令和9年度の介護保険制度改正に向け、令和8年の通常国会に改正案を提出すべく、社会保障審議会介護保険部会の審議が大詰めを迎えている。12月1日に開催された第130回介護保険部会(部会長:菊池馨実・早稲田大学理事・法学学術員教授)では、@令和6年度改正で見送りとなった利用者2割負担対象の拡大案と、Aケアマネジメントに関する給付のあり方について活発な議論が交わされた。
利用者の2割負担・3割負担が求められてきた背景
介護保険制度における利用者負担割合は、平成12年の制度創設時より所得の多寡に関わらず一律1割負担としてきたが、高齢化が進み現役世代に過度な負担を担わせないように、また高齢者世代にも公平な負担を課すために、平成26年度改正で「一定以上所得のある第1号被保険者の上位2割相当:合計所得金額160万円以上かつ年金収入+その他合計所得金額340万円以上(単身世帯の場合。夫婦世帯の場合346万円以上)」の人については利用者負担を2割とした。
続く平成29年度改正では、介護保険制度の持続可能性を高めるために、世代内・世代間の負担を公平にし、負担能力に応じた利用料とする観点から、「現役並みの所得:合計所得金額220万円以上かつ年金収入+その他合計所得金額340万円以上(単身世帯の場合。夫婦世帯の場合463万円以上)」の人に対して、2割から3割への引き上げを行った。
利用者の2割負担拡大における「一定以上所得」の判断基準をめぐり意見が分かれる
「一定以上所得」「現役並み所得」の判断基準の見直しについては、以前より検討がなされ、令和6年度改正においても議論されたが、結論が出ず先送りになった経緯がある。今回議論にあがったのは、利用者2割負担に関する「一定以上所得」の判断基準の拡大を促す次のような厚生労働省案である。
〇 「能力に応じた負担」という全世代型社会保障の考えに基づくと、負担の公平化を図る必要があり、第1号・第2号被保険者の保険料水準が上昇する中、現役世代を含めできる限り保険料を抑えることが望ましい。要介護高齢者の消費支出の状況や現役世代より高い傾向にある要介護世帯を含めた高齢者世帯の貯蓄額状況を踏まえ、現在の2割負担対象者以外にも相対的に負担能力があると考えられる人に対象を広げ、負担を求めてはどうか。
〇 負担範囲を拡大する場合に想定される所得基準(年金収入+その他の合計所得金額)を、所得上位30%までの範囲で選択肢として示した(表1)。
資料1「持続可能性の確保」6頁
また、それに伴い以下の配慮措置が示され、所得基準と組み合わせた粗い財政効果の試算が行われている(図1)。
〇 配慮措置@:当分の間新たに負担増になる人に対して、増加の上限(月7000円)を設定する
(新たに2割負担になる人の最大負担増加額22,200円の約1/3の額)
〇 配慮措置A:預貯金が一定額以下の人は、申請すれば1割負担に戻す
資料1「持続可能性の確保」7頁
上記提案について各委員からは、全世代型社会保障の考えの中で2割負担への拡大は理解できるという賛成意見と、拡大によってサービス利用が控えられて重度化へつながらないか、また従来より所得の低い高齢者に負担を求めることへの懸念を示す反対意見があがった。また、概ね理解は示すものの、自治体における事務負担を懸念する声も多く聞かれた。詳細な意見は以下の通りである。
<所得基準について>
〇 介護は医療と比べ、継続的なサービス利用が考えられる。その点も考慮の上で、選択肢が示されたと理解できる。
〇 低所得者への配慮を前提に、能力に応じた負担の公平化のため、このような踏み込んだ見直しが必要である。
〇 今日の物価高と深刻な家計状況を踏まえると、この時期に本当に導入すべきか、この選択肢でよいのか慎重な検討を要する。
〇 所得基準で2割負担拡大の新たな対象にされている人たちは、あたかも経済的余裕があるように見える。しかし、実は介護が必要な人は、他にも医療費の自己負担や生活費の高騰などによりギリギリのラインで生活していることが多い。そのことを認識する必要があるのではないか。
<配慮措置@について>
〇 預貯金の正確な把握が困難であるに加え、自己負担割合を所得基準で設定しているため、制度の整合性から鑑み、負担増加の上限を設定するこの方法は現実的である。
〇 当初は月額7000円に抑えられても、やがて月額2万2,200円となる。たとえ一定の資産があったとしても、介護が必要な人にこれだけの負担を求めるのは果たして納得を得られるのか疑問である。
<配慮措置Aについて>
〇 預貯金が一定額以下の人を1割負担に戻す措置は、人手不足が顕著な自治体において事務負担増になりかねない。慎重な検討を要する。
〇 この考えを用いるのなら、負担能力についてどう考えるかをある程度整理した上で検討すべきではないか。
〇 この措置を取る場合、独居高齢者や認知症高齢者など自身で手続きの難しい人については、ケアマネジャーの負担(シャドーワーク※1)がさらに増える懸念がある。
〇 自分の資産が少ないことを申告しないと1割負担に戻れないというのは、新たなスティグマ※2を生むことにつながるのではないか。
※1…本来のケアマネジャーの業務を超えた業務のこと
※2…社会的な偏見や本人が感じる恥の意識のこと
ケアマネジメントにおける利用者負担導入について
ケアマネジメントに関する給付のあり方については、過去の制度改正時より、見直し(利用者負担の導入)に対する慎重派と積極派両論が拮抗しており、利用者やケアマネジメントに与える影響、他のサービスとの均衡も踏まえ、包括的な検討が継続的になされてきた。
これらをもとに、次期改正に向けた新たな検討案として、「他のサービス同様に幅広い利用者に負担を求めてはどうか」「利用者負担の判断にあたり、利用者の所得状況を勘案してはどうか」「住宅型有料老人ホームのケアマネジメントにおけるプロセスの透明化を担保したうえで、利用者負担を求めてはどうか」といった論点が提案された。
これらについても、委員の間で賛否両論の多様な意見が交わされた。
〇 一律に幅広く利用者負担を求めていくべきだが、その際には低所得者への配慮が必要である。
〇 今後、独居の認知症高齢者が増加することを踏まえ、利用者負担の導入は、権利利益の保護の観点からリスクを高める恐れがあるのではないか。
〇 ケアマネジメントの利用者負担の導入は、中立公正の維持等の幅広い視点から慎重に検討し、障害者総合支援法との整合性も十分に配慮すべきである。
〇 ケアマネジメント費用の発生によってサービスの利用控えにつながらないよう、10割給付の堅持を求める。
〇 ケアマネジメントは利用者の権利に触れる問題である。賛否両論があるなかで、議論が硬直化して時間的制約があるからと拙速な議論に持ち込まずに、本来のあり方に正面から向き合って一致点を見つけるべきではないか。
〇 住宅型有料老人ホームにおけるケアマネジメントの利用者負担は、丁寧な議論をもとに、適正化の観点から導入を検討すべき。「囲い込み」を前提としたロジックになっていないか、今一度振り返る必要がある。
最後に菊池部会長は、昨年12月よりスタートした介護保険部会における議論が今回の会議で出尽くしたとし、次回より取りまとめの段階に入ると述べた。