日常的な声かけを「質問形」に
今回は、現場で生かす質問の具体的スキルについてご紹介していきたい。まず一番の基本は、日常的な声かけを「質問形」に変えて行うことである。脳はいわば「検索エンジン」のようなもの。質問をひとたび投げかければ、そこから新たな思考がスタートするのだ。
そこで、私どもの施設では、まだ試行的ではあるが、日常の各場面で質問を投げかける機会をつくり、職員の意識啓発とリーダーの質問力向上を狙っている。
< 例 >
○ 朝礼での1分間スピーチにて
@「あなたの目標は何ですか?」
A「どうしてそれを実現させたいのですか?」
B「どうなったらその目標が実現したと分かりますか?」
C「それを実現させるために、まず何をしますか?」
○ 個人面談にて(1)
@「上半期を振り返って、自分なりの成果を教えてください」
A「そのことについて今どのように感じていますか?」
B「今年後半、どのような結果を手にしたいですか?」
C「もしそれが実現したらどんな気持ちになるでしょうか?」
D「そのために、あなたはどんな行動を起こしますか?」
○ 個人面談にて(2)
@「最近の仕事の状況はいかがですか?」(「今はどんなことを課題に感じていますか?」)
A「どんなことを目標にしていますか?」
B「あなたの理想のリーダーシップとは?」
C「これからどんな仕事をやってみたい?」
D「当施設を日本一にするために、あなたにどんなことができますか?」
E「ここまで話してみて、どんなことを感じましたか?」
○ 月1回のリーダー会議の冒頭にて
@「先月のご自分なりの成果は何ですか?」
A「今月の重点目標は何ですか?」
より効果的なコーチングスキル
また、これらのやり取りのなかで、以下のスキルを取り入れていくと、会話がよりコーチング的になり、効果的である。
●チャンクダウン(具体化するスキル)
「詳しくいうと?」「例えば?」「そのために何をしたらいいかな?」
●チャンクアップ(抽象度を高め、総括的な視点にするスキル)
「今あなたがしていることは、どんな目的につながってると思う?」「それを一言でいうと?」「それはつまりどんなイメージ?」
●スライドアウト(他のアイデアを引き出すスキル)
「他には?」「あとどんなことが考えられる?」
私たちには「質問は一問一答方式」という固定観念があるが、そんなことはない。これを何度か繰り返すことで、一つの質問からいくつも答えが引き出されることをよく経験する。むしろ、何度目かの後に引き出された答えにこそ、濃いものがひそんでいるのだ。
●一連の会話の最後は、行動レベルにまで落とし込む
「まずどんなことから始める?」
そして、期限を区切る(「いつまでにやる?」「いつやる?」)ことで、行動に対してコミット(確約、決意表明)させる。
●メタ・コミュニケーション(客観視)
「ここまで話してみて、どうだった?」「何か気づいたことは?」
これにより、セッション全体の振り返りをし、気づきの再確認をする。
以上の流れを行うには多少訓練が必要だが、前もって質問シートを用意しておくなど、肩に力を入れず気軽にトライされることをお勧めしたい。きっと職員にこれまでとは違う刺激が加わり、次の成果につながるはずである。
●「図解コーチングマネジメント」伊藤守 株式会社ディスカバー・トゥエンティワン 2005年
※ この記事は月刊誌「WAM」平成23年9月号に掲載された記事を一部編集したものです。
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