第6回:「在宅医療・介護の連携」は、実現できるのか?
2014年6月、「地域医療・介護総合確保推進法」が可決されたことで、来年度から法定事項として市町村が主体となって「在宅医療・介護連携の推進事業」を実施しなければならなくなった。これまで医療提供体制の骨格は都道府県を中心に取り組まれてきた経緯があったものの、この法改正で介護保険制度における地域支援事業の一環として、市町村がこれらの事業を実施していくこととなる。
具体的には、保健所、地域包括支援センター、市町村、医療機関の連携を強化することが目指され、有機的に各サービスの調整機能が市町村に果されることになった。ただし、これまでも「在宅医療連携拠点事業」、「在宅医療推進事業」といった医療と介護の連携事業は、モデル的に一部の地域で実施されてきた。これらの実績も踏まえながら、実施に向けた取り組みが期待される。
「在宅医療連携拠点事業」を振り返る
この事業の目的は、当該区域で働く医療と介護関係者が一堂に会して「顔の見える」関係を構築することにある。主に在宅療養支援診療所、在宅療養支援病院、訪問看護ステーションで取り組まれている。平成23年度から厚生労働省のモデル事業で始まった当初の実施主体は10カ所であったが、平成24年度には全国105カ所に増加した。そして、平成26年度から地域医療再生計画の一部として、各都道府県の準恒久的な事業へと移行され、この法改正で、平成27年度から「在宅医療・介護連携事業」として開始された。
具体的には関係機関が集まる会合を年4回以上実施し、そのうち1回は各地域の自治体職員や関連施設の管理者が参加することとなっている。
また、在宅医療従事者の負担軽減の支援という意味で、1人で診療を行っている医師などを対象に、これらの医療機関が補完しあう体制づくりが目指されている。なお、一般市民に対する在宅医療の普及啓発事業も盛り込まれている。
在宅医療・介護の連携推進事業
繰り返すが、今回の法改正によって市町村が主体となって実施する「在宅医療・介護の推進事業」は、平成30年4月にはすべての自治体で実施されることが目指されている。
具体的には既述の「在宅医療連携拠点事業」等のモデル事業を踏まえながら、介護保険制度における地域支援事業の枠組みで実施される。例えば、@地域医療・福祉資源の把握および活用の提示(マップ作りなど)、A在宅医療・介護連携に関する会議の開催および促進、B在宅医療・介護連携による関係者の研修会の開催、C24時間体制の在宅医療・介護体制の構築、D地域包括支援センターの専門職への支援(在宅医療関係など)等の内容が想定される。
なお、具体的な実施機関は、地域包括支援センターや地区医師会などが考えられ、両者が連携しながら市町村が主体となって実施されることが目指されている。
連携を遂行するうえでの課題
●在宅医療の整備状況
このような推進事業のコンセプトである「在宅で最期を迎え、患者(高齢者)の病院・施設志向を是正させていく」という姿は望ましいことである。しかし、そのためにはサービス基盤を整備することが不可欠である。例えば、在宅療養支援診療所や訪問看護ステーションといった在宅医療資源をどれだけ拡充できるかが大きなポイントとなる。
確かに、度重なる診療報酬改定などによって在宅療養支援診療所は増加傾向にあるが、これらのなかには届け出のみをして、実際には「看取り」まで行わない医療機関も少なくない。
また、訪問看護ステーションの増加率は低調であり、訪問看護師のマンパワーを「病院系」と「在宅系」とで比べた場合、在宅系の看護師が不足している。24時間体制での医療資源が確保されなければ、これらの事業は空想に終わってしまうであろう。
●複合型サービス
また、医療と介護の連携を目指した2012年から実施されている「複合型サービス」という事業形態も伸び悩みは否めない。これらは「地域包括ケアシステム」構想の実現へ向けての一つの具体策であり、従来の小規模多機能型居宅介護サービスに、看護サービスを付属したものである。サービス自体のコンセプトは、利用者や家族の視点から考えても間違いではない。むしろ、このようなサービスが全国に普及していくことに誰も異論はないことである。
しかし、この複合型サービスにおいても一部の地域や事業所を除いて、全国的に普及させるには大きな課題が生じている。その要因の一つに「複合型サービス従業者のうち、常勤換算方法で2・5以上の者は、保健師、看護師又は准看護師でなければならない。通所サービス及び訪問サービスの提供に当たる従業者のうち、それぞれ1以上は保健師、看護師又は准看護師でなければならない」という法令により、本事業を展開するには一定の看護師を雇用しなければならないことがあげられる。
介護現場での看護師不足が深刻化している状況では、このような人員体制を確保することは限られた法人であり、全国的に普遍化していくサービス体系とは考えにくいのが現状である。
●在宅での「看取り」の難しさ
そもそも在宅医療・介護の連携の目的には、在宅における「看取り」を推進することも含まれている。しかし、必ずしも在宅での看取りが実現できるとは限らない。とくに、患者や家族の心境は複雑で、例えば一人暮らしの場合、どんなに「自宅で死にたい!」と思っていても、体調が悪化してくると心細くなっていく人も珍しくない。モルヒネや鎮痛剤で痛みの緩和治療が施されたとしても、「死」を間際にすると精神的に不安になり、在宅で「独りで亡くなる」よりは、やはり「病院」で亡くなるほうがよいのではとの気持ちになる人も少なくない。
また、家族がいる場合でも、どんなに「献身的に最期まで看取る!」と気構えていても、末期状態になると「本人の唸るような苦しみ」、「夜間も眠れないほどの看病」が続くと、「もう無理だ」と思い病院へ入院させることもある。
その意味では、在宅で最期を看取るケースは、相当な強い意思が本人や家族に不可欠である。しかも、いつでも入院できる医療機関を確保することが重要である。これは「かかりつけ医」の力量にもよるが、本人や家族が「在宅では無理」だと思えば、すぐに入院できる体制が整備されていると、安心して在宅で闘病生活を送ることができる。
その意味では、在宅医療・介護の連携を強化すると同時に、患者や家族の弱さに焦点を当てて、いつでも病院や施設に入院・入所できる体制を組まなければ、在宅医療・介護を試みる人は増えていかないであろう。
理想と現実を考える
現状では、一部のケースを除いて、在宅医療もしくは在宅介護は献身的な家族による介護力に支えられている。いわば在宅での介護保険サービスは、あくまでも家族介護が前提となっており、それらを補完する機能に過ぎないケースも多々ある。
本来なら、たとえ、一人暮らしの寝たきりの高齢者であっても、在宅介護サービスのみで手厚いケアが受けられ、在宅生活が可能になるべきであろう。もちろん、現在でも一部の地域では、独居高齢者でも社会資源を使って「看取り」まで行うケースもないわけではない。
しかし、それらはヘルパーや介護士・看護師らの従事者に恵まれた場合であり、多くの地域で実現できるわけではないことも理解すべきであろう。やはり、通常は家族の介護力を頼りに在宅医療・在宅介護が担われている現状が多くの地域でみられると、筆者は考える。
その意味では、この法改正による在宅医療・介護の連携推進事業は好ましいことではあるが、多くの課題も含んでいることも認識していくべきであろう。
※ この記事は月刊誌「WAM」平成26年9月号に掲載された記事を一部編集したものです。
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