移行の取り組みのほか、「強度行動障害や医療的ケアにかかる専門的な支援」やその専門性の「地域への還元」などの論点が示された。
「今後の障害福祉計画の目標」に関しては、足元の計画の達成状況のほか、いわゆる「親なき後」を含む居住支援のニーズへの対応、グループホームとの共通点・相違点、厳しい人手不足の状況下における居住支援に係る生産性向上や定員規模などの観点を考慮のうえ、施設入所者数や地域移行数などの「目標設定の方向性」を検討するよう求めている。
「地域生活を支援する機能が必要」「障害者の住まい全般の議論を」
「グループホームとの自己負担の平準化も要検討」
検討会では、事務局の資料説明のあと、各構成員が論点に沿って意見を表明。
施設の「役割・機能・あるべき姿」に関しては、「地域での暮らしを支える地域支援体制構築への貢献が求められる」といった意見や、「在宅生活や地域生活が困難となった際、短期的に支援し、地域に戻れるような機能が必要」といった意見が複数の構成員から示される一方で、「調査結果からは、強度行動障害の人を受け入れている施設は半数ぐらいしかなく、一方で強度行動障害の人は入所を断っているという施設が相当程度あることが明らかになっている。地域に還元できるような専門性を有する施設は一部に限られるのではないか」として、機能を果たしえない施設への措置とセットで取り組むべきとの声も挙がった。
「今後の障害福祉計画の目標」に関しては、「職員が確保できない等の理由で施設入所者数は確実に減っている。最終的にセーフティネットとしてどれだけどのような内容で施設を残すかについて、検討が必要」という意見や、「グループホームも含めて、『住まいの場の支援』にかかるニーズをトータルに把握して、対応を考える必要がある」といった意見が提起された。
また、食事提供加算、補足給付、利用者負担額など経済的負担の“差異”によって、「施設に入所したほうが、地域で生活するよりも暮らしやすい――といった誤解を与える余地がある」として、負担の在り方についても検討するべきとの意見が提起された。
障害当事者の構成員からは、施設における生活環境について、「相部屋ではプライバシーがない。居室は個室であるべき」「町から近い場所にあったほうがいい」「職場と住む場所は別々がいい」という意見が、また、地域移行の取り組みについては、「町に少人数で利用できる家庭的なグループホームを建ててほしい。同じ集団生活でも、入所施設は大集団だから落ち着かないけれど、グループホームは落ち着いて生活ができる」「いま施設にいて『地域で生活したい』と思っている人には、体験をさせてあげたりして、地域で暮らせるようにしてあげた方がいい」といった意見が述べられた。