福祉医療経営情報
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▲写真1 さくら昇草庵 | ▲写真2 デイサービスマサノ |
▲写真3 食堂 |
※1…建物の外壁に使用する下見板の英語名。日本では幅450mmほどの外壁パネルを指すことが多い。
※2…壁量計算という簡便法によって、大地震動に対する検討を行う方法。この方法の場合は、構造計算適合性判定が不要になる。
事業者のヘルスケアリンクは、大阪狭山市を拠点とする介護事業会社である。同市のさくら会病院と連携しながら、通所介護・訪問看護サービスを展開してきたが、このエリアの地域包括ケアの実現に向けて居住系施設も建設することになった。三井ホームのツーバイフォー構法を選んだ理由は明快で、同社に依頼した西村社長の自宅がよかったからだという。実はさくら昇草庵と同時期に「香住ヶ丘杜の家」というサ高住も三井ホームに依頼しており、こちらは福岡市に建設されている。
できあがった建物の評価は上々で、さくら昇草庵の中西芳子施設長によると、木造床の弾力性のおかげで膝の負担が少ないうえに、建物が暖かく快適だという。耐火木造では厚物石膏ボードを重ね張りする。断熱性を高めるためではないが、この仕様は室内環境の向上にも寄与しているようである。
このような建物を目の当たりにすれば、耐火木造の長所は実感できる。しかし、2000uを超えるような高齢者施設を木造で計画することに躊躇はなかったのか、疑問が湧いてくる。実際、西村社長によれば、つきあいのある建築業者からもそうした指摘があったという。しかし、技術的問題の解決は受注者の役割と考えているため、三井ホームを信頼しての発注となった。
施設建設には、事業用地の確保という課題がつきまとう。さくら昇草庵とデイサービスマサノは、定期借地で建てられている。これは1992年に始まった制度である。居住用建物では期待されたほど広まっていないが、採算が厳しいプロジェクトでは、事業スキームの切り札として活用されている。つまり、分譲マンションにも賃貸マンションにもしっくりこないような、難しい規模で強みを発揮している。
考えてみるとサ高住は、共同住宅としては難しい規模が多いのかもしれない。もちろんサ高住の施設内容は、共同住宅に近いものから老人ホームに近いものまで、かなりの幅がある。採算性と建物規模の関係は単純ではないが、定期借地と馴染みがよい事業企画は少なくないであろう。
ヘルスケアリンクは大阪狭山市と河内長野市に介護付有料老人ホームを建設した。これらも耐火木造を望んだが、あいにく非木造での施設づくりとなった。工事は用地探しに尽力した建築業者へ特命することになったが、その会社は耐火木造に対応できなかったのである。
このエピソードは、現在の耐火木造が置かれた状況をよく表している。端的に言えば、大規模耐火木造には、大型建物をつくるノウハウと耐火木造技術の両方が必要になる。2014年8月には木造耐火構造の技術基準が国土交通省から告示され、耐火木造は誰でも使える技術になった。しかし、今のところ、この技術に習熟した建築業者が限られることも事実なのである。
特命するにせよ入札で選ぶにせよ、工事業者の選定は建築プロジェクトの肝になる。果たしてどのようにすれば耐火木造をこなせる施工者が見つかるのか、発注者にとっては最も気になるところであろう。このテーマについては稿を改め、関連団体の動向を掘り下げることにしたい。
※ この記事は月刊誌「WAM」平成27年1月号に掲載された記事を一部編集したものです。
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