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耐火木造による高齢者福祉施設づくりの最新情報


全6回に渡って、耐火木造を用いた高齢者福祉施設づくりについて お届けします。


<執筆>
金沢工業大学環境・建築学部建築デザイン学科 教授
A/E WORKS 代表理事 佐藤 考一

第1回:耐火木造の建設動向


はじめに


 最近、耐火木造を用いた高齢者福祉施設づくりが注目を集めている。全6回にわたって連載を始めるにあたり、耐火木造の建設動向に触れておきたい。

耐火木造のメリット


 この連載では木造を用いた耐火建築物を「耐火木造」と呼ぶことにする。耐火木造が福祉・医療事業者の注目を集めている主な理由は、非木造建築物に比べて次の3つの特徴をもつためである。

@法定耐用年数が短い。
A工事単価が低い。
B工期が短い。

 デフレが長期化したことから、近年の経営ではキャッシュフローが重要視されている。つまり建物を利用するビジネスでは、大きな減価償却費を計上できる方が経営上有利になる。こうした経済情勢のなかで、図らずも@が注目されるようになっている。
 Aは建築分野の技術革新と関連する。これまで居住系施設は主に鉄筋コンクリート(RC)造でつくられてきた。木造の方が安価でも、耐火建築物をつくれなかったためである。しかし、2004年からは木造の耐火建築物が可能になっている。
 Bが改めて注目されるのには2つの理由がある。通常規模の高齢者施設は地方自治体を経由して補助金を受け、単年度事業で建設される。この場合、着工から竣工までの工期は実質的に半年ほどしか確保できない。しかし、RC造は現場でコンクリートを硬化させる期間が必要であり、工期短縮には限度がある。
 しかもRC造は労務集約的な技術である。型枠工・鉄筋工・コンクリート工という3つの職種が必要になるが、低額な労務費が長期化したことから就業者の減少が目立ち、作業員の確保が困難になってきている。復興事業が目白押しとなった東日本大震災以降、公共工事の入札不調が続いている背景にはこうした事情がある。


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耐火技術の発展と大規模木造づくり


 しかし、安易に耐火木造に取り組んだりすると、トラブルが続出することになる。戦後の建築行政が最初に掲げた目標は「不燃化」であった。これは「非木造化」の促進と言い換えて差し支えない。そのため学校などをつくる機会が長期間にわたって失われ、日本では大規模な木造建築を建てるノウハウが衰えてしまったのである。
 この点については少し補足が必要かもしれない。1993年に建築基準法の耐火規定が再編されて「準耐火建築物」というカテゴリーが導入されると、木造で建てられる範囲が拡大し、日本各地で木造の学校や3階建て集合住宅などが建てられるようになった。
 さらに2000年代に入ると耐火木造の技術が大臣認定されるようになる。(一社)日本ツーバイフォー建築協会が2004年、(一社)日本木造住宅産業協会が2006年に認定を取得し、両団体に関連する耐火木造はすでに累計3000棟を超えている(図1)。つまり大規模木造なら20年、耐火木造なら10年の経験がすでに蓄えられている。


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 しかも、ここ数年の間に大きな追い風が2つ吹いている。2010年には通称「公共建築物木材利用促進法」が施行されて公共建築の木造化に道筋がつけられたが、2014年度中には誰でも使える木質系耐火構造の仕様が国土交通省から告示される予定になっている。

耐火木造による高齢者施設づくりの留意点


 しかし、現時点では耐火木造の技術的蓄積が偏在していることも確かなのである。これまでの耐火木造は戸建住宅が中心だったため(図2、3)、施工経験のある大手ゼネコンは限定される。実際、建設地が東京に集中していたこともあって(図4)、地方のゼネコンは耐火木造の存在さえ知らないこともある。


 さらに公共建築を手掛けるような設計事務所は、木造の設計に慣れていない。もちろん戸建住宅程度なら設計も工事監理も難なくこなせる。しかし、ツーバイフォー構法や集成材・金物構法などを用いて大規模な施設をつくるとなると、町場の戸建住宅とは勝手が違ってくる。
 何事にも経験に裏づけられた勘所がある。大規模耐火木造の経験が建築業界に広く行き渡っていない現時点では、基本設計段階で部材メーカーがもつ知見を意識的に汲み上げることが重要である。これまでに耐火木造の高齢者福祉施設を建てた事業者のなかには、期待したほどの工事費ではなかったと不満をもっている場合もある。耐火木造の技術的特性を踏まえて計画を進めないとこうした事態に陥ってしまう。
 よりよい施設を適正な工事費で建設するという目標は常に変わらない。しかし、これを実現するルートは多様である。本連載を通して豊かな成功事例を訪れ、今後の大規模耐火木造づくりに向けた勘所を読者とともに学んでいきたい。

※図1〜4は日本ツーバイフォー建築協会と日本木造住宅産業協会が集計したデータに基づいて作成。いずれも2014 年3 月末時点の実績。なお認定書発行数を実績棟数とした(一部は建設確認済数)

※ この記事は月刊誌「WAM」平成26年10月号に掲載された記事を一部編集したものです。
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