はじめに
医療と介護の連携というテーマで、本稿から連載を始めることになった。第1回は、これらのテーマを考えるにあたって、人の「最期(看取り)」は何処で迎えているのか?迎えたいのか?といった「看取り」の認識を深めることからはじめよう。もちろん、医療と介護の連携にあたっては、障害者福祉分野を中心とした高齢者層に限らず、乳幼児から大人まで対象となり、その年齢層は幅広い。しかし、本シリーズでは、高齢者介護分野における医療と介護の連携に特化して述べていく。
医療技術の進歩
なぜ、看取りといった認識が重要かといえば、介護の先に必ず「死」というエピローグがあり、多少、ケースによって異なるものの医療と介護が連続性の関係にあるからだ。
とくに、1980年代から医療技術の進展により、吸引器、胃ろう器具、在宅酸素機器などがコンパクト化され、従来、医療施設の専門職でなければできなかったケアが、現在では親族などの素人でも、訓練さえすれば十分に対応できるようになった。
つまり、これら医療行為が医療施設のみでなく、介護施設や在宅といった、常時、医療系専門職が常駐していない「空間」でも実施することが可能になったからである。そして、一定の医療的ケアが医療施設以外で実施されれば、介護と医療が直線で結びつくことになり、その先にある「看取り」を介護現場でも考えざるをえなくなった。
筆者は、1990年の大学生時に、福祉実習という名目で特別養護老人ホームで介護体験をした。その時代、介護施設の利用者が病気などで体調が悪化すれば、医療施設へ入院することが常識であった。介護施設で看取りまでケアすることは、全国的にも稀であった。
しかし、20年以上経った現在、介護施設での看取り件数は徐々に増えている(図1)。それに対して、病院で亡くなるケースが少しずつ減少している。これは国の入院日数短縮化施策にも大きく関連するが、このような施策が可能になったのも医療技術の進展によることを忘れてはならない。
病院死を歴史的に考えると…
そもそも、戦後間もない時期、日本の平均寿命は男女ともに50歳代前半であった。そして、女性の平均寿命が70歳を超えたのは1960年、男性は、1970年代になってからである。
なお、1970年代までは自宅で亡くなる人が半数以上にのぼっていたものの、これは当時としては決してよい傾向ではなかった。むしろ入院する経済的余裕がないため、やむなく自宅療養していて、そのまま亡くなるといったケースが多かったのである。
国民皆保険制度が始まったのは1961年で、確かに、皆保険制度が浸透するにつれ、誰もが入院医療サービスを享受できるようになった。しかし、医療保険制度においても、自己負担が定率3割負担となったのは1970年前後になってからで、それまでは定率5割負担のほか、多額の保険外費用負担が課せられていた。実際、医療保障が充分でなかった1960年代までは、一家のうちひとりが入院すると、生活が苦しくなり、財産を食いつぶしてしまうことも珍しくなかった。
その意味で、昔は在宅死が多かったという論調があるが、これは経済的理由で充分な医療保障が受けられなかったために、やむなく在宅で亡くなっていたというのが適切であろう。
人はどこで最期を迎えたいか
では、現代の人は最期をどこで迎えたいと考えているのだろうか?
内閣府の世論調査では、年齢を問わず「治る見込みがない病気になった場合、どこで最期を迎えたいか」という問いに、半数以上が「自宅」と答えている(図2)。
この世論調査を論拠のひとつにして、最近、国は、自宅で亡くなることを理想として、在宅医療・在宅介護といった施策を推進している。
ところが、この調査に答えた人々は、要介護状態となっている人とは限らない。しかも、独り暮らしとなり誰にも看取られずに亡くなることは想定していないだろう。基本的に自分で意思表示がしっかりとできる人が、将来自分が弱ったときのことを想像しながら答えているに過ぎない。
現実には、「家族などに迷惑をかけたくないから『病院』や『施設』で最期を迎えたい」と真剣に思っている人のほうが多いのではないだろうか。
筆者は、介護現場で働いていた際、多くの人から「自宅で死ぬとなると、家族に介護の負担をかける
のが心配だ。娘や息子に、同居して介護してもらうのは忍びない。もはや、子どもが親の介護をして看
取る時代ではない」ということから、自分の財産を介護施設の入居費用に充てて、家族に迷惑をかけず
に最期を迎えたいという相談を受けた経験がある。
その意味では、在宅で最期を迎えることは理想であるが、重度の要介護状態となったり、医療的なケ
アが必要となれば、介護施設への入所希望者が増え、結果として看取りの場としてのニーズが高まって
いると考える。
連携とは看取りまで見据えること
このように医療と介護の連携を考えるにあたっては、人の最期を看取るといったケアまで考えなければならないであろう。しかも、医療施設以外でも看取ることが求められる。
しかし、現在の医療および介護サービスは、医療施設以外では、全国的にみると看取る体制は十分には整っていない。経済力や家族力などに依存するか、偶然、看取りに熱心に取り組んでいる介護事業所があれば、医療や介護の連携がなされ看取りまで施される。
その意味では、在宅であろうと施設であろうと、限られた環境のなかで看取りを見据えながら医療と介護の連携を考えていかなければならない。
※ この記事は月刊誌「WAM」平成26年4月号に掲載された記事を一部編集したものです。
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