次期介護保険制度改正(令和9年度)に向け、令和6年12月より1年間審議されてきた議論を踏まえ、12月15日開催の第131回介護保険部会(部会長:菊池馨実・早稲田大学理事・法学学術院教授)は、いよいよ最終段階の取りまとめに入った。本会議では、これまでの論点を整理した「@介護保険制度見直しに関する意見(案)」に加え、前回で論点ごとの議論整理において示されなかった「A論点ごとの議論の状況(持続可能性の確保)」が俎上に上がり、各委員から踏み込んだ意見が出された。
「@介護保険制度見直しに関する意見(案)」
厚生労働省事務局は、従来「身寄りのない高齢者等」としていた表現を、同日(12月15日)開催された社会保障審議会福祉部会の報告書の表現に合わせて、「頼れる身寄りがいない高齢者」へと改めた旨を説明したうえで、前部会資料からの新たな修正点について以下の説明を行い、取りまとめ案全体の方向性を以下のとおり示した。
<人口減少・サービス需要の変化に応じたサービス提供体制の構築>
・中山間人口減少地域における特例介護サービス(※)の新たな類型の要件の例示として、職員の賃金改善に向けた取り組みを追記。
・同地域の配置基準緩和は慎重に対応すべきで、ICT機器等による業務効率化の取り組みが、必要な人員を代替し得るものかどうかについて精査する。
・夜勤要件の緩和についても職員への負担感への配慮が必要。
※ 特例介護サービス・・・省令で定める人員や設備を満たしていなくても、市町村が定める基準の下で保険給付を可能とする仕組み。現行では、「基準該当サービス」・「離島等相当サービス」等がある。地域の実情に応じて、サービスを柔軟に運用できる点が特徴。
<地域包括ケアシステムの深化>
・総合事業の文脈で多様な主体の具体例を追記。
・全ての有料老人ホームに対し、契約書に入居対象者を明記し公表するとともに、自治体に提出する事業計画書を記載することを義務付ける。
・登録の対象となる有料老人ホームの入居者のケアマネジメントの独立性の担保と相談支援機能の強化の観点から、居宅のケアマネジメントとは別に、ケアプラン作成と生活相談のニーズに対応する新たな相談支援の類型を創設。
・主任ケアマネジャーの居宅介護支援事業所管理者要件については、さらに介護給付費分科会で検討する。
<介護人材確保と職場環境改善に向けた生産性向上、経営改善支援>
・介護現場で働く幅広い職種の人に、他職種と遜色ない処遇改善を行う。
・介護現場における人材確保や生産性向上等による職場環境改善、経営改善支援等の取り組みを、国及び都道府県の責務として位置付ける。
・介護現場の健康経営を推進していく必要があるという意見を踏まえた取り組みを行う。
<多様なニーズに対応した介護基盤の整備、制度の持続可能性の確保>
・地域密着型サービスを行う事業所が存在しない自治体も多く見受けられることから、認知度や理解度を深め、整備していく必要性がある。
・福祉サービス間の連携に加えて、介護や福祉以外の地域資源との連携についても記載。
「A論点ごとの議論の状況(持続可能性の確保)」
前回の会議で議論された内容を踏まえ、持続可能性の確保について論点ごとの議論の状況がまとめられており、本会議でもさらなる検討が求められた。
<第1号保険料のあり方>
・保険者の段階設定や第1号被保険者の所得の状況等を踏まえ、被保険者の負担能力に応じた保険料設定について引き続き検討を行ってはどうか。
<一定以上所得、現役並み所得の判断基準>
・能力に応じた負担という全世代型社会保障の基本的な考え方に沿い、負担の公平化を図る必要がある。
・これまでの消費支出や家計の貯蓄額等の状況を踏まえ、相対的に負担能力があると考えられる人に、利用者負担2割の対象者を拡大してはどうか。
・今般の見直しの検討は、結果として従来の基準より収入が低い人に負担を求めることになる。加えて医療に比べ介護や療養については、長期にわたる利用が想定され費用がかかることから、配慮が求められる。
・2割負担拡大の提案の際に設けられた2点の「配慮措置」については、賛否両論あることから、より慎重な検討が求められる。
・預貯金口座へのマイナンバー付番も要検討課題である。
・補足給付に係る給付の実態も踏まえながら、引き続き検討を行う必要がある。
(参考:過去記事)
<補足給付に関する給付のあり方>
・能力に応じた負担にするという観点から、より細やかに所得段階の均衡を図ることが必要。
<多床室の室料負担>
・介護老人保健施設及び介護医療院の多床室の室料負担は、在宅との負担の公平性、各施設の機能や利用実態など、これまでの部会における意見を踏まえながら、介護給付費分科会で検討を行う。
<ケアマネジメントに関する給付のあり方>
・利用者負担の導入は、サービスの利用控えや重度化のリスクも懸念される。
・セルフケアプランの増加によるケアマネジメントの質への影響。
・利用者負担を求めている他のサービスや施設サービスとの均衡。
・ケアマネジャーに期待される役割とそれを果たすための処遇改善や事務負担軽減等の環境整備の必要性。
・新たに登録の対象となる住宅型有料老人ホームの入居者に係る新たな相談支援の類型に対し、特定施設入居者生活介護と同様に、ケアマネジメントに関する利用者負担等を求めるか、部会での丁寧な検討が必要。
<軽度者への生活援助サービス等に関する給付のあり方>
・要介護1・2の方の生活支援サービスの地域支援事業への移行については、対象者に対する専門的な介護技術と対応力のスキルが必要であることが理解されていない。十分な支援が届かないと状態悪化や費用の増大につながり得るため、慎重な対応が必要である。
・総合事業の実施状況が各自治体で一様ではないため、移行が難しい。
・総合事業によるサービスの効果検証を行わないまま、移行の議論を進めるのは時期尚早。さらなる包括的検討が必要。
年内取りまとめに向けた意見内容
上記を受けて、各委員から次のような意見が述べられた。
「中山間人口減少地域における介護サービス」について
※新たな地域類型に対して、制度設計の際の検討点や配慮事項等が焦点となった。
〇 市町村が介護サービスを事業として実施する際の具体的制度設計にあたり、「保険あってサービスなし」という状況も懸念される。真に効果的な施策になるよう引き続き検討が必要。
〇 対象となる地域の決定や市町村間の広域的調整が必要となる。十分な検討期間の確保と配慮が求められる。
〇 現在、一般市等の類型であっても将来的に中山間人口減少地域になる可能性が大。自治体や各関係機関が地域の実情、課題を把握し、継続的に分析、議論しながら必要に応じて柔軟に変更していく仕組みの構築も必要になるのではないか。
〇 通所介護、訪問介護が休止するケースも多いことから、サービス基盤の維持・確保に向けた議論を行うことが重要。
「利用者負担2割対象者の拡大」について
※現役世代の負担軽減を視野に賛成意見も聞かれたが、以下のような慎重論も依然として多かった。
〇 認知症の人や介護家族は、物価高騰に加えて後期高齢者医療保険料や患者負担、高額医療費の見直しなども検討されており、家計への強い不安を抱えている。対象者拡大は適切な判断とは考えられないのではないか。
〇 現役世代の負担軽減は重要な課題と認識するが、高齢者に対し医療と介護双方で負担増を求めることは影響が大きすぎる。
〇 働きながら介護を行っている家族への負担増にもつながり、結果的に現役世代への負担増になる。
〇 一定以上所得や現役並み所得の判断基準については引き続き検討が必要。
「住宅型有料老人ホームにおけるケアマネジメントの給付」について
※概ね賛成意見が多い中、以下のような留意点が言及された。
〇 住宅型有料老人ホームは実際に低所得、低資産の独居高齢者が入居するケースも多いため、ケアマネジメントの実態把握に関する調査を行いつつ、ケアの質担保の取り組みを進めるべきである。
〇 住宅型有料老人ホームの透明性のあり方と、ケアマネジメントに関する利用者負担との議論は分けて考えるのが妥当である。
〇 登録制の有料老人ホームに創設された相談支援が担う生活相談の役割や具体的内容について体系化し、請求業務が煩雑にならないための検討が必要。
「要介護1・2の人の生活支援サービスの地域支援事業への移行」について
※懸案事項である軽度者への地域支援事業への移行については、慎重論が多かった。
〇 要介護1・2と認定された人は決して軽度者ではなく、丁寧な実態把握が必要。専門職の介入が必要であり、従来どおりの介護サービスが実施されるべきである。
〇 検討に必要なデータを多角的に収集・分析し、介護保険の運営主体である市町村の意向や利用者への影響も踏まえながら、引き続き包括的に検討すべきである。
菊池部会長は、「@介護保険制度見直しに関する意見(案)」については概ね理解を得たとし、「A論点ごとの議論の状況(持続可能性の確保)」については、多岐にわたる意見が出たためさらなる調整が必要と述べたうえで、双方の議題について早急な年内取りまとめへの協力を求めて閉会した。