はじめに
各地域の在宅医療の多くは、開業医を中心とした地域医師会がまとめ役となっているケースが多い。都市部においては、地域医師会に加入していない医師も増えているものの、依然として在宅医療の取りまとめ役としては地域医師会が機能しており、今後もこれらの協力を仰ぎながら医療と介護の連携をスムーズに遂行していくことが効率的であろう。
「在宅医療連携拠点事業」
周知のように、国が「在宅医療連携拠点事業」を進めたのは、最近になってのことである。これは市町村と地域医師会が中心となって在宅医療・介護連携を推進する動きを、国が公費を投入して確実なものにしたことになる。
これまで各地域では独自の連携手法が試みられてきたが、国が本格的に取り組んでから日は浅い。具体的には、在宅医療・介護を推進させるために、医療関係者と介護事業者の連携を密にする環境整備を構築することが目的とされている。とくに、24時間対応可能な在宅療養支援診療所や訪問看護ステーションを地域ごとに整備し、医療ニーズの高い要介護者であっても在宅介護が可能な地域づくりを目指すことにある。
医師と介護職の垣根
実際、かつて筆者もケアマネジャーとして介護現場に従事していたが、要介護高齢者の主治医との打ち合わせを重視していた。ただし、医師の診療時間もあり多忙を極めているため、ケアマネジャーやヘルパーと打ち合わせをしても、医師にとって直に報酬としての見返りはないため、その時間を割くことに消極的な医師も珍しくない。
幸い、筆者が担当していた高齢者の主治医は地域医療・介護に精通しており、ケアマネジャーとの打ち合わせを重要視してくれたので、あまり連携には困らなかった。
もっとも、筆者が働いていた地域は、地域医師会と自治体が医療・介護連携に積極的に取り組むことを確認し、地域医師会が組織的に「ケアマネタイム」を設けるように会員である医師に働きかけていた。具体的には、週2〜3回は必ずケアマネジャー等の介護従事者のために診療後の時間を30分ほど割くような勧めを、医師会が組織的に実施していた。
医療と介護の連携となると、どうしても医師個人の属人的な取り組みになりがちで、組織もしくはシステムとして稼働せず普遍的な仕組みになりにくい。その意味では、市町村と地域医師会との協定などが重要となってくる
患者や家族の意識
一方、在宅における看取りを「地域包括ケアシステム」構想では推し進めているが、筆者は多くの看取りに携わる関係者に取材をした結果、そう簡単なことではないと実感している。
とくに、患者や家族の心境は複雑で、例えば一人暮らしの場合、高齢であってもがん末期等になり体調が悪化してくると、どんなに「自宅で最期を!」と思っていても、心細くなってくる。モルヒネや鎮痛剤で痛みの緩和医療が施されたとしても、「死」の間際となると精神的に不安となり、在宅で「独りで死ぬ」よりは、やはり「病院」で亡くなるほうがよいのでは、と気持ちが変わる人も少なくない。
また、家族がいる場合でも、どんなに「献身的に最期まで看とる!」と気構えていても、末期状態になり「本人の唸るような苦しみ」、「夜間も眠れないほどの看病」が続くと、「もう無理だ」と病院へ入院させることもある。その意味では、在宅で最期を遂げるケースは、相当に強い意思が本人や家族に不可欠ではないだろうか。
そのためには、いつでも入院できる医療機関を確保することも重要である。これは「かかりつけ医」の力量にもよるが、本人や家族が「在宅では無理」だと思ったときに、すぐに入院できる体制が整備されていると、安心して在宅で闘病生活を送れるからである。
市町村の意識
医療と介護の連携を考えた場合、第一に、医師と介護従事者の垣根を低くし、お互いが話しあえる環境づくりが重要となる。それには、地域医師会の協力のもと、組織的な働きかけがないと、医師個人のモチベーションに依存するだけでは普遍的なシステムになりにくい。
第二に、在宅療養支援診療所や訪問看護ステーションなどの医療資源を、いかに当該自治体に整備できるかがポイントとなる。
そして、第三に、患者および家族の在宅で最期を迎える気持ちと、その心境の変化を考えながら支援にあたることである。
以上の3点を踏まえながら、介護保険の保険者である市町村が医療と介護の連携に積極的に取り組む姿勢があって、はじめて在宅医療・介護の推進が遂行されると考える。
※ この記事は月刊誌「WAM」平成26年5月号に掲載された記事を一部編集したものです。
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