2024(令和6)年12月2日に従来の健康保険証の新規発行が停止され、以降はマイナ保険証もしくは資格確認書による受診受付が基本となりました(2024(令和6)年12月2日時点で有効な保険証は、その後も最大1年間有効)。マイナ保険証の利用でとくに課題としてあげられるのが、施設に入所している高齢者等の受診です。これまでは、本人の認知能力等に応じて保険証を施設が預かり、管理することもありましたが、個人情報漏洩のリスク等もあることから、これまでのように預かることが難しいという声が出ています。国では「施設管理の場合は鍵付きロッカーへの保管、出し入れを記録、管理する職員の範囲を定める」等のマニュアルを示していますが、実際にどのように対応しているのか、事例をみながら適切な管理について考えます。
従来の保険証の発行停止までの経緯
2022(令和4)年6月7日に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」において、マイナンバーカードの健康保険証としての利用の促進が掲げられたこと、また同日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2022」でも、マイナンバーカードと健康保険証の一体化の加速が掲げられたこと等を受け、2022(令和4)年12月から「マイナンバーカードと健康保険証の一体化に関する検討会」(デジタル庁)での検討が始まった。同検討会は2023(令和5)年2月に、「2024(令和6)年秋に保険証の廃止を目指す」ことを中間とりまとめとして公表。2023(令和5)年3月7日には、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律等の一部を改正する法律案」(令和5年法律第48号/以下、改正法)が国会に提出され、同年6月2日に成立(同月9日公布)した。
改正法では、健康保険証を廃止するとともに、マイナンバーカードによりオンライン資格確認を受けることができない状況にある者※1が必要な保険診療等を受けられるよう、当該者からの求めに応じ、各医療保険者等は、医療機関等を受診する際の資格確認のための「資格確認書」を、書面または電磁的方法により提供することとされた(公布日から1年6カ月以内の政令で定める日に施行)。その後、2024(令和6)年12月2日に健康保険証の新規発行が停止された。なお、発行済みの健康保険証は施行後1年間(先に有効期間が到来する場合は有効期間まで)有効とみなす経過措置が設けられている。
※1… マイナンバーカードを紛失した・更新中の者、介護が必要な高齢者やこども等マイナンバーカードを取得していない者、ベビーシッター等の第三者が本人に同行して本人の資格確認を補助する必要がある場合等
要配慮者には、申請により資格確認書を無償で交付
マイナ保険証導入に期待される効果としては、@データに基づくよりよい医療が受けられる、A手続きなしで高額療養費の限度額を超える支払いが不要になる、B救急搬送時、医療情報に基づく総合的な判断により適切な処置を受けられる等があり、マイナンバーカードの保有者は2024(令和6)年10月末時点で9,449万人、マイナンバーカードを保険証として登録している者は7,747万人、携行している者は2024(令和6)年8月時点で保有者の約50%、マイナ保険証の利用経験は約5人に2人(Web調査)となっている※2。
また、マイナ保険証の利用率は2024(令和6)年10月時点で約16%となるなど、徐々に伸びてきている(図参照)。従来の保険証の有効期限が迫るに連れ、利用率はさらに伸びていくことが見込まれる。
一方、マイナ保険証の利用が簡単ではないのが、要介護高齢者や障害者等である。なかでも、特養、老健、グループホーム、障害者支援施設等では、急な受診が必要になったとき等に備え、利用者・入所者の健康保険証を預かっている(管理している)施設が全体の8割強にのぼるが、マイナ保険証の管理については、9割以上が「管理できない」としている※3。その理由(複数回答)としては、「カード・暗証番号の紛失時の責任が重い」(91.1%)、「カード・暗証番号の管理が困難」(83.8%)、「不正利用、情報漏洩への懸念」(73.5%)、「家族の同意が得られない」(41.0%)等があげられている。
こうした声を受け、厚生労働省では、「高齢者・障害者等の要配慮者の方々におけるマイナンバーカードの健康保険証利用について(支援者・ご家族向けご説明資料)」※4を提供している。
このなかで、施設で預かる際の留意点として、
● マイナンバーカードは本人管理が基本であるが、入所契約や預かり証等の合意に基づき、施設側で入所者のカードを管理することも可能。その際には、例えば、紛失防止のため鍵付きのロッカー等に保管することや、出し入れした日時など管理の記録をつけること、職員のうちマイナンバーカードの管理を行う者の範囲を定めておくこと等が考えられる。
● マイナンバーカードの暗証番号は、本人確認のために重要なものであることから、慎重に扱うことが望ましく、原則として法定代理人以外の者に知らせることは適当ではない。このため、本人による暗証番号の設定や管理に不安がある方は、暗証番号の設定をしないことを希望することが可能。
● 資格確認書を管理する場合は、現行の健康保険証と同様に、施設等で管理することが可能。
と示している。
なお、暗証番号を設定しないことを希望する場合に作成できるのは、「顔認証マイナンバーカード」である。これは、本人確認方法を顔認証または目視確認に限定し、暗証番号の設定を不要としたもので、代理交付を受ける人の負担軽減にもつながるよう導入された。ただし、利用できるサービスは健康保険証としての利用、顔写真や記載事項(氏名、住所、生年月日、性別等)を用いた本人確認書類としての利用に限られ、暗証番号の入力が必要なマイナポータル、各種オンライン手続き等は利用できない。
資格確認書については、当分の間、マイナ保険証を保有していない(マイナカードの健康保険証利用登録をしていない)人すべてに、現行の健康保険証の有効期限内に無償で申請によらず交付されている。また、マイナ保険証を保有している人であっても、マイナカードでの受診等が困難な要配慮者(高齢者、障害者等)には、申請により資格確認書が無償で交付される。さらに、これらの人については資格確認書更新時の申請は不要となっている。病態の変化等により、顔認証付きカードリーダーをうまく使えなくなった場合は、資格確認書を申請のうえ利用することが求められている。現行の保険証と同様、親族等の法定代理人のほか、介助者等による代理申請も可能となっている。
後期高齢者医療制度の被保険者については、2025(令和7)年7月末までの暫定的な運用として、現行の健康保険証が失効する人に対し、資格確認書が無償で申請によらず交付される。
※2…第186回社会保障審議会医療保険部会(令和6年11月21日)資料3「マイナ保険証に関する現状」より
※3…「保険証廃止に伴う高齢者施設等への影響調査―全国の特養・老健1219施設の意見―」(全国保険医団体連合会2023年3月24日−2023年4月10日調査)
※4…https://www.mhlw.go.jp/content/10200000/001321214.pdf(2025年2月時点/今後、更新あり)
保育所・認定こども園・幼稚園で預かり中の園児等についても資格確認書で
このほか、2025(令和7)年2月12日には、修学旅行等の学校行事や部活動の合宿・遠征中の児童・生徒、保育所・認定こども園・幼稚園で預かり中の園児等が医療機関を受診する際の被保険者資格の確認方法について、厚生労働省から医療機関・薬局向けに事務連絡※5が発出されている。
これまで、修学旅行や部活動の合宿・遠征中、保育所等では、医療機関を受診する必要が生じた場合に備え、保険証のコピーを持参もしくは預かりとし、医療機関・薬局にはコピーを提示する取扱いが慣例的に行われてきた。これについても従来の保険証廃止後はマイナ保険証を持参することが基本であるが、持参が容易でない場合、学校教員や保育士等の管理監督の下での使用が想定され、なりすましが起こることは想定され難いことから、@マイナポータルに表示される被保険者資格情報のPDFファイルをあらかじめダウンロードしたものまたはその印刷物、A資格情報のお知らせまたはその写し(コピー)、で受診することが可能であることを示した。
また、児童・生徒、園児等がマイナンバーカードを取得していない場合やマイナ保険証を保有していない場合には、学校や施設等が資格確認書の写しを預かっておくという対応が可となっている。なお、資格確認書の原本は、保険者により複製等防止措置がとられているが、この場合は複製されたものでも受け付けられる。
※5…「健康保険証の廃止に伴う修学旅行等の学校行事や部活動の合宿・遠征等における児童生徒本人の被保険者資格の確認方法について」の一部改正について
https://www.mhlw.go.jp/content/10200000/001402793.pdf