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医療・介護の提供能力の余力評価を

ふまえた法人経営


 全6回に渡って、各地域の医療・介護の提供能力の余力評価をふまえた法人経営についてお届けします。


<執筆>
国際医療福祉大学大学院教授 高橋 泰 氏


第3回:地方都市圏内の急性期医療・施設介護の提供余力の地域差

事業計画に必要な医療・介護の余力の把握

 連載の第1回目では日本の地域を大都市、地方都市、過疎地域に分ける方法を説明し、第2回(前回)は、大都市圏内の急性期医療・施設介護提供余力の地域差をみてきた。今回は、地方都市圏内の急性期医療・施設介護提供余力の地域差をみてみよう。
 表は、地方都市圏に所属する各二次医療圏の急性期医療と施設介護の余力を示す。縦軸は、「急性期医療の余力」を表し、上に位置するほど急性期医療の余力が高く、下に位置するほど急性期医療の余力が低い。一方、横軸は、「施設介護の余力」を表し、右に位置するほど介護の余力が高く、左に位置するほど介護の余力が低い。また県庁所在地に色を付けてある。



 医療レベル3以上の地方都市の多くには、年間1,000件以上の全身麻酔を行う病院があり、ない場合でも隣接した医療圏の医療提供体制が比較的充実しており、その医療資源を利用可能な状況にある。表の中で色を付けて表示されている県庁所在地は、医療レベル1が5都市、レベル2が16都市、レベル3が11都市であり、日本の地方の県庁所在地は、かなり恵まれた医療が受けられる環境にあることがわかるだろう。一方レベル4または5に属する地方都市には、年間全身麻酔1,000件以上の基幹病院が二次医療圏内に存在しない場合と、存在するが人口に比して提供能力が不足している場合があるが、いずれの場合も、地域医療構想会議などで、平均在院日数の更なる短縮による医療資源利用の効率化や病院間の役割分担強化など、地域全体の医療提供能力の向上を話しあう必要があるだろう。
 介護の余力がレベル1から4の地域は、現在後期高齢者に対する施設が多く、かつ将来に向けて後期高齢者の増加が少ない、あるいは減少するような地域である。レベル6、7の地域には、現在は介護施設が整備されているが今後後期高齢者の激増が予測される地域と、現在すでに高齢者施設の提供水準が低い地域がある。いずれの地域も、今後高齢者施設の増強あるいは在宅サービスの充実が不可欠な地域といえよう。
 2015年6月4日に日本創成会議が発表した「東京圏高齢化危機回避戦略」のなかで、東京圏の介護が、現状のままでは壊滅的な状況になること、そのような状況を回避するため4つの対策を提言した。その1つが元気高齢者の地方への移住であり、大都市圏から地方都市への移住先の候補として紹介したのが、表の右上に位置する40地域であった。現在でも決して少なくない数の元気高齢者が、東京圏から地方へ移住している。その多くが、東京から比較的距離の近く環境のよい、千葉県や関東北部などの地域が多かった。表に示すように、現在高齢者移住で人気のある地域は、残念ながら医療の余力の少ない地域が多く、せっかく移住しても歳をとり病気がちになった時に、入院先の確保に苦労するなど医療確保で困難に直面する可能性の高い地域といえる。創成会議が以下の表を発表したのは、各土地に住み続ける人も、移住も含めて、歳をとり、医療介護を必要とするときの対策を考える一つの参考情報を提供するためである。この表を見れば、前回示した大都市と比べ地方には、医療も介護も将来的にみても余力があることが予想される都市が少なからずあることがわかるだろう。
 少なくとも、表の右上の室蘭や別府の住民や医療機関と、表の左下の刈谷、岡崎の住民や医療機関とでは、将来に向けてやるべきことが大きく異なることは明らかであろう。これまで読者の皆さんが、地域の医療介護の余力を真剣に考えたことがないならば、将来の自分の住まい方、施設の将来計画を考えるにあたり、自分や自院の所属する地域の医療と介護の現在および将来の余力をまず把握し、次に将来にむけての計画を考え直す必要があるだろう。

※ この記事は月刊誌「WAM」平成27年12月号に掲載された記事を一部編集したものです。
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