第1回: マネジャー必須のコミュニケーションスキル、コーチングとは?
「答えのない時代」に問われるリーダーシップ
最近、福祉医療分野でもようやく「コーチング」という言葉が話題になってきた。コーチングとは、一言で言うと「相手の可能性を最大限に引き出し、自ら行動する自発性を促進し、目標達成を支援するコミュニケーション技法」である。ビジネス領域では、もはやマネジャー必須のスキルとも言われている。ところで、世は空前のドラッカーブーム。ドラッカー氏も、「よい質問をせよ。答えは自らの中にある」という意のことを言っている。有名な「マネジメント5つの質問」も、まさにコーチングのそれなのである。
ご承知の通り、経営環境が急速に変化し、また個人の価値観が多様化してきている昨今、福祉現場においても、高い離職率やモチベーションの低下などさまざまな課題が山積している。これまでのトップダウン・上意下達の組織スタイルに代表されるマネジメント手法はもはや機能しなくなった。昔でいう「アメ(金銭や褒賞)とムチ(命令)」の効力はもうないのである。現場で働くスタッフは、職場に「働きがい」や「成長の場」を求めている。だが実際には、経営者側が考えていることとのミスマッチが現場で起こっている。それにどう対処したらよいのかわからない、というのが実情ではないだろうか?
まさに「答えのない時代」。これまで以上にリーダーシップのあり方が問われている。今、業界が求めているのは、自分で考え、自分で動ける人材。そのために、権威に依存せず相手をモチベートし育成する能力や、金銭や褒賞に頼らず内的に動機づけしていく高度な能力が求められているのだ。スポーツで成果を挙げるために専属のコーチがついているのと同様、ビジネスシーンで成果をあげるためにも、そのような存在が必要なのである。
例えば、個人面談の場面や会議の場面。気づいたら司会進行であるリーダーがほとんど話していた、というのは珍しくない光景である。仕事の進め方においても同様である。相手を意のままに「操作」しようとしたり、仕事を「抱え込む」やり方、もしくは「放任」・「丸投げ」的なやり方は相手のやる気を失わせ、成長を阻む。いま求められているのは「協働」、つまり二人三脚で進めていくコーチング的手法である。信じて任せることが成長の機会につながり、立場や役割が人をつくっていく。
「押しつけ」型から「引き出し」型へ
時代は「指示アドバイス型(teaching)」から「質問型(coaching)」コミュニケーションに変化してきた。従来の押しつける(push)形から、引き出す(pull)イメージへの転換である。人は質問を投げかけられると、自動的に思考を始め、自らの言葉で答える。そこに気づきが生まれ、だからこそ自己決定し、自ら行動を起こす。つまり必要なのは、上司のアドバイスやコメントではなく、質問(問い)なのだ。良質な質問をするから、相手の焦点がよい方向に向かう。人は「指示・アドバイス」だけでは成長しない。時には「あえて教えない」というアプローチも必要になる。あらゆる情報にあふれている現代、多くの人は自分が何をすべきかをすでに知っている。その知識と行動の間にあるギャップを埋め、行動変容を促すための一つの手法が「コーチング」である。
※ この記事は月刊誌「WAM」平成23年4月号に掲載された記事を一部編集したものです。
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