第2回: コーチングの土台 〜 機能するマインド・あり方とは
「誰から」「どう」言われているのか、で変わる意欲
組織にコーチングを導入していくうえで、まずはその土台づくりが必要となる。相手との信頼関係をいかに構築するか、と言い換えてもよいかもしれない。それなしでは、テクニックや形は機能しない。立場上、上司の命令だからやる・仕方ないからやる、ということは往々にしてあるだろうが、その際の行動に対する意欲はどの程度のものだろう?しかし、これがもし自分が信頼している人物から言われたことであれば、その遂行スピードや仕事への感情はかなり変わるに違いない。人は、「正しさ」だけではなかなか動かない。「誰から」「どう」言われているのか、ということに、少なからず左右されるものなのである。
コーチングは「部下へ何か指導する手法」ではない。基本的に「アドバイス」という形態はとらず、その際は「提案」や「要望」に代える。選択し行動を起こし、成果を出すのはあくまで相手である、というスタンスをとる。人は誰しも、自分で判断し、選択し、決定したことに対しては、自分で責任を負うものである。相手の中に必ずや答えや可能性があると信じ、その行動や存在を認め、できる部分は任せる。かといって、何でも部下の言うとおりにする、ということとも違う。むしろ、場面によってはっきりと指示や要望することが必要であるし、時に質問を投げかけ、答えを引き出すことも重要である。
つまり、相手の能力や自主性に応じ、ティーチング(指導・アドバイス)とコーチング(自己解決や自己決定への支援)を車の両輪のようにうまく使い分けることが、相手の能力を効果的に引き出す鍵となる。
「関わりの頻度」も重要なポイント
上司として、リーダーとして、とかく「何か気の利いたことを言わなければ」、「この問題を解決しなければ」、「何かよいアドバイスをしてあげなければ」と思いがちであるし、もちろんそのような場面も多々あるだろう。しかし、上司としての見解はひとまず脇に置き、まずは黙って相手が何を考えているのかじっくりと聴くことが、相手から信頼感を得ることにつながる。また、コミュニケーションの方法・内容の問題以前に、コミュニケーション自体が足りない場合も多々ある。情報の収集と伝達だけがコミュニケーションの目的ではなく、交わすことそのものが目的なのである。相手のために少しでも時間を割くこと。そして笑顔で声をかけること。「関わりの頻度」も人間関係づくりの重要なポイントである。
心理学においては「相手を変えようとするな、分かろうとせよ」という言葉がある。その実践は容易ではないが、人のことをとやかく言う前に、まずは自分の態度を、言葉を、やり方を少し変えてみる。コーチングとは相手を自分の意のままに変容させるスキルではなく、むしろ常に自己の振り返りをし、自らのあり方をよりよく変えていくスキルなのだ。その上で、相手のよいところ・強み・長所を見出し、そこに焦点を当てる。常に応援する姿勢でいること、最後まで諦めずに関わることが、結果的に相手の能力や行動を引き出すことにつながる。心が動けば、体は自然に動
く。「相手を認め、理解しようとする思い」がスキルを超えることもあるのだ。
●はじめのコーチング ジョン・ウィットモア ソフトバンクパブリッシング株式会社 2003
●部下を伸ばすコーチング 榎本英剛 PHP研究所 2005
●「相手の能力を引き出すスキル,コーチングとは」作業療法ジャーナル 鯨岡栄一郎 三輪書店 2011
※ この記事は月刊誌「WAM」平成23年5月号に掲載された記事を一部編集したものです。
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