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医療・介護の提供能力の余力評価を

ふまえた法人経営


 全6回に渡って、各地域の医療・介護の提供能力の余力評価をふまえた法人経営についてお届けします。


<執筆>
国際医療福祉大学大学院教授 高橋 泰 氏


第5回:各位地域の急性期医療の余力の計算方法

二次医療圏を超えて移動する患者の動向を反映した急性期医療の余力

 連載の第1回目では日本の地域を大都市、地方都市、過疎地域に分ける方法を説明し、第2回は大都市圏内の、第3回は地方都市圏内の、第4回(前回)は過疎地域の急性期医療・施設介護提供余力の地域差をみてきた。今回は、この連載で使用した二次医療圏を超えて移動する患者の動向を反映した急性期医療の余力の計算方法を説明する。
 表は、名古屋およびその周辺の二次医療圏の面積、人口、病院数、病床数、医師数などを示している。名古屋の北部に「尾張中部」というわずか42km²の日本で最も狭い医療圏が存在する。この地域には16.5万人が住むが、病院が5つしかなく、一般病床が286床、医師が166人しかない。人口当り医師数指数が0.39と全国平均の40%レベルにも満たない全国最低レベルであり、指標で見る限り日本を代表する医療過疎地域となる。



 しかしこの医療圏の住人は、あまり困っていない。なぜなら車で15分走れば、名古屋、一宮(尾張西部)、小牧(尾張北部)などの隣接医療圏の基幹病院に手軽に行くことができ、住民はむしろ、「医療の充実した地域」と感じている。表のように二次医療圏で区切り地域内の医療資源量を評価すると、住民が隣の医療圏の病院を容易に利用できるような場合、指標がミスリードを起こし、指標が示す二次医療圏の医療事情と住民の感覚が大きく乖離することが多い。
 患者は二次医療圏を意識せず移動をするため、境界を取り払い、各地域の急性期医療の過不足を住民の視点に近い形で表現できないかと考え開発したのが、表の右端の「急性期医療密度指数」である。急性期医療密度を用いて名古屋周辺の医療圏を評価すると、尾張中部は0.85と、尾張中部の住民の感覚に近い、比較的急性期医療資源に恵まれた地域として評価される。
 急性期医療密度指数は、GIS(Geographic Information System:地理情報システム)というシステムを駆使して算出した。GISは、日本を1q×1qの大きさの区画(メッシュ)に分けた全国の全メッシュに関する人口を含む種々の情報や全国の全道路とその道路の平均走行速度などの情報を内蔵し、これらの位置や空間に関するさまざまな情報を、コンピュータを用いて重ねあわせ、情報の分析・解析を行ったり、情報を視覚的に表示させたりするプログラムである。
 図を用いて、この急性期医療密度指数の算出方法の概要を説明する。まず図のA病院の横の四角い柱で示したような感じで、一般病床数と全身麻酔数により各病院の急性期医療提供能力を、「急性期医療提供点数」として算出する。次にGISの道路に関する情報をもとに、病院から15分圏内、30分圏内、45分圏内、60分圏内のメッシュを選定する。図では、地域1と2のメッシュがA病院から15分圏内、地域3のメッシュが15〜30分圏内として表されている。



 さらに図の急性期医療提供点数を表す四角い柱の点数が矢印の形で各地に分配されているように、各病院の「急性期医療提供点数」は、(1)病院から15分圏内、30分圏内、45分圏内、60分圏内という「時間距離」と、(2)各メッシュの「人口」に応じて分配される。地域1メッシュと地域2メッシュはともにA病院から15分圏内だが、地域1メッシュは地域2メッシュの2倍の人口がいるので、地域1メッシュにはA病院から地域2メッシュの2倍の点数が分配される。周辺に複数の病院があるメッシュは、それぞれの病院から、人口と距離に応じた各病院の急性期医療提供点数が割り振られる。
 各メッシュに各病院から割り振られた「急性期医療点数」の積算値を、そのメッシュ人口で割ったものが、図の吹き出しの中に示された各メッシュの「一人当り急性期医療密度」である。「一人当り急性期医療密度」は、メッシュ内の住人が、隣の二次医療圏も含めた周辺病院からどの程度の急性期医療サービスを受けることができるかという目安を示しているといえる。この指数は、より近くに、より大きな、より高度(≒全身麻酔数が多い)な病院が、数多くあり、また周辺の人口が少ない(≒人口密度が低い地域)ほど大きくなる。
 表の最終列に示された「急性期医療密度指数」は、ある二次医療圏内の住民の「一人当り急性期医療密度」の平均値を、全国平均が1になるように補正したものである。
 「一人当り急性期医療密度」や「急性期医療密度指数」は、エクセルを用いれば簡単に計算できる「人口10万人当りの医師数」などの従来の指標とは異なり、膨大な演算のもとに求められる指標である。コンピュータはプログラムの指示に従い、「まず全国の病院の医療提供点数を計算し、各病院からの一つひとつに到達する全道路の組み合わせに対して所要時間を計算し各メッシュまでの到達時間を決め、ある病院から15分圏内、30分圏内、45分圏内、60分圏内の人口を計算し、さらに各病院から各メッシュに提供される医療点数を積算し…」というような演算を、北海道から沖縄までの全医療機関、38万を超える全国の全メッシュに対して、綿々と行う。この指標を算出するために、現在のハイスペックのパソコンで2.5日を要した。5年前のパソコンなら2週間、10年前なら大型計算機でなければ演算不能というレベルの演算量が必要である。しかしこのような演算を通して得られた指標により、二次医療圏の境界を意識せず移動する患者の視点に近い、各地域の実態にあった医療の余力を評価する指標を開発できたと考えている。
  各二次医療圏別の「一人当り急性期医療密度」や「急性期医療密度指数」は二次医療圏データベースや日医総研のワーキングペーパー(No.352 地域の医療提供体制の現状と将来 −都道府県別・二次医療圏別データ集−2015年度版 高橋泰、江口成美、石川雅俊)で公開されている。二次医療圏単位で算出した指標のミスリードを防ぐためにも、地域医療構想会議などにおいても、これらの指標をぜひ参照しながら、議論を進めてほしい。

※ この記事は月刊誌「WAM」平成28年2月号に掲載された記事を一部編集したものです。
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